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Lab values · Published

副腎皮質刺激ホルモン

Adrenocorticotropic hormone

別名
ACTHコルチコトロピン副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
臓器系
内分泌・代謝全身
科目
Internal MedicinePhysiology
トピック
内科学 L-31:副腎不全内科学 L-32:Cushing症候群生理学 7.2:副腎皮質の機能
関連疾患
クッシング症候群下垂体機能低下症原発性副腎不全先天性副腎過形成

🧠 全体像:ACTHは単独で読む検査ではない。必ず同時に測ったコルチゾールとペアで読む——ACTHが高いか低いかだけでは、副腎不全なのかCushing症候群なのか、原発性なのか中枢性なのかを決められない。ACTHとコルチゾールという2軸を組み合わせて初めて、視床下部―下垂体―副腎系のどこが壊れているかが見えてくる。加えてACTHはが大きく検体そのものが壊れやすいため、「いつ・どう採ったか」を確認しないまま数値だけを読むと簡単に誤った解釈につながる

何を測っているか

視床下部のCRHがを刺激してACTHを分泌させ、ACTHがを刺激してコルチゾールを産生させる。コルチゾールは視床下部・下垂体の双方へ負のフィードバックをかけ、CRH・ACTHの分泌を抑制する。

flowchart TD
    A["視床下部:CRH"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior pituitary'>下垂体前葉</span>:ACTH"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zona fasciculata of the adrenal cortex'>副腎皮質束状帯</span>:コルチゾール"]
    C -->|"負のフィードバック"| A
    C -->|"負のフィードバック"| B
    D["前駆体:POMC"] -->|"同じ前駆体から生成"| B
    D -.->|"MSH様ペプチドも同時に生成"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='markedly elevated'>著明高値</span>時の皮膚・粘膜色素沈着"]

💡 ACTHは単独のホルモンとして作られるのではなく、より大きな前駆体POMCから切り出される。 同じ前駆体からMSH様の活性を持つペプチドも同時に生じるため、ACTHが著明に高くなる病態では、その“おまけ”の作用として皮膚・粘膜の色素沈着が起こる。ACTH自体に色素沈着作用があるわけではなく、共通の前駆体を介した副産物と理解しておくと、なぜ副腎不全の一部だけが色素沈着を来すのかが説明できる。

ACTHの分泌には2つの大きな特徴がある。

  • 早朝に最も高く、深夜から未明にかけて最も低くなる。分泌は)で、コルチゾールと並行して変動する。
  • ストレス応答性: 感染、手術、外傷、疼痛、低血糖などの身体的ストレスや、で速やかに上昇する。

基準値と単位

代表的な単位はpg/mLng/Lと同義)で、測定法・施設による差が大きいため報告書のを優先する。

⚠️ ACTHの絶対値だけを見て高い・低いと判定しない。 このノートの中心的な主張は、ACTHは同時に採取したコルチゾールとの組合せで初めて意味を持つという点である。ACTH単独の内・範囲外という情報は、コルチゾールの値と切り離すと臨床的にほとんど意味をなさない。

💡 (迅速)」は、このノートで扱うACTHの直接測定とは別の検査である。 で測っているのは投与した外因性ACTH()に対するコルチゾールの反応であり、内因性ACTH濃度そのものではない。両者を混同しない。

高値・低値の意味

ACTHとコルチゾールの組合せで4つの状態に分けて考える。

ACTH コルチゾール 病態 代表
高値 低値
低値〜 低値 続発性(中枢性)副腎不全 によるACTH分泌低下、長期グルココルチコイド投与後の視床下部―下垂体―副腎系抑制
高値〜 高値 ACTH依存性Cushing症候群 下垂体性(Cushing病)、
低値 高値 ACTH非依存性Cushing症候群 ・副、結節性副腎過形成

💡 4のうち上2行は「コルチゾールが足りているか」、下2行は「コルチゾールが過剰かどうか」で分かれる。そのうえでACTHの方向が、障害部位が副腎そのもの(原発性・非依存性)か、それよりの下垂体・視床下部(中枢性・依存性)かを教える。

