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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 腫瘍

褐色細胞腫

Pheochromocytoma

別名
パラガングリオーマ傍神経節腫PPGL
臓器系
内分泌・代謝
科目
PathologyInternal MedicineSurgery
トピック
病理学 C/88:副腎の機能異常・腫瘍内科学 S-14:褐色細胞腫外科学 B-01:副腎の外科的疾患
鑑別疾患
クッシング症候群原発性アルドステロン症更年期症状神経芽腫・ウィルムス腫瘍神経節腫肥満細胞活性化症候群副腎皮質癌
続発疾患
カテコールアミン心筋傷害続発性赤血球増加症
関連疾患
血管芽腫
治療薬
ベルズチファンドキサゾシンフェントラミンプロプラノロールメトプロロールメチロシン
症状
蒼白頭痛動悸発汗
検査値
メタネフリン分画クロニジン抑制試験
画像所見
MIBGシンチグラフィソマトスタチン受容体イメージング
組織像
褐色細胞腫褐色細胞腫のカテコールアミン代謝と悪性度評価
下位分類
頭頸部パラガングリオーマ
原因となる疾患
Carney三徴von Hippel-Lindau病神経線維腫症1型多発性内分泌腫瘍症
適応薬
ベルズチファン
禁忌薬
アトモキセチンアミスルプリドイソカルボキサジドオピカポンキシロメタゾリンスルピリドドーパミントラニルシプロミンフェネルジンベタヒスチンミドドリンメトクロプラミドモクロベミドリネゾリド

🧠 全体像:(副腎髄質の由来)と(副腎外の由来)は、カテコールアミンを過剰分泌する点で同一のスペクトラムをなす腫瘍であり、まとめて(pheochromocytoma and paraganglioma)と呼ばれる。診療の骨格は「①(血漿遊離または尿)を画像より先に行う」「②家族性が実際には約30〜40%を占めるため遺伝学的検査・生涯にわたる遺伝カウンセリングを原則全例で検討する」「③手術前は必ずα遮断→循環血液量の回復→β遮断の順でを行い、β遮断を先行させない」「④『悪性』という概念を使わず、への転移の有無でを判定する」の4点に尽きる。同じでもは皮質由来で(コルチゾール・アルドステロン・アンドロゲン)過剰またはを来す全く別の腫瘍であり、・分泌ホルモン・臨床像・治療の力点が異なる。

病態

副腎髄質の、または脊柱傍・・頭頸部などに散在する副腎外のの細胞がし、カテコールアミン(ノルアドレナリン優位、時にアドレナリンも)を自律的に過剰分泌する。分泌されたカテコールアミンはα1受容体を介した血管収縮とβ受容体を介した・心拍数増加により、発作性または持続性の高血圧を引き起こす。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chromaffin cell'>クロム親和細胞</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paraganglionic cell'>傍神経節細胞</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transformation'>腫瘍化</span>"] --> B["カテコールアミンの自律的過剰分泌"]
    B --> C["α1受容体刺激による血管収縮"]
    B --> D["β受容体刺激による心拍数・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial contractility'>心収縮力</span>増加"]
    C --> E["発作性または持続性の高血圧"]
    D --> E
    E --> F["頭痛・発汗・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpitations'>動悸</span>などの発作症状"]
    E --> G["心筋梗塞・心不全・脳卒中・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertensive encephalopathy'>高血圧性脳症</span>のリスク"]

💡 古典的な「10の」——10%が両側性・家族性・悪性・副腎外・小児発症——は、遺伝学的検査の進歩によりもはや正確ではない。実際には・の20〜40%が遺伝性(発症に関わる遺伝子のを持つ。家族歴が無い例も含む)であり1、両側性・副腎外・小児発症の頻度も遺伝性の場合はいずれも10%を大きく上回りうる。この転換の起点となった研究では、家族歴ももない「」271例のうち66例(24%)にRET・・SDHD・SDHBのが見つかり、うち61例(92%)は分子検査によってのみ同定された(=では拾えなかった)2。分類第5版もこの腫瘍群を例外的に高いをもつものとして扱う3。この数字を暗記するより、「家族性は稀ではない」という前提で診療する姿勢のほうが重要である。

