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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 症候群

ネフローゼ症候群

Nephrotic syndrome

臓器系
腎・泌尿器
科目
Internal MedicinePathologyPediatrics
トピック
内科学 S-20:ネフローゼ症候群と蛋白尿性疾患病理学 C/60:ネフローゼ症候群内科学 N-01:糸球体疾患小児科 45:小児糸球体疾患小児科 3-24:小児糸球体疾患
鑑別疾患
ネフリティック症候群蛋白漏出性胃腸症
合併症
胸水
続発疾患
慢性腎臓病深部静脈血栓症鉄欠乏性貧血
治療薬
プレドニゾロンシクロホスファミドタクロリムスリツキシマブミコフェノール酸モフェチルアザチオプリンベリムマブエナラプリルダパグリフロジンフロセミドアトルバスタチンヘパリンエノキサパリンワルファリンアピキサバン
原因薬剤
ペニシラミンヘロインプロベネシド
原因微生物
Plasmodium malariae
症状
眼瞼浮腫圧痕性浮腫腫脹浮腫体重増加
検査値
抗体価アルブミンクレアチニン血算血糖尿沈渣低ナトリウム血症アンチトロンビン
組織像
糖尿病性腎症糖尿病性腎症の病理診断
下位分類
巣状分節性糸球体硬化症膜性腎症
元疾患
糖尿病性腎症
原因となる疾患
Denys-Drash症候群IgA腎症アミロイドーシス全身性エリテマトーデス膜性増殖性糸球体腎炎

🧠 全体像は「を含む障壁の透過性亢進」という単一の病態が、大量蛋白尿→→浮腫という古典的カスケードと、血栓症・易感染性・脂質異常という多彩な続発症を同時に引き起こす症候群である。小児では大部分がであるため生検なしに経験的なステロイド治療から入るのに対し、成人では全身性疾患の腎病変であることが多いため原因診断を急ぎ、腎生検と血清学的検査で病型を確定してから治療する——この診療アプローチの違いが年齢間で最大のポイントになる。

病態

蛋白尿から浮腫・続発症まで

壁のの障害により、本来ほぼ通過しないはずのアルブミンなどのが大量に尿中へ漏出する。これがを介したと、腎でのNa・を同時に引き起こし、全身浮腫を形成する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='podocyte'>足細胞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit diaphragm'>スリット膜</span>の障害"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration'>糸球体濾過</span>障壁の透過性亢進"]
    B --> C["大量蛋白尿"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoalbuminemia'>低アルブミン血症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased oncotic pressure'>膠質浸透圧低下</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effective circulating volume'>有効循環血漿量</span>低下→RAAS・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sympathetic activation'>交感神経活性化</span>"]
    E --> F["尿細管でのNa・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='water reabsorption'>水再吸収</span>亢進"]
    F --> G["全身浮腫・体腔液貯留"]
    C --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antithrombin'>アンチトロンビン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Protein S'>プロテインS</span>/C・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasminogen'>プラスミノゲン</span>喪失"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypercoagulability'>凝固能亢進</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous thromboembolism, VTE'>静脈血栓塞栓症</span>"]
    C --> J["免疫グロブリン・補体因子B喪失"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encapsulated bacteria'>莢膜形成菌</span>感染リスク上昇"]
    C --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transferrin'>トランスフェリン</span>・ビタミンD<span class='jp-term jp-term-diagram' title='binding protein'>結合蛋白</span>・甲状腺ホルモン<span class='jp-term jp-term-diagram' title='binding protein'>結合蛋白</span>の喪失"]
    L --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iron-deficiency anemia, IDA'>鉄欠乏性貧血</span>様・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypocalcemia'>低カルシウム血症</span>・甲状腺機能異常様の所見"]
    D --> N["肝でのリポ蛋白合成代償性亢進"]
    N --> O["脂質異常・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipiduria'>脂肪尿</span>"]

💡 浮腫の古典的説明(アルブミン低下→→血管内容量低下→代償性のNa・)は分かりやすいが、実際には腎の自体でNa輸送体(など)が一次的に活性化しているという機序(overfill説=溢流説)も関与しており、両者は排他的ではない。

一次性(原発性)と二次性

  • 一次性(原発性):糸球体そのものに原因がある腎限局性の疾患。など。
  • 二次性:全身性疾患・感染・薬剤・悪性腫瘍に伴う、B型・C型肝炎ウイルスやHIVなどの感染関連腎症、NSAIDs・金製剤・などの薬剤性、に伴うなどが代表。

⭐ 同じ組織パターン(例:FSGS)でも一次性か二次性かで治療がまったく異なる。二次性・遺伝性・(肥満、減少など)のFSGSにをルーチンで使ってはならない——反応せず、感染などの害だけが残る。

