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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 症候群

クッシング症候群

Cushing syndrome

別名
副腎皮質ステロイド過剰症
臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal MedicinePathophysiologyPathologySurgery
トピック
内科学 E-06:糖質コルチコイド欠乏と過剰内科学 L-32:Cushing症候群病態生理学 I-21:クッシング症候群の発症機序・症状・診断病理学 C/88:副腎の機能異常・腫瘍外科学 S-01:副腎疾患と外科的帰結
鑑別疾患
褐色細胞腫原発性アルドステロン症多嚢胞性卵巣症候群
続発疾患
2型糖尿病高血圧症骨粗鬆症
関連疾患
原発性副腎不全先端巨大症・プロラクチノーマ(下垂体腺腫)
治療薬
ヒドロコルチゾンフルドロコルチゾンデキサメタゾンメチラポンミフェプリストンエトミデート
症状
筋力低下出血不安不眠高アンドロゲン血症多毛症体重増加
検査値
コルチゾールACTHコルチゾール結合グロブリン深夜唾液コルチゾールDHEA-S下錐体静脈洞サンプリング高用量デキサメタゾン抑制試験デスモプレシン試験低用量デキサメタゾン抑制試験CRH刺激試験24時間尿中遊離コルチゾール
画像所見
下垂体MRI異所性ACTH産生腫瘍の局在画像
原因となる疾患
副腎皮質癌
適応薬
オシロドロスタットケトコナゾール

🧠 全体像は、原因を問わず「作用がに過剰な状態」を指す症候群であり、頻度としては外因性(医原性のステロイド投与)が内因性より圧倒的に多い。内因性ではさらにACTH依存性(下垂体性=クッシング)とACTH非依存性(・癌、両側性副腎過形成)に分かれる。診療の骨格は二段階——①を除外したうえで複数の高感度)でコルチゾール過剰を生化学的に確定し、②ACTHを測定して低値なら副腎画像、高値/ならと異所性検索、必要なら(inferior petrosal sinus sampling:IPSS)で局在を絞り込む——である。治療は原因病変の切除が第一選択で、・残存・再発例では拮抗薬などの薬物療法を組み合わせる。

病態

過剰は、視床下部-下垂体-軸のどこにコルチゾール産生の駆動源があるかで分類する。最も多いのは外因性、すなわち喘息・・移植後免疫抑制などで処方された経口・注射・吸入・外用・関節内グルココルチコイドがHPA軸を抑制しながらを及ぼす医原性の病態である。内因性はこれよりまれで、ACTH依存性とACTH非依存性に大別される。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucocorticoids'>糖質コルチコイド</span>作用の慢性過剰"] --> B["外因性(医原性)"]
    A --> C["内因性"]
    B --> B1["経口・注射・吸入・外用・関節内ステロイド"]
    C --> D["ACTH依存性"]
    C --> E["ACTH非依存性"]
    D --> D1["下垂体ACTH産生腺腫=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cushing disease'>クッシング病</span>(内因性の中で最多)"]
    D --> D2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic ACTH-producing tumor'>異所性ACTH産生腫瘍</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='small cell lung cancer (SCLC)'>小細胞肺癌</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchial carcinoid'>気管支カルチノイド</span>など)"]
    E --> E1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenal adenoma'>副腎腺腫</span>"]
    E --> E2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocortical carcinoma (ACC)'>副腎皮質癌</span>"]
    E --> E3["両側性(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater tubercle'>大結節</span>性・原発性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pigmented'>色素性</span>結節性)副腎過形成"]
    D1 --> F["両側副腎皮質のびまん性・結節性過形成"]
    D2 --> F
    E1 --> G["片側副腎の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic'>自律性</span>コルチゾール産生・対側萎縮"]
    E2 --> G

💡 「外因性→内因性→ACTH依存性か非依存性か」という順で絞り込むと覚えやすい。使用歴を確認することが診断の第一歩であり、これを飛ばしていきなり生化学的検査に進むと、外因性クッシングを内因性としたり、逆にの影響で内因性検査が偽陽性になったりする。

病型ごとの特徴

病型 ACTH 主な原因 副腎の形態
外因性 抑制(内因性コルチゾール産生も抑制) 経口・注射・吸入・外用・関節内グルココルチコイド 両側性皮質萎縮
ACTH依存性:下垂体性( 高値/不適切に正常 ACTH産生 両側性のびまん性・結節性過形成
ACTH依存性: 高値 、気管支・膵・胸腺のなど 両側性過形成
ACTH非依存性: 低値 良性の機能性 片側性腺腫+対側萎縮
ACTH非依存性: 低値 まれ、急速増大・複数ステロイド過剰を伴うことが多い 片側性の大きな浸潤性腫瘍
ACTH非依存性:両側性副腎過形成 低値 性過形成、(primary pigmented nodular adrenocortical disease:PPNAD、の一部として生じることがある)など 両側性の過形成・多結節性変化

