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Lab values · Published

グルカゴン負荷試験

Glucagon stimulation test

別名
グルカゴン刺激試験
臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal MedicinePediatrics
トピック
内科学 E-10:血糖異常の原因と診断小児科 39:成長障害(低身長・高身長)
関連疾患
1型糖尿病下垂体機能低下症成長ホルモン分泌不全性低身長症

🧠 全体像:「グルカゴン」という一つの名前が、まったく別の2つの臨床質問に答える検査を指す。主軸は①——糖尿病患者で空腹時Cペプチド1点では判断がつかないときに追加し、分泌を鋭敏に引き出してインスリン依存状態かどうかを判定する検査である。もう一つの顔が——のGH・ACTHを調べるで、が禁忌の患者に使う代替として国際的に用いられる。同じ薬剤・同じ検査名でも、用量・・採血時刻・判定基準は①と②でまったく別物であり、混同すると誤った量・タイミングで採血することになる。

何を見ているか

グルカゴンは肝での・糖新生を促して血糖を上げるホルモンだが、こので読むのは血糖値そのものではなく、グルカゴン投与をきっかけに動く内分泌の反応である。①と②では、その反応が起きる経路の分かっている度合いが違う。

  • の刺激:血糖上昇はを直接刺激し、インスリンとCペプチドで分泌させる。空腹時1点の測定では捉えきれない分泌を、人為的な刺激で引き出す。
  • ②視床下部―の刺激:グルカゴンの筋注は、からのGHとACTHの放出を促す。ただしその生理学的機序は的には解明されていない——血糖変動、放出、FGF-21経路などの仮説が並立したままである1。機序が未確定でも、同一の刺激・同一の採血スケジュールで、GHとACTHという別系統のを同時に評価できる点が臨床上の利点になる。

同じグルカゴンでも、①はで数分以内の反応を、②は筋注で数時間かけた緩徐な反応を見ている。も採血時刻もまったく違うのは、見ている軸が違うためである。

基準値と単位

用途 測定するホルモン 単位
血清CPR(Cペプチド) ng/mL
機能 血清GH μg/L
機能 血清コルチゾール 施設によりnmol/Lまたはµg/dL

いずれも国際的に統一された単一のはなく、②のGH判定は特にアッセイと体格による差が大きい(後述)。

手技と判定基準

flowchart TD
    A["グルカゴン<span class='jp-term jp-term-diagram' title='challenge test'>負荷試験</span>を検討"] --> B{"何を評価したいか"}
    B -->|"糖尿病患者の内因性<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin secretion'>インスリン分泌</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reserve capacity'>予備能</span>"| C["①<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic beta cell'>膵β細胞</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reserve capacity'>予備能</span>評価<br>グルカゴン1.0 mgを静注"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior pituitary'>下垂体前葉</span>のGH・ACTH<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reserve capacity'>予備能</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin tolerance test, ITT'>インスリン低血糖試験</span>が禁忌など)"| D["②<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior pituitary'>下垂体前葉</span>機能評価<br>グルカゴン1〜1.5 mgを筋注"]
    C --> E["投与前・5分値または6分値の<br>血清CPRを測定"]
    D --> F["投与前から30分ごとに<br>最長4時間(0〜240分)GH・コルチゾール・血糖を測定"]
項目 評価 機能評価
対象 インスリン依存状態かどうか判定したい糖尿病患者 が禁忌・実施困難な下垂体機能評価
用量 1.0 mg2 体重90 kg未満は1 mg、90 kg超は1.5 mg1
2 1
採血時点 投与前、投与後5分値または6分値2 投与前から30分ごとに最長4時間(0〜240分)1
判定基準 負荷後血清CPRが1.0 ng/mL未満かつ増加量(ΔCPR)0.5 ng/mL未満でインスリン依存状態の目安2 ピークGHがBMI・別のを下回ればGH分泌不全を支持1

②のGHはBMIとで分かれる。

BMI・ ピークGH
BMI 25未満、またはBMI 25〜30でが高い群 3 μg/L以下
BMI 25〜30でが低い群、またはBMI 30超 1 μg/L以下

GHはアッセイ間差が大きく、測定値の差は多くの場合100%を超えうる。この数値を単一の正解値として暗記せず、検査特異的・アッセイ特異的なを用いることが誤判定を避けるうえで重要になる1。同一の採血でコルチゾール・血糖も測定され、コルチゾール反応の解釈はアッセイ依存のを用いる点でと共通する。

陽性の意味

①では、CPR基準を満たせば内因性能が枯渇に近い状態と判断され、インスリン療法の継続・強化を支持する所見になる。基準を満たさなければ、がなお残っている可能性を支持する。

②では、ピークGHがを下回れば重症のGH分泌不全を支持する。同一検査でコルチゾール反応も不良であればの併存を疑う手がかりになるが、判定の主軸はGHであり、コルチゾール反応単独の判定にはなど別の検査を組み合わせる。

