病態生理学

病態生理学 · 1-24

男性性腺機能低下症とアンドロゲン不応症

Male hypogonadism and androgen insensitivity syndrome

応用トピック
性腺機能異常無月経男性性腺機能低下症
薬剤
ヒト絨毛性ゴナドトロピン
疾患
Kallmann症候群アンドロゲン不応症
症状
女性化乳房

🧠 故障の“階層”で分類する: 精巣(原発性:/↑)か、下垂体/視床下部(続発性・:/↓)か、それともが反応しない(ホルモン正常)か。テストステロンは (外性器・前立腺・毛)とエストラジオール(骨・)に変換される点が鍵。

男性性ホルモンの調節

flowchart TD
  GnRH["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonadotropin-releasing hormone'>GnRH</span>(視床下部)"] --> LHFSH["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span> + <span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>(下垂体)"]
  LHFSH --> LH["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leydig cell'>Leydig細胞</span> → テストステロン"]
  LHFSH --> FSH["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sertoli cell'>Sertoli細胞</span> → 精子形成 + <span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibin'>インヒビン</span>(負FB)"]
  LH --> DHT["→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dihydrotestosterone'>DHT</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='5-alpha reductase'>5α還元酵素</span>):外性器・前立腺・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sebum'>皮脂</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acne'>にきび</span>・毛・脱毛"]
  LH --> E2["→エストラジオール(アロマターゼ):骨量・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiphyseal closure'>骨端閉鎖</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gynecomastia'>女性化乳房</span>"]

性腺機能低下症の分類

種類 ホルモンと備考
原発性(精巣) /↑(FBなし);精子形成低下が優位なことも
続発性(下垂体)・(視床下部) /↓ → テストステロン+精子形成↓
ホルモン正常だがが不応

三次性(視床下部性)

続発性(下垂体性、稀)

  • 先天性:
    • (↑、男性化↓)
    • (↑、精子形成なし)
    • /複合(受容体変異)
  • 後天性:
    • 外傷
    • 血管障害
    • 医原性

原発性(精巣性)

発症時期による症状

  • 💡 思春期前に欠乏するとテストステロンによるが起きず成長が続く → 長い四肢・()。・・体毛の乏しさ、声変わりの欠如も伴う。
  • 思春期後(成人期)の発症では、・・不妊、筋量低下、、、骨量低下などが中心になる。

診断

⚠️ 症状だけ、あるいはテストステロン低値1回だけでは診断しない。 総テストステロンは・日間変動が大きく、非絶食や急性疾患でも見せかけの低値が出る。低値と判定された男性の一部は再検で正常域に戻る。

  • テストステロンは早朝空腹時に測定し、低値であれば別の日にもう一度測定して確認したうえで診断する1。
  • 確認された低テストステロン血症に対してLH・FSHを測定し、原発性()か中枢性(=続発性・)かを鑑別する——これが本稿冒頭の分類表の軸そのものである。
  • 中枢性が疑われれば、プロラクチン・()・他のを追加評価し、重度の低値や頭痛・を伴えばを行う。若年で原発性が疑われればでなどを検索する。

💡 測定閾値・鑑別アルゴリズムの詳細はを参照。

治療

⚠️ 開始しない状況:2018年のEndocrine Societyガイドラインは、次の状況ではテストステロン療法を開始しないよう推奨する1。

状況 理由・対応
前立腺癌・乳癌がある 有害転帰のリスクがきわめて高い
な前立腺結節・、泌尿器科的評価を経ていない 4 ng/mL超(前立腺癌の高リスク男性では3 ng/mL超) まず泌尿器科で評価する
高値(48%超、者は50%超) 治療で(54%超)のリスクが高まる。を超える例では、そのリスクと厳重な監視の必要を話し合わずに開始しない
未治療の重症、重度の、コントロール不良の心不全、6か月以内の心筋梗塞・脳卒中、 開始を避け、リスクを再評価する
近く妊孕性を希望 TRTはが・を抑制し精子形成をむしろ低下させるため避ける。hCGなどの(中枢性ではさらに)を専門医と検討する
  • 開始後はを開始前・3〜6か月後・以後年1回測り、54%を超えたら安全な値に下がるまで中止し、低酸素や睡眠時無呼吸を評価したうえで減量して再開する。55〜69歳(前立腺癌の高リスク男性では40〜69歳)で前立腺のモニタリングを選んだ場合は、開始前と開始3〜12か月後にとで評価する1。