遺伝学と遺伝カウンセリング

原因となるは20種類以上の遺伝子にわたるが、臨床上重要なのは以下の代表的な症候群である。

症候群・遺伝子 特徴
MEN2(RET) ・副甲状腺病変を伴う。はしばしば両側性
() ・血管芽腫・を伴う。は両側性・副腎外例が多い
(NF1) 皮膚・café-au-lait斑を伴う。の合併頻度自体は他症候群より低いが臨床像は特徴的
SDHx(SDHB・SDHC・SDHD等) ・と関連。は転移リスクが最も高いとして重要

⭐ 遺伝性は家族歴の有無だけでは除外できないため、すべての患者に生殖細胞系列の遺伝学的検査と生涯にわたる遺伝カウンセリングを検討するのが現行の原則である42。でが確認されれば、への・定期スクリーニングにつなげる。は転移リスク(特にSDHB)や随伴病変(の、のなど)の予測にも直結するため、単なる家系評価ではなく生涯にわたる管理計画の基盤になる。

臨床像

  • 発作性または持続性の高血圧が中心症状。を合併することもある。
  • 古典的な「5つのP」:Pressure(高血圧)、Pain(頭痛)、Perspiration(発汗)、Palpitations()、Pallor(蒼白)。
  • 、手術操作、特定の薬剤(、一部のなど)、妊娠・分娩を契機にを誘発しうる。
  • 、若年発症の高血圧、、家族歴のある患者では積極的に疑う。

⚠️ 未診断のままの手術・麻酔・用造影剤投与、あるいはβ遮断薬の単独投与は、拮抗されないα刺激により致死的なを誘発しうる。原因不明のクリーゼの既往があれば、の除外を検討する。

診断

を先に行い、陽性であれば画像で局在を確認するという順序を守る。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pheochromocytoma and paraganglioma'>PPGL</span>を疑う臨床像・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incidentaloma'>偶発腫</span>・家族歴"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma free metanephrines'>血漿遊離メタネフリン</span>または24時間尿<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fractionated metanephrines'>分画メタネフリン</span>"]
    B --> C{"明らかな上昇か"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で局在診断"]
    C -->|"境界域"| E["採血条件・薬剤・体位・ストレスを見直し再検"]
    E --> B
    D --> F{"多発・両側性・転移リスク(SDHB等)を疑うか"}
    F -->|"はい"| G["機能画像(Ga-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='DOTATATE'>DOTATATE</span> <span class='jp-term jp-term-diagram' title='positron emission tomography–computed tomography'>PET/CT</span>など)で全身検索"]
    F -->|"いいえ"| H["生殖細胞系列遺伝学的検査へ"]
    G --> H
    H --> I["周術期計画(α遮断を含む)へ進む"]
  • が第一歩:(安静臥位採血)または24時間尿中を測定する4。感度が非常に高く、正常であればはほぼ除外できる。確定214人・否定644人のコホートでの感度は99%(95%CI 96〜100)、97%(92〜99)で、尿中カテコールアミン86%・尿中64%を大きく上回った。特異度はで89%(87〜92)であり、複数検査を組み合わせても単独を超える診断能は得られなかった5。
  • 局在診断:生化学的に陽性であれば副腎/で腫瘍の局在を確認する。
  • 機能画像:多発性・両側性・副腎外()・転移リスクが高い(特にSDHB)が疑われる例では、全身の病変検索に機能画像を追加する。を標的とするGa- は、従来のと比べて特に・転移病変での感度が高く、現行では転移性・多発性の評価における第一選択の機能画像として位置づけられる。
  • ⚠️ 局在確認前のは禁忌に準じる。を生化学的に除外しないまま副腎腫瘤へ生検を行うと、を誘発しうる。

