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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 腫瘍

頭蓋咽頭腫

Craniopharyngioma

臓器系
内分泌・代謝神経腫瘍小児
科目
PediatricsInternal MedicineNeurology
トピック
小児科 3-03:小児脳腫瘍と網膜芽細胞腫小児科 3-15:小児下垂体疾患小児科 1-07:小児・思春期の肥満内科学 S-07:下垂体機能低下症神経内科 G2-01:視力低下の神経学的原因と視野欠損
上位概念
中枢神経系腫瘍(成人・小児)
鑑別疾患
先端巨大症・プロラクチノーマ(下垂体腺腫)
合併症
下垂体機能低下症尿崩症成長ホルモン分泌不全性低身長症水頭症
治療薬
ダブラフェニブ+トラメチニブ
症状
頭痛乳頭浮腫多尿
画像所見
下垂体MRI石灰化

🧠 全体像の中でも、の遺残上皮から発生し鞍上部に好発する、WHO CNS grade 1(組織学的には良性)の腫瘍である。組織学的な良性度と裏腹に、視床下部・下垂体・視交叉という機能的に譲れない構造にすぐ隣接して増大するため、「良性なのに破壊的」という臨床像を生む代表例になる。組織型はadamantinomatous型(ACP、CTNNB1変異)とpapillary型(PCP、BRAF V600E変異)の2つに分かれ、ACPが5〜14歳と55〜74歳の二峰性の年齢分布を示す一方、PCPは中年(平均44.7歳)に単峰性に分布する。臨床の軸は3つ——①頭痛・頭蓋内圧亢進、②視交叉圧迫による、③ホルモン欠乏と肥満——で、なかでも肥満は通常の食事・運動療法に反応しにくく、治療後のQOLを長期的に左右する最大の課題になる。

病態:発生母地と2つの組織型

は、の原基)が退縮する際に残存する上皮遺残から発生すると考えられており、この発生学的背景から鞍上部・鞍内・底に好発する。WHO CNS第5版では、分子背景の異なる2つの組織型に大別する。

項目 Adamantinomatous型(ACP) Papillary型(PCP)
頻度 の約90% 約10%
好発年齢 二峰性(5〜14歳・55〜74歳)、小児例の大半を占める ほぼ成人限局(平均44.7歳)
主要な分子異常 CTNNB1約60%——β-が核内に蓄積し BRAF V600E変異81〜100%——MAPK/ERK経路を活性化
病理像 嚢胞形成、パール、湿った状石灰化を伴いやすい が主体で石灰化は乏しい

1

石灰化の有無は画像診断上のヒントになる。小児に多いACPは嚢胞変性・石灰化を伴いやすく、CTでの評価が診断の助けになるのに対し、PCPは成分主体で石灰化が乏しい。

💡 ACPの活性化は腫瘍細胞そのものの無秩序な増殖というより、老化()した上皮が分泌するシグナル群(SASP)が周囲の前駆細胞を非自律的に刺激して腫瘍が増大するという機序が近年注目されている。PCPはBRAF V600E変異によるMAPK/ERK経路の活性化が主体で、この違いが後述するの可否に直結する。

疫学:二峰性の年齢分布

は小児の中でも代表的な鞍上部腫瘍であり、成人でも高齢層に第2のピークをもつ二峰性の年齢分布を示す。⚠️ この二峰性はACP自身の年齢分布であり、両方のピークがACPである——高齢側の第2ピークをPCPと対応させるのは誤りで、PCPは中年(平均44.7歳)に単峰性に分布する1

臨床像:頭痛・視野障害・内分泌障害の3軸

頭蓋内圧亢進と視野障害

腫瘍の増大やの閉塞により水頭症を来すと、頭痛、悪心・嘔吐、など頭蓋内圧亢進症状が出現する。腫瘍が視交叉を下方または後方から圧迫すると、(視野の外側〈耳側〉が両眼性に欠損する所見)を来す。のため、患者自身がに気づかず、健診や運転時の異常で発見されることも少なくない。

内分泌障害

視床下部・下垂体への浸潤・圧迫により前葉・のホルモン欠乏を来す。(AVP欠乏による多尿・口渇)は術前は14〜18%にとどまるが、手術操作の影響で術後は80〜93%まで急増する2。前葉ホルモンの欠乏頻度も診断時点で決して低くなく、小児ではGH欠乏62%・TSH軸60%・ACTH軸54%・42%・41%、成人ではTSH軸56%・48%・GH欠乏38%・34%・ACTH軸33%との報告があり、いずれの軸も治療後にさらに頻度が上がる2。小児ではとして、成人では感・性機能低下として気づかれることが多い。各軸の補充療法の詳細・補充の順序(先に、その後に甲状腺ホルモン)はを参照する。

視床下部性肥満

⚠️ に特徴的で、他の下垂体近傍腫瘍と一線を画すのが肥満である。視床下部のまたは手術操作で損傷されると、(血中が肥満度に見合わず高値であるにもかかわらずとして働かない)と、低下・亢進によるが組み合わさり、通常の食事・運動療法に反応しにくい難治性の体重増加を来す3。視床下部へのは肥満例の76%・重度肥満例の96%に認められ、浸潤の程度が肥満の重症度と相関することが示されている3

flowchart TD
    A["視床下部(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arcuate nucleus'>弓状核</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventromedial nucleus'>腹内側核</span>)へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor invasion'>腫瘍浸潤</span>・手術操作による損傷"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leptin resistance'>レプチン抵抗性</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leptin'>レプチン</span>高値でも<span class='jp-term jp-term-diagram' title='satiety signal'>満腹シグナル</span>が働かない)"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sympathetic tone'>交感神経緊張</span>低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vagal tone'>迷走神経緊張</span>亢進"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperinsulinemia'>高インスリン血症</span>"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperphagia'>過食</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='energy expenditure'>エネルギー消費</span>低下"]
    D --> E
    E --> F["治療抵抗性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothalamic'>視床下部性</span>肥満"]

