外科学

外科学 · B/01

副腎の外科的疾患

Surgical diseases of the adrenal gland

前提:病態
クッシング症候群の発症機序・症状・診断原発性・続発性アルドステロン症副腎の機能異常・腫瘍
前提:正常
副腎髄質の機能
疾患
褐色細胞腫副腎皮質癌
検査値
メチラポン試験血漿ノルエピネフリン

ポッドキャスト

🧠 は「機能」と「画像上の悪性リスク」で手術を決める。 は切除を検討し、でも不均一・・増大傾向など悪性を疑う所見があれば手術を考慮する。画像で明らかに良性なら、サイズだけを理由にルーチン手術は行わない。1 だけは別格の注意が必要 — を産生する腫瘍を術前のα遮断なしに触るとで命に関わる。2

1. 解剖

  • 副腎は第12の高さに位置する。
  • 実質は髄質と皮質に分かれる。
  • 各副腎は3本の動脈で栄養される。
    • 上(より分岐)
    • (より分岐)
    • 下(より分岐)

2. 副腎摘出術

機能性腫瘤は原則として外科的に切除する。腫瘤では、切除するかどうかを画像上の悪性リスクで決める。

偶発腫をどう振り分けるか

欧州内分泌学会・欧州研究ネットワーク(ESE/ENSAT)の2023年版指針は、の値(Hounsfield unit, )・均一性・大きさの3つで振り分ける。ここで重要なのは、2016年版にあった「4 cm」という単独のサイズ閾値が、2023年版でに削除されたことである——指針自身が、1,197例の4 cm以上の腫瘍の観察に基づき「2016年に恣意的に導入した4 cmのを削除した」と述べている。現在4 cmが効いてくるのは、不均一または高値と組み合わさったときだけである。1

flowchart TD
  I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenal incidentaloma'>副腎偶発腫</span>"] --> W["全例にホルモン評価(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fractionated metanephrines'>メタネフリン分画</span>と1mg<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone suppression test'>デキサメタゾン抑制試験</span>)と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncontrast CT'>単純CT</span>"]
  W --> F["臨床的に意味のある<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hormone excess'>ホルモン過剰</span>あり"]
  W --> N["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hormone excess'>ホルモン過剰</span>なし"]
  F --> FS["片側性なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Adrenalectomy'>副腎摘出術</span>が標準(R.4.1)"]
  N --> N1["均一かつ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hounsfield unit'>HU</span> 10以下<br>大きさを問わず良性(R.2.3)"]
  N --> N2["均一・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hounsfield unit'>HU</span> 11〜20かつ4cm未満(R.2.4)"]
  N --> N3["4cm以上かつ、不均一または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hounsfield unit'>HU</span> 20超(R.2.5)"]
  N --> N4["上のいずれにも当てはまらない(R.2.6)"]
  N1 --> R1["手術しない。追加画像も定期フォローも不要(R.4.2・R.5.1)"]
  N2 --> R2["追加画像を1回、または12か月後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncontrast CT'>単純CT</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で再検"]
  N3 --> R3["悪性の可能性が高い。多職種で検討し多くは手術<br>術前に胸部CTや<span class='jp-term jp-term-diagram' title='FDG PET/CT'>FDG-PET/CT</span>で病期評価"]
  N4 --> R4["個別判断。多くはまず追加画像<br>手術しない場合は6〜12か月後に再検(R.5.2)"]
の所見 対応 推奨番号
均一かつ 10以下 大きさを問わず良性。追加画像も定期的な画像フォローも不要 R.2.3・R.5.1
均一・ 11〜20 かつ 4 cm未満(なし) 追加の画像検査を1回行うか、12か月後に/で再検 R.2.4
4 cm以上 かつ(不均一 または 20超) 悪性の可能性が相応にある。多職種で検討し、多くは手術。術前に病期評価 R.2.5
上記のいずれにも当てはまらない(例:4 cm以上で 11〜20、4 cm未満で 20超、4 cm未満で不均一) 悪性の可能性はなお低い。個別判断で、多くはまず追加画像 R.2.6

⚠️ 区間の端に注意。 上の表はが「10以下/11〜20/20超」、サイズが「4 cm未満/4 cm以上」と隙間なく張られている。⚠️ ただし同じ指針でも、の Selected Recommendations は「>4 cm」、推奨本文 R.2.5 は「≥4 cm」と書いており、4.0 cm ちょうどの扱いが文書内で割れている。本ノートは推奨本文に従って「4 cm以上」とした。1

💡 授業資料は「4 cm未満は良性なので経過観察、4 cm超は悪性なのでホルモン状態を確認してから切除」という単純な線引きを示している。 これは2016年版までの考え方であり、しかも「未満/超」なので4 cm ちょうどがどちらにも属さない(同じ資料の手描き図は「≤4 cm/>4 cm」で連続している)。サイズ単独では良悪を決められないというのが現行の立場なので、歴史的な整理として覚え、実際の振り分けは上の表で行う。

