内科学

内科学 · L-31

副腎不全

Adrenal Insufficiency

前提:病態
急性・慢性副腎皮質機能低下症;先天性副腎過形成
前提:正常
副腎皮質の機能副腎皮質のステロイドホルモン合成
疾患
原発性副腎不全三A症候群尋常性白斑
検査値
ACTH刺激試験コルチゾールコルチゾール結合グロブリンデヒドロエピアンドロステロン硫酸低ナトリウム血症副腎皮質刺激ホルモン

🧠 全体像:副腎不全はを本態とし、原発性ではアルドステロンも低下して高K血症・低血圧・色素沈着を来す。は検査結果を待たず、 100 mg静注/筋注とを直ちに開始する。

分類と原因

分類 障害部位・ホルモン 主な原因 鑑別の手掛かり
原発性 副腎;コルチゾール・アルドステロン低下 、結核、両側出血・梗塞、転移・浸潤、感染、、両側 高値、色素沈着、高K、レニン高値
二次性 下垂体;低下 ・手術・照射、出血、浸潤 低値/、通常はK正常
視床下部―下垂体抑制 長期グルココルチコイドの急な中止、Cushing治療後 使用薬・減量歴、他の下垂体症状

原発性だけでなく、吸入・外用・を含むグルココルチコイド曝露も確認する。二次性・ではレニン–angiotensin系が保たれるため、重い高K血症やは通常目立たない。

視床下部のCRHは下垂体ACTHを介して副腎コルチゾール分泌を促し、コルチゾールは視床下部・下垂体へ負のフィードバックをかける。したがってはコルチゾール低値に対して高値となり、ではが低値またはとなる。

臨床像

  • 易疲労、筋力低下、食欲低下、体重減少、悪心・嘔吐、腹痛、下痢。
  • 、、低Na血症、低血糖。原発性では高K血症・代謝性アシドーシスを伴い得る。
  • 原発性では手掌線、瘢痕、口腔粘膜、圧迫部の色素沈着。女性では副腎アンドロゲン低下により・減少を来し得る。
  • 、1型糖尿病、などの合併はを示唆する。

診断

flowchart TD
    A["副腎不全を疑う"] --> B{"循環不全・重症症状"}
    B -->|"あり"| C["可能ならコルチゾール・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>採血後、直ちに治療"]
    B -->|"なし"| D["8–9時コルチゾール+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>"]
    D --> E["判定困難なら標準量<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>刺激試験"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>高値か"}
    F -->|"はい"| G["原発性:レニン・アルドステロン、自己抗体、原因検索"]
    F -->|"いいえ"| H["中枢性:他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothalamic-pituitary axis'>下垂体軸</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary MRI'>下垂体MRI</span>"]

朝のコルチゾールが明らかに低ければ疑いが強く、刺激後のコルチゾール反応不良で確認する。標準用量(250 µg)法では、30分または60分のピークコルチゾールが 500 nmol/L(18 µg/dL)に達しなければ副腎不全と判定する1。ただしは測定法に依存し、発症早期のでは刺激試験が正常となり得る。

⚠️ 18 µg/dL という数字は「古いアッセイの値」である。 この閾値は旧来のによるから導かれたもので、現行のモノクローナル抗体法やは同じ検体で2〜3割低い値を返す。そのためは測定法別に 14〜15 µg/dL(386〜414 nmol/L)へ下がっており、18 µg/dLをそのまま新しいアッセイに当てはめると健常者を副腎不全とする2。試験では18 µg/dLで問われる可能性が高いが、実地では各検査室が採用しているアッセイのを確認する。低アルブミン・低、妊娠、エストロゲン投与、重症疾患も総コルチゾールの解釈を変える。

原発性では、レニン上昇とアルドステロン低下を確認し、21-hydroxylase抗体や感染・出血・浸潤を原因に応じて調べる。

💡 グルココルチコイド由来()の副腎不全では、ではなく朝のコルチゾールで判断する。 ESE/Endocrine Society 2024合同ガイドラインは、減量・中止の過程ではをルーチンに行わず、朝の血清コルチゾールを第一の検査として連続量として読むことを推奨する。目安は 10 µg/dL(300 nmol/L)超で軸が回復し中止可、5〜10 µg/dL なら生理量を続けて数週〜数か月後に再検、5 µg/dL 未満なら生理量を続けて数か月後に再検である3。また同ガイドラインはグルココルチコイド誘発性副腎不全にを用いないことを推奨する——レニン–angiotensin–アルドステロン系が保たれているためである3。