⚠️ 測定上の注意

  • ①は腎機能低下があると成立しない。 腎機能低下に伴ってCペプチドの排泄が遅延し、血中Cペプチドは上昇・尿中Cペプチドは低下するため、Cペプチド値を用いた内因性能の評価そのものが困難になる2。詳細と機序はCペプチドの測定上の注意を参照。
  • 悪心・嘔吐は頻度の高い副作用。 グルカゴン投与そのものが悪心・嘔吐・頭痛を来しやすく、②のプロトコルでは10%未満〜34%の頻度が、主に投与後60〜120分に報告されている1。4時間の採血の途中で症状が出る時間帯にあたるため、検査前に説明しておく。
  • ⚠️ の既往は 血圧不安定との懸念から、の既往は本試験のとされる1
  • ⚠️ ②は肥満・で偽陽性が出やすい。 肥満患者ではGHの半減期短縮との減少により、真のGH分泌能が保たれていてもピークGHが低く出やすく、GH分泌不全と誤判定されうる1。判定にBMI別を用いるのは、この偽陽性を減らすためである。

経時変化とモニタリング

①も②も、1回の負荷で「その時点の」を測る検査であり、繰り返して数値の推移そのものを追う検査ではない。追うべき推移は別の指標が担う。

  • :判定はあくまで負荷をかけた時点の分泌に対するものである。が年単位で低下していく経過は、を繰り返すのではなくCペプチドの空腹時値やCPIの推移で追う。
  • :判定に使うのはピークGHという単一時点の最大値であり、0〜240分の各採血点はそのピークを取り逃さないために置かれている。途中の1点だけを取り出して判定しない。

位置づけ/次に進むべき検査

検査 ①との関係 ②との関係
Cペプチド(空腹時1点) 判断がつかないときに①を追加する親検査
IRI 低血糖精査など別の文脈でCペプチドと対で読む指標。①の判定には用いない
GH・ACTH両軸を同時に評価する歴史的なだが、安全性の懸念と禁忌の多さで実施できない場面が多い。②はその事実上の代替1
ACTH・コルチゾール軸単独の評価に特化した検査。②と役割が重なるが、GH軸は評価できない

①と②は同じ「グルカゴン」という名前を持つだけで、・投与量・採血時刻・判定基準のすべてが独立している。依頼された検査がどちらを指すのか、臨床背景(糖尿病の病型分類か、下垂体機能評価か)から必ず確認する。

まとめ

  • グルカゴンには、①評価と②のGH・ACTH評価という、名前だけが同じ別々の検査が存在する。
  • ①は空腹時Cペプチド1点で判断がつかない糖尿病患者に追加し、グルカゴン1.0 mg静注後の血清CPRが1.0 ng/mL未満かつΔCPRが0.5 ng/mL未満であればインスリン依存状態の目安とする。
  • ②はが禁忌・実施困難な患者の代替として、グルカゴン1〜1.5 mgを筋注し、最長4時間かけてGH・コルチゾールを追跡する。グルカゴンがGH・ACTHを刺激する機序自体はまだ解明されていない。
  • ①は腎機能低下があると判定が成立しない。②は肥満・でGH反応が鈍り偽陽性になりやすく、判定にBMI別を用いる。GHはアッセイ間差が大きく、を単一の正解値として暗記しない。
  • の既往は血圧不安定との懸念からであり、悪心・嘔吐はいずれの用途でも頻度の高い副作用である。

出典

  1. 1.糖尿病診療ガイドライン2024 1章 糖尿病診断の指針(日本糖尿病学会・2024)グルカゴン1.0 mgを静脈内投与しCPRの前値および投与後5分値または6分値を測定するプロトコルと、グルカゴン負荷後血清CPRが1.0 ng/mL未満かつ負荷後の増加(ΔCPR)が0.5 ng/mL未満であればインスリン依存状態の目安と考えられるという基準、および腎機能低下に伴ってCペプチドの排泄が遅延し血中Cペプチドは上昇・尿中Cペプチドは低下するためCペプチド値を用いた内因性インスリン分泌能の評価が困難になることを確認した。閲覧 2026-08-04
  2. 2.Once upon a time: the glucagon stimulation test in diagnosing adult GH deficiency(Journal of Endocrinological Investigation(Cuboni D, Caputo M, Ghigo E, Aimaretti G, Gasco V)・2024)成人成長ホルモン分泌不全評価としてのグルカゴン負荷試験について、体重90 kg未満では1 mg・90 kg超では1.5 mgのグルカゴンを筋注し、投与前から30分間隔で最長4時間(0〜240分)にわたり採血してGH・コルチゾール・血糖を測定するプロトコルであること、ピークGHのカットオフがBMIとGHDの検査前確率に応じて3 μg/L以下または1 μg/L以下に分かれること、GHアッセイ間の測定値の差は多くの場合100%を超えうるためアッセイ特異的カットオフの日常臨床への適用が制限され、検査特異的・アッセイ特異的カットオフを用いることが誤判定回避のうえで特に重要とされること、悪心・嘔吐・頭痛などの副作用が10%未満〜34%の頻度で主に投与後60〜120分に報告されること、肥満・耐糖能異常のある患者ではGH半減期の短縮とGHパルス状分泌の減少により見かけ上のGH反応が鈍り偽陽性が生じやすいこと、褐色細胞腫の既往が血圧不安定とカテコラミンクリーゼの懸念から絶対禁忌とされること、グルカゴンがGH(およびACTH)分泌を刺激する生理学的機序は結論的には解明されておらず血糖変動・カテコラミン放出・FGF-21経路などの仮説が並立したままであること、インスリン低血糖試験は歴史的にゴールドスタンダードとされてきたが安全性の懸念と禁忌の多さがあり、GHRH製剤の製造中止後は本試験がその事実上の代替検査になっていることを確認した。閲覧 2026-08-04