診断

造影MRIが構造評価の中心で、嚢胞性・成分の比率、視交叉・視床下部・との位置関係を確認する。CTは石灰化の評価に優れ、特に小児のACPで診断の補助になる。を疑えば正式な視野検査を追加し、内分泌評価はの診断フローに準じて基礎ホルモン値を一括測定する。

flowchart TD
    A["頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual field defect'>視野障害</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bitemporal hemianopsia'>両耳側半盲</span>)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth failure'>成長障害</span>/内分泌症状を疑う"] --> B["造影下垂体・頭部MRI"]
    B --> C["石灰化評価にはCTを併用"]
    B --> D["正式な視野検査"]
    B --> E["基礎ホルモン値を一括測定"]
    C --> F["嚢胞性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solid'>充実性</span>成分と視床下部・視交叉との関係を評価"]
    D --> F
    E --> F
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurosurgery'>脳神経外科</span>・内分泌科で手術方針を検討"]

治療

手術:全摘出か視床下部温存かのトレードオフ

の手術方針は、「腫瘍の全摘出を優先し再発率を下げるか」と「視床下部を温存し内分泌・代謝合併症を減らすか」のとして理解する。視床下部に強く浸潤・癒着した症例で無理に全摘を目指すと、肥満・重症の下垂体機能低下・力障害などのが上がる。そのため、視床下部浸潤が強い症例では亜全摘+残存腫瘍への放射線療法を選び、視床下部機能の温存を優先する方針が広く支持される。経アプローチと開頭アプローチは、腫瘍の進展方向(鞍内主体か、鞍上部・方向への進展が主体か)で選択する。

分子標的治療(PCP・BRAF V600E陽性例)

PCPでBRAF V600E変異が同定された症例では、BRAF阻害薬・MEK阻害薬(など)により腫瘍体積が80〜91%縮小したとする報告があり、BRAF陽性PCPを対象とした第2相多施設試験が進行中である1。⚠️ ただし現時点ではエビデンスの蓄積途上であり、手術・放射線療法に代わる第一選択ではなく、切除困難例・再発例での選択肢という位置づけにとどまる。

術後管理

術後はホルモンの補充療法(を参照)へ確実に引き継ぐ。肥満に対しては、通常のだけでは効果が乏しいことが多く、専門施設での代謝・栄養介入や薬物療法を含めた長期的な管理が必要になる。

まとめ

  • 遺残由来の鞍上部腫瘍で、WHO CNS grade 1(良性)でありながら視床下部・下垂体・視交叉への近接により破壊的な臨床像を来す。
  • adamantinomatous型(ACP、CTNNB1変異)とpapillary型(PCP、BRAF V600E変異)に分かれる。二峰性の年齢分布(5〜14歳・55〜74歳)はACP自身のもので、両ピークともACP——PCPは中年に単峰性(平均44.7歳)に分布する。
  • 臨床像は頭痛・頭蓋内圧亢進、視交叉圧迫によるホルモン欠乏の3軸で整理し、は術前14〜18%から術後80〜93%へ急増する。
  • 肥満は亢進によるを介した難治性の合併症で、視床下部への浸潤度と重症度が相関する。
  • 手術は「全摘出による再発率低下」と「視床下部温存による合併症軽減」ので方針を決め、視床下部浸潤が強い例では亜全摘+放射線療法を選ぶ。BRAF V600E陽性PCPではBRAF/MEK阻害薬が新たな選択肢になりつつある。

出典

  1. 1.The molecular pathogenesis of craniopharyngiomas(Archives of Endocrinology and Metabolism・2023)adamantinomatous型(ACP)が全体の約90%を占め、ACP自身が5〜14歳と55〜74歳に二峰性のピークを示すこと、papillary型(PCP)は10%程度でほぼ成人(平均44.7歳)に限局すること、ACPの約60%にCTNNB1変異(exon3、β-catenin核内蓄積・Wnt経路活性化)、PCPの81〜100%にBRAF V600E変異(MAPK/ERK経路活性化)を認めること、BRAF/MEK阻害薬(ダブラフェニブ・トラメチニブ・ベムラフェニブ)でPCPの腫瘍体積が80〜91%縮小した報告とBRAF陽性PCPを対象とした第2相多施設試験が進行中であることを確認した。閲覧 2026-08-10
  2. 2.Obesity and craniopharyngioma(Italian Journal of Pediatrics・2011)視床下部性肥満はレプチン抵抗性(肥満にもかかわらず血中レプチンが有意高値)と、腹内側核損傷による交感神経緊張低下・迷走神経緊張亢進を介した高インスリン血症で説明されること、視床下部への腫瘍浸潤が肥満例の76%・重度肥満例の96%に認められ浸潤の程度が肥満重症度と相関すること、治療後7.6年時点で追跡した55例中約65%が過体重・肥満であったことを確認した。閲覧 2026-08-10
  3. 3.Endocrine Disorder in Patients With Craniopharyngioma(Frontiers in Neurology・2021)尿崩症の頻度が術前14〜18%から術後80〜93%へ大きく増加すること、小児の診断時点でのホルモン軸欠乏頻度(GH 62%、TSH軸60%、ACTH軸54%、尿崩症42%、性腺軸41%)と成人での頻度(TSH軸56%、性腺軸48%、GH 38%、尿崩症34%、ACTH軸33%)、術後はいずれの軸も術前より欠乏頻度が上昇することを確認した。閲覧 2026-08-10