周術期管理

診断確定後は、手術に先立って必ず以下の順序でを行う。

順序 内容
① α遮断 などの、または非選択性の(本邦での薬剤ノートはないが海外では標準薬)を通常術前7〜14日から開始・漸増する
② 循環血液量の回復 α遮断により血管拡張と相対的なが生じるため、高食塩食・十分な水分摂取で循環血液量を戻す。の有無を確認しながら調整する
③ β遮断(頻脈が残る場合のみ) 十分なα遮断が得られたことを確認したうえでやなどを追加する
④ 手術 経験のある内分泌外科・麻酔科チームによる腫瘍摘出(腫瘍操作前の静脈早期=「no-touch技術」を含む)
⑤ 術後 低血圧・低血糖・カテコールアミン急激な低下を管理下でモニタリングする

⚠️ β遮断薬を単独で、またはα遮断より先に投与しない。α1受容体が遮断されないままβ受容体だけを遮断すると、末梢血管でα刺激による血管収縮が拮抗されずに働き続け、を誘発しうる。急性期のには、短時間作用型のであるの静注が用いられる。

転移能の定義

では「良性」「悪性」という病理組織学的区別を用いない。組織像だけからは将来の転移を予測できないためである。内分泌・分類は第4版以降この二分を廃しており、理由は①どの病変もをもちうること、②転移挙動を予測できる明確な所見が存在しないこと、③転移がなくても重要構造への局所浸潤で致死的となる腫瘍があることの3点である。は各種の組織学的スコアリングシステムを推奨も否定もしていない3。

  • は、(骨・肝・肺・リンパ節など、正常にが存在しない部位)への転移の有無によって定義される。逆に、肺や肝など通常と異なる部位に生じたは原発でありうるため、それだけでは転移の証明にならない3。
  • 切除後何年も経ってから転移が判明することがあるため、すべてのはを持つ前提で長期にわたり経過観察する。
  • 転移リスクはに強く依存し、特に例で転移リスクが高いことが知られている。副腎外発生()、腫瘍径が大きい例もリスクが高い傾向がある。
  • 転移性・進行性の治療は、手術による減量、などの()、化学療法など病態に応じて選択する。

副腎皮質癌との違い

同じ「」という括りでも、と分泌ホルモンが根本的に異なるため、臨床像・診断アプローチも大きく異なる。詳細な・治療はのノートに譲るが、要点は以下の一言に集約できる。

項目 ・
副腎髄質()/ 副腎皮質
主な過剰ホルモン カテコールアミン コルチゾール・アルドステロン・アンドロゲン等の、または
中心となる生化学検査 血漿遊離/尿 各・前駆体、など
手術前に必須の対応 α遮断→循環血液量の回復→β遮断 状態(特にコルチゾール過剰による下垂体-副腎軸抑制)の評価と周術期ステロイド補充の要否確認

まとめ

  • (副腎髄質)と()はカテコールアミン産生腫瘍としてと総称され、同じスペクトラムをなす。
  • 「10の法則」は不正確で、家族性は実際には約30〜40%以上を占める。、、NF1、SDHxなど多数の遺伝子が関与するため、原則すべての患者に遺伝学的検査と生涯にわたる遺伝カウンセリングを検討する。
  • 診断は血漿遊離または尿などのを画像より先に行い、多発・転移リスクが高い(特にSDHB)ではGa- などの機能画像を追加する。
  • 手術前は必ずα遮断→循環血液量の回復→β遮断の順でを行い、β遮断単独や先行投与はのリスクとなるため避ける。
  • 「悪性」ではなくという概念を用い、への転移の有無で判定する。すべてのはを持つ前提で長期経過観察し、例では特にリスクが高い。
  • 同じでも、髄質由来でカテコールアミン過剰を来す本疾患と、皮質由来で過剰またはを来すは・分泌ホルモン・臨床像が全く異なる。

