内科学

内科学 · S-15

男性性腺機能低下症

Male Hypogonadism

前提:病態
男性性腺機能低下症とアンドロゲン不応症
前提:正常
性成熟の内分泌生理学・男性生殖生理学
疾患
男性性腺機能低下症
症状
女性化乳房
検査値
ヘマトクリット

🧠 全体像:は、精巣のテストステロン産生または精子形成が不十分な状態である。症状だけでも低値1回だけでも診断せず、早朝空腹時テストステロンを反復し、・で原発性と中枢性を分ける。妊孕性希望例ではテストステロン補充が精子形成を抑制する点が重要である。

分類と原因

分類 ・ 主な原因
原発性(primary;精巣性) 高値 、、外傷・捻転、化学療法、放射線、加齢性精巣障害
続発性(secondary;視床下部・下垂体性) 低値または 、、、、オピオイド・グルココルチコイド、重症疾患、肥満

、、減少、不妊、筋量・、、脂肪増加、骨量低下、貧血、疲労を手掛かりにする。非特異的な疲労や抑うつだけでは診断できない。

診断

flowchart TD
    A["テストステロン欠乏を示唆する症状・徴候"] --> B["早朝空腹時の総テストステロン"]
    B --> C{"低値"}
    C -->|"いいえ"| D["他の原因を評価"]
    C -->|"はい"| E["別日の早朝測定で確認"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>を測定"]
    F --> G{"高値"}
    G -->|"はい"| H["原発性:精巣・核型などを評価"]
    G -->|"いいえ"| I["中枢性:プロラクチン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iron metabolism'>鉄代謝</span>・下垂体機能"]
    I --> J["重度低値、頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual field defect'>視野障害</span>、他の下垂体障害なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>"]

総テストステロンは正確な測定法と検査室で判定する。SHBG異常が疑われる肥満、、肝疾患、加齢などでは、信頼できる方法でも評価する。は不妊評価に、精巣超音波は腫瘤・萎縮など局所病変が疑われる場合に用いる。

💡 診断は「症状」と「一貫した低値」の両輪で、1回の低値だけでは成立しない。 米国内分泌学会は、テストステロン欠乏に合致する症状・徴候があり、かつ血中テストステロンが明確かつ一貫して低い男性に限って診断を下すこと、初回検査は正確で信頼できる測定法による早朝空腹時の総テストステロンとし、別の日に早朝空腹時の総テストステロンを再測定して確定することを推奨している。総テストステロンが付近の男性、またはSHBGを変える病態がある男性では、平衡透析法または妥当な計算式でを求める1。テストステロンにはがあり急性疾患でも下がるため、「1回の低値で診断し、そのまま生涯の補充へ入る」のが典型的な誤りである。

治療

可逆的原因(肥満、栄養不足、薬剤、高prolactin血症、)を先に是正する。症状があり反復して低値が確認された患者には、gel、注射、patchなどの(TRT)を個別化して行う。

状況 方針
妊孕性を希望 TRTを避け、±などを専門医と検討
前立腺・乳癌、著明な高値 TRTを開始しない
未治療の重症睡眠時無呼吸、制御不良心不全、最近6か月の心筋梗塞・脳卒中、 原則開始を避け、リスクを再評価
TRT開始後 症状、血中テストステロン、、前立腺リスク・、有害事象を定期評価

TRTは2型糖尿病の血糖改善目的には用いない。は・を抑え、と精子形成を低下させる。

💡 があるならTRTは選べない。 近い将来の妊孕性を希望する男性にはテストステロン補充を開始しないことが強く推奨されている(条件付きではない)。思春期前発症ので妊孕性の獲得・回復を目指す場合は、と(または組換え)の両方の補充を要することが多い。開始後は症状・有害事象・に加え、血中テストステロンと、初年度の前立腺癌リスクを標準化した計画で監視し、目標は中間正常域に置く1。

