内科学

内科学 · L-30

甲状腺機能低下症

Hypothyroidism

前提:病態
甲状腺機能低下症の発症機序と症状甲状腺・抗甲状腺薬
前提:正常
甲状腺ホルモンの産生と作用・分泌調節
疾患
甲状腺機能低下症
症状
筋痛
検査値
抗TPO抗体

🧠 全体像:甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモン作用不足で、原発性では高値+低値、中枢性では低値に対してが低値またはとなる。標準治療はで、年齢・冠疾患・妊娠・吸収・相互作用に合わせ、原発性は、中枢性はで調整する。

原因

分類 主な原因
原発性 Hashimoto甲状腺炎、、甲状腺切除・・頸部照射、薬剤、先天性
中枢性 下垂体・視床下部腫瘍、手術・照射、出血・梗塞、浸潤性疾患
一過性 産後・無痛性・の低下期、重症疾患

、、、過剰・不足ヨウ素などの薬剤・曝露を確認する。

臨床像

  • 易疲労、寒がり、体重増加、便秘、乾燥皮膚、脱毛、嗄声、筋痛・筋力低下。
  • 徐脈、、、浮腫、低換気。
  • 記憶・集中低下、抑うつ、、不妊、。
  • 高齢者では非特異的で、低Na、・・クレアチニン上昇が手掛かりとなる。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothyroidism'>甲状腺機能低下</span>を疑う"] --> B["TSH+FT4"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>高値+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free thyroxine'>FT4</span>低値:原発性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='revealed'>顕性</span>"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>高値+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free thyroxine'>FT4</span>正常:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='latent'>潜在性</span>"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free thyroxine'>FT4</span>低値+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>低値/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inappropriately normal'>不適切正常</span>:中枢性"]
    C --> F["TPOAb・原因薬・既往を評価"]
    E --> G["他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothalamic-pituitary axis'>下垂体軸</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>・副腎機能を評価"]

抗体はHashimotoを支持するが、抗体値を治療反応の追跡に使わない。T3は診断に通常不要で、超音波・核医学スキャンもびまん性機能低下のルーチン検査ではない。結節、左右差、急速増大がある場合に画像・穿刺を行う。

レボチロキシン治療

  • 若く心疾患のない例は体重に基づく補充量を用いる。残存機能がほぼ無い場合(後や進行した)の完全補充量の目安は約 1.6 µg/kg/日(成人で概ね88〜175 µg/日)で、軽症・でを補うだけなら25〜50 µg/日から始める1。高齢・冠動脈疾患では少量からゆっくり増量する。
  • 空腹時に水で一定条件で服用し、食事、鉄、Ca、、薬などとの間隔を空ける。
  • 原発性では開始・変更6〜8週後にを再検し、安定後は6〜12か月ごとに確認する。の半減期が約1週間で、的な定常状態に達するのが6週後だからである1。
  • 妊娠では必要量が早期から増えるため、妊娠判明時に直ちに連絡し頻回測定する。増量を要するのは妊娠女性の50〜85%、必要量の増加は30〜50%に達し、・後で最も大きい1。
  • 中枢性ではで調整せずを用い、治療前に副腎不全を除外・治療する。

やT3併用は標準第一選択ではない。 2014は単剤を標準治療とし、T4/T3併用やのを支持する一貫した強い根拠は無いとした2。

💡 ただし「決着済み」ではない。 ETA 2012は、が内に収まってもなお症状が残る患者が治療者の5〜10%いることを正面から認めたうえで、単剤を標準に据えたまま併用を「実験的な試み」として位置づけた。適用は、慢性疾患としての支援を受け併存自己免疫疾患を除外してもなお症状が残る例に限り、が開始し、改善が無ければ中止する——という条件付きである3。症状が残れば、服薬・吸収、貧血、睡眠、うつ、他疾患、を再評価する。

潜在性甲状腺機能低下症

高値・正常である。 ≥10 mIU/L、症状、抗体、甲状腺腫、妊娠・妊娠希望、若年、心血管リスクなどから治療を個別化する。ETA 2013は軽度上昇( 4.0〜10.0 mU/L)と高度上昇(10 mU/L超)に分け、症状が無くても65〜70歳未満でが10 mU/L超なら補充を推奨し、10 mU/L未満でも症状があれば試験的補充を3〜4か月試して改善が無ければ中止するとした。初回の上昇は・とともに2〜3か月後に再検する4。高齢者の軽度上昇を自動的に治療せず、反復測定と年齢、症状、利益・心房細動/骨折リスクを比較する。

⚠️ 「10 mU/L 未満は根拠が弱い」は印象論ではなく、試験で否定されている。 TRUST試験は65歳以上・ 4.60〜19.99 mIU/Lの737例を(開始50 µg/日、体重50 kg未満または冠動脈疾患では25 µg/日)とに割り付けた。は1年後に6.40→3.63 mIU/Lへ下がったのに、甲状腺の変化は群間差 0.0(95%CI −2.0〜2.1)、倦怠感スコアは群間差 0.4(95%CI −2.1〜2.9)で、にも有益性は無かった5。ベースラインの平均が6.40 mIU/Lであったこと——つまりこの試験の主対象がまさに「軽度上昇の高齢者」だったことが、の射程を決めている。

