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デヒドロエピアンドロステロン硫酸

DHEA-S

別名
DHEAS硫酸デヒドロエピアンドロステロンDHEA sulfate
臓器系
内分泌・代謝生殖・産婦人科
科目
Medical PhysiologyInternal MedicineTranslational Medicine and Pathophysiology
トピック
生理学 7.2:副腎皮質の機能内科学 L-31:副腎不全病態生理学 1-20:急性・慢性副腎皮質機能低下症;先天性副腎過形成
関連疾患
アンドロゲン産生腫瘍クッシング症候群原発性副腎不全思春期早発症尋常性痤瘡先天性副腎過形成副腎皮質癌卵巣過剰莢膜症
監視対象薬
デヒドロエピアンドロステロン

🧠 全体像:は副腎皮質のがほぼ独占的に産生するステロイドであり、高アンドロゲン症を評価する際に「副腎性かか」を切り分ける数少ない手掛かりになる。英国内分泌学会の2025年指針は、高アンドロゲン症のまたは生化学所見をもつ患者全例でを測定すべきとし、その位置づけを「活性アンドロゲンの高値が副腎由来か卵巣由来かを判別するための重要な補助検査」と述べている1。しかし「この値を超えたら精査」と言える確立した単一のは置かれていない——分かりやすい閾値を期待して読むと最も誤解しやすい点である。そのものを手掛かりにし、臨床像・画像とあわせて判断する。

何を測っているか

は、で合成される()が、SULT2A1によってを受けた分子である。自体は卵巣や末梢組織でもわずかに産生されうるが、への変換はほぼ副腎に限られるため、は副腎由来をほぼ特異的に示すマーカーとして扱われる。そのものはをほとんど活性化せず(英国内分泌学会2025年指針は「not androgenic」と明記する)、副腎由来のC19ステロイドの主役として、末梢組織でテストステロン・エストロゲンへ変換される前駆体の位置にある1。

臨床で実際に測るのはではなくだが、その理由は両者の血中動態の違いにある。

項目
短い(分単位) 長い(数時間程度)
大きい(のに伴いコルチゾールと並行して変動) ほとんどない
血中濃度 低い 高い(の100倍以上)
由来の特異性 副腎・卵巣・末梢組織 ほぼに特異的
単回採血での解釈 のため難しい 随時採血で評価できる

💡 「なぜではなくを測るか」はこの表の3行目までで説明がつく。 は半減期が短くが大きいため単回値の解釈が難しいが、は半減期が長く血中濃度も高いためにがほとんどなく、随時採血で足りる。

flowchart TD
    A["ACTH"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zona reticularis'>副腎皮質網状帯</span>"]
    B --> C["DHEA"]
    C -->|"SULT2A1(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulfotransferase, ST'>硫酸転移酵素</span>)"| D["DHEA-S"]
    D --> E["末梢組織<br>アロマターゼ・17β-HSD等"]
    E --> F["テストステロン・エストロゲンへ変換"]

基準値と単位

代表的な単位はμg/dLとμmol/Lで、測定法・施設で幅があり報告書のを優先する。

1 μmol/L≈36.8 μg/dL1\ \mu\mathrm{mol/L} \approx 36.8\ \mu\mathrm{g/dL}

⚠️ のは年齢差が極めて大きく、成人のをそのまま小児・高齢者に当てはめてはならない。

時期 の動き
出生時〜乳児期早期 由来で一時的に高値、生後急速に低下
小児期(乳幼児期〜学童期前半) 低値のまま推移する(前の谷)
(副腎皮質機能発来、目安は女児8歳・男児7歳頃) の機能発現に伴い上昇し始める2
思春期〜20代 上昇を続け、20代前後でピークに達する
30代以降 加齢とともに直線的に低下し、70〜80歳では若年成人の10〜20%程度になる3

したがって「内かどうか」は必ず年齢・性別を揃えたで判定する。同じ数値でも学童期の子どもと成人とでは意味がまったく異なる。

高値の意味

高値は副腎性の指標であり、機序で群分けすると整理しやすい。

機序 代表例 手掛かり
による自律産生 、急速発症の高アンドロゲン症・男性化、画像上の悪性所見
酵素欠損による前駆体シャント (非古典型を含む) 緩徐進行の高アンドロゲン症状、高値
ACTH依存性の駆動 依存性のCushing症候群(下垂体性・) 高値、コルチゾール過剰の他の所見
副腎皮質機能の早期発現 (性) 年齢相応のとの比較が必須

