疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

男性性腺機能低下症

Male hypogonadism

別名
アンドロゲン欠乏症テストステロン欠乏症
臓器系
内分泌・代謝生殖・産婦人科
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 E-08:性腺機能異常内科学 S-15:男性性腺機能低下症
鑑別疾患
アンドロゲン不応症
続発疾患
骨粗鬆症
関連疾患
肥満症
治療薬
テストステロンウンデカン酸エステル
症状
筋力低下倦怠感女性化乳房
検査値
フェリチンヘマトクリット
原因となる疾患
Bardet-Biedl症候群Kallmann症候群クラインフェルター症候群ヘモクロマトーシス下垂体機能低下症自己免疫性多内分泌腺症候群1型先端巨大症・プロラクチノーマ(下垂体腺腫)

🧠 全体像は、精巣からのテストステロン産生・精子形成が不十分な状態である。症状だけでも、テストステロン低値1回だけでも診断しない。「症状・徴候」+「別日に反復した早朝低値」の両方が揃って初めて診断が成立する。診断がついたらLH・FSHで原発性(精巣性)と中枢性(視床下部・下垂体性)を分け、中枢性ではプロラクチンや鉄過剰など可逆的な原因を探す。治療で最も見落としやすい落とし穴は、妊孕性を希望する患者に外因性テストステロンを投与すると精子形成がむしろ抑制されるという点である。

概要

  • の異常により、テストステロン産生と精子形成の一方または両方が不十分になった状態。
  • 加齢に伴う緩徐な低下(原因不明の機能性要素を含む)から、遺伝性疾患、下垂体腫瘍、精巣そのものの障害まで原因は幅広い。肥満・糖尿病・オピオイド使用でも生じ得る「機能性」低下は、原因を是正すれば回復しうる点が原因と異なる。
  • 臨床上の要点は3つ:①診断は症状+反復した低値の両方で行う(1回の低値や無症候の低値だけでは治療対象にならない)、②LH・FSHで原発性/中枢性を鑑別する、③妊孕性希望の有無で vs )が大きく変わる

病態

視床下部‐下垂体‐精巣軸

視床下部がにGnRHを分泌し、からLH・FSHが放出される。LHはを刺激してテストステロンを産生させ、FSHはに作用して精子形成を支える。テストステロンとは視床下部・下垂体へ負のフィードバックをかける。

💡 このフィードバック構造があるため、原発性(精巣自体の障害)ではフィードバックが効かずLH・FSHが上昇し、中枢性(視床下部・下垂体の障害)ではLH・FSHが低値または不適切な正常範囲にとどまる。この対比がLH・FSH測定の意味そのものである。

原発性(精巣性)と中枢性(視床下部・下垂体性)の対比

観点 原発性( 中枢性(
LH・FSH 高値 低値または
テストステロン 低値 低値
機序 精巣そのものの障害でテストステロン産生・精子形成が低下し、が外れてLH・FSHが上昇 視床下部からのGnRHパルス低下または下垂体からのLH・FSH分泌低下により、精巣は正常でも刺激が不足
代表的原因 (多くは47,XXY)、後など)、・外傷、化学療法・放射線、、加齢性精巣障害 を含む(IHH)、など浸潤性疾患、オピオイド・、重症疾患、肥満
精子形成への影響 直接障害されやすく、しばしばを伴う GnRH/LH/FSH補充で回復しうる(精巣自体は保たれている)

⭐ 高齢者や、重症疾患などでは原発性と中枢性の要素が混在する混合型もあり、LH・FSHが「高すぎず低すぎない」中間的な値をとることがある。

機能性(可逆性)低下という視点

肥満、、過剰な運動、重症疾患、オピオイド・などは、を一時的に抑制して中枢性の低テストステロン血症を来す。これらは原因を是正すれば回復しうるため、疾患(腫瘍・遺伝性疾患)と機能性低下を混同しないことがの分かれ目になる。

臨床像

発症時期によって表現型が異なる。

発症時期 主な所見
思春期前からの発症 の遅延、精巣・陰茎の発育不全、類宦官体型(上肢が長く下肢優位の身長)、・体毛の乏しさ、声変わりの欠如
思春期後(成人期)の発症 、朝立ちの減少、不妊、筋量・筋力低下、、体脂肪増加、骨量低下、(重度の急激な低下時)、貧血、感、

⚠️ 感やなど非特異的な症状だけでは診断できない。必ず性機能症状(・不妊)や身体所見()と組み合わせて評価し、反復した低テストステロン血症で裏付ける。

診断

テストステロン測定の原則

  • 診断は症状・徴候と、別日に反復した早朝低値の両方で行う。1回だけの低値では診断せず、低値と判定された男性の約3割は再検で正常域に戻るとされる。
  • 総テストステロンは検査法・による差が大きいため、精度管理されたの高いアッセイ(可能であれば)で測定する。健常な非肥満若年男性でCDC標準化アッセイに基づく下限値の目安は約264 ng/dL(9.2 nmol/L)で、AUAガイドラインは実務上300 ng/dLを低テストステロンを支持する目安として用いる。いずれも施設ごとのをそのまま機械的に適用しない。
  • SHBGが変動しやすい肥満、、肝疾患、加齢などでは、総テストステロンだけでなく信頼できる方法でも評価する。