粘液水腫性昏睡

重度のが感染、寒冷、鎮静薬、手術などで破綻した状態で、「低下症の一型」ではない。意識障害、低体温、低換気、徐脈、低血圧、低Na、低血糖を来す。

  • で気道・換気、循環、電解質、誘因を治療し、受動的にする。
  • 副腎不全を除外できるまでを先行または同時投与する。
  • 静注を用い、選択例でを慎重に追加する。

Hashimoto・亜急性甲状腺炎

Hashimotoは/Tgに対する自己免疫性破壊で、無痛性甲状腺腫と低下を来す。は有痛性で、無痛性・とともに→低下期→回復の経過を取り得る。はのためを用いず、低下期のは症状・持続性に応じる。

まとめ

  • 原発性は高値+低値、中枢性は低値に不適切なで診断する。
  • を一定条件で服用し、原発性は、中枢性はで調整する。
  • は重症低下症の救急で、と静注甲状腺ホルモン、支持療法を行う。

出典

  1. 1.Levothyroxine Dose Adjustment to Optimise Therapy Throughout a Patient's Lifetime(Advances in Therapy(Duntas LH, Jonklaas J)・2019)残存機能の無い橋本病・甲状腺全摘後のレボチロキシン必要量の目安が約1.6 µg/kgであること、軽症・潜在性では25〜50 µg/日から、内因性分泌がほぼ無い例では88〜175 µg/日から開始すること、レボチロキシンの半減期が約1週間で薬物動態的定常状態に達する6週後にTSHを再評価すること、妊娠では50〜85%の女性が増量を要し必要量の増加は30〜50%に達し甲状腺全摘・アブレーション後で最大となること、高齢者では必要量が減り年齢調整TSH基準範囲を踏まえて過剰補充を避けることを本文で確認した。閲覧 2026-08-25
  2. 2.Guidelines for the treatment of hypothyroidism: prepared by the American Thyroid Association task force on thyroid hormone replacement(American Thyroid Association(Jonklaas et al.)・2014)レボチロキシン単剤が甲状腺機能低下症治療の標準治療であり、T4/T3併用療法や乾燥甲状腺末など代替療法の優越性を裏づける一貫した強い根拠はないことを確認した。閲覧 2026-08-25
  3. 3.2012 ETA Guidelines: The Use of L-T4 + L-T3 in the Treatment of Hypothyroidism(European Thyroid Association(Wiersinga et al., European Thyroid Journal)・2012)レボチロキシン治療中で血清TSHが基準範囲内にあるにもかかわらず甲状腺機能低下症状が残る患者が5〜10%いること、L-T4+L-T3併用がL-T4単剤より優れるという十分な根拠は無くL-T4単剤が標準治療であり続けるべきこと、併用は慢性疾患への支援を受け併存自己免疫疾患を除外したうえでなお症状が残る服薬遵守患者に対する実験的な試みとしてのみ考慮しうること、内分泌専門医が開始し改善が無ければ中止すべきことを抄録で確認した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.2013 ETA Guideline: Management of Subclinical Hypothyroidism(European Thyroid Association(Pearce et al., European Thyroid Journal)・2013)潜在性甲状腺機能低下症を軽度上昇(TSH 4.0〜10.0 mU/L)と高度上昇(10 mU/L超)に分けること、症状が無くても65〜70歳未満でTSH 10 mU/L超ならレボチロキシン補充を推奨すること、TSH 10 mU/L未満でも症状があれば試験的補充を考慮し3〜4か月後に症状改善が無ければ中止すること、最高齢層(80〜85歳超)ではTSHが10 mU/L以下なら治療を避け経過観察を優先すること、初回のTSH上昇はFT4・抗TPO抗体とともに2〜3か月後に再検すべきことを確認した。閲覧 2026-08-25
  5. 5.Thyroid Hormone Therapy for Older Adults with Subclinical Hypothyroidism(New England Journal of Medicine(Stott DJ et al., TRUST試験)・2017)65歳以上でTSH 4.60〜19.99 mIU/L・FT4正常の潜在性甲状腺機能低下症737例を対象とした二重盲検ランダム化比較試験。レボチロキシン群(開始50 µg/日、体重50 kg未満または冠動脈疾患では25 µg/日、中央値50 µg)はTSHを1年後に3.63 mIU/Lまで下げたが、甲状腺症状スコアの1年後の平均変化は偽薬0.2に対しレボチロキシン0.2(群間差0.0、95%CI −2.0〜2.1)、倦怠感スコアは3.2対3.8(群間差0.4、95%CI −2.1〜2.9)でいずれも差が無く、副次評価項目でも有益性は示されなかったことを抄録で確認した。ベースラインの平均TSHは6.40±2.01 mIU/Lであった。閲覧 2026-08-25