疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

原発性副腎不全

Primary adrenal insufficiency

別名
Addison diseaseアジソン病
臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal MedicinePathophysiologyPathologyPediatrics
トピック
内科学 E-06:糖質コルチコイド欠乏と過剰内科学 L-31:副腎不全病態生理学 I-20:急性・慢性副腎皮質機能低下症・先天性副腎過形成病理学 C/88:副腎の機能異常・腫瘍小児科 3-16:小児副腎疾患
鑑別疾患
下垂体機能低下症
続発疾患
低血糖(非糖尿病性)
関連疾患
クッシング症候群バセドウ病甲状腺機能低下症副甲状腺機能低下症副腎皮質癌
治療薬
ヒドロコルチゾンフルドロコルチゾンプレドニゾロンデキサメタゾンデヒドロエピアンドロステロン
原因薬剤
エトミデート
原因微生物
Mycobacterium tuberculosisサイトメガロウイルスHistoplasma capsulatum
症状
悪心下痢筋力低下倦怠感食欲不振体重減少低血圧腹痛嘔吐
検査値
カリウムアルブミンコルチゾールACTHコルチゾール結合グロブリン低ナトリウム血症17-ヒドロキシプロゲステロンDHEA-SACTH刺激試験
組織像
副腎出血(肉眼標本)
元疾患
免疫関連有害事象
原因となる疾患
HIV感染症・AIDSWaterhouse-Friderichsen症候群ヒストプラズマ症結核自己免疫性多内分泌腺症候群1型先天性副腎過形成副腎白質ジストロフィー
適応薬
デヒドロエピアンドロステロン
禁忌薬
アミロリドエトミデートエプレレノンスピロノラクトンドロスピレノンフィネレノンミフェプリストンメチラポンリチウムレボチロキシン

🧠 全体像)は副腎皮質そのものが破壊される病気で、だけでなくも失われる点が、下垂体・視床下部の障害による続発性・(中枢性)副腎不全と決定的に違う。中枢性ではレニン‐がACTHに依存せず保たれるため、は温存される。原発性ではコルチゾール低値に対する負のフィードバック消失でACTHが著明に上昇し、その前駆体POMCから皮膚・粘膜の色素沈着が生じる。診断は「朝のコルチゾール・ACTH同時測定→判定困難なら→血漿ACTHで原発性・中枢性を鑑別→原因検索」の順で組み立て、治療はの補充と教育を両輪とする。を疑ったら、検査結果を待たずを直ちに投与する。

病因・病態生理

視床下部ののACTH分泌を促し、ACTHが副腎皮質()からのコルチゾール分泌を刺激する。コルチゾールは視床下部・下垂体の双方に負のフィードバックをかけ、CRH・ACTHを抑制する。副腎皮質にはこの経路のほかに、からのがあるが、こちらは主にレニン‐と血清K値で調節され、ACTHへの依存度は小さい。

は、この副腎皮質そのものが広範に破壊される病態である。⭐ 副腎皮質はが非常に高く、が出るまでには皮質の90%以上が破壊される必要がある。皮質全体が障害されるため、由来のコルチゾールだけでなく由来のアルドステロンも失われるのが原発性の本質であり、これが中枢性(続発性・)副腎不全との最大の違いになる。

flowchart TD
    A["視床下部:CRH"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior pituitary'>下垂体前葉</span>:ACTH"]
    B --> C["副腎皮質:コルチゾール産生"]
    C -->|"負のフィードバック"| A
    C -->|"負のフィードバック"| B
    D["副腎皮質の90%以上が破壊<br>(自己免疫・感染・出血・浸潤・遺伝性酵素欠損など)"] --> E["コルチゾール産生低下"]
    D --> F["アルドステロン産生低下"]
    E --> B
    B --> G["負のフィードバック消失により<br>ACTHが著明に上昇"]
    G --> H["ACTH前駆体POMCに由来する<br>MSH様作用で皮膚・粘膜が色素沈着"]
    F --> I["Na⁺再吸収低下・K⁺/H⁺排泄低下"]
    I --> J["低血圧・低Na血症・高K血症"]