LH・FSHによる鑑別と追加評価

  • 総テストステロン低値が確認されたら、LH・FSHを測定して原発性か中枢性かを区分する。
  • 中枢性が疑われる場合は、プロラクチン、)、他のホルモン、頭痛・の有無を確認し、重度の低値、頭痛・、他の下垂体機能低下を伴う場合はを行う。
  • 若年で原発性が疑われる場合はなどを検索する。
  • 不妊評価には、精巣腫瘤や萎縮など局所病変が疑われる場合には精巣超音波を追加する。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased libido'>性欲低下</span>・ED・不妊・筋量低下などテストステロン欠乏を示唆する症状・徴候"] --> B["早朝空腹時の総テストステロンを測定"]
    B --> C{"低値か"}
    C -->|"いいえ"| D["他の原因を評価"]
    C -->|"はい"| E["別日の早朝空腹時テストステロンで再検し確認"]
    E --> F["LH・FSHを測定"]
    F --> G{"LH・FSH高値か"}
    G -->|"はい"| H["原発性(精巣性)<br>若年なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='karyotyping'>核型検査</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Klinefelter syndrome'>Klinefelter症候群</span>等を検索"]
    G -->|"いいえ(低値・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inappropriately normal'>不適切正常</span>)"| I["中枢性(視床下部・下垂体性)<br>プロラクチン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iron metabolism'>鉄代謝</span>・他の下垂体機能を評価"]
    I --> J{"重度低値/頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual field defect'>視野障害</span>/他の下垂体機能低下あり"}
    J -->|"はい"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary MRI'>下垂体MRI</span>"]
    J -->|"いいえ"| L["肥満・オピオイド・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucocorticoids'>糖質コルチコイド</span>など機能性要因を検索"]
    H --> M["妊孕性希望の有無を確認"]
    K --> M
    L --> M
    M -->|"希望あり"| N["外因性テストステロンを避け<br>hCG±FSHまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulsatile'>拍動性</span>GnRHを専門医と検討"]
    M -->|"希望なし"| O["禁忌がなければ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='testosterone replacement therapy (TRT)'>テストステロン補充療法</span>を開始し<br>症状・テストステロン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematocrit, Hct'>ヘマトクリット</span>を定期評価"]

治療

可逆的原因の是正が先

肥満、栄養不足、過剰な運動、オピオイド・などの薬剤、、重症疾患といった可逆的原因があれば、まずその是正を試みる。

テストステロン補充療法(TRT)

症状があり、反復して低テストステロンが確認された患者には、ゲル・注射(など)・などの剤形からを個別化して選択する。

状況 方針
近く妊孕性を希望 TRTは外因性テストステロンがLH・FSHを抑制し精子形成を低下させるため避ける。hCG±FSHなどの、または中枢性・IHHではを専門医と検討する
前立腺癌・乳癌の既往、評価未了の前立腺異常、著明な TRTを開始しない
未治療の重症睡眠時無呼吸、制御不良の心不全、直近6か月以内の心筋梗塞・脳卒中、 原則として開始を避け、リスクを再評価する
2型糖尿病の改善のみが目的 TRTの適応ではない

⚠️ TRT開始後は、開始3〜6か月後、その後は少なくとも年1回、症状・血中テストステロン・を評価する。 >54%になれば一旦中止して原因を評価する。年齢・リスクに応じてPSAを含む前立腺評価をのもとで行う。

  • 主な有害事象:増加、、浮腫、(外因性テストステロンによる内因性LH・FSH抑制の結果)、注射剤形での注射部位反応。
  • や腹部超音波の定期実施を全例に一律で行うのではなく、製剤の種類と個々の臨床リスクに応じて判断する。

まとめ

  • 診断は症状・徴候+別日に反復した早朝低値の両方で行い、1回の低値だけでは治療対象にしない。
  • LH・FSH高値なら原発性(精巣性、代表例は)、低値またはなら中枢性(視床下部・下垂体性、代表例は・下垂体腫瘍・を考え、中枢性ではプロラクチン・・下垂体機能・MRIで原因を探る。
  • 肥満・オピオイド・などによる機能性(可逆性)低下は、原因是正で回復しうるため疾患と区別する。
  • 妊孕性を希望する患者にはTRTを避け、hCG±FSHやGnRHによるを検討する。TRT開始例では、禁忌(前立腺・乳癌、著明な、未治療の重症睡眠時無呼吸、直近の心など)を確認したうえで、・PSA・症状を定期的に評価する。