手術アプローチ

アプローチ 特徴
小さい腫瘍向け。第11・12肋骨上に切開、または jackknife 体位(顔を下にした折りたたみ体位)で行う
小児患者・大きな悪性腫瘍で使用。、chevron切開、、などが代表的
(低侵襲) 小さめの腫瘍向けで、肥満患者ではとくに有利。授業資料はを下げる最良の方法と位置づけている。を伴う良性腫瘤で手術適応があるときは低侵襲アプローチが推奨される(R.4.3)。悪性を疑う画像所見があっても、最大径 6 cm以下で局所浸潤がなければ、副腎手術に習熟した高volumeによるが提案される(R.4.4)1
開腹 悪性を疑う所見に加えて局所浸潤の徴候がある場合は、高volumeによる開腹が推奨される(R.4.5)1

💡 授業資料はの禁忌を「9 cm超の大きな腫瘍との悪性腫瘍」としている。現行の指針が線を引いているのは径 6 cm以下(悪性を疑う病変について)と局所浸潤の有無であり、判断の軸は腫瘍径そのものよりも局所浸潤との経験に移っている。いずれの資料でも、局所浸潤があれば開腹という点は共通である。

3. 適応疾患

Cushing症候群(原発性コルチゾール過剰症)

  • Cushing症候群の治療の本質はコルチゾール過剰の原因そのものの除去。

病因

  • の過剰分泌(内因性)
  • 原発性・ → 腫瘍を含む副腎の摘出
  • → 可能であれば原発の切除(多くはが原因のため切除困難なことが多い)

診断

  • 尿中・血中コルチゾール/値の異常
  • 試験(コルチゾール合成の最終段階を阻害する薬剤を用いた)
  • 画像 → 副腎/

治療(病因による)

  • 下垂体経的切除/ → しなければ両側
  • 腺腫・には手術を施行

周術期の糖質コルチコイド補充

⚠️ 判断の基準は「のCushing症候群かどうか」ではなく、の結果である。 ESE/ENSAT 2023 の推奨 R.4.7 は、手術を受ける患者のうち 1 mg 一晩後の早朝血清コルチゾールが 50 nmol/L(1.8 µg/dL)を超える者の全例に、周術期のストレス用量の投与を推奨している。この閾値は(MACS)も拾うので、「でないから補充は要らない」とは読まない。1

⚠️ 後は下垂体-副腎軸が抑制された状態にあるため、周術期のステロイド補充を怠ると()に陥りうる。MACS で手術を受けた患者も、Cushing症候群の患者と同様に、軸の回復が確認されるまで内分泌医の経過観察下に置くことが提案されている(R.4.8)。1

Conn症候群(原発性アルドステロン症)

病因

  • 副腎過形成、、アルドステロン産生

治療

  • 手術は片側性ので適応となる。3
    • 後方アプローチまたはアプローチで摘出
    • 術前になどの拮抗薬を2〜3週間投与し、血圧のコントロールとの是正を行う

褐色細胞腫

  • は副腎髄質の由来のまれな腫瘍で、主に、一部エピネフリンを分泌する。副腎外に生じた同じ腫瘍はと呼ぶ。
  • 間欠性・悪性・持続性または発作性の高血圧が特徴で、以下のとして現れる。
    • 発作性頭痛、頻脈、発汗
  • 診断はの測定(血中遊離または24時間尿中)で行う。

⚠️ 「はの一部として起こることが多い」は誤りである。 授業資料にはそう書かれているが、日本内分泌学会の2025年版・診療ガイドラインは、ステートメント I-12-1 で遺伝性は全体の20〜40%(推奨度1B)とし、残りは散発性だとしている。主要な生殖細胞系列も SDHx(SDHA・SDHB・SDHC・SDHD)・VHL・RET の複数にわたり、2型(RET)はその一部にすぎない。ただし遺伝性の頻度が高いこと自体は事実なので、家族歴・既往歴の聴取と遺伝カウンセリング後の遺伝学的検査は全例で検討する(I-12-1・I-12-3、いずれも1B)。2

治療

手術による腫瘍切除が第一選択である(I-5-1、1A)。小さなではまたはロボット支援が標準で(I-5-2、1B)、大きな腫瘍や周囲臓器への浸潤が疑われる例には開腹手術が推奨される(I-5-3、2C)。2

段階 内容
術前の が第一選択(I-4-2、1B)。日本で経口使用できるのは・・(授業資料が挙げるは非選択性ので、海外では標準薬だが国内では入手できない)。手術の少なくとも7〜14日前から通常量で開始し、血圧と心拍数を目標に達するまで漸増する
が不十分なとき 、またはを阻害するを併用する(I-4-2、2C)
頻脈・心筋障害があるとき を十分に投与したうえで、数日後にβ遮断薬を追加する(I-4-3、2C)
と術中の血行動態変動・術後の過度の低血圧を防ぐため、術前に通常塩分食または輸液を行う(I-4-4、2C)
術中 「no-touch技術」を用い、静脈を早期にする
術後 腫瘍摘出直後はが急減するため、重篤な低血圧と低血糖が起こりうる。管理を行う

