内科学

内科学 · S-14

褐色細胞腫・傍神経節腫

Pheochromocytoma

前提:病態
副腎の機能異常・腫瘍
前提:正常
副腎髄質の機能と環境ストレスへの適応
疾患
褐色細胞腫神経節腫頭頸部パラガングリオーマ
症状
顔面紅潮
検査値
クロニジン抑制試験メタネフリン分画
画像所見
MIBGシンチグラフィソマトスタチン受容体イメージング

🧠 全体像:は副腎髄質、はの腫瘍で、カテコールアミン過剰による発作性/を起こす。を先に行い、画像で局在し、手術前は原則α遮断をβ遮断より先行する。

疑う状況

頭痛、、発汗の発作、高血圧、、偶発副腎腫瘤、若年発症、家族歴、麻酔・手術・薬剤でのクリーゼを手掛かりにする。古典的な「10%ルール」は古く、遺伝性は30〜40%以上を占め得る。、、NF1、SDHxなど多数のがあるため、原則すべての患者に遺伝カウンセリングを検討する1。

⚠️ 「10%ルール」が崩れた根拠は具体的な数字である。 家族歴のないとして発症した271例のうち66例(24%、平均年齢25歳)にRET・VHL・SDHD・SDHBのが見つかった。しかも変異保有66例中61例(92%)は分子検査によってのみ同定され、初診時には随伴する徴候・症状を欠いていた。多発性は21例にとどまり、23例(35%)は30歳以降の発症だった——「若年・多発なら遺伝性を疑う」というふるい分けでは取りこぼす2。だから遺伝学的検査は全患者で検討し、ではSDHxを、転移例ではSDHBを調べる1。と臨床像・生化学的表現型の対応が、診断とその後の生涯の設計そのものを決める3。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pheochromocytoma and paraganglioma'>PPGL</span>を疑う"] --> B["血漿遊離または尿<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fractionated metanephrines'>分画メタネフリン</span>"]
    B --> C{"明らかな上昇"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で局在"]
    C -->|"境界域"| E["採血条件・薬剤・ストレスを再評価"]
    E --> B
    D --> F["多発/転移リスクなら機能画像"]
    F --> G["遺伝検査+周術期計画"]

血漿検査は安静臥位採血、尿検査は24時間尿で行う。局在前の生検はを誘発し得るため、を除外せず副腎腫瘤へしない。転移性の定義はへの転移であり、画像や組織だけで「良性」を保証できない。

💡 を第一に選ぶ理由は感度の差である。 確定214人・否定644人のコホートで、感度は99%(95%CI 96〜100)、97%、尿中カテコールアミン86%、血漿カテコールアミン84%、尿中総77%、尿中(VMA)は64%(95%CI 55〜71)だった。特異度はVMAが最も高く95%、は89%。複数の検査を組み合わせても単独を超える診断能は得られなかった4。VMAは「特異度は高いが3人に1人を見落とす」検査で、除外には使えない。

💡 採血の姿勢は、当てるとセットで決まる。 臥位で作ったを座位検体へ当てると偽陽性が増える。736例で座位専用のをで作った研究では、座位検体に座位を使うと感度100%を保ったまま特異度が83.5%から94.6%へ上がり、域(上限〜上限の2倍)に落ちる患者は15.7%から5.3%へ減った5。要点は「必ず臥位で採れ」ではなく「採った姿勢に対応するを使え」で、薬剤・ストレスなどの因子も同じく偽陽性・偽陰性の原因になる1。

⚠️ 第5版(2022)以降、・を「良性/悪性」に二分しない。 どの病変もをもちうるうえ、転移挙動を予測できる明確な組織所見が無いためで、はPASSやGAPPといった組織学的スコアリングを推奨も否定もしていない。局所浸潤は「悪性」の根拠にならない(転移が無くても重要構造への浸潤で致死的になる腫瘍はある)一方、肺や肝のはそこが原発でありうるので転移の証明にもならない6。

周術期治療

段階 要点
α遮断 またはを通常7〜14日前から調整
循環血液量の回復 α遮断後に食塩・水分を増やし、に注意
β遮断 頻脈が残る場合のみ、十分なα遮断後に追加
手術 経験ある内分泌外科・麻酔チームで切除
術後 低血圧、低血糖、カテコールアミン低下を監視

β遮断単独は拮抗されないα刺激によりを起こし得る。術後もを確認し、・サイズ・部位に応じ長期再発監視を行う。

💡 は「α遮断」だけでなく「循環血液量を戻すこと」までが一組である。 機能性は全例で術前遮断を行い、術後低血圧を防ぐために高ナトリウム食と水分摂取を準備に含める。術式はの多くで低侵襲術、の多くで開腹切除。再発・転移の検出のため生涯にわたる経過観察を行う1。

まとめ

  • 生化学検査を画像より先に行い、血漿遊離または尿を用いる。
  • 「10%ルール」は古く、遺伝性を広く評価する。
  • 手術前はα遮断を先行し、β遮断単独を避ける。