⚠️ 同じCushing症候群でも、原因によっての動きは逆になる。 依存性のCushing症候群ではがを駆動しも上昇するが、によるCushing症候群ではが抑制されるためはむしろ低下する。この乖離はCushing症候群の原因診断(依存性か非依存性か)を絞り込む手掛かりになる。

💡 前述のとおり、には確立した単一の閾値はない。英国内分泌学会2025年指針は、現時点で頑健なデータが無く、英国・アイルランドの測定プフォーム間の差が大きいことを理由に、「これを超えたら以外の病態の精査を始める」という特定の閾値を推奨しないと明記している1。⚠️ 「閾値が無い」の対象は腫瘍だけではなく、非PCOS病態の精査を始める基準そのものである。 高アンドロゲン症の評価で「テストステロン優位なら、優位なら副腎性」という原臓器推定の手がかりにはなるが、この振り分けだけで確定診断はできない。

痤瘡(ざ瘡)を入口にDHEA-Sを測るとき

⭐ は、・女性型脱毛・男性化と並ぶ高アンドロゲン症のである。 英国内分泌学会2025年指針は、高アンドロゲン症のや疑いをもって受診した女性では・・女性型脱毛・男性化の4つを評価すべきと推奨し、そのうえでまたは生化学所見をもつ患者全例でを測るよう求めている1。したがっては、そのものの重症度を測る検査ではなく、という皮膚所見の背後に副腎由来のがあるかを問う検査である。

の出方 同指針の記述 を含む内分泌検査の位置づけ
思春期の治療抵抗性 高アンドロゲン症を示唆することが多い 標準治療で改善しないことを高アンドロゲン症の手掛かりとして扱う
成人まで持続する・成人発症の・思春期に一度軽快してした いずれもアンドロゲン関連のとしてありうる出方である 発症時期だけでを除外しない
閉経後の まれである。重症な所見を伴う場合は速やかにアンドロゲン値を評価する ⚠️ 急速発症・男性化を伴えばを想定する

💡 が単独で出ていてもの対象から外れない。 同指針は、が他の高アンドロゲン症の所見を欠いて生じうる一方で、のある女性の50%超でアンドロゲン高値が同定されるという報告を引いている(同指針自身の結果ではなく、引用された研究の値である)1。⚠️ この指針が扱っているのは「高アンドロゲン症として受診・精査される女性」である。 そのものの診療(・・などの選択)を規定する文書ではないので、の一般診療における内分泌検査の適応は側の指針とあわせて判断する(→)。

低値の意味

低値は副腎皮質機能の低下、またはによる駆動の低下を反映する。

機序 代表例 手掛かり
() 高値、コルチゾール低値、色素沈着
(欠損) による分泌低下 低値〜、他のの低下
加齢による生理的低下 高齢者の生理的な低値() 年齢相応のとの比較が必須、他の異常所見を伴わない
慢性ステロイド投与による抑制 長期グルココルチコイド投与による抑制 ステロイド使用歴、急な減量・中止歴

単独でも副腎不全の評価に 0.81程度の診断性能を示すとの報告があるが、直近のグルココルチコイド使用があると性能が低下する( 0.72程度)ため、単独診断ではなくコルチゾール値・臨床経過とあわせて解釈する4。

⚠️ 測定上の注意

  • ⚠️ 確立した閾値がない。 英国内分泌学会2025年指針は、頑健なデータの不足と英国・アイルランドの測定プフォーム間差を理由に、非PCOS病態の精査を始める特定の閾値を推奨しないとしている1。であること、他の(急速発症・男性化)・画像所見と組み合わせて評価する。
  • ⚠️ 測定法によって系統的にずれる。 英国ではが最も広く使われているが、多くの製造元の測定値はと比べ高値側へ偏る(標準化と特異性の問題とされる)。同指針は可能なかぎり十分に検証されたで測定し、結果は年齢別および閉経前後で層別したエビデンスに基づくに照らして解釈するよう求めている1。
  • ⚠️ 「アンドロゲンが上がっていないからではない」と読むのは誤り。 によるCushing症候群ではがむしろ低いことがあり、単独の高低での有無を判断してはならない。
  • のの服用歴があると偽性に高値となる。高値を見たらで使用歴を必ず確認する。
  • 妊娠・経口避妊薬の使用は血中アンドロゲン全般の解釈に影響しうるため、とあわせて評価する。
  • の種類によって・精度が異なり、境界域の値は測定法を確認したうえで解釈する。

経時変化とモニタリング

はがほとんどないため、コルチゾールのように採血時刻をそろえる必要がなく、随時採血で評価できる。この点は、が大きく採血タイミングの管理が必須なやコルチゾールとは対照的である。

