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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

下垂体機能低下症

Hypopituitarism

臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 E-01:下垂体・視床下部疾患内科学 S-07:下垂体機能低下症
鑑別疾患
原発性副腎不全
続発疾患
低血糖(非糖尿病性)男性性腺機能低下症甲状腺機能低下症
関連疾患
成長ホルモン分泌不全性低身長症尿崩症
治療薬
ヒドロコルチゾンレボチロキシンテストステロンウンデカン酸エステルエストラジオールソマトロピンデスモプレシン
症状
倦怠感食欲不振多尿体重減少頭痛浮腫便秘
検査値
インスリン低血糖試験コルチゾールACTH浸透圧低血糖ACTH刺激試験グルカゴン負荷試験
画像所見
下垂体MRI
下位分類
シーハン症候群
元疾患
頭蓋咽頭腫
原因となる疾患
視隔膜異形成症髄膜腫先端巨大症・プロラクチノーマ(下垂体腺腫)

🧠 全体像は、のホルモンが1系統以上欠乏する状態の総称で、(腺そのものの破壊)とは対照的に「司令塔(下垂体・視床下部)」側の障害という構図で理解する。の腫瘤性病変ではGH→ゴナドトロピン→TSH→ACTHの順に脱落しやすいという古典的順序があるが、・自己免疫性/関連など急性・破壊性の病態ではこの順序は当てにならず、ACTH欠乏がいきなり前面に出て生命を脅かしうる。治療の要は補充の「順番」で、先にグルココルチコイド、その後にという順序を誤ると、甲状腺ホルモンが代謝を上げてコルチゾール需要を増やしを誘発する。

病態

ホルモン脱落の典型的な順序とその例外

視床下部が放出・抑制ホルモンでを制御し、がGH・ゴナドトロピン(LH/FSH)・TSH・ACTH・PRLを分泌する構造は下垂体・視床下部疾患で扱った通りである。のようなの圧迫性病変では、正常下垂体実質が外側から徐々にされるため、感受性の高い細胞系統から順に機能が失われていく。

  • 一般に GH→ゴナドトロピン→TSH→ACTH の順に障害されやすいとされる。
  • されると、視床下部からのドパミンによる持続的抑制が解除され(stalk effect)、他のホルモンは低下する一方で PRLだけ軽度に上昇するという一見矛盾した所見が生じうる。

💡 「腫瘤で=全ホルモンが一律に下がる」と誤解しがちだが、PRLだけは抑制系(ドパミン)が主体のため、茎圧迫では逆に軽度上昇することがある点が試験でも狙われやすい。

⚠️ 上記の順序はあくまでの圧迫性病変での一般論であり、関連のような急性・破壊性の病態では、順序によらずACTH欠乏が急激に前面に出ることがある。「順番通りだから急いで評価しなくてよい」という判断は禁物である。

flowchart TD
    A["下垂体近傍の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slowly progressive'>緩徐進行性</span>病変(腺腫など)"] --> B["正常下垂体実質を徐々に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>"]
    B --> C["GH分泌低下"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='LH/FSH'>ゴナドトロピン</span>低下"]
    D --> E["TSH低下"]
    E --> F["ACTH低下(遅れて出現しやすいが最重要)"]
    B --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary stalk effect'>下垂体茎圧迫</span>でドパミン抑制が解除"]
    G --> H["PRLは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stalk effect'>軽度上昇</span>"]
    I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary apoplexy'>下垂体卒中</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sheehan syndrome'>シーハン症候群</span>・自己免疫性/薬剤性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypophysitis'>下垂体炎</span>"] --> J["順序によらず急性にACTH欠乏が前面に出うる"]

原因

分類 代表例
腫瘍・圧迫 など機能性腺腫を含む)、、リンパ腫・血液腫瘍
血管性 (分娩時大量出血後)
医原性・外傷 後、頭部への放射線治療後、
自己免疫性 〜産後の女性に多い)、関連
浸潤性疾患
感染 結核、真菌感染、下垂体膿瘍
遺伝性・先天性 下垂体発生に関わる転写因子異常など(小児発症が中心)

は、分娩時の大量出血・ショックにより妊娠中に生理的に肥大した下垂体が虚血に陥って壊死する病態で、産後の不全(PRL欠乏)と月経再開の欠如(ゴナドトロピン欠乏)が特徴的な初発症状になる。診断が遅れ、数年後に感・低血圧などで気づかれることも少なくない。