ACTH依存性とわかった後——下垂体性か異所性かをどう分けるか

ACTH依存性のCushing症候群と判定できても、原因が下垂体性かかはACTH単独では決められない。

  • :下垂体性はなお部分的にフィードバックが保たれているため抑制されやすいが、異所性は抑制されにくい。
  • CRH刺激試験:下垂体性はCRHに反応してACTH・コルチゾールが上昇しやすいが、異所性は反応が乏しいことが多い。
  • :両側下錐体静脈洞と末梢のACTH比を測定し、下垂体からの分泌かどうかを直接確認する。画像所見と生化学的所見が一致しない場合に検討する。
  • ⚠️ 低K血症・急速な症状の進行・著明なACTH高値はを示唆する所見である。 では他の原因によるCushing症候群より低K血症の頻度が明らかに高い1。ただしCushing病でも低K血症を来すことがあり、この所見だけで異所性と決めつけてはならない。

⚠️ 測定上の注意

このノートで最も重要な節である。ACTHはの中でもとりわけ検体が壊れやすく、採血条件を誤ると数値そのものが信用できなくなる。

  • ⚠️ が大きく、採血時刻を決めずに測ると解釈できない。 原則として早朝に採血する。深夜の値はCushing症候群の評価とは別の意味を持つため、目的によって採血時刻の意味が変わることに注意する。
  • ⚠️ ACTHはプロテアーゼによって分解されやすく、ガラス器材に吸着する。 冷却したEDTA採血管(製)で採血し、氷冷して速やかに・血漿分離・凍結する。常温で長時間放置するとになりやすい2
  • ストレス・疼痛・急性疾患・低血糖はいずれもACTHを実際に上昇させる。採血そのものの侵襲も上昇因子になり得るため、可能なら安静下で採血する。
  • 投与はACTHを抑制する。など一部のは血中コルチゾール測定にするが、しないため、コルチゾール系の検査を予定する際にはが選ばれる。
  • 摂取による干渉、によるがありうる。原因不明の乖離を見たらを疑う。
  • のため、単回値の再現性は低い。 境界域の値を1回の測定だけで解釈せず、必要なら条件をそろえて再検する。

経時変化とモニタリング

  • の補充量調整にACTHを指標として使わない。 適切な補充を受けている患者でもACTHはしばしば高値のまま残り、ACTHの正常化を目指して増量すると過剰補充になる。モニタリングは、体重、起立性血圧、電解質などで行う3
  • Cushing病の術後は、ACTH・コルチゾールの低下(多くは一時的な副腎不全を伴う)をもって寛解と判定し、再発の有無を追跡する。
  • の治療モニタリングでは、17-OHPとアンドロゲンが主な指標であり、ACTHそのものは治療調整の指標としては用いない。

まとめ

  • ACTHはCRH―ACTH―コルチゾール軸の中間に位置し、POMCという共通の前駆体からMSH様ペプチドも同時に生じるため、では色素沈着を来す。
  • 絶対値ではなく、同時測定したコルチゾールとの組合せで読む。ACTH高値・コルチゾール低値は、ACTH低値・コルチゾール低値は、ACTH高値(または)・コルチゾール高値はACTH依存性Cushing症候群、ACTH低値・コルチゾール高値はACTH非依存性Cushing症候群を示す。
  • ACTH依存性とわかった後は、・CRH刺激試験・で下垂体性か異所性かを鑑別する。低K血症・急速な進行・は異所性を示唆する。
  • 測定は、検体の分解・吸着、ストレス、干渉、による再現性の低さに注意が必要で、冷却したEDTA採血管での速やかな処理が欠かせない。
  • 副腎不全の補充量調整にACTHを指標として使わず、で判断する。CAHでは17-OHPとアンドロゲンが主指標であり、ACTHは指標にしない。
  • 」はコルチゾールの反応を見る別の検査であり、ACTH測定そのものと混同しない。

出典

  1. 1.Diagnosis and Treatment of Primary Adrenal Insufficiency: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2016)グルココルチコイド補充量の調整にACTH値を指標として用いるべきではなく、体重・起立性血圧・臨床症状など臨床所見で評価すべきとする推奨(ACTHの正常化を目指すと過剰補充になりやすいため)を確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Is the stability of ACTH in whole blood a genuine concern during the preanalytical phase? A systematic review(Biochemia Medica・2025)ACTHは常温保存では時間経過とともに濃度が有意に変化しうる一方、冷却下では変化が抑えられることを確認し、検体の冷却・速やかな遠心分離という取り扱いを支持する知見を確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.Association of hypertension and hypokalemia with Cushing's syndrome caused by ectopic ACTH secretion: a series of 58 cases(Annals of the New York Academy of Sciences・2002)異所性ACTH症候群58例の検討で、低K血症の頻度(57%)が他の原因によるCushing症候群より明らかに高いことを確認した。閲覧 2026-08-02