💡 「原発性=腺そのものの問題」と捉えると、が両方失われること、ACTHが行き場を失って高値になること、その副産物として色素沈着が生じることまで、一本の論理でつながる。

主な原因

分類 代表例
自己免疫性(先進国で最多、約80〜90%) (単独、またはの一部)
感染症 結核(発展途上国で依然として重要な原因)、HIV感染症・AIDSに伴う感染やなどの真菌感染
出血・梗塞 髄膜炎菌敗血症に伴う中の出血、、外傷・手術後
転移・浸潤性疾患 肺癌・乳癌などの転移、リンパ腫、
薬剤性 などの副腎を誘発することがある)
遺伝性 欠損が最多)、(adrenoleukodystrophy、X連鎖性)、AIRE遺伝子異常による1型(APS-1)、先天性副
外科的 両側副

抗体(21-hydroxylase antibody)が陽性となることが多く、単独で起こるほか、)、1型糖尿病、などと合併する(APS-2、いわゆるSchmidt症候群)の一部として生じることがある。まれなAPS-1ではが三徴となる。

⚠️ 結核・HIV感染症・AIDSに伴う症は、に次ぐ重要な原因であり、免疫不全患者や結核既往のある患者でを疑う手掛かりになる。

先天性副腎過形成(簡略)

は、コルチゾール合成酵素の遺伝性欠損により、コルチゾール低下→ACTH上昇→副腎過形成と、欠損酵素より上流の前駆体がアンドロゲン合成へ流れ込む病態で、小児・若年者におけるの重要なである。

酵素欠損 頻度 コルチゾール・アルドステロン アンドロゲン 血圧・電解質
欠損 最多(約90〜95%) 低下(では著明) 増加 は低血圧・低Na・高K
まれ コルチゾール低下、増加 増加 高血圧・低K
17α-水酸化酵素欠損 まれ コルチゾール・性ステロイド低下 低下 高血圧・低K

欠損の古典的では、に嘔吐・体重増加不良・脱水・低Na血症・高K血症・ショックを来しうる。ではを測定する。CAHの詳細な病型・性分化への影響は小児内分泌領域の各論で扱うが、の鑑別としては「乳児期からの塩喪失・電解質異常+外性器の非」を見たらCAHをする。

臨床像

一般症状

  • 、筋力低下、体重減少、
  • 悪心・嘔吐、腹痛、下痢(と誤認されることがある)
  • 抑うつ、などの非特異的症状

ミネラルコルチコイド欠乏による症状(原発性に特徴的)

⭐ ここがとの最大の鑑別点である。中枢性ではレニン‐が保たれるため、以下の所見は目立たない。

  • 低Na血症
  • 高K血症、軽度の代謝性アシドーシス

色素沈着

ACTH前駆体であるPOMC(proopiomelanocortin)が切断される過程で刺激ホルモン様のペプチドも生じるため、ACTHが著明に高いでは皮膚・粘膜の色素沈着を来す。手掌線、口腔粘膜、瘢痕、圧迫を受けやすい部位(肘・膝・)で目立ちやすい。ではACTHが低いため色素沈着は通常みられない。

女性では副腎アンドロゲンの低下によりの減少を伴うことがある。

副腎クリーゼ

は急性の循環不全を来す生命を脅かす病態で、感染症、消化器炎、手術、外傷、両側、既知の副腎不全患者でのステロイド急な中断などを契機に起こる。低血圧・ショック、強い感、意識障害、発熱、悪心・嘔吐、下痢、激しい腹痛、低Na血症、低血糖、腎障害を来し、原発性では高K血症を伴いやすい。

