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高用量デキサメタゾン抑制試験

High-dose dexamethasone suppression test

別名
HDDSTデキサメタゾン大量抑制試験8 mgデキサメタゾン抑制試験高用量DST
臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 L-32:Cushing症候群
関連疾患
クッシング症候群

🧠 全体像は、「があるかどうか」を決める検査ではない。それを見るのは低用量(・2 mg×2日法)の役目で、こちらが過剰の有無というスクリーニングを担う。HDDSTが担うのはその一段階先——ACTH依存性であることが確定した後に、下垂体性()かかを絞り込むの補助である。単独では確定できず、他のや画像と組み合わせて解釈し、なお判断が割れれば(IPSS)に委ねる。近年はIPSSとの位置づけが上がり、HDDSTの役割はより限定的になっている。

何を調べる検査か

ACTH分泌は、通常は血中コルチゾール上昇による負のフィードバックで抑制される。の原因となるACTH産生は、このグルココルチコイド負のフィードバックへの感受性が完全に失われているわけではなく、低下しているというのが病態の核心である。低用量のでは抑制しきれなくても、より高用量を投与すればなお残っている感受性のぶんだけACTH・コルチゾール分泌が抑えられる——これがHDDSTで「抑制される」という現象の生理学的根拠になる。

一方、など)は下垂体のようなフィードバック受容機構をほとんど持たない。高用量のを投与してもACTH分泌は抑制されにくく、コルチゾールも下がらない。副腎性(ACTH非依存性)のは、そもそもACTHに依存せずコルチゾールが自律的に産生されているため、でACTHを抑えても病態そのものには影響しない。

つまりHDDSTが見ているのは「フィードバック感受性がどれだけ残っているか」という量的な差であり、下垂体性と異所性をきれいに二分する質的な指標ではない。この量的な性質が、後述する偽陽性・偽陰性の温床になる。

いつ行うか

⚠️ 前提条件を外さない。 HDDSTは次の2条件がそろって初めて意味を持つ。

  • が生化学的に確定していること(・24時間尿中遊離コルチゾールなどで複数回・複数法により過剰を確認済み)
  • ACTHが高値または不適切に正常で、ACTH依存性であることが確定していること

ACTH非依存性(副腎性)ではそもそも意味を持たない。 ACTHに依存せずコルチゾールが産生されているため、で何を抑制しても病型の判別材料にならない。

現行ではIPSSの位置づけが上がっており、HDDSTの役割は限定的になっている。HDDSTとCRH(または)刺激試験の結果がそろって下垂体性を支持すれば非侵襲的にと判断してよいが、両者の結果が食い違えばIPSSが必要になる1に10 mm以上の腺腫があり、これらのの結果と矛盾しなければIPSSは省略できる1。IPSSを施行できる専門施設は限られるため、施設によっては現在もHDDSTとCRH(または)刺激試験の組み合わせを、侵襲的な局在診断に進む前段の判断材料として活用している。

手技・プロトコル

古典的なLiddleの2日法と、より簡便な8 mgオーバーナイト法の2通りがある。

項目 Liddleの2日法 8 mgオーバーナイト法
投与法 2 mgを6時間ごと×2日間(計8 mg/日×2日) 8 mgを深夜(23時ごろ)に単
何を測るか または血清コルチゾール 翌朝の血清コルチゾール
採血・採尿時点 投与前(基礎値)と2日目 投与前日の朝(基礎値)と投与翌朝8〜9時
特徴 手技は煩雑だが判定材料が多い 外来でも実施しやすく簡便

2日法は連日の内服管理と複数回の採尿・採血が要るため入院で行う施設が多く、オーバーナイト法は前日の単服だけで完結するため外来でも施行しやすい。いずれも開始前に、後述するの代謝へ影響する薬剤の状況を確認しておく。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ACTH-dependent Cushing syndrome'>ACTH依存性クッシング症候群</span>が生化学的に確定"] --> B["術式を選択"]
    B -->|"2日法"| C["基礎コルチゾール・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='24-hour urinary free cortisol'>24時間尿中遊離コルチゾール</span>を測定"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>2 mgを6時間ごと×2日間投与"]
    D --> E["2日目の血清コルチゾール・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='24-hour urinary free cortisol'>24時間尿中遊離コルチゾール</span>を再測定"]
    B -->|"オーバーナイト法"| F["深夜に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>8 mgを単<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pronation'>回内</span>服"]
    F --> G["翌朝8〜9時に血清コルチゾールを採血"]
    E --> H["基礎値からの抑制率を計算"]
    G --> H
    H --> I{"抑制率が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cut-off'>カットオフ</span>を超えるか"}
    I -->|"はい"| J["下垂体性(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cushing disease'>クッシング病</span>)を支持"]
    I -->|"いいえ"| K["異所性を含め再評価。CRH刺激試験・IPSSを検討"]

判定

判定法 意味
Liddleの2日法(古典的) 基礎値から50%以上のコルチゾール抑制 下垂体性を支持。感度81.0%・特異度66.7%と報告される2
8 mgオーバーナイト法 血清コルチゾール55%以上の抑制が 下垂体性を支持。感度80%・特異度78%3

