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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

高プロラクチン血症

Hyperprolactinemia

臓器系
内分泌・代謝生殖・産婦人科
科目
Translational Medicine and PathophysiologyPathologyPharmacology
トピック
病態生理学 I-23:成長ホルモン・プロラクチンの過剰産生病理学 C/84:視床下部・下垂体系の機能低下・亢進薬理学 A18:抗精神病薬
鑑別疾患
先端巨大症・プロラクチノーマ多嚢胞性卵巣症候群男性性腺機能低下症
合併症
骨粗鬆症
治療薬
カベルゴリンブロモクリプチン
原因薬剤
リスペリドンハロペリドールスルピリドアミスルプリドメトクロプラミドドンペリドンメチルドパベラパミル
症状
乳汁漏出無月経不妊勃起不全女性化乳房
検査値
血清プロラクチン
画像所見
下垂体MRI
適応薬
カベルゴリン

🧠 全体像:は「視床下部ドパミンによるプロラクチン分泌のトニックな抑制が外れる」という1つの機序が、生理的(妊娠・授乳・ストレス)・病的(、、甲状腺機能低下症、腎不全)・薬剤性()という3系統の原因から生じる状態である。精神科臨床での最頻出シナリオは抗精神病薬による薬剤性で、との違いを見分けることが診断の分かれ目になる。

病態生理

プロラクチンはの()から分泌され、視床下部のドパミン(プロラクチン)によって常時トニックに抑制されている。他のと違い、プロラクチンだけは「刺激ホルモンが無いと出ない」のではなく「抑制が外れると出る」という逆の制御を受ける。

flowchart TD
    A["視床下部のドパミン<br>(結節<span class='jp-term jp-term-diagram' title='infundibulum'>漏斗</span>系)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior pituitary'>下垂体前葉</span>のD2受容体を刺激"]
    B --> C["プロラクチン分泌をトニックに抑制"]
    D["妊娠・授乳・ストレス"] --> E["生理的にプロラクチンが上昇"]
    F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary tumor'>下垂体腫瘍</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary stalk effect'>下垂体茎圧迫</span>"] --> G["ドパミンが下垂体に届かない"]
    H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dopamine receptor blocking agent'>ドパミン受容体遮断薬</span><br>(抗精神病薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiemetics'>制吐薬</span>等)"] --> I["D2受容体でドパミンの<br>作用が遮断される"]
    G --> J["プロラクチン分泌の抑制が外れる"]
    I --> J
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperprolactinemia'>高プロラクチン血症</span>"]

💡 の圧迫は「抑制の遮断」であって「腫瘍そのものの分泌」ではない。 やがを圧迫すると、ドパミンが下垂体に届かなくなり、腫瘍自体はプロラクチンを産生していなくても二次的にが生じる。これは腫瘍細胞そのものがプロラクチンを分泌すると機序が異なる。

原因

分類 代表例
生理的 妊娠、授乳、ストレス、運動、睡眠、性交
病的(構造性) (の約40%)、(・等)、視床下部・下垂体の損傷
病的(全身性) 甲状腺機能低下症(上昇がプロラクチンも刺激)、腎不全(クリアランス低下)、
薬剤性 (抗精神病薬・)、、
特発性 原因を特定できない軽度〜中等度の上昇

⭐ 薬剤性とは、値の高さだけでは区別できない場合がある。 薬剤性は通常25〜100 μg/Lにとどまるが、・・系では200 μg/Lを超えることがあり、これは大型の値域と重なる1。値だけで判断せず、薬剤の使用歴の聴取と画像評価を組み合わせる。

症状

プロラクチンの上昇は、()のを抑制し、のを引き起こす。

⚠️ 無症候の患者もいる。 抗精神病薬服用中の患者では、プロラクチン値が上昇していても症状を訴えないことが多く、症状の有無ではなく定期的なの確認が見逃しを防ぐ。

診断

単回の測定で診断が確定し、()は不要である。ただし採血手技自体のストレスで軽度上昇しうるため、でなければ再検を検討する1。

所見 解釈
500 μg/L超 マクロを示唆
250 μg/L超 通常はを示唆(ただし・でも200 μg/L超に達しうる)
大型なのにプロラクチン軽度上昇のみ を疑い、血清を1:100に希釈して再測定する
無症候性の (でスクリーニング)を疑う

⭐ は「見かけ上の異常」であることが多い。 生物活性の低い高分子型プロラクチン(big prolactin・big-big prolactin)が主体を占め、全体の約40%に及ぶ。免疫測定では高値に出るが症状を伴わないことが多く、不要な画像検査・治療を避けるために鑑別する価値がある1。