⚠️ より先にβ遮断薬を投与することは禁忌である(I-4-3、推奨度 1A)。 β₂受容体の遮断で血管拡張が失われる一方、によるを介した血管収縮はそのまま残るため、高血圧発作を起こす。⚠️ ・のようなαβ遮断薬も、β遮断作用が強いため推奨されない(は ¹³¹I- の集積を阻害して画像評価も妨げる)。2

⭐ 手術原則は「α遮断が先、手術は後」。なしに腫瘍を触ると、の急激な放出により致死的なを起こしうる。を含む十分なにより、は3%未満まで下がっている。2

💡 ⚠️ ただし「必ず全例に」ではない。 同ガイドラインのステートメント I-4-5 は、の過剰産生がはっきりしない場合はは一般に不要としている(2D)。もっともホルモン産生の有無を臨床的に見分けるのは難しいので、¹²³I- の集積や腫瘍内のなどを含めて総合的に必要性を評価する。2

副腎皮質癌

  • はまれで予後不良な悪性度の高い腫瘍。
  • 完全な外科的切除のみがとなる。
  • では、局所進行または転移したに対するなが、増殖の遅いホルモン産生性腫瘍において症状緩和をもたらすことがある。

まとめ

  • の手術判断はホルモン機能と画像上の悪性リスクで行い、サイズだけをな手術閾値にしない。で均一かつ 10以下なら大きさを問わず良性で、追加画像も定期フォローも不要。4 cm以上でかつ不均一または 20超のときにはじめて、多くは手術が選択肢になる。1
  • 摘出アプローチは後腹膜・経腹・腹腔鏡(低侵襲)の3種類。悪性を疑う病変でも径6 cm以下で局所浸潤がなければ高volumeによるが提案され、局所浸潤があれば開腹が推奨される。1
  • Cushing症候群では下垂体がしなければ両側。周術期の補充は、1 mg後の早朝コルチゾールが50 nmol/L(1.8 µg/dL)超のとき全例——でも要る。1
  • Conn症候群は片側性で手術適応となり、術前は拮抗薬などで血圧・を是正する。3
  • のうちを産生する腫瘍では、術前にを7〜14日以上先行させる(1B)。⚠️ β遮断薬を先に投与するのは禁忌(1A)。遺伝性は20〜40%で、はその一部にすぎない(1B)。2
  • は完全切除のみが根治的、転移例ではが症状緩和に用いられる。

出典

  1. 1.European Society of Endocrinology clinical practice guidelines on the management of adrenal incidentalomas, in collaboration with the European Network for the Study of Adrenal Tumors(European Society of Endocrinology / European Network for the Study of Adrenal Tumors・2023)副腎偶発腫の手術適応はサイズ単独ではなくホルモン機能と画像上の悪性リスクで判断し、明らかな良性病変では定期画像フォローを不要としうること、およびコルチゾール過剰例の周術期管理を確認した。閲覧 2026-08-09
  2. 2.Japan Endocrine Society Clinical Practice Guideline for the Diagnosis and Management of Pheochromocytoma and Paraganglioma 2025(Japan Endocrine Society・2026)Europe PMCの全文(Endocr J 73巻1号115-157頁、2025年版ガイドラインの英文版)で確認した。ステートメントI-12-1が「褐色細胞腫・パラガングリオーマの20〜40%が遺伝性(発症関連遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを有する)である」とし推奨度1Bを付していること、主要な生殖細胞系列ドライバー遺伝子としてSDHx(SDHA・SDHB・SDHC・SDHD)・VHL・RETを挙げていること、I-4-2が選択的α1遮断薬を第一選択とし(1B)降圧が不十分なときカルシウム拮抗薬またはメチロシンを併用するとすること(2C)、I-4-3がα1遮断薬より先にβ遮断薬を投与することを禁忌としていること(1A)、本文がα遮断薬を手術の少なくとも7〜14日前から開始するとし、十分な術前治療により周術期死亡率が3%未満に下がったと述べること、I-4-5がカテコラミン過剰産生がはっきりしない場合はα1遮断薬は一般に不要とすること(2D)、I-4-4が起立性低血圧と術中の血行動態変動を防ぐため術前に通常塩分食または生理食塩液輸液を行うとすること(2C)、I-5-1が手術による腫瘍切除を第一選択とし(1A)、I-5-2が小さな褐色細胞腫には腹腔鏡下またはロボット支援腹腔鏡下副腎摘出術が標準(1B)、I-5-3が大きな腫瘍や周囲臓器浸潤が疑われる例には開腹手術を推奨する(2C)ことを確認した。閲覧 2026-09-21
  3. 3.Japan Endocrine Society clinical practice guideline for the diagnosis and management of primary aldosteronism 2021(Japan Endocrine Society・2022)原発性アルドステロン症の外科治療は腺腫という病理名ではなく片側性病変を対象とすることを確認した。閲覧 2026-08-09