💡 を50%から55%へ引き上げると、感度はほぼ変わらず(81%→80%)特異度が上がる(67%→78%)——閾値を上げるほど特異度が上がり感度が下がるが、実際の報告値の比較からも読み取れる23。境界域の抑制率をどちらに解釈するかは、他の検査(CRH刺激試験・画像所見)とあわせて判断する。

⚠️ 偽陽性・偽陰性と注意点

  • の一部、特になど高分化なは抑制される。 高分化な腫瘍ほどに近いフィードバック応答を残しており、8 mgオーバーナイト法では異所性の約2割で55%以上の抑制が生じ、下垂体性と誤認しうる3これがHDDSTの最大の弱点で、の混同の主因になる。
  • でも約2割はに届かず、抑制不十分(偽陰性)になる3。「抑制されなかったから異所性」と即断しない。
  • では、検査期間中にコルチゾール分泌の山と谷をまたぐと基礎値も抑制後の値も一貫性を欠き、判定そのものが成り立たない。症状が強いに施行する。
  • の代謝に影響する薬剤に注意する。 は主にCYP3A4で代謝されるため、フェニトイン・リファンピシン・カルバマゼピンなどの強いCYP3A4を併用していると血中濃度が下がり、実際には抑制されているのに検査上は「非抑制」に見える偽の非抑制が生じる。逆にCYP3A4阻害薬併用では血中濃度が上がり、偽の抑制につながりうる。
  • 吸収不良や不良でも見かけ上の非抑制が起こる。判定に迷う結果では、可能であればの血中濃度を同時測定し、投与・吸収が意図どおりだったかを確認する。

代替・関連する検査

検査 何がわかるか 使いどころ・限界
コルチゾール過剰の有無(スクリーニング) HDDSTとは目的が異なり、には使わない
CRH刺激試験 下垂体性はACTH・コルチゾールが上昇しやすい HDDSTより特異度が高く現行では第一選択とされる3。異所性腫瘍の一部も反応し単独では確定できない
試験 下垂体性の一部でACTH・コルチゾールが上昇 CRH刺激試験が使えない施設での代替。特異度は高くない
を直接描出する 10 mm以上の明瞭な腺腫がありと矛盾しなければIPSSを省略できる根拠になる1
(IPSS) 中枢/末梢ACTH比を直接測定し局在を決める HDDSTとCRH刺激試験の結果が食い違う場合の最終的な鑑別手段1

⚠️ HDDSTは補助的な位置づけであり、単独では下垂体性か異所性かを確定できない。CRH(または)刺激試験と結果がそろって初めて非侵襲的な判断材料になり、そろわなければIPSSに進む1

まとめ

  • HDDSTはの有無を決めるスクリーニングではなく、ACTH依存性と確定した後に下垂体性か異所性かを絞り込むの補助である。
  • はグルココルチコイド負のフィードバックへの感受性が残っているため高用量で抑制されるが、異所性腫瘍や副腎性ではこの機構が乏しく抑制されにくい。
  • Liddleの2日法(2 mgを6時間ごと×2日間)と8 mgオーバーナイト法があり、いずれも基礎値からのコルチゾール抑制率で判定する。
  • は50〜55%が目安で、閾値を上げるほど特異度は上がるが感度は下がる。
  • など高分化な異所性腫瘍の一部が抑制され偽陽性となる点が最大の弱点で、やCYP3A4関連薬剤も判定を狂わせる。
  • 現行ではCRH刺激試験の方が特異度で上回り優先され、HDDSTとCRH刺激試験が食い違えばIPSSで最終判断する。

出典

  1. 1.Consensus on diagnosis and management of Cushing's disease: a guideline update(Pituitary Society・2021)単一の検査だけでは下垂体性と異所性を確定できないという合意、高用量デキサメタゾン抑制試験とCRH(またはデスモプレシン)刺激試験の結果が一致すればクッシング病を支持する非侵襲的な組み合わせになるが不一致ならIPSSが必要という位置づけ、下垂体MRIに10 mm以上の腺腫があり動的検査の結果と矛盾しなければIPSSは不要という記載を確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Outcome of CRH stimulation test and overnight 8 mg dexamethasone suppression test in 469 patients with ACTH-dependent Cushing's syndrome(Frontiers in Endocrinology・2022)8 mgオーバーナイト法の至適カットオフはコルチゾール55%以上の抑制で感度80%・特異度78%であること、CRH刺激試験の方が同等の感度でより高い特異度を示し第一選択とされること、異所性ACTH症候群の一部が偽陽性の抑制を示すことを確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.Effectiveness versus efficacy: the limited value in clinical practice of high dose dexamethasone suppression testing in the differential diagnosis of adrenocorticotropin-dependent Cushing's syndrome(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・1997)古典的な50%抑制カットオフでの感度81.0%・特異度66.7%という数値と、年齢・性別・低K血症の有無・コルチゾール値など他の臨床情報を加えても鑑別への上乗せ効果が乏しいという結論を確認した。閲覧 2026-08-02