評価では、薬剤使用歴、腎不全、甲状腺機能低下症、傍鞍上腫瘍の4つを除外したうえで、画像評価()に進む1。

抗精神病薬による高プロラクチン血症

抗精神病薬は下垂体への投射を持つ(結節系)経路のD2受容体も遮断するため、精神症状の改善とはにプロラクチンが上昇する。典型的なで40〜90%、で50〜100%と高頻度にみられる一方、は薬であるためプロラクチンへの影響が比較的小さい1。

管理は、①原因薬の減量、②プロラクチンに影響の少ない薬剤への変更、③の併用、④症候性で変更が困難な場合は(・)の追加、という順で検討する。⚠️ 精神症状のリスクと天秤にかける。 抗精神病薬の変更・減量は精神症状のコントロールを崩しうるため、プロラクチン値だけを見て機械的に変更しない。モニタリングの頻度は、症状が安定するまで受診ごと、以降はプロラクチンを上げる薬剤を使っている場合に限り少なくとも年1回とされる2。

治療

病態
・症候性の病的 を優先するが第一選択。の正常化率95%、大型腫瘍の92%で腫瘍縮小1
無症候性の微小 治療不要。経過観察
薬剤性 可能なら原因薬の減量・変更。困難ならの併用を検討
妊娠が判明した場合 を中止するのが原則。視交叉に迫る浸潤性大型腫瘍では継続を検討1
甲状腺機能低下症・腎不全が原因 原疾患(甲状腺機能低下症・腎不全)の治療

まとめ

  • は、視床下部ドパミンによるプロラクチン分泌のトニックな抑制が外れることで生じる。(腫瘍による産生)と(抑制の遮断)は機序が異なる。
  • 原因は生理的・病的(構造性・全身性)・薬剤性・特発性に分かれる。薬剤性は通常25〜100 μg/Lだが、一部の抗精神病薬・では200 μg/L超に達し、の値域と重なりうる。
  • 単回の測定で診断できる。500 μg/L超はマクロ、250 μg/L超は通常を示唆するが、薬剤性の除外が必須。(希釈再検)と(約40%を占める)の鑑別も忘れない。
  • 症状は(無月経・・不妊・)と長期の骨密度低下。抗精神病薬服用中は無症候のことも多く、症状ではなく定期検査で拾う。
  • 治療は病的なら第一選択が(優先)、薬剤性なら減量・変更・併用・追加の順で、精神症状のリスクと天秤にかける。無症候性は経過観察でよい。

出典

  1. 1.Diagnosis and Treatment of Hyperprolactinemia: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(The Endocrine Society / Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2011)本文を確認した。原因が生理的(妊娠・授乳・ストレス・運動・睡眠・性交)、病的(プロラクチノーマ=下垂体腫瘍の約40%、下垂体茎圧迫、視床下部・下垂体損傷、腎不全、甲状腺機能低下症、多嚢胞性卵巣疾患等)、薬剤性(主にドパミン受容体遮断薬)に分類されること、薬剤性は通常25〜100 μg/Lにとどまるが典型的抗精神病薬で40〜90%、リスペリドンで50〜100%に高値がみられ、メトクロプラミド・リスペリドン・フェノチアジン系では200 μg/L超に達しうること、ベラパミルで8.5%に発生することを確認した。マクロプロラクチン血症が高プロラクチン血症全体の約40%を占める生物活性の低い高分子型プロラクチンであり無症候例ではポリエチレングリコール沈殿法によるスクリーニングを推奨すること、著明な下垂体腫瘍とプロラクチン軽度上昇の不釣り合いがあるときはフック効果を疑い血清を1:100に希釈して再測定すべきこと、単回のプロラクチン測定で診断でき動的検査は不要であること、500 μg/L超はマクロプロラクチノーマを、250 μg/L超は通常プロラクチノーマを示唆するがリスペリドン・メトクロプラミドでも200 μg/L超に達しうるため薬剤性を除外する必要があること、薬剤・腎不全・甲状腺機能低下症・傍鞍上腫瘍の除外を推奨していること、症状として無月経・乳汁漏出・性機能障害・不妊・低ゴナドトロピン性性腺機能低下症・脊椎骨密度の約25%低下が挙げられること、プロラクチノーマの治療はドパミン作動薬(カベルゴリン優先)が第一選択で微小腺腫の正常化率95%・大型腫瘍の92%で腫瘍縮小がみられること、無症候性微小腺腫は治療不要であること、妊娠判明時はドパミン作動薬を中止するが視交叉に迫る浸潤性大型腫瘍では継続を検討することを確認した。閲覧 2026-09-05
  2. 2.APA Practice Guideline on the Treatment of Patients With Schizophrenia — official training slides (September 2020)(American Psychiatric Association・2020)schizophrenia.mdで既に確認済みの同スライドから、抗精神病薬によるモニタリング表で高プロラクチン血症の症状確認が新規治療開始後は安定するまで受診ごと、以降はプロラクチンを上げる抗精神病薬を使っている場合に限り少なくとも年1回とされていることを確認した。閲覧 2026-09-05