⭐ 内因性の中では下垂体性()が最多(内因性の約7割程度)で、と副腎性がこれに続く。「」は全体の同義語ではなく、あくまで下垂体ACTH産生腺腫による一亜型を指す用語である点に注意する。

⚠️ 、重いうつ病、重度肥満、コントロール不良の糖尿病、妊娠などでは、腫瘍が存在しなくてもHPA軸の生理的な活性化により生化学検査が偽陽性となる「」を来しうる。臨床像がで背景因子が重なる場合は、経過を追って反復評価する。

臨床像

コルチゾール過剰は全身の代謝・血管・骨・免疫・精神に影響するため症状は多彩だが、特異度の高い所見(他疾患では説明しにくい所見)と非特異的だが頻度の高い所見を区別すると効率よく疑える。

臓器・系統 主な所見 特異度
体型・皮膚 ・頸背部脂肪沈着()、四肢 頻度は高いが非特異的
皮膚(特異的所見) 幅広い(1 cm以上)・皮下出血、創傷治癒遅延 特異度が高い
筋・骨 (特異度が高い)、症・、小児の(身長増低下と体重増加の乖離) ・原因不明の症は特異度が高い
代謝・循環 高血圧、・糖尿病、 頻度は高いが非特異的
免疫・感染 創傷治癒遅延、易感染性、真菌感染 非特異的
精神・生殖 抑うつ・不安・不眠・精神病、 非特異的
ACTH依存性(特に)で著明になりうる ACTH高値を示唆

、幅広い、皮膚の、原因不明の症は識別力が比較的高い所見であり、これらが重なる場合はを積極的に疑う。逆に、単なる・高血圧・糖尿病だけで無差別にスクリーニングを行うと偽陽性が増えるため、年齢に不釣り合いな症・進行性の複合所見・の存在などを疑うきっかけとする。

💡 代謝的には「体の中心に脂肪を集め、四肢の筋と皮膚を削る」ホルモンと捉えると理解しやすい。糖新生亢進・タンパク亢進・インスリン抵抗性の増大が同時に進み、と四肢のが両立する。

診断

診断は①コルチゾール過剰の生化学的確認②ACTH依存性・非依存性の鑑別および病変の局在診断の二段階で組み立てる。この順序を守り、随時コルチゾール・随時ACTH・画像検査だけでスクリーニングを行わないことが重要である。

flowchart TD
    A["特徴的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical signs'>臨床所見</span>・進行性の合併症から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cushing syndrome'>クッシング症候群</span>を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exogenous glucocorticoid'>外因性グルココルチコイド</span>曝露を必ず確認"]
    B --> C["高感度<span class='jp-term jp-term-diagram' title='screening test'>スクリーニング検査</span>を選択"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='late-night salivary cortisol'>深夜唾液コルチゾール</span>(2回以上)"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='24-hour urinary free cortisol'>24時間尿中遊離コルチゾール</span>(2回以上)"]
    C --> F["1 mg一晩<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-dose dexamethasone suppression test'>低用量デキサメタゾン抑制試験</span>(または48時間法)"]
    D --> G{"少なくとも2回・別法で異常か"}
    E --> G
    F --> G
    G -->|"いいえ"| H["偽陽性・偽陰性要因を確認し再評価"]
    G -->|"はい"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endogenous cortisol excess'>内因性コルチゾール過剰</span>を確定"]
    I --> J["血漿ACTHを測定"]
    J -->|"低値:抑制"| K["ACTH非依存性→副腎CT"]
    J -->|"高値/不適切に正常"| L["ACTH依存性→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary MRI'>下垂体MRI</span>+異所性ACTH検索"]
    L --> M{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary MRI'>下垂体MRI</span>所見と生化学的所見が一致するか"}
    M -->|"いいえ・MRI陰性や<span class='jp-term jp-term-diagram' title='small lesion'>小病変</span>"| N["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IPSS'>下錐体静脈洞サンプリング</span>"]
    M -->|"はい・明らかな下垂体病変"| O["下垂体性(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cushing disease'>クッシング病</span>)と判断"]
    N --> P["中枢/末梢ACTH比で下垂体性と異所性を鑑別"]

コルチゾール過剰の確認(スクリーニング)

(urinary free cortisol:UFC)、:low-dose dexamethasone suppression test:LDDST。翌朝8時のコルチゾールが目安として1.8 µg/dL未満なら正常抑制)のいずれかを、患者背景に合わせて複数回・複数法で行う。1回のみの異常値では確定せず、少なくとも2回、または異なる検査法の組み合わせで異常を確認する。

⚠️ シフト勤務、睡眠障害、腎機能低下、増加を介して総コルチゾールを見かけ上上昇させる)、CYP3A4を介する薬物相互作用、採尿・採唾液の手技不備は偽陽性・偽陰性の原因になる。が疑われる場合は、症状が強い時期に合わせて反復評価する。

