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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

巣状分節性糸球体硬化症

Focal segmental glomerulosclerosis

別名
FSGS
臓器系
腎・泌尿器
科目
PathologyInternal MedicinePediatricsPathophysiology
トピック
病理学 C/60:ネフローゼ症候群病理学 C/58:糸球体疾患の発症機序病理学 C/56:末期腎・腎不全内科学 N-01:糸球体疾患内科学 N-04:腎移植と腎代替療法内科学 S-20:ネフローゼ症候群と蛋白尿性疾患小児科 46:小児ネフローゼ症候群と腎炎症候群病態生理学 2-8:急性腎不全の原因と全身的影響
上位概念
ネフローゼ症候群
鑑別疾患
膜性腎症
続発疾患
慢性腎臓病
治療薬
プレドニゾロンメチルプレドニゾロンタクロリムスリツキシマブエナラプリルダパグリフロジンフロセミド
原因薬剤
アルファインターフェロン(PEG)-インターフェロンアルファアレンドロネートリチウムナンドロロンテストステロンウンデカン酸エステルヘロイン
原因微生物
HIV-1
症状
浮腫圧痕性浮腫血尿
検査値
アルブミンアルブミン尿クレアチニン尿沈渣
元疾患
WAGR症候群
原因となる疾患
Frasier症候群

🧠 全体像は「一部の糸球体()の、各糸球体のさらに一部分節()が硬化する」というが定義する病理形態パターンの名前であって、単一の疾患ではない。同じFSGSという所見の下に、そのものが原発的に傷害される一次性、遺伝子変異による遺伝性、HIVやAPOL1リスク多型が関わるウイルス関連、薬剤による、そして量減少や肥満が残存糸球体を過重労働させる(二次性)という異質な病因が同居する。このこそがを決める——二次性・遺伝性のFSGSにをルーチンで使えば、反応しないまま感染などの害だけが残る。

病理形態としてのFSGS

  • :すべての糸球体ではなく一部の糸球体だけが侵される(対義語は「びまん性」=全糸球体)。
  • :侵された糸球体でも全体ではなく一部分節だけに硬化がある(対義語は「」=糸球体全体)。
  • の糸球体から始まりやすく、皮質表層のみの生検検体では病変を採取し損ねるサンプリングエラーが起こり得る。臨床的にFSGSが疑わしいのに初回生検が「正常」または様に見える場合、や深部組織の追加採取を検討する。

コロンビア分類:5つの組織亜型と予後

同じFSGSでも光顕パターンによって予後・治療反応が異なるため、は亜型を区別する。

亜型 光顕の特徴 背景・頻度 予後の傾向
NOS(非特定型) を欠く 最も頻度が高い残余カテゴリー 中間
を伴う硬化 ・二次性FSGSに多い 中間〜比較的緩徐
まれ 中間、ステロイドに反応することがある
に限局した病変 急性発症のネフローゼで見つかりやすい 亜型中で最も良好、ステロイド反応も比較的良い
の虚脱+の著明な増殖・肥大 、APOL1リスク多型、など 亜型中で最も不良、急速にへ進行しやすい

⚠️ は他の亜型と機序・治療反応が大きく異なるため、「FSGS=一律にステロイドを試す」という発想を持ち込まない。を疑う所見(急速な腎機能低下、著明な蛋白尿、該当する背景因子)があれば病因検索を急ぐ。

病因分類が治療を決める

病因群 代表例・機序 治療の方向
一次性(特発性) 推定されるによるびまん性障害 高用量ステロイドを第一選択、抵抗例に
遺伝性 NPHS1(ネフリン)、NPHS2)、INF2TRPC6ACTN4WT1などの 免疫抑制は無効、などの支持療法、遺伝
ウイルス関連 HIV感染症(HIVAN)、APOL1リスク多型の「二次ヒット」 原疾患(抗ウイルス療法など)の治療、支持療法
薬剤性 による の中止、支持療法
・二次性 量減少(片腎、)、肥満鎌状赤血球症による 免疫抑制をルーチン使用しない、原因治療と・減量・SGLT2阻害薬

一次性(特発性)

一次性FSGSは急性〜亜急性に発症するを呈し、ではびまん性を示す(光顕の分布は「」でも、の障害は糸球体全体に及ぶ)。腎移植後、時間〜数日という短時間で蛋白尿が再発する症例があることは、血中を循環してを傷害する透過性因子の存在を強く示唆する所見として長く注目されてきた(候補分子は複数提案されているが、単一の確立されたには至っていない)。

遺伝性

若年発症、家族歴、を示す例では遺伝学的検査を検討する。NPHS1NPHS2構成蛋白(ネフリン・)をコードし、の代表的原因である。INF2TRPC6ACTN4は常染色体優性の家族性FSGSに関連する。遺伝性FSGSにを投与しても寛解は期待できない。

ウイルス関連

(HIVAN)は主にFSGSを呈し、の普及で頻度は減少したが今も重要な原因である。APOL1の2つのリスクバリアント(G1・G2)は主に西アフリカ系祖先に由来し、単独では発症せず、HIV感染や曝露などの「第二の一撃(セカンドヒット)」が加わることで糸球体症を引き起こすというで理解されている。

薬剤性

製剤や(特になどの注射用製剤)はを含むFSGSを誘発しうる。やアナボリックアンドロゲンステロイドは、尿細管毒性やを介して二次性FSGSの原因となる。いずれもの中止が治療の中心であり、の適応ではない。

適応性・二次性

)量の減少(片腎、など)や肥満、鎌状赤血球症は、残存糸球体の代償性・過形成を介して二次性にFSGSを来す。多くはを呈し、蛋白尿は非にとどまることが多く、進行は比較的緩徐である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nephrotic syndrome'>ネフローゼ症候群</span>+生検でFSGSパターン"] --> B{"病因は?"}
    B -->|"急性発症・びまん性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foot process effacement'>足突起消失</span>"| C["一次性を想定"]
    B -->|"若年発症・家族歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steroid-resistant'>ステロイド抵抗性</span>"| D["遺伝性を疑い遺伝学的検査"]
    B -->|"HIV陽性・APOL1リスク背景"| E["ウイルス関連(多くは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collapsing variant'>虚脱型</span>)"]
    B -->|"該当薬剤の使用歴"| F["薬剤性を疑い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='culprit (suspected) drug'>被疑薬</span>を確認"]
    B -->|"肥満・片腎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reflux nephropathy'>逆流性腎症</span>など"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adapting'>適応性</span>・二次性を想定"]
    C --> H["高用量ステロイド<br>抵抗例に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcineurin inhibitor, CNI'>カルシニューリン阻害薬</span>"]
    D --> I["免疫抑制は行わず<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='renin-angiotensin-aldosterone system (RAAS) inhibitor'>RAAS阻害薬</span>などの支持療法"]
    E --> J["原疾患の治療+支持療法"]
    F --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='culprit (suspected) drug'>被疑薬</span>の中止+支持療法"]
    G --> I

微小変化型との鑑別

  • サンプリングエラー:FSGSの病変はから始まるため、皮質表層に偏った生検検体では病変を捉えられずしうる。
  • ステロイド反応性は大半がステロイドに良好に反応するのに対し、一次性FSGSでも反応は不良〜遅延しやすく、寛解までに数か月を要することがある。
  • でのの広がり・一次性FSGSともにを認めるが、FSGSではに加え非の糸球体でも消失が及ぶびまん性の変化として捉えられ、単独の所見だけで両者を鑑別することはできない。

💡 「FSGSはの進行型(あるいは見逃し)