💡 心血管リスクの現在地:かつてTRTは心血管イベントを増やすと懸念され添付文書にがあったが、2023年のTRAVERSE試験(心血管疾患の既往または高リスクがあり、症状と2回の空腹時テストステロン300 ng/dL未満を満たす45〜80歳の男性5246例のRCT。1.62%テストステロンゲルとの比較)で、TRTは主要有害心血管イベント(MACE:心血管死・・の複合。7.0%対7.3%、HR 0.96)についてに対するを示した2。これを受けは2025年2月28日、全テストステロン製剤のから心血管リスクに関する記載を削除するよう各社に求めた(あわせてTRAVERSEの結果を添付文書に載せること、加齢性への「使用上の限界」の記載を維持することも求めている)3。ただし手放しで「安全」になったわけではない——同試験ではTRT群で心房細動・・肺塞栓症のがプラセボ群より高く2、米国添付文書は介入を要した非5.2%対3.3%、心房細動3.5%対2.4%、2.3%対1.5%、骨折3.5%対2.5%を挙げる4。は同時に、試験の結果に基づきに関するを追加するよう求めている3。

アンドロゲン不応症

💡 ホルモンは正常でも受容体が効かない。テストステロン受容体欠如だが は存在 → 精巣はあるが外見は女性的、女性は で抑制され発達しない。詳しい機序はを参照。

  • 完全型(CAIS):核型46,XY、外性器は完全に女性型。子宮・卵管を欠くため思春期ので発見されることが多く、精巣がや腫瘤として乳幼児期に触知されて気づかれることもある。精巣は腹腔内またはに存在する。思春期には精巣由来のテストステロンが末梢のアロマターゼでエストラジオールに変換されるためは正常〜良好に進むが、・は依存の作用のため乏しい〜欠如する。腟はで短い。
  • 部分型(PAIS):受容体機能が部分的に残るため外性器はとなり、出生時のが問題になる。

⚠️ 残された精巣にはへの悪性化リスクがある。古典的には完全型で25歳時点約3.6%、50歳時点約33%という推定が広く引用されてきたが、性腺摘除または生検を受けた456例の2021年の系統的レビューでは1.3%・前6.14%とより低く、は全例が思春期後(12歳以降)だった5。著者らは、思春期前の悪性化リスクはきわめて低いので性腺摘除は思春期の完了まで遅らせてよいが、綿密な経過観察が必要としている5。性腺を残すと自然な思春期の女性化と骨量獲得を活かせる一方、経過観察の負担とリスクがあるので、時期は本人・家族と話し合って決める。

まとめ

項目 要点
分類の軸 精巣そのもの(原発性:/↑)、下垂体・視床下部(続発性・:/↓)、の不応(:ホルモン正常)
代謝の鍵 テストステロンはで(外性器・前立腺・毛)に、アロマターゼでエストラジオール(骨量・)に変わる
主な原因 :、、肥満・2型糖尿病の悪循環、摂食障害。続発性:など。原発性:、、放射線・化学療法、
発症時期 思春期前はとの欠如、成人期は・・不妊・筋量と骨量の低下
診断 早朝空腹時のテストステロン低値を別の日に再確認 → ・で原発性か中枢性かを分ける
治療 可逆的な原因をまず是正。前立腺癌・乳癌、評価前の前立腺異常、48%超、未治療の重症睡眠時無呼吸、近い妊孕性希望などでは開始しない。治療中は54%超で中止
心血管の安全性 TRAVERSEでMACEは。ただし心房細動・・肺塞栓症のはテストステロン群で高く、はのを求めた
46,XYではあるので子宮は無い。完全型は女性型外性器と、部分型は。2021年の系統的レビューではは全例が思春期後で、著者らは性腺摘除を思春期完了まで遅らせてよいが経過観察が必要とする