免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎

がん治療における(ICI)の使用拡大に伴い、頻度が増えている重要な医原性の原因である。)単剤で数%、PD-1/PD-L1阻害薬単剤ではやや低頻度、とPD-1阻害薬の併用療法では頻度がさらに高くなる。

  • 関連では治療開始から比較的早期に発症し、下垂体腫大ととして出現しやすい。
  • PD-1/PD-L1阻害薬関連では発症時期が遅く、下垂体腫大を伴わずにACTH欠乏が孤立して生じるパターンが目立つ。

⚠️ ICI関連によるACTH欠乏は永続化しやすく、他の軸(甲状腺・性腺)が経過中にすることがあってもACTH欠乏だけは生涯の補充が必要になることが多い。ICI継続中の患者で感・悪心・低血圧・低Na血症が出現した場合は、を常に念頭に置き、必要ならICI投与を待たずを開始する。

下垂体卒中

は、多くの場合既存の(しばしば未診断の)内に急性の出血・梗塞が生じる病態で、の中でも急性発症・救急対応を要する代表例である。急激な頭痛、悪心・嘔吐、(視交叉圧迫)、への進展による麻痺が多い)、意識障害、そして急性ACTH欠乏による低血圧・ショックを来しうる。

は「頭痛++低血圧」を見たら即座にすべき内分泌救急である。採血・画像より治療(投与)を優先する。

臨床像

欠乏する軸 主な症状・所見
ACTH 感、体重減少、、低血圧、低Na血症、低血糖。高K血症・著明な色素沈着は通常目立たない
TSH 、寒がり、徐脈、浮腫、便秘、
LH/FSH 無月経・、不妊、、骨量低下、減少
GH(成人) 筋量・骨量・・QOLの低下、体脂肪増加(特に
PRL 産後の不全(茎圧迫では逆に軽度上昇することもある)
AVP 多尿、口渇、に伴う高Na血症傾向

との最大の鑑別点は、)ではレニン‐‐アルドステロン系がACTHに大きく依存せず保たれるため、著明な高K血症・を来しにくいことである。ACTHが低値であるためPOMC由来の刺激作用も働かず、色素沈着は通常みられない。

⚠️ 腫瘤性病変が原因の場合は、ホルモン欠乏症状に加えて頭痛、などの、頭蓋内圧亢進症状といったの症候が併存しないか必ず確認する。

診断

診断は「①どの軸が欠乏しているかの評価」と「②原因検索」を並行して進める。安定した患者では、まず基礎ホルモン値を一括して測定する。

  • 午前8〜9時のコルチゾール・ACTH
  • 遊離T4・TSH
  • LH/FSH+テストステロン(男性)またはエストラジオール(女性)
  • IGF-1(GH軸のスクリーニング)
  • PRL
  • 血清Na、血漿・尿浸透圧(AVP系の評価)

基礎値だけで判定が難しいACTH・GHの評価にはが必要になる。は、低血糖ストレスに対するACTH・コルチゾールとGHの反応を同時に評価できるとされるが、・けいれん性疾患・高齢者などでは低血糖誘発が危険なため禁忌となる。ITTが実施できない場合は、グルカゴンなどの代替検査を用いる。

💡 発症早期(や外傷後の急性期など)は、副腎皮質がまだ萎縮していないためでコルチゾール反応が保たれてしまうことがあり、偽陰性になりうる。急性を疑うでは、の結果を過信せず治療を優先する。

