検査値ノート一覧へ

Lab values · Published

低ナトリウム血症

Hyponatremia

別名
低Na血症Hyponatraemia低張性低ナトリウム血症
臓器系
腎・泌尿器内分泌・代謝神経
科目
Translational Medicine and PathophysiologyInternal MedicineIntensive Therapy and AnesthesiologyPathologyPulmonology and Thoracic SurgeryNeurology
トピック
病態生理学 2-18:ナトリウム(Na+)と水分平衡の異常内科学 L-40:低Na血症・高Na血症麻酔科学 B-13:生命を脅かす電解質異常(Na・K・Ca)の補正麻酔科学 A-01:ホメオスタシスとその障害麻酔科学 A-08:体液恒常性と静脈輸液内科学 S-09:尿崩症と抗利尿不適合症候群内科学 L-31:副腎不全内科学 L-43:多尿・多飲の鑑別病理学 C/110:髄鞘疾患(脱髄性疾患)呼吸器内科 30:肺癌の診断と病期分類神経学 G1-09:代謝性意識障害
関連疾患
McKittrick-Wheelock症候群Waterhouse-Friderichsen症候群ネフローゼ症候群レジオネラ症肝硬変原発性副腎不全抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)常染色体劣性多発性嚢胞腎浸透圧性脱髄症候群脱水慢性心不全
監視対象薬
オクスカルバゼピンカルバマゼピン
影響する薬剤
クロルプロパミドテルリプレシン
スコア
LRINECスコア

🧠 全体像:の本質は、多くの場合Na欠乏ではなく水の相対的過剰である。を決めるのはの絶対値ではなく、症状の重さと低下速度であり、重い神経症状があれば原因確定より投与を優先する。診断は①で真のかを見極め、②尿浸透圧で腎が水を薄められているかを見て、③尿Naとで機序を絞る、という3段階で進める。の枠組みは、の解釈は浸透圧に譲り、ここでは低Na血症そのものの・鑑別・に集中する。

定義と重症度

血清Na <135 mmol/Lを低Na血症と呼ぶ。European Society of Endocrinology・European Society of Intensive Care Medicine・ERA-合同ガイドライン(2014年)とその実装指針であるSociety for Endocrinology緊急ガイダンス(2022年改訂)は、生化学的重症度を次の3群に分ける。

生化学的重症度 Na
軽度 130–135 mmol/L
中等度 125–129 mmol/L
高度 <125 mmol/L

⭐ ただしはではなく症状で決める。

症状の重症度 代表的症状
重症 持続する嘔吐、、痙攣、意識障害・昏睡( 8以下)
中等症 嘔吐を伴わない悪心、混乱、頭痛
軽症・無症状 倦怠感、など非特異的、または無症状

血清Na 130 mmol/L超で重症神経症状が出ることはまれで、その場合は他の原因も併せて考える。

もう一つの軸が発症速度である。発症から48時間未満と確認できれば急性、48時間以上または発症時期不明なら慢性として扱う。急性では脳が浸透圧変化に適応できず脳浮腫が問題になり、慢性では適応済みの脳を急速に補正することで(osmotic demyelination syndrome:ODS、を含む)が問題になる。同じNa値でも、この2つでは危険の方向が逆になる。

病態生理

血清Na濃度は体内の総Na量ではなく、Naと水の比を反映する。したがって低Na血症の大半は、水の摂取・保持がNaに対して相対的に多い状態であり、真のNa欠乏(塩喪失)が主体になる例は一部にすぎない。

水の排泄は()が担う。通常は上昇か低下でが分泌されるが、のようにどちらの刺激もないまま分泌が続く場合や、悪心・疼痛・薬剤など非浸透圧性の刺激で分泌が保たれる場合には、腎が水を排泄できずの低Na血症になる。

💡 外からを刺激しても同じことが起こる。 出血・に用いるはV1受容体への選択性がの2倍にとどまる合成で1、のはがあるため水分バランスを管理しなければ低Na血症を起こしうると明記し、低Na血症を「よくある」副作用に置いて、治療中は血清Na・K・水分バランスを定期的に監視するよう求めている2(米国では市販後の報告として挙がる1)。⭐ 「だから水は関係ない」と読まない——V1選択的でもV2作用は残る。

中枢神経は浸透圧変化に特に脆弱である。急性の化では、数時間かけてNa・K・Clなどの電解質を細胞外へ排出してを保とうとするが追いつかず脳浮腫を来す。数日以上続く慢性低Na血症では、さらにグルタミン酸・などを細胞外へ排出して適応する。この適応を終えた脳に対し血清Naを急速に戻すと、失った浸透圧物質を再獲得できないニューロン・が過度に脱水されて障害を受け、ODSに至る。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["低Na血症を確認"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serum osmolality'>血清浸透圧</span>"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypotonicity'>低張性</span>か"}
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertonicity'>高張性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isotonic'>等張性</span>"| D["高血糖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mannitol'>マンニトール</span>・偽性を検討"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypotonicity'>低張性</span>"| E["尿浸透圧"]
    E --> F{"尿を十分希釈できているか<br>(目安:尿浸透圧≤100 mOsm/kg)"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polydipsia'>多飲</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low solute intake'>低溶質摂取</span>を考える"]
    F -->|"いいえ"| H["尿Na+臨床的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body fluid volume'>体液量</span>で機序を絞る"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemic'>低容量性</span>"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='euvolemic'>正常容量性</span>"]
    H --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypervolemic'>高容量性</span>"]
代表的原因 手掛かり
消化管喪失、、副腎不全、への喪失 、皮膚・粘膜の乾燥
SIADH、(・ビール)、、甲状腺機能低下症 浮腫なし、では尿浸透圧が不適切に高い
、肝硬変、、腎不全 浮腫・腹水があるがは低い