分類

疾患 好発 光顕(LM) (IF) (EM) ステロイド反応
小児(特に2〜6歳)に最多、成人にも起こる ほぼ正常 陰性 のびまん性消失 良好(成人は寛解までやや時間を要することがある)
一次性は青年〜成人、二次性はHIV・肥満・減少・遺伝性異常・などの薬物といった背景に応じ様々 一部の糸球体の一部分節に硬化・から先行 IgM・C3(部への非特異的捕捉) に硝子沈着 一次性は反応不良〜遅延(抵抗性では)、二次性・遺伝性は免疫抑制無効
成人(30〜50歳)に最多、非糖尿病成人の一次性ネフローゼの第1原因 GBMのびまん性肥厚、 GBMに沿うIgG+C3 ステロイド単独には反応しない
(MPGN/ は感染・自己免疫・血症、補体型()は代替補体経路の遺伝的・後天的異常 ・内皮増殖、 IgG+C3、はC3優位でIgはわずか )/緻密沈着(など) 原因治療が中心、反応は様々

⚠️ MPGNはパターン(I/II/III型)で語られてきたが、現行の分類は所見に基づく機序別(免疫複合体性か、代替補体経路の異常によるか)を優先する。旧来の「II型MPGN=」はの一病型として理解し、型ではなく機序(免疫複合体性か補御異常か)で決める。

主な二次性原因

原因 治療の方向
GBM肥厚、、結節性硬化(Kimmelstiel–変) 血糖・、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬
陽性・下で、非分岐性 病型(AL=形質細胞クローン、AA=慢性炎症)を確定して原因治療。ステロイド単独の一律投与は誤り
、クラスI〜VIで組織活動性・が変わる(下表) クラス別の免疫抑制+
感染関連 B型・C型肝炎、HIV、梅毒、マラリアなど 原疾患の治療、免疫抑制は病型・重症度に応じ個別化
薬剤性 NSAIDs、、金製剤など の中止
悪性腫瘍随伴 肺癌・大腸癌・悪性黒色腫などに伴う の治療

ループス腎炎の分類(ISN/RPS)

クラス 組織像 臨床の目安
I 最小型(LM正常、IF/EMで 尿所見正常〜軽微
II 増殖型 軽度血尿・蛋白尿
III 型(<50%の糸球体に活動性/慢性病変) 血尿、蛋白尿、腎機能低下
IV (≥50%の糸球体に病変、を伴い得る) 重い腎炎、ネフローゼ、高血圧、腎不全
V 膜性型( が多い
VI 進行性(≥90%の糸球体が 進行した

活動性のIII/IV(±V)型は迅速な免疫抑制導入が必要で、Vのみでがあれば免疫抑制を追加し、VIは不可逆的硬化が主体のため免疫抑制よりもとしての管理を中心にする。

臨床像

  • 浮腫:眼瞼から始まり全身性、腹水、胸水へ進むことがある。小児では体重増加・眼瞼腫脹が初発として気づかれやすい。
  • 蛋白尿:成人ではおおむね1日3.5 g以上(でも定量)。小児では(高度な陽性・高値)にを伴えば診断とし、浮腫の有無は必須条件ではない。
  • :目安として3.0 g/dL未満。
  • :肝でのリポ蛋白合成代償性亢進による・LDL上昇、尿沈渣に下で)。
  • ・C、などの抗凝固蛋白のによりのリスクが上がる。特にではのリスクが高い。
  • 易感染性:免疫グロブリンや補体因子Bの喪失により、肺炎球菌などのによる感染(特に小児の原発性腹膜炎)のリスクが上がる。
  • その他のなど鉄輸送蛋白の喪失により経口に反応しにくい様の病態を来すことがあり、ビタミンD・甲状腺ホルモンの喪失は異常やの見かけ上の変化につながり得る。

⚠️ は浮腫を来す一方での低下も伴うため、過度の利尿や脱水は減少性のや血栓症のリスクをかえって高め得る。

診断

  • ・尿沈渣(脂肪円錐・の有無)を確認する。
  • またはで蛋白量を定量する。
  • 血算、腎機能、電解質、アルブミン、脂質、血糖・HbA1cを測定する。
  • 続発性を疑う所見があれば、補体(C3/C4)、ANA・抗dsDNA抗体、B型・C型肝炎・HIV血清学、血清・尿蛋白電気泳動となどを追加する。
  • 腎超音波で腎サイズ・左右差・水腎症・などを評価する。
flowchart TD
    A["浮腫+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heavy proteinuria'>高度蛋白尿</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoalbuminemia'>低アルブミン血症</span>"] --> B{"小児か成人か"}
    B -->|"小児(典型的な1〜10歳、非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='typical finding'>典型所見</span>なし)"| C["典型的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimal change disease'>微小変化型</span>を想定"]
    C --> D["生検なしに経口グルココルチコイドを開始"]
    D --> E{"4〜6週で寛解?"}
    E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steroid-sensitive'>ステロイド感受性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nephrotic syndrome'>ネフローゼ症候群</span>"]
    E -->|"いいえ"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steroid-resistant'>ステロイド抵抗性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nephrotic syndrome'>ネフローゼ症候群</span>"]
    G --> H["腎生検+遺伝学的評価"]
    B -->|"乳児発症・非典型(血尿・高血圧・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypocomplementemia'>低補体</span>・腎機能低下など)"| H
    B -->|"成人"| I["血清学的検索(補体・自己抗体・感染・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monoclonal protein'>単クローン性蛋白</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-PLA2R antibody'>抗PLA2R抗体</span>)"]
    I --> J{"典型的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membranous nephropathy'>膜性腎症</span>+高値<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-PLA2R antibody'>抗PLA2R抗体</span>で非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='typical finding'>典型所見</span>なし?"}
    J -->|"はい"| K["生検を省略できる場合がある"]
    J -->|"いいえ"| L["腎生検で確定診断"]