慢性期の治療と教育

  • を通常は朝多く、午後少なく分割して補充する。過量による体重増加、高血圧、・骨への害を避ける。
  • 原発性の不足にはを用い、血圧、起立症状、Na・K、レニンで調整する。
  • 発熱、感染、外傷、処置時はに従いグルココルチコイドを増量する。軽度のストレス(発熱、抗菌薬を要する感染、外傷、強い精神的ストレス、下の処置)では生理的補充量の2倍= 40 mg/日(起床時20 mg・正午10 mg・夕方10 mg)、他剤では10 mg/日相当をストレス期間中続ける3。
  • 嘔吐して内服不能なら注射へ切り替える。嘔吐・下痢が続くが入院を要しない段階では100 mgを筋注し、必要なら6時間後に反復する。症状が改善しない、または循環が不安定になれば入院させる3。
  • ステロイド緊急カード/医療、緊急注射キット、本人・家族への教育を行う。
  • は標準的な必須補充ではなく、適切な補充後も・が持続する一部の女性で試行を検討する。

副腎クリーゼ

感染、胃腸炎、手術、外傷、グルココルチコイド中断、両側などを契機に、低血圧・ショック、嘔吐、腹痛、発熱、意識障害、低Na、低血糖を来す。高K血症は原発性で目立つ。

  1. コルチゾール・、電解質、血糖、培養などを採取できれば採るが、治療を遅らせない。
  2. 100 mgを直ちに静注または筋注し、その後200 mg/24時間を持続静注する。ができなければ50 mgを6時間ごとに静注する43。
  3. 0.9%で循環を回復し、低血糖ならブドウ糖を加える。高齢・心腎機能低下ではに注意する。
  4. 誘因を治療し、血圧、尿量、血糖、Na・Kを頻回に追う。大量投与中は別途を通常要しない。

まとめ

  • 原発性は高値、色素沈着、高K、レニン高値が、中枢性は他の下垂体障害が手掛かりとなる。
  • 安定例は朝コルチゾール・と刺激試験で評価し、慢性期は補充量と教育を両輪とする。
  • では検査確定を待たず 100 mgとを開始する。

出典

  1. 1.Diagnosis and Treatment of Primary Adrenal Insufficiency: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2016)標準用量(250 µg)ACTH刺激試験で刺激後30分または60分のピークコルチゾールが約500 nmol/L(18 µg/dL)に達しなければ副腎不全とする判定と、この閾値が測定法(アッセイ)に依存して変わりうる点を確認した。閲覧 2026-08-25
  2. 2.New Cutoffs for the Biochemical Diagnosis of Adrenal Insufficiency after ACTH Stimulation using Specific Cortisol Assays(Journal of the Endocrine Society(Javorsky et al.)・2021)現行のモノクローナル免疫測定法やLC-MS/MSでは、ACTH刺激後ピークコルチゾールの正常下限が旧来のポリクローナル法に基づく一律18 µg/dLではなく測定法別に14〜15 µg/dL(386〜414 nmol/L)になることを示した。閲覧 2026-08-25
  3. 3.European Society of Endocrinology and Endocrine Society Joint Clinical Guideline: Diagnosis and Therapy of Glucocorticoid-Induced Adrenal Insufficiency(European Society of Endocrinology / Endocrine Society・2024)軽度のストレス(発熱、抗菌薬を要する感染、外傷、強い精神的ストレス、局所麻酔下の処置)では生理的補充量の2倍、すなわちヒドロコルチゾン40 mg/日(起床時20 mg・正午10 mg・夕方10 mgの3分割、他剤ではプレドニゾン10 mg/日相当)を投与すること、嘔吐・下痢が続くが入院を要しない患者にはヒドロコルチゾン100 mgを筋注し必要なら6時間後に反復すること、入院を要する場合はヒドロコルチゾン100 mgを静注または筋注し直ちに200 mg/24時間の持続静注(持続投与が不可能なら50 mgを6時間ごと静注)へ移ること、グルココルチコイド減量中の評価は朝の血清コルチゾールを第一の検査とし10 µg/dL(300 nmol/L)超でHPA軸の回復と判断して中止可・5〜10 µg/dLおよび5 µg/dL未満では生理量を継続して再検すること、減量・中止時に動的負荷試験をルーチンに行わないこと、グルココルチコイド誘発性副腎不全ではフルドロコルチゾンを用いないことを本文で確認した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.Guidance for the prevention and emergency management of adult patients with adrenal insufficiency(Society for Endocrinology・2020)副腎クリーゼの初期対応としてヒドロコルチゾン100 mgの静注・筋注、その後200 mg/24時間の持続静注または50 mgを6時間ごとに投与する現行プロトコルと、手術・侵襲的処置時のステロイドカバー、患者が携帯するステロイド緊急カードの必要性を確認した。閲覧 2026-08-25