出典

  1. 1.Pheochromocytoma and Paraganglioma: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society(J Clin Endocrinol Metab、Lenders JW et al.)・2014)初期生化学検査には血漿遊離メタネフリンまたは尿中分画メタネフリンの測定を推奨すること、偽陽性・偽陰性を招く前分析因子に配慮すべきこと、初回画像はCTを提案しMRIは転移例や被曝を抑えるべき例で優れること、123I-MIBGシンチグラフィが転移性PPGLで有用であること、認定検査機関による遺伝学的検査を全患者で検討するよう推奨すること、パラガングリオーマ患者ではSDHx変異を、転移例ではSDHB変異を検査すべきこと、機能性PPGLの全患者で周術期合併症を防ぐため術前遮断を行うべきこと、術後低血圧を防ぐため高ナトリウム食と水分摂取を準備に含めること、多くの褐色細胞腫では低侵襲副腎摘除術を、多くのパラガングリオーマでは開腹切除を推奨すること、再発・転移の検出のため生涯にわたる経過観察を提案すること閲覧 2026-08-25
  2. 2.Germ-line mutations in nonsyndromic pheochromocytoma(The New England Journal of Medicine(Neumann HPH, Bausch B, McWhinney SR, et al.)・2002)家族歴のない非症候群性褐色細胞腫として発症した271例のうち66例(24%、平均年齢25歳)にRET・VHL・SDHD・SDHBいずれかの生殖細胞系列変異が見つかったこと(VHL 30例、RET 13例、SDHD 11例、SDHB 12例)。若年発症・多発性腫瘍・副腎外腫瘍が変異保有と有意に関連したものの、変異保有66例中多発性褐色細胞腫は21例にとどまり、23例(35%)は30歳以降の発症であったこと。変異保有66例のうち61例(92%)は分子検査によってのみ同定され、初診時に随伴する徴候・症状を欠いていたこと。したがってRET・VHL・SDHD・SDHBの日常的な変異解析が適応となること閲覧 2026-08-25
  3. 3.Genetics, diagnosis, management and future directions of research of phaeochromocytoma and paraganglioma: a position statement and consensus of the Working Group on Endocrine Hypertension of the European Society of Hypertension(Journal of Hypertension(European Society of Hypertension Working Group on Endocrine Hypertension、Lenders JWM et al.)・2020)高血圧はPPGLの古典的な臨床的手掛かりであり高血圧診療に携わる医師が最初にこの診断を考える立場にあること、しかし発見の経路は大きく変わり現在は副腎など腫瘤の偶発的な画像所見や、急速に増えつつある遺伝性素因に基づくサーベイランスによる発見が増えていること、遺伝的原因と臨床像・生化学的表現型の対応(genotype-phenotype関係)が診断・フォローアップ・サーベイランスを患者ごとに設計する根拠になること、従来のCT・MRIに加え新しい機能画像を評価したこと、適切な術前評価・術前準備と低侵襲手術、および転移性疾患の危険因子とそれに応じた個別化フォローアップについて欧州高血圧学会の専門家が現時点の知見をまとめたことを確認した閲覧 2026-08-25
  4. 4.Biochemical diagnosis of pheochromocytoma: which test is best?(JAMA(Lenders JWM, Pacak K, Walther MM, et al.)・2002)4施設で1994〜2001年に褐色細胞腫の検査を受けた患者(確定214人、否定644人)のコホート研究で、感度は血漿遊離メタネフリン99%(95%CI 96〜100)、尿中分画メタネフリン97%(95%CI 92〜99)、尿中カテコールアミン86%(95%CI 80〜91)、血漿カテコールアミン84%(95%CI 78〜89)、尿中総メタネフリン77%(95%CI 68〜85)、尿中バニリルマンデル酸64%(95%CI 55〜71)であったこと。特異度は尿中バニリルマンデル酸95%(95%CI 93〜97)が最も高く、血漿遊離メタネフリンは89%(95%CI 87〜92)であったこと。複数の検査を組み合わせても血漿遊離メタネフリン単独を超える診断能は得られず、血漿遊離メタネフリンが第一選択の検査とされること閲覧 2026-08-25
  5. 5.Establishment of reference intervals for plasma metanephrines in seated position measured by LC-MS/MS and assessment of diagnostic performance in pheochromocytoma/paraganglioma(Annals of Clinical Biochemistry・2023)座位で採取した血漿遊離メタネフリンに臥位の基準範囲を当てることの是非が近年論争になっていること、736例の基準集団と1068例の検証集団を用いてLC-MS/MSで座位専用の基準範囲を設定したところ、公表されている年齢調整済みの臥位基準範囲と比べ感度は同じ100%のまま特異度が83.5%から94.6%へ向上したこと、上限〜上限の2倍という判定保留域に入る患者の割合が15.7%から5.3%へ減ったこと、したがって座位検体には対応する座位の基準範囲を用いるのが妥当で、座位採血は臥位採血より簡便かつ経済的な許容できる実践であることを確認した閲覧 2026-08-25
  6. 6.Overview of the 2022 WHO Classification of Paragangliomas and Pheochromocytomas(Endocrine Pathology(Mete O, Asa SL, Gill AJ, Kimura N, de Krijger RR, Tischler A.)・2022)WHO内分泌・神経内分泌腫瘍分類第5版において、パラガングリオーマは第4版以降もはや良性・悪性に分類されないこと。理由はどの病変も転移能をもちうるうえ転移挙動を予測できる明確な所見が存在しないためであり、転移がなくても重要構造への局所浸潤によって致死的となる腫瘍もあること。WHOは各種の組織学的スコアリングシステムを推奨も否定もしていないこと。褐色細胞腫は副腎内パラガングリオーマ(古典的な交感神経型)を指す用語であること。この腫瘍群が例外的に高い遺伝的素因をもち、SDHx・VHL・FH・MAX・MEN1変異や偽低酸素経路の同定に分子免疫組織化学が有用であること。転移の判定は複雑で、肺や肝など通常と異なる部位のパラガングリオーマも原発でありうるため転移の証明にならないこと。AJCC第8版の病期分類が新たに収載されたこと閲覧 2026-08-25