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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

成長ホルモン分泌不全性低身長症

Growth hormone deficiency

別名
GHD
臓器系
内分泌・代謝
科目
Pediatrics
トピック
小児科 3-15:小児下垂体疾患小児科 3-17:小児の成長障害
関連疾患
下垂体機能低下症視神経低形成
治療薬
ソマトロピン
症状
遷延性黄疸側弯症
検査値
インスリン低血糖試験コルチゾールグルカゴン負荷試験
画像所見
下垂体後葉異所性
元疾患
頭蓋咽頭腫
原因となる疾患
プラダー・ウィリー症候群

🧠 全体像は、の機能不全により体の均整(プロポーション)は保たれたままが低下していく疾患である。診断の骨格は、・体質性成長のような「正常変異」を、の推移とで見分けたうえで、生化学的にGH分泌不全を証明することにある。もう一つのは、(isolated GHD)か、であり、これによって原因検索の方向性(遺伝子・MRI所見)とその後のモニタリング項目(甲状腺・副腎・性腺の各軸)が大きく変わる。

病態

視床下部のGHRHを刺激してGHを分泌させ、GHは主に肝臓でIGF-1の産生を促し、IGF-1がの増殖を介しての成長を担う()。GHはこれとは別に、促進や(血糖を上げる方向に働く)というも持つため、重症GH欠乏では低血糖が前面に出ることがある。

GHDは先天性(遺伝子異常・)と後天性に大別される。

  • 先天性・遺伝子異常:GH1()、GHRHR(GHRH受容体の変異で下垂体がGHRHの刺激を受け取れない)、下垂体の分化に関わる転写因子異常(PROP1POU1F1など)。PROP1・POU1F1異常はGH単独ではなく複数ホルモン系統が脱落するMPHDを来しやすく、PROP1異常はしばしば進行性で、後年になってACTH欠乏が追加されることがある。
  • 先天性・(pituitary stalk interruption syndrome、・欠損との異所性を特徴とする)、(septo-optic dysplasia:・正中・下垂体機能低下の3徴が揃わないこともある不完全型が多い)。
  • 後天性をはじめとするなど)、頭蓋・治療や白血病の中枢神経予防照射)、(自己免疫性、関連)。
  • の機能不全に伴うものではの一環としてGH分泌不全を来し、低下の一因となる。単独GHDやMPHDのような下垂体・視床下部の異常とは成り立ちが異なるが、治療にはGHDと同じくを用いる。
flowchart TD
    A["視床下部:GHRH"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior pituitary'>下垂体前葉</span>:GH分泌"]
    B --> C["肝臓など:IGF-1産生"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiphyseal plate'>骨端軟骨</span>の増殖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long bone'>長管骨</span>の成長"]
    E["遺伝子異常(GH1・GHRHR・PROP1・POU1F1)"] --> F["先天性GHD(単独またはMPHD)"]
    G["下垂体・視床下部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='structural aberration'>構造異常</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary stalk interruption syndrome'>下垂体茎断裂症候群</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septo-optic dysplasia'>視隔膜異形成症</span>)"] --> F
    H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='craniopharyngioma'>頭蓋咽頭腫</span>など<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central nervous system tumors'>中枢神経系腫瘍</span>・頭蓋照射・外傷・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypophysitis'>下垂体炎</span>"] --> I["後天性GHD"]
    F --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth velocity'>成長速度</span>低下・低血糖"]
    I --> J

💡 GHはの骨成長にはあまり関与せず、主にインスリンとIGF-1が胎児の成長を規定する。そのため先天性GHDでも出生時の体重・身長は概ね正常であることが多く、は出生後、生後数か月〜数年かけて顕在化してくる。

単独GHD vs MPHDの見極めは、原因検索(遺伝子・MRI)と長期モニタリング(甲状腺・副腎・性腺の各軸を定期的に再評価するかどうか)の両方を左右するである。

臨床像

所見 特徴
出生時サイズ 概ね正常(GHは胎児成長への寄与が小さいため)
成長パターン 出生後ののチャネルを下向きに横切る低下
暦年齢より遅延
体型・ 均整の取れた(proportionate)、重症の先天性GHDでは・中顔面低形成などの幼児様、体幹優位の脂肪沈着
正中 などがと合併しうる
の重症GHD 遷延性の低血糖(けいれんを伴うこともある)、
男児の生殖器 (GH・ゴナドトロピン欠乏が併存する場合)

💡 に低血糖・が揃ってみられた場合はMPHD(特にGH+ゴナドトロピン±ACTH欠乏)を積極的に疑う。GH単独ではの陰茎成長への影響は限定的で、は主にゴナドトロピン欠乏の関与が大きい。