出典

  1. 1.Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism)・2018)全文(Wayback保存の出版社HTML)で確認した。早朝空腹時の総テストステロンを初回検査とし、同じ条件の再測定で確定すること。近い将来の妊孕性希望、乳癌・前立腺癌、触知可能な前立腺結節・硬結、泌尿器科的評価を経ていないPSA 4 ng/mL超(前立腺癌高リスク男性では3 ng/mL超)、ヘマトクリット高値、未治療の重症閉塞性睡眠時無呼吸、重度の下部尿路症状、コントロール不良の心不全、6か月以内の心筋梗塞・脳卒中、血栓性素因ではテストステロン療法を開始しないよう推奨すること(1|⊕⊕OO)。Table 7はヘマトクリット高値を48%超(高地居住者は50%超)と具体化していること。ヘマトクリットは開始前・開始3〜6か月後・以後年1回測り、54%を超えたらヘマトクリットが安全な値に下がるまで中止し、低酸素や睡眠時無呼吸を評価して減量で再開すること。推奨2.2の Technical remark は、基準上限を超えるヘマトクリットの男性には赤血球増加症のリスクと厳重な監視の必要を話し合わずに開始しないとする。推奨2.3(2|⊕OOO)は、55〜69歳(前立腺癌の高リスク男性では40〜69歳)で前立腺のモニタリングを選んだ男性に、開始前と開始3〜12か月後に前立腺癌リスクを評価することを提案する。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy(New England Journal of Medicine・2023)抄録(Europe PMC)で確認した。心血管疾患の既往または高リスクがあり、性腺機能低下症の症状と2回の空腹時テストステロン300 ng/dL未満を満たす45〜80歳の男性5246例を、1.62%テストステロンゲルとプラセボに割り付けた非劣性試験で、主要評価項目(心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中の複合)はテストステロン群7.0%対プラセボ群7.3%(HR 0.96、95%CI 0.78〜1.17)で非劣性を満たしたこと、心房細動・急性腎障害・肺塞栓症の発生率がテストステロン群で高かったこと。個々の発生率の数値は抄録に無い。閲覧 2026-09-24
  3. 3.FDA issues class-wide labeling changes for testosterone products(U.S. Food and Drug Administration・2025)FDAは2025年2月28日、TRAVERSE試験の結果を受け全テストステロン製剤の黒枠警告から心血管リスクに関する記載を削除し、TRAVERSEの結果を全製剤の添付文書に加え、加齢性性腺機能低下症への「使用上の限界」の記載を維持するよう求めたこと、あわせて24時間自由行動下血圧測定試験の結果に基づき、試験を終えた製剤には製剤ごとの血圧上昇の情報を、まだ血圧上昇の警告を持たない製剤には新たな警告を加えるよう求めたことを、同日付のFDAのページで確認した。閲覧 2026-08-14
  4. 4.ANDROGEL (TESTOSTERONE) GEL [ASCEND THERAPEUTICS U.S., LLC](DailyMed(米国添付文書、AndroGel 1.62%、Ascend Therapeutics U.S.)・2025)DailyMed表示の改訂 10/2025 の AndroGel 1.62% 米国添付文書 6.1 で、TRAVERSE試験で発生率が2%を超え、かつテストステロンゲル群でプラセボより多かった副作用として、介入を要した非致死性不整脈(5.2%対3.3%)、心房細動(3.5%対2.4%)、急性腎障害(2.3%対1.5%)、骨折(3.5%対2.5%)が挙がっていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Complete androgen insensitivity syndrome and risk of gonadal malignancy: systematic review(Annals of Pediatric Endocrinology & Metabolism・2021)全文(PMC8026333、Europe PMC)で確認した。性腺摘除または性腺生検を受けた完全型アンドロゲン不応症456例(15論文)の系統的レビューで、前悪性病変6.14%(大半が思春期後)、悪性病変1.3%(全例が思春期後、Highlightsは12歳以降と記載)であり、序論が引く古典的な推定(25歳で3.6%、50歳で33%)より低かったこと。著者らは思春期前の悪性化リスクがきわめて低いことから、性腺摘除を思春期の完了まで遅らせてよいが綿密な経過観察が必要と結論していること。閲覧 2026-08-14