出典

  1. 1.Japan Endocrine Society Clinical Practice Guideline for the Diagnosis and Management of Pheochromocytoma and Paraganglioma 2025(Japan Endocrine Society・2026)Europe PMCの全文(PMC12819074、Endocr J 73巻1号115-157頁)で、ステートメントI-12-1が褐色細胞腫・パラガングリオーマの20〜40%を遺伝性(発症関連遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを有する)とし、詳細な家族歴・既往歴の聴取を必須としていること(1B)を確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.Germ-line mutations in nonsyndromic pheochromocytoma(The New England Journal of Medicine(Neumann HPH, Bausch B, McWhinney SR, et al.)・2002)家族歴のない非症候群性褐色細胞腫として発症した271例のうち66例(24%、平均年齢25歳)にRET・VHL・SDHD・SDHBいずれかの生殖細胞系列変異が見つかったこと(VHL 30例、RET 13例、SDHD 11例、SDHB 12例)。若年発症・多発性腫瘍・副腎外腫瘍が変異保有と有意に関連したものの、変異保有66例中多発性褐色細胞腫は21例にとどまり、23例(35%)は30歳以降の発症であったこと。変異保有66例のうち61例(92%)は分子検査によってのみ同定され、初診時に随伴する徴候・症状を欠いていたこと。したがってRET・VHL・SDHD・SDHBの日常的な変異解析が適応となること閲覧 2026-08-24
  3. 3.Overview of the 2022 WHO Classification of Paragangliomas and Pheochromocytomas(Endocrine Pathology(Mete O, Asa SL, Gill AJ, Kimura N, de Krijger RR, Tischler A.)・2022)WHO内分泌・神経内分泌腫瘍分類第5版において、パラガングリオーマは第4版以降もはや良性・悪性に分類されないこと。理由はどの病変も転移能をもちうるうえ転移挙動を予測できる明確な所見が存在しないためであり、転移がなくても重要構造への局所浸潤によって致死的となる腫瘍もあること。WHOは各種の組織学的スコアリングシステムを推奨も否定もしていないこと。褐色細胞腫は副腎内パラガングリオーマ(古典的な交感神経型)を指す用語であること。この腫瘍群が例外的に高い遺伝的素因をもち、SDHx・VHL・FH・MAX・MEN1変異や偽低酸素経路の同定に分子免疫組織化学が有用であること。転移の判定は複雑で、肺や肝など通常と異なる部位のパラガングリオーマも原発でありうるため転移の証明にならないこと。AJCC第8版の病期分類が新たに収載されたこと閲覧 2026-08-24
  4. 4.Pheochromocytoma and Paraganglioma: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society(J Clin Endocrinol Metab、Lenders JW et al.)・2014)初期生化学検査には血漿遊離メタネフリンまたは尿中分画メタネフリンの測定を推奨すること、初回画像はCTを提案しMRIは転移例や被曝を抑えるべき例で優れること、123I-MIBGシンチグラフィが転移性PPGLで有用であること、認定検査機関による遺伝学的検査を全患者で検討するよう推奨すること、パラガングリオーマ患者ではSDHx変異を、転移例ではSDHB変異を検査すべきこと、機能性PPGLの全患者で周術期合併症を防ぐため術前遮断を行うべきこと、術後低血圧を防ぐため高ナトリウム食と水分摂取を準備に含めること、多くの褐色細胞腫では低侵襲副腎摘除術を、多くのパラガングリオーマでは開腹切除を推奨すること、再発・転移の検出のため生涯にわたる経過観察を提案すること閲覧 2026-08-24
  5. 5.Biochemical diagnosis of pheochromocytoma: which test is best?(JAMA(Lenders JWM, Pacak K, Walther MM, et al.)・2002)4施設で1994〜2001年に褐色細胞腫の検査を受けた患者(確定214人、否定644人)のコホート研究で、感度は血漿遊離メタネフリン99%(95%CI 96〜100)、尿中分画メタネフリン97%(95%CI 92〜99)、尿中カテコールアミン86%(95%CI 80〜91)、血漿カテコールアミン84%(95%CI 78〜89)、尿中総メタネフリン77%(95%CI 68〜85)、尿中バニリルマンデル酸64%(95%CI 55〜71)であったこと。特異度は尿中バニリルマンデル酸95%(95%CI 93〜97)が最も高く、血漿遊離メタネフリンは89%(95%CI 87〜92)であったこと。複数の検査を組み合わせても血漿遊離メタネフリン単独を超える診断能は得られず、血漿遊離メタネフリンが第一選択の検査とされること閲覧 2026-08-24