⭐ ランダム(随時)コルチゾール値、随時ACTH、画像検査は、いずれも「過剰の確認」のためのスクリーニングには用いない。画像検査は生化学的に過剰が確定した後の局在診断のステップで行う。

原因の局在診断

生化学的にコルチゾール過剰を確定した後、血漿ACTHを測定してACTH依存性か非依存性かを分ける。ACTH低値(抑制)は副腎自体の産生(ACTH非依存性)を、ACTH高値または不適切に正常な値はACTH依存性(下垂体性または異所性)を示唆する。ACTH依存性が疑われる場合はを行うが、は小さく画像で検出できないことも多いため、MRI陰性や所見の不一致例では(IPSS)を検討する。

やCRH刺激試験は補助的な位置づけで、単独では原因を確定しない。HDDSTでコルチゾールが50%以上抑制されれば下垂体性()を、抑制されなければを支持する所見として用いる。

⭐ IPSSは、専門施設で両側下錐体静脈洞と末梢からACTHを同時採血し、中枢(下錐体静脈洞)/末梢のACTH比が基礎値で2以上、またはCRH刺激後で3以上であれば下垂体性()を強く支持し、これを下回ればを考える、の局在診断における評価法である。が陰性・所見がな例で特に重要になる。

治療

治療の基本は原因病変の外科的切除であり、それが困難・不完全・再発した場合に薬物療法・放射線療法・両側副除を組み合わせる。

原因 第一選択・主な治療
外因性(医原性) 原疾患の必要性とリスクを見ながら計画的にする。急な中止は避ける
(下垂体ACTH産生腺腫)
・良性の片側副腎病変 片側副除(が基本)
の切除、可能なら
被膜を破らない切除(専門施設)
・残存・再発例 、下垂体標的薬、拮抗薬、放射線療法、選択例で両側副

薬物療法

薬物療法は、手術までのコルチゾール値コントロール、手術不能例、再発例、術後も残存する血症などで用いる。により大きく3種類に分けられる。

  • /そのである(levoketoconazole)、などがコルチゾール合成酵素を阻害してコルチゾール産生そのものを抑える。重症で経口摂取が困難な例や急速なコントロールを要する例では、静注可能なを低用量で用いることがある。
  • 拮抗薬を遮断してコルチゾールの作用そのものをブロックする。コルチゾール値自体は低下させないため、治療効果のモニタリングに通常のコルチゾール測定を使えない点に注意する。
  • 下垂体標的薬を介してACTH分泌を抑える、に特化した薬剤である。が併用・代替として検討されることもある。

⚠️ 薬剤ごとに副作用の監視が必要である。は肝障害、はQT延長と副腎不全、・高血圧、は高血糖の増悪に注意する。いずれの薬剤も過剰抑制によるを起こしうるため、投与中はコルチゾール値・を継続的にモニタリングする。

両側副腎摘除と周術期管理

薬物療法や下垂体への治療でコントロールできない重症・難治例では、両側副除で確実にコルチゾール産生を止める選択肢がある。ただしこれはの生涯にわたる補充を必要とする根治的な処置であり、と同様の補充と教育、緊急時の指導が必須になる。

⭐ 片側副の治療に成功した後も、長期にわたり抑制されていた対側副腎(または残存正常下垂体-副腎軸)が回復するまでの間は術後副腎不全のリスクがある。周術期はグルココルチコイドカバーを行い、軸の回復を確認しながらする。これはそのものではないが、管理の骨格(を疑ったら結果を待たずを投与する、を教育する)は共通する。

💡 はコルチゾール測定への干渉が少ないため、低用量・高用量抑制試験そのものの薬剤として用いられるほか、副腎不全が疑われる術後患者で治療しながら検査を進めたい場面の選択肢にもなりうる。

高血圧、糖尿病、低K血症、感染症、症、精神症状は、原因治療と並行して積極的に管理する。

まとめ

  • 作用の慢性過剰であり、外因性(医原性ステロイド)が内因性より圧倒的に多い。内因性はACTH依存性(下垂体性=が最多、)とACTH非依存性(・癌、両側性過形成)に分かれる。
  • 特異度の高いは、幅広い、原因不明の症であり、・高血圧・糖尿病単独では非特異的。
  • 診断は「①複数の高感度・LDDST・24時間UFC)でコルチゾール過剰を確定→②ACTHで依存性を判定→③画像・必要ならIPSSで局在診断」という二段階の順序を守る。
  • IPSSでは中枢/末梢ACTH比が基礎値2以上・CRH刺激後3以上で下垂体性()を支持する。
  • 治療の第一選択は原因病変の外科的切除(、片側副除、異所性腫瘍切除)であり、・残存・再発例では拮抗薬・下垂体標的薬などを個別化して用いる。
  • 両側副除は難治例の最終手段だが、生涯の糖質・補充と教育を要する。
  • 治療成功後も抑制されていたHPA軸が回復するまで術後副腎不全のリスクがあり、周術期のグルココルチコイドカバーと管理が必要である。