⚠️ は検査結果を待たず治療を開始する。血液検査のために治療を遅らせてはならない。

原発性と中枢性(続発性・三次性)副腎不全の比較

項目 続発性・(中枢性)副腎不全
障害部位 副腎皮質そのもの
血漿ACTH 高値 低値または不適切に正常
障害される(アルドステロン低下) 通常保たれる(レニン‐はACTHに大きく依存しない)
色素沈着 あり得る 通常なし
血清K 高値になり得る 通常正常
代表的原因 、結核などの感染、両側、転移・浸潤、、両側副 下垂体腫瘍・手術・放射線、長期の急な中止

⚠️ 続発性・でも、感染・手術などの強いストレス下では相対的なコルチゾール不足から循環不全を来しうるため、「高K血症がないからではない」と機械的に除外してはならない。

診断

安定した患者では朝(8〜9時)のコルチゾールとACTHを同時に採血し、判定が難しければ標準用量(250 µg)の(ACTH stimulation test、)で確認する。刺激後30分または60分のコルチゾールが(アッセイに依存するが、目安として約500 nmol/L〔18 µg/dL〕)を満たさなければ副腎不全と判定するが、この閾値は測定法(アッセイ)ごとに異なりうる点に注意する1

血漿ACTHは原発性か中枢性かを分ける中心的な検査であり、原発性では高値、中枢性では低値または不適切に正常となる。原発性ではさらに(またはレニン濃度)とアルドステロンを測定し、レニン上昇・アルドステロン低下を確認する。抗体が陽性であればと診断できる。抗体陰性や非典型例では、副腎CTで出血・浸潤性病変・転移・両側腫大の有無を検索し、必要に応じて感染症検査(結核、HIV等)や遺伝学的検査(CAH、など)を追加する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Malaise'>倦怠</span>感・体重減少・低血圧・色素沈着などから<br>副腎不全を疑う"] --> B{"ショック・重症症候を伴うか"}
    B -->|"はい"| C["採血は行うが結果を待たず<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrocortisone'>ヒドロコルチゾン</span>を直ちに投与"]
    B -->|"いいえ・安定"| D["午前8〜9時のコルチゾールとACTHを同時測定"]
    D --> E{"診断が確定的か"}
    E -->|"低コルチゾール+ACTH高値が明らか"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary adrenal insufficiency'>原発性副腎不全</span>と診断"]
    E -->|"判定困難"| G["標準250 µg <span class='jp-term jp-term-diagram' title='ACTH stimulation test'>ACTH刺激試験</span>"]
    G --> H{"刺激後コルチゾールが基準を満たすか"}
    H -->|"満たさない"| F
    H -->|"満たす"| I["副腎不全の可能性は低い"]
    F --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma renin activity'>血漿レニン活性</span>・アルドステロン、<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='21-hydroxylase'>21-水酸化酵素</span>抗体を確認"]
    J --> K{"抗体陰性・非典型例か"}
    K -->|"はい"| L["副腎CTで出血・浸潤・転移・感染を検索"]
    K -->|"いいえ"| M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoimmune adrenalitis'>自己免疫性副腎炎</span>として管理"]

💡 早朝コルチゾールが明らかに低ければ診断的価値が高いが、正常〜軽度低値ではが必要になる。妊娠・エストロゲン投与・・重症疾患はを増減させ、活性を持つが保たれていても総コルチゾール値を動かすため、これらの状況では判定に注意する。

⚠️ 重症例・が疑われる状況では、可能であればコルチゾール・ACTHを採血してもよいが、結果を待って治療を開始してはならない。はコルチゾール測定への干渉が少なく、治療しながら同日にを行いたい場合の選択肢になり得るが、危機的な状況では第一選択の投与を優先し、遅らせてはならない。