⭐ 小児の大半(約85〜90%)はであり、典型例(発症年齢1〜10歳、・持続する高血圧・・腎機能低下などの非がない)では腎生検を行わず経口グルココルチコイドで治療を開始する。乳児発症、非では腎生検と遺伝学的検査を検討する——これは、原因不明の成人ネフローゼで腎生検が診断の中心となるアプローチと対照的である。

治療

小児のステロイド治療

  • 典型的な初発小児例は生検なしに経口グルココルチコイドを開始する。多施設により、初発例の総投与期間は約2〜3か月でも従来の6か月投与とであることが示されており、必ずしも長期投与を要しない。
  • :連日投与開始から4週(遅い反応でも6週まで)以内に完全寛解が得られる状態で、小児ネフローゼの大半を占める。
  • :適切な投与を4〜6週継続しても寛解が得られない状態で、腎生検・遺伝学的評価の適応となる。
  • 頻回再発型・ステロイド依存型(おおむね12か月に4回以上、または減量中・中止後2週間以内の再発を繰り返す)では、リツキシマブがステロイド曝露を減らす選択肢として推奨されるようになっている。なども再発頻度・毒性に応じて個別化する。

成人の免疫抑制

  • :経口グルココルチコイド(例:1 mg/kg/日、最大80 mg/日程度)を寛解まで継続し、その後する。頻回再発・ステロイド依存・ではなど)やとして用いる。
  • 一次性FSGSを第一選択とし、ではを用いる。二次性・遺伝性FSGSは免疫抑制をルーチン使用せず、原因治療となどの支持療法を行う。
  • :蛋白尿の程度・eGFRの推移・価でリスクを層別化する。低リスクはでの経過観察でよいが、中〜高リスクや腎機能低下が急速な例ではリツキシマブ、+ステロイド(改変)、(±リツキシマブ併用)などをリスクに応じて選ぶ。ステロイド単独は無効であり標準ではない。
  • :活動性のIII/IV(±V)型は副腎皮質ステロイドにまたは低用量静注を組み合わせ、患者背景に応じ併用や併用を選ぶ。全例禁忌がなければを併用する。

蛋白尿・腎保護と支持療法

  • ACE阻害薬またはARBを最大量まで用いて蛋白尿と血圧を下げる。
  • 病型・eGFRに応じてSGLT2阻害薬を追加する。糖尿病の有無にかかわらず、蛋白尿を伴うにおける腎保護・心血管保護のエビデンスが蓄積しており、と同様の適応基準(eGFRなど)に沿って導入する。
  • 食塩制限とで浮腫をゆっくり是正する。急激な除水は減少やを招くため避ける。
  • 総心血管リスクに応じてスタチンなどのを検討する。
  • 極端な高蛋白食はかえって蛋白尿を増やすため避け、栄養不良を来さない適正な蛋白摂取量を保つ。

血栓予防

の予防的抗凝固は、値(低いほどリスクが高い)に加え、であること、不動、肥満、既往歴、悪性腫瘍などの追加リスクと出血リスクを統合し、アルブミン値と出血リスクに基づくアルゴリズムで個別化する。

⚠️ 「アルブミン20 g/L未満なら自動的に抗凝固薬を開始する」というような単一の固定閾値だけで判断してはならない。ヘパリンやに用いられてきたが、の使用も広がりつつあり、選択は施設のプロトコルと個別リスク評価に従う。

感染予防

免疫グロブリン喪失と免疫により感染リスクが高まるため、などのを接種し、も毎年検討する。高用量免疫抑制中は生ワクチンを避け、免疫抑制開始前に水痘など生ワクチンの接種歴・免疫状態を確認しておく。

まとめ

  • 障壁の透過性亢進により、大量蛋白尿・・浮腫・・易感染性を同時に来す。
  • 一次性(、FSGS、、MPGN/)と二次性(糖尿病、、感染、薬剤、悪性腫瘍随伴)を区別し、二次性・遺伝性の病型に免疫抑制をルーチン使用しない。
  • 小児は典型例なら生検なしに経験的ステロイドから開始し、・抵抗性・頻回再発型・ステロイド依存型で治療を個別化する。成人は原因不明例で腎生検が診断の中心となる。
  • 蛋白尿・腎保護にはRAS阻害薬とSGLT2阻害薬を組み合わせ、浮腫には、脂質異常にはスタチンを用いる。
  • は単一のアルブミン閾値ではなく、病型・追加リスク・出血リスクを統合したアルゴリズムで個別化し、感染予防としてワクチン接種を計画する。