やの治療では、17-OHPやテストステロンとあわせての推移を追うことで、治療反応や腫瘍の再発を評価する。腫瘍摘出後にが正常化しない、あるいは治療後にする場合は、残存病変や再発を疑う契機になる。

まとめ

  • はがほぼ独占的に産生し、からSULT2A1によりされて生じる。半減期が長くがほとんどないため随時採血で評価できる。
  • は年齢差が極めて大きく、(女児8歳・男児7歳頃)で上昇し、20代でピークに達したのち加齢とともに直線的に低下する。年齢・性別を揃えて判定する。
  • 高値は・・依存性Cushing症候群・など、機序で群分けして考える。
  • によるCushing症候群ではがむしろ低下しうる——「アンドロゲン非上昇=なし」ではない。
  • 低値は原発性・、加齢、慢性ステロイド投与による抑制で説明できる。
  • 高アンドロゲン症の(・・女性型脱毛・男性化)または生化学所見がある女性では、活性アンドロゲンが副腎由来か卵巣由来かを判別する補助検査としてを測る。閉経後の重症なは速やかにアンドロゲン値を評価する1。
  • 非PCOS病態の精査を始める確立した単一のは置かれていない(頑健なデータの不足と測定プフォーム間差が理由)。であること自体と臨床像・画像を組み合わせて判断する1。

出典

  1. 1.Society for Endocrinology Clinical Practice Guideline for the Evaluation of Androgen Excess in Women(Society for Endocrinology・2025)PMC12413683の全文で次を確認した。6.5節が逐語で「DHEAS should be measured in all patients with clinical or other biochemical features of androgen excess.」「Elevated DHEAS concentrations strongly suggest an adrenal source of androgen excess and are useful in the biochemical work up of an adrenal mass」「DHEAS measurement is an important adjunctive test when discriminating whether elevated active androgen concentrations are of adrenal or ovarian origin.」とし、閾値については「Due to the absence of robust data at present and in view of significant variability in laboratory platforms for measuring DHEAS in the United Kingdom and Ireland, at present we do not recommend a specific DHEAS threshold above which investigations for non-PCOS pathology should be triggered.」と述べていること(すなわち閾値を置かない対象は「副腎腫瘍」ではなく「非PCOS病態の精査を開始する基準」であり、理由は頑健なデータの不足と英国・アイルランドの測定プラットフォーム間差である)。同節が「Although not androgenic, DHEAS is the major adrenally derived C19 steroid.」「Synthesis occurs almost exclusively in the adrenal gland」とし、日内変動が無く月経周期を通じても有意な変化が無い一方で加齢とともに低下すること、英国では免疫測定法が主流でLC-MS/MSに比べ高値側へ偏る傾向があること。臨床評価の推奨1が「Women presenting with clinical features or suspicion of androgen excess should be assessed for hirsutism, acne, female pattern hair-loss and virilisation.」であること。5.1.1 Acne が「Treatment-resistant acne is often indicative of hyperandrogenism in puberty.」「Androgen-related acne may continue into adulthood (persistent acne), may occur for the first time in adulthood (adult-onset acne) or may re-present after resolution in adolescence (recidivant acne).」「Postmenopausal acne is uncommon, and where severe features of this occur, a prompt assessment of androgen levels should be undertaken」と述べ、痤瘡のある女性の50%超でアンドロゲン高値が同定されるという報告を文献123として引いていること(同ガイドライン自身の結果ではない)。閲覧 2026-09-13
  2. 2.Reference values for serum dehydroepiandrosterone-sulphate in healthy children and adolescents with emphasis on the age of adrenarche and pubarche(Clinical Endocrinology・2015)健常小児531人の検討で、血清DHEA-Sが立ち上がるアドレナーキ(副腎皮質機能発来)年齢の目安が女児8.0歳・男児7.0歳であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.A Review of Age-Related Dehydroepiandrosterone Decline and Its Association with Well-Known Geriatric Syndromes: Is Treatment Beneficial?(Rejuvenation Research・2013)DHEA・DHEA-Sは20〜30代でピークに達した後は加齢とともに直線的に低下し、70〜80歳では若年成人の10〜20%程度にまで下がる「アドレノポーズ」現象を示すことを確認した。閲覧 2026-08-02
  4. 4.Performance of Dehydroepiandrosterone Sulfate and Baseline Cortisol in Assessing Adrenal Insufficiency(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2025)DHEA-S単独でも副腎不全評価にAUROC 0.81程度の診断性能を示すが、直近のグルココルチコイド使用があるとAUROCが0.72まで低下し性能が損なわれることを確認した。閲覧 2026-08-02