治療

慢性期の維持療法

治療 内容
補充 を1日2〜3回に分割し、朝を多く午後・夕を少なくして生理的なに近づける。の1日1〜2回投与も代替になり得る
補充 を、血圧・の有無・Na/K・で調整する(ACTH値では調整しない)
DHEA 標準的な必須補充ではないが、十分な糖質・補充後もQOL低下やが持続する一部の女性で試行を検討する
発熱・嘔吐・処置・手術など、ストレスの程度に応じてグルココルチコイドを増量する。「常に2倍」のような画一的な規則ではなく重症度に応じて個別化する
患者教育 ステロイド緊急カード・医療識別票の携帯、緊急注射キットの携行と本人・家族への/筋注の実技指導、嘔吐で内服できない場合は筋注へ切り替えて救急受診
経過観察 体重、血圧(起立性を含む)、感などのと電解質・レニンで用量を調整する。は体重増加・高血圧・・骨量低下を招くため、コルチゾール値だけで機械的に増減しない

⚠️ グルココルチコイドを長期内服している患者では、原疾患を問わず急な中止が二次性の副腎不全・を招くため、が原則である。

副腎クリーゼの救急管理

は検査確定を待たず直ちに治療する2

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenal crisis'>副腎クリーゼ</span>を疑う<br>(ショック・低血圧・強い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Malaise'>倦怠</span>感・嘔吐・腹痛・低Na・高K・低血糖)"] --> B["可能な範囲で採血のうえ、結果を待たず治療開始"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrocortisone'>ヒドロコルチゾン</span>100 mgを直ちに静注または筋注"]
    C --> D["0.9%<span class='jp-term jp-term-diagram' title='saline'>生理食塩液</span>を急速輸液<br>(目安として初回1時間で約1000 mL、以後24時間で4〜6 L程度)"]
    D --> E["低血糖があればブドウ糖を追加"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrocortisone'>ヒドロコルチゾン</span>200 mg/24時間の持続静注<br>または50 mgを6時間ごとに投与"]
    F --> G["感染などの誘因を検索し治療"]
    G --> H["血圧・尿量・電解質・血糖を頻回に監視"]
    H --> I["高用量<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrocortisone'>ヒドロコルチゾン</span>投与中は<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fludrocortisone'>フルドロコルチゾン</span>の追加は通常不要"]

輸液量は年齢、心・腎機能、脱水やショックの程度に応じて調整し、固定した量を機械的に用いない。高齢者や心・腎機能低下例ではによる肺水腫に注意する。誘因(感染症など)の検索と治療を並行し、電解質・血圧・尿量を頻回にフォローする。

まとめ

  • )は副腎皮質そのものの破壊により、の両方が失われる病態で、続発性・(中枢性)では軸が保たれる点が最大の違いである。
  • 原因はが先進国で最多(約80〜90%)で、結核などの感染症、両側など)、転移・浸潤性疾患、薬剤性、をはじめとする遺伝性疾患が続く。
  • 臨床像は感・体重減少などの一般症状に加え、・低Na血症・高K血症といった欠乏の所見、ACTH高値による色素沈着が特徴で、これらが中枢性との鑑別点になる。
  • 診断は朝のコルチゾール・ACTH同時測定とで副腎不全を確認し、血漿ACTHで原発性・中枢性を鑑別、レニン・アルドステロン・自己抗体・画像で原因を絞り込む。
  • 治療は等のを補充し、と緊急時の教育を徹底する。
  • は採血結果を待たず、100 mgの静注・筋注との急速輸液を直ちに開始する。

出典

  1. 1.Diagnosis and Treatment of Primary Adrenal Insufficiency: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2016)標準用量ACTH刺激試験で刺激後コルチゾールが約500 nmol/L(18 µg/dL)を満たさなければ副腎不全とする判定と、この閾値が測定法(アッセイ)に依存して変わりうる点を確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Guidance for the prevention and emergency management of adult patients with adrenal insufficiency(Society for Endocrinology・2020)副腎クリーゼの初期対応としてヒドロコルチゾン100 mgの静注・筋注、その後200 mg/24時間の持続静注または50 mgを6時間ごとに投与する現行プロトコルを確認した。閲覧 2026-08-02