⚠️ 心血管安全性は2023年に一度決着し、の中身が入れ替わった。 心血管リスクの高い男性5,246例のTRAVERSE試験で、テストステロン補充は主要有害心血管イベント(MACE)についてにだった。ただしは、心房細動・・肺塞栓症のがテストステロン群で高かったと述べる(有意性は述べていない)2。米国添付文書は同試験の副作用として、介入を要した非(5.2%対3.3%)・心房細動(3.5%対2.4%)・(2.3%対1.5%)・骨折(3.5%対2.5%)を挙げる3。これを受けは2025年2月28日、全テストステロン製剤のから心血管リスクの記載を削除する一方、市販後の血圧測定試験に基づきの新たなを追加した4。論点は「心筋梗塞が増えるか」から「不整脈と血圧をどう監視するか」へ移った——ただし上の表にある開始を避ける状況(未治療の重症睡眠時無呼吸、制御不良心不全、最近6か月の心筋梗塞・脳卒中、など)はそのまま残る1。

まとめ

  • 症状と、別日に反復した早朝空腹時テストステロン低値の両方で診断する。
  • ・高値なら原発性、低値またはなら中枢性を考える。
  • 妊孕性希望例ではTRTを避け、原因治療とを検討する。

出典

  1. 1.Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism)・2018)性腺機能低下症の診断はテストステロン欠乏に合致する症状・徴候があり、かつ血中テストステロンが明確かつ一貫して低い男性に限って下すこと、初回検査は正確で信頼できる測定法による早朝空腹時の総テストステロンとし、別の日に早朝空腹時の総テストステロンを再測定して確定すること、総テストステロンが正常下限付近の男性やSHBGを変化させる病態のある男性では平衡透析法または妥当な計算式で遊離テストステロンを求めること、アンドロゲン欠乏と判定したら原因検索を追加すること、近い将来の妊孕性を希望する男性にはテストステロン補充療法を開始しないことを強く推奨すること、同じく乳癌・前立腺癌、触知可能な前立腺結節や硬結、PSA 4 ng/mL超(前立腺癌高リスク男性では3 ng/mL超)で泌尿器科的精査を経ていない場合、ヘマトクリット高値、未治療の重症閉塞性睡眠時無呼吸、重度の下部尿路症状、コントロール不良の心不全、最近6か月以内の心筋梗塞・脳卒中、血栓性素因では開始しないこと、治療中は中間正常域を目標とし、症状・有害事象・服薬遵守・血中テストステロンとヘマトクリット・初年度の前立腺癌リスクを標準化された計画で監視すること、思春期前発症の性腺機能低下症で妊孕性の獲得・回復を目的とする場合はFSHとLH(ヒト絨毛性ゴナドトロピンまたは組換えLH)の両方の補充を要することが多いことを確認した。閲覧 2026-08-25
  2. 2.Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy(New England Journal of Medicine・2023)抄録で確認した。45〜80歳で心血管疾患の既往または高リスクがあり、性腺機能低下症状と2回の空腹時テストステロン300 ng/dL未満を満たす男性5,246例に1.62%テストステロンゲルとプラセボゲルを割り付けた非劣性試験で、主要心血管イベント(MACE)は7.0%対7.3%(HR 0.96、95%CI 0.78〜1.17)で非劣性だった。抄録は、テストステロン群で心房細動・急性腎障害・肺塞栓症の発生率が高かった(a higher incidence … was observed)と述べるが、有意性や数値は述べていない閲覧 2026-09-24
  3. 3.ANDROGEL (TESTOSTERONE) GEL [ASCEND THERAPEUTICS U.S., LLC](DailyMed(米国添付文書、AndroGel 1.62%、Ascend Therapeutics U.S.)・2025)DailyMed表示の改訂 10/2025 の AndroGel 1.62% 米国添付文書 6.1 で、TRAVERSE試験で発生率が2%を超え、かつテストステロンゲル群でプラセボより多かった副作用として、介入を要した非致死性不整脈(5.2%対3.3%)、心房細動(3.5%対2.4%)、急性腎障害(2.3%対1.5%)、骨折(3.5%対2.5%)が挙がっていることを確認した。有意差の有無は述べていない閲覧 2026-09-24
  4. 4.FDA issues class-wide labeling changes for testosterone products(U.S. Food and Drug Administration・2025)FDAは2025年2月28日、TRAVERSE試験の結果を受け全テストステロン製剤の黒枠警告から心血管リスクに関する記載を削除する一方、市販後の血圧測定試験の結果に基づき血圧上昇に関する新たな警告を追加した。閲覧 2026-08-25