血清・尿の浸透圧とNaは、可能なら輸液や利尿薬投与の前に採取する。は・不適切な尿濃縮・十分な尿Na・臨床的を確認したうえで、副腎・甲状腺・腎不全を除外して初めて診断できるである。

偽性・非低張性低Na血症

⚠️ を確認する前に治療しないための鑑別である。

分類 機序 代表例 見分け方
血漿の脂質・が増え、(ISE)法でNaを過小評価する 著明な、高蛋白血症(など) は正常。Naやで確認する
(転位性)低Na血症 細胞外の物質が水を細胞外へ引き出しNaを希釈する 高血糖、 は高値。で真のNaを推定する
真の 水の相対的過剰 上記「鑑別の進め方」の分類 が低下している

治療と補正速度

⚠️ 痙攣、、深い意識障害など重い神経症状があれば、原因確定を待たず3%を投与する(Society for Endocrinology 2022年緊急ガイダンス、欧州ESE・ESICM・ERA- 2014年ガイドラインを踏襲する)。

  1. 3% NaCl 150 mLを20分で静注し、Naと症状を確認する。
  2. 最初の1時間で血清Naが5 mmol/L上昇するまで、同量を最大2回までする。
  3. 5 mmol/L上昇後も症状が改善しなければ、さらに1 mmol/Lの上昇を目標に追加を検討する。
  4. 症状が改善した、または総上昇が10 mmol/Lに達するか血清Naが130 mmol/Lに達した時点(いずれか早い方)でを中止し、へ移る。

急性症候性例の投与量計算にAdrogué–Madias式を用いることは推奨されない(動的な病態に対して精度を欠き、のリスクを上げるため)。も重症症候性の急性期には用いない。

その後の上昇は24時間で10 mmol/L以内、それ以降は24時間ごとに8 mmol/L以内に抑える。初期Na 115 mmol/L未満(とくに ≤105)、低K血症、、、進行した肝疾患などODS高リスク群では、24時間あたり8 mmol/L未満にさらに制限する。💡 施設によっては1日の目標上昇を4〜6 mmol/L程度に置くこともあるが、これは「超えてはならない上限」ではなく「目指す目標」であり、水準が違う数字である(区別はを参照)。尿量の急増はの前触れであり、頻回のNa再検で捉える。時はを中止し、専門医と相談のうえやの併用で血清Naを再び下げることを検討する。

慢性・無症候または軽症の低Na血症は、原因治療とから始める。はで循環を補正し、はを基本に原因薬中止・基礎疾患治療を行い、は水・Na制限と・基礎疾患治療を組み合わせる。

まとめ

  • 低Na血症のはの絶対値ではなく、症状の重さと発症速度(急性か慢性か)で決まる。
  • 病態の本質は水の相対的過剰であり、鑑別は→尿浸透圧→尿Na・の順で進める。
  • ・高蛋白血症による、高血糖・による低Na血症は真のと区別する。
  • 重い神経症状には3%を原因確定前から用い、最初の1時間で5 mmol/L前後の上昇を目指す。
  • その後の補正は24時間10 mmol/L、以降24時間ごとに8 mmol/L以内に抑え、ODS高リスク群ではさらに慎重にする。

出典

  1. 1.TERLIVAZ (terlipressin) for injection, for intravenous use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration (DailyMed)・2026)2026年9月16日に取得した現行版(本文の改訂表示は6/2026)で確認した。12.1がテルリプレシンをバソプレシンV2受容体に対してV1受容体への選択性が2倍の合成バソプレシン類似体と述べること、6.2の市販後報告に低ナトリウム血症が含まれること(6.1のTable 1には現れない)を確認した閲覧 2026-09-16
  2. 2.GLYPRESSIN 1 mg solución inyectable — Ficha técnica(Agencia Española de Medicamentos y Productos Sanitarios (CIMA)・2026)スペインAEMPSのGlypressin(テルリプレシン酢酸塩)製品概要(本文末尾の改訂表示はMayo 2026)で確認した。4.8の安全性プロファイルの要約が、テルリプレシンの抗利尿作用は水分バランスを管理しなければ低ナトリウム血症を起こしうると明記すること、低ナトリウム血症が代謝および栄養障害の欄で「よくある」(1/100以上1/10未満)の副作用に置かれること、4.4が治療中は血圧・心拍数・酸素飽和度・血清ナトリウム/カリウム・水分バランスを定期的に監視するよう求めることを確認した閲覧 2026-09-16