原因検索には造影を行い、腫瘤の有無・大きさ・視交叉やとの関係を確認する。視交叉に近接する病変では正式な視野検査を追加する。

flowchart TD
    A["下垂体・視床下部疾患を疑う"] --> B{"急性の頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual field defect'>視野障害</span>・意識障害・低血圧か"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary apoplexy'>下垂体卒中</span>を疑い、採血後に結果を待たず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrocortisone'>ヒドロコルチゾン</span>を投与"]
    C --> D["緊急<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary MRI'>下垂体MRI</span>・視野検査・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurosurgery'>脳神経外科</span>/内分泌科評価"]
    B -->|"いいえ・安定"| E["基礎ホルモン値を測定<br>(午前コルチゾール・ACTH、遊離T4/TSH、LH/FSH+性ステロイド、IGF-1、PRL、Na/浸透圧)"]
    E --> F{"ACTH・GH<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reserve capacity'>予備能</span>の確認が必要か"}
    F -->|"禁忌なし"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin tolerance test, ITT'>インスリン低血糖試験</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gold standard'>ゴールドスタンダード</span>)"]
    F -->|"心血管疾患・けいれん等で禁忌"| H["グルカゴン<span class='jp-term jp-term-diagram' title='challenge test'>負荷試験</span>など代替検査"]
    G --> I["造影<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary MRI'>下垂体MRI</span>+必要に応じ視野検査で原因検索"]
    H --> I

治療

補充の順序が最重要

⚠️ 複数軸の欠乏がある場合、必ず)を先に補充してから甲状腺ホルモン()を開始するは代謝を亢進させてコルチゾールの必要量・クリアランスを増やすため、副腎が不十分なまま先に投与するとを誘発しうる。ではTSHは指標にならず、遊離T4値を基準にする。

欠乏軸 治療の要点
ACTH を1日2〜3回、朝多め・夕少なめに分割。と緊急注射キットを教育。は通常不要
TSH 副腎系を補充後にを開始し、遊離T4で調整する
LH/FSH 妊孕性を希望しない場合は男性にテストステロン、女性にエストラジオール(子宮温存例は併用)を補充。妊孕性を希望する場合はゴナドトロピンまたはGnRH療法を専門的に行う
GH(成人) で確認した重症の成人GH欠乏症にを低用量から開始し、IGF-1・浮腫・血糖・症状で漸増する
AVP を最小から調整し、・低Na血症を避けるため定期的にが得られる投与設計とNaのモニタリングを行う

💡 成人GH欠乏症のは「IGF-1が低い」だけでは不十分で、やグルカゴン)で重症のGH分泌低下を生化学的に確認し、QOL低下などのを伴う場合に開始が検討される。閉経後でを内服中の女性は、が肝臓でのIGF-1産生を抑制するため、同じ効果を得るのにGHがより高用量を要することがある。

下垂体卒中の急性期対応

は検査確定を待たず治療を開始する内分泌救急である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary apoplexy'>下垂体卒中</span>を疑う<br>(急性頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual field defect'>視野欠損</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired ocular motility (ophthalmoparesis)'>眼球運動障害</span>・意識障害・低血圧)"] --> B["採血後、結果を待たず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrocortisone'>ヒドロコルチゾン</span>を静注"]
    B --> C["視力・視野・眼球運動・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='level of consciousness'>意識レベル</span>を評価"]
    C --> D{"重度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・進行する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual field defect'>視野障害</span>・意識障害があるか"}
    D -->|"あり"| E["早期(目安として発症7日以内)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transsphenoidal decompression surgery'>経蝶形骨洞除圧手術</span>を検討"]
    D -->|"なし・軽度で安定"| F["ステロイド継続下に保存的加療とし、頻回に神経・視機能を再評価"]
    E --> G["術後・保存的加療後とも下垂体機能を定期的に再評価"]
    F --> G

⭐ 手術か保存的加療かは、視力・視野・意識障害の重症度を統合したスコア(Pituitary Apoplexy Score等)を参考に、増悪の兆候があればへ切り替える。保存的加療を選んだ場合も含め、急性期を乗り越えた後は必ずの各軸を再評価し、慢性期の補充療法へつなげる。

まとめ

  • は下垂体・視床下部の障害による1系統以上のホルモン欠乏で、病変ではGH→ゴナドトロピン→TSH→ACTHの順に脱落しやすいが、・自己免疫性/ICI関連などの急性・破壊性病変ではこの順序によらずACTH欠乏が急に前面に出る。
  • と異なり、レニン‐‐アルドステロン系が保たれるため著明な高K血症・色素沈着を来しにくい。
  • 診断は基礎ホルモン値の一括測定に加え、必要に応じて(禁忌があればグルカゴン)でACTH・GHを確認し、造影MRIで原因を検索する。
  • 治療の鉄則は先に、その後に甲状腺ホルモンの順で補充すること。誤った順序はを誘発しうる。
  • は急性頭痛・視野/・意識障害・低血圧を伴う内分泌救急で、採血結果を待たずを投与し、重症度に応じて緊急手術か保存的加療かを判断する。