病態生理学

病態生理学 · 1-23

成長ホルモン・プロラクチン過剰分泌

Overproduction of growth hormone and prolactin

応用トピック
先端巨大症とプロラクチノーマ続発性無月経
薬剤
ドンペリドン
疾患
高プロラクチン血症
症状
乳汁漏出
検査値
血清プロラクチン

🧠 GH 過剰の症状は4系統に整理できる(糖尿病・骨/軟骨・・プロラクチン様作用)。が閉じる前なら、後なら。プロラクチン過剰は別に「+抑制で」を起こす。

成長ホルモンの調節と作用

  • GHRH()→ GH、ソマトスタチン が抑制。GH の多くは肝の IGF-1 を介する。
組織 GH の効果
肝 タンパク質合成↑、糖新生↑、IGF-1↑
筋 グルコース取込み↓、アミノ酸取込み↑ → 筋量↑
脂肪組織 グルコース取込み↓、↑ → 体脂肪↓
その他 臓器サイズ/機能↑;軟骨:長軸方向の骨成長↑

先端巨大症/巨人症(症状を4群で)

  • 通常 下垂体GH産生腺腫(→ )。前→、後→。
flowchart TD
  AD["下垂体GH産生腺腫 → GH過剰"] --> DM["① <span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucose metabolism'>糖代謝</span>:インスリン抵抗性→血糖↑→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary diabetes mellitus'>二次性糖尿病</span>"]
  AD --> BO["② 骨/軟骨:手足顔の変形・大きな鼻/顎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carpal tunnel syndrome'>手根管症候群</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arthropathy'>関節症</span>"]
  AD --> VI["③ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceromegaly'>内臓肥大</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macroglossia'>巨舌症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac hypertrophy'>心肥大</span>(HTN/不整脈)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colorectal polyps'>大腸ポリープ</span>"]
  AD --> PR["④ プロラクチン様作用:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonadotropin-releasing hormone'>GnRH</span>↓→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='galactorrhea'>乳汁漏出症</span>(女)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gynecomastia'>女性化乳房</span>(男)"]

診断:GHは拍動性分泌のため単独測定は無意味

  • ⚠️ GH は視床下部のGHRHに応じてに分泌され(ソマトスタチンが抑制)、も短いため、随時のGH単独測定では正常値でも異常値でも診断できない。
  • 💡 診断は年齢別のと比べた血清IGF-1から始める。IGF-1は肝産生を反映して血中濃度が安定しており、正常であればはほぼ除外できる。
  • 2024年の国際合意では、典型的な臨床像がありIGF-1が年齢別の1.3倍を超えれば診断が確定し、随時GHは診断に必須ではない1。
  • 結果が判然としないときは、同じ検証済みアッセイでIGF-1を再測定し、75 g()中のGH抑制を追加で確かめる。GHの谷値のはアッセイと体格に依存し、同合意は 25未満で0.4 µg/L未満、 25以上で0.2 µg/L未満(ここまで下がれば正常な抑制)を目安として挙げる。かつての基準は谷値 1 µg/L だった1。
  • 生化学的に確定した後、で腫瘍の局在・大きさを評価する。

治療:経蝶形骨洞手術が第一選択

  • ⭐ による腺腫摘出が第一選択。や境界明瞭な腫瘍では手術単独で生化学的寛解が得られることも多い。
  • 手術で寛解に至らない・手術不適応・術後の残存/再発例には薬物療法を追加する:(、)が第一選択の薬物療法、()、(GH・IGF-1上昇が軽度な例やプロラクチン共分泌腫瘍)。
  • 上記でも寛解しない場合は放射線治療(など)を検討する。

プロラクチンの調節

💡 プロラクチンの主ブレーキはドパミン。 だから「が減る/遮断される」とプロラクチンが上がる(茎損傷、抗精神病薬など)。

  • 抑制: 視床下部(プロラクチン自身がを誘導 → 自己抑制)。
  • 刺激: 、エストロゲン、乳房刺激。
  • 効果: 乳房腫大+乳汁産生、抑制(FSH/LH↓)。

高プロラクチン血症

原因

⭐ 薬剤性はと並ぶ大きな原因である。 スコットランド・Tayside地域の20年間の住民ベース研究(PROLEARS)で、妊娠関連でない1301例の内訳は薬剤性45.9%・下垂体疾患25.6%、ほかに7.5%・甲状腺機能低下症6.1%・特発性15.0%で、を含む下垂体疾患より薬剤性の方が多かった2。一方、2023年のPituitary Societyの合意は、の病的原因として最も多いのはによる過剰産生だとしている3。資料によって順位が逆になるので、「=」とも「=薬剤性」とも決めつけず、まずを確認する。なお日常診療で最も多いは妊娠・授乳による生理的なものであり、上の内訳はそれらを除外したあとの話である。

  1. 医原性(薬剤性): を遮断・枯渇させる薬剤——抗精神病薬(第一世代、など一部の第二世代)、・などの/改善薬、一部の・()、・などの一部、エストロゲン、オピオイド。
  2. 効果↓(その他): 乳房刺激、の損傷/圧迫(正常下垂体がされドパミン抑制が届かなくなる“stalk effect”)。
  3. TRH↑: 原発性・続発性甲状腺機能低下症。
  4. クリアランス不足: 腎不全、(生物活性の乏しいPRL-複合体が免疫測定で高値に出る)。
  5. (またはプロラクチン+GH共分泌腫瘍)。