診断

診断は「①正常変異との鑑別」「②生化学的なGH分泌不全の証明」「③原因検索とMPHDのスクリーニング」の3段階で進める。

  • 成長の指標:身長SDが年齢・性別基準に比して低い、または目標身長から大きく外れている、かつの低下チャネルの下方横断)を確認する。身長の一点評価よりの推移の方が病的意義が高い。
  • :暦年齢に対する遅延の程度を確認する(では暦年齢に近く、体質性遅延やGHDではより遅れる傾向)。
  • IGF-1・IGFBP-3として測定する。低値はGHDを示唆するが、・年齢・・慢性疾患でも低下しうるため、正常値だけでGHDを除外することはできない。
  • GH刺激(負荷)試験、グルカゴンなどから薬剤の異なる原則2種類の試験を組み合わせ、いずれもピークGHが施設・アッセイごとに定めた閾値(歴史的には10 ng/mL未満が広く用いられてきたが、近年の高感度アッセイではより低い値を用いる施設もあり、アッセイ間差が大きいため単一の普遍的はない)を下回ることでGHDと判定する。ただし、下垂体・視床下部の病変や遺伝子異常が既にわかっていて他のとIGF-1低値を伴う場合や、の重症例など特定の状況では、刺激試験を1回のみ、あるいは省略して生化学的・臨床的基準のみで診断してよい。
  • (造影):生化学的にGHDが疑われた後に行い、、下垂体低形成、などのの有無を確認する。
  • 他のホルモンのスクリーニング:TSH・遊離T4、ACTH・コルチゾール、思春期年齢であればLH/FSH・性ステロイド、プロラクチンを評価し、MPHDの合併を確認する。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short stature'>低身長</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth velocity'>成長速度</span>低下を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth chart'>成長曲線</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth velocity'>成長速度</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone age'>骨年齢</span>・目標身長を確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='familial short stature'>家族性低身長</span>・体質性遅延など正常変異を除外"]
    C --> D["IGF-1/IGFBP-3でスクリーニング"]
    D --> E["原則2種類のGH刺激試験を実施"]
    E --> F["MPHD・既知の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organic lesion'>器質性病変</span>+IGF-1低値などの例外に該当するか確認"]
    F --> G["ピークGHが閾値未満でGH欠乏症と確定"]
    G --> H["造影<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary MRI'>下垂体MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organic lesion'>器質性病変</span>を評価"]
    H --> I["他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior pituitary'>下垂体前葉</span>ホルモン軸をスクリーニングしMPHDを確認"]
    I --> J["副腎機能を確認したうえで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatropin'>ソマトロピン</span>治療を開始"]

⚠️ GH刺激試験は単独では偽陽性・偽陰性が生じうるため、成長の臨床像・IGF-1・と統合して総合的に判定する。試験結果だけで機械的に診断・除外しない。

治療・管理

治療の柱は)の毎日皮下注射である。

  • 用量:体重あたり1週間0.16〜0.24 mg/kg(1日あたり約22〜35 mcg/kg)を目安に、就寝前後(生理的な夜間GH分泌のピークを模倣する目的)に毎日皮下注射でする。思春期にはより高用量を要することがある。
  • モニタリング
    • IGF-1:年齢・性別内に収まるよう定期的に確認し、を超えれば減量を検討する。
    • :治療開始後1年以内のの改善()で治療反応を確認する。
    • :定期的に評価し、が近づけば治療終了時期の判断材料とする。
    • 血糖:GHのによりが低下しうるため、糖尿病リスクの高い患者では血糖・を確認する。
    • 甲状腺・副腎機能:MPHDでは、GH治療の開始が末梢での甲状腺ホルモン変換やコルチゾール代謝に影響し、それまで代償されていたを顕在化させることがあるため、GH開始後に再評価する。
  • 安全性モニタリング:頭蓋内圧亢進(頭痛・視力変化)、(股関節・膝の痛み、)、の進行に注意する。治療後にGH療法を開始する場合は、腫瘍治療終了後おおむね12か月は経過を見て再発がないことを確認したうえで開始し、長期の腫瘍学的を継続する。
  • 治療終了・成人期への移行またはの顕著な低下をもって小児期治療は終了とする。最終身長付近に達した時点で、MPHDで他に3系統以上の欠乏を伴う症例など病因が明確な例を除き、成人GHDとしての再評価(刺激試験の再検)を行い、QOL低下を伴う真の成人GHDが確認されれば、小児期よりはるかに少ない用量から成人用のGH補充を再開する。
  • MPHDの管理:GH以外の欠乏軸(甲状腺・副腎・性腺・)を合併する場合は、に準じて補充順序(副腎系を優先してから甲状腺ホルモン)と個々のモニタリングを行う。

⚠️ MPHDでGH治療と補充を要する場合、副腎機能を確認・治療してからGH・甲状腺ホルモンを進めるのが原則である。GH自体が末梢での代謝を介しての副腎機能低下を顕在化させうるため、GH開始後も副腎系の症状・に注意を払う。

まとめ

  • GHDは均整の取れたを来す疾患で、・体質性遅延との鑑別はの推移とで行う。
  • 先天性(GH1・GHRHR・PROP1・POU1F1などの遺伝子異常、などの)と後天性(などの腫瘍、頭蓋照射、外傷、)に大別し、単独GHDかMPHDかで評価・モニタリングの範囲が変わる。
  • 診断はIGF-1/IGFBP-3スクリーニングと原則2種類のGH刺激試験の組み合わせで行うが、既知の・遺伝子異常を伴うMPHDなど特定の状況では試験を簡略化できる。後に造影とMPHDスクリーニングを行う。
  • 治療はの毎日皮下注射で、IGF-1・・血糖・甲状腺副腎機能をモニタリングしながら継続し、頭蓋内圧亢進・などの安全性を確認する。
  • 最終身長付近で治療終了とし、真の成人GHDが確認された場合のみ低用量で成人期の補充を継続する。