臨床像

  • は男女とも全の約50%を占める3。
  • 早期: (女)/(男)、↓ → 。
  • 晩期: 骨粗鬆症、炎症/自己免疫(サイトカイン様作用)、。

検査の落とし穴:フック効果

⚠️ 大きななのに血清PRL値が不釣り合いに低い/正常範囲にとどまることがある()。 ()は検体中の抗原が極端な高濃度だと抗体が飽和してしまい、偽性に低〜正常値を示す。画像上明らかながあるのにPRL値が正常〜軽度高値にとどまるときは、を疑って検体を1:100に希釈して再測定する(希釈せずに「PRL正常だから腫瘍は」としない)。現行のアッセイではまれだが、では必ず考える3。

治療:プロラクチノーマは薬物療法が第一選択(下垂体腺腫の中で例外的)

  • ⭐ へ進展して外科的寛解の見込みが低い腫瘍(Knosp grade 2以上)では、であっても()による薬物療法が第一選択である(強い推奨)。はPRLを正常化するだけでなく腫瘍そのものを縮小させるため、他の下垂体機能性腺腫(など)と異なり、大きな腫瘍でも手術を経ずに薬物療法だけで寛解を狙える3。
  • ⚠️ と境界明瞭な(Knosp grade 0〜1)では、手術も第一選択肢の一つである。 熟練した下垂体外科医によるは治癒の見込みが高く、長期の内服を避けられるため、薬物療法を始める前に多職種で手術の可能性とリスクを患者と話し合う(強い推奨)3。
  • そのほか手術を考えるのは、急速に進む視力障害・(薬物療法より手術を勧めうる)や、に抵抗性・の場合である(いずれも弱い推奨)3。
  • 医原性では、可能なら原因薬の中止・変更を主治医と相談する(抗精神病薬などを患者の独断で中止しない)。

まとめ

項目 要点
GHの調節 GHRHが促進しソマトスタチンが抑制。作用の多くは肝のIGF-1を介する
GH過剰の症状 (インスリン抵抗性・糖尿病)、骨・軟骨(手足・顔の変形、、)、(・・)、プロラクチン様作用の4系統。前は、後は
GH過剰の診断 GHはで随時測定は使えない。典型的な臨床像があればIGF-1が年齢別の1.3倍超で確定。判然としなければIGF-1の再測定と(GH谷値が 25未満で0.4 µg/L未満、25以上で0.2 µg/L未満なら正常な抑制)。確定後に
GH過剰の治療 が第一選択。寛解しなければ、、、放射線治療
PRLの調節 主なブレーキはドパミン。・エストロゲン・乳房刺激が促進し、PRLはを抑える
高PRL血症の原因 薬剤(D2遮断薬など)、の圧迫、甲状腺機能低下症、腎不全・、。薬剤性とのどちらを最多とするかは資料で異なる
臨床像・検査 ・、、骨粗鬆症。なのにPRLが低ければを疑い1:100希釈で再測定
の治療 Knosp grade 2以上はが第一選択。Knosp grade 0〜1は手術も第一選択肢として薬物療法の前に話し合う。急速な視力障害・、・でも手術を考える

出典

  1. 1.Consensus on criteria for acromegaly diagnosis and remission(Pituitary・2024)全文(PMC10837217、Europe PMC)で確認した。典型的な臨床像のある患者では年齢別基準上限の1.3倍を超えるIGF-Iで診断が確定し、随時GHは予後の参考にはなるが診断には不要であること、結果が判然としないときは同じ検証済みアッセイでIGF-Iを再測定し、75 g OGTTが追加で役立ちうること、OGTTを行う場合は30・60・90・120分にGHを測り、GH谷値のカットオフとしてBMI 25 kg/m²未満で0.4 µg/L未満、BMI 25以上で0.2 µg/L未満を考慮できること、IGF-Iの基準範囲は年齢別に設定し思春期以降は性別の層別は要らないとされること。表1は、1999年の第1回合意(OGTT中GH 1 µg/L)から2010年の第7回合意(超高感度アッセイで治療効果判定のGH谷値 0.4 µg/L)を経た基準の変遷を示す。閲覧 2026-09-24
  2. 2.The epidemiology of hyperprolactinaemia over 20 years in the Tayside region of Scotland: the Prolactin Epidemiology, Audit and Research Study (PROLEARS)(Clinical Endocrinology(Soto-Pedre et al.)・2017)妊娠に関連しない高プロラクチン血症1301例の内訳は薬剤性45.9%、下垂体疾患25.6%、マクロプロラクチン7.5%、甲状腺機能低下症6.1%、特発性15.0%であり、薬剤性が最も頻度の高い原因であったことを確認した。閲覧 2026-08-14
  3. 3.Diagnosis and management of prolactin-secreting pituitary adenomas: a Pituitary Society international Consensus Statement(Pituitary Society / Nature Reviews Endocrinology・2023)全文(Wayback保存の出版社HTML)で確認した。外科的寛解の見込みが低い例(Knosp grade 2以上)では薬物療法が望ましい第一選択で、カベルゴリンで治療すること(いずれも strong)、微小腺腫および境界明瞭な大腺腫(Knosp grade 0〜1)では「Surgery by an expert pituitary neurosurgeon should therefore be discussed alongside dopamine agonist treatment as a first-line option in this subgroup of patients (strong)」と、手術も第一選択肢として薬物療法の開始前に多職種で検討すべきとしていること、急速に進む視力障害・下垂体卒中では手術を薬物療法より勧めうること、ドパミン作動薬に不耐容・抵抗性なら手術を提示しうること(いずれも weak)。プロラクチノーマは男女とも全下垂体腺腫の50%を占め、高プロラクチン血症の病的原因として最も多いのはプロラクチノーマによる過剰産生であるとしていること、巨大腺腫で臨床像に比してPRLが正常〜軽度高値なら1:100希釈で再測定してフック効果を除外すること(strong)、現行のアッセイではフック効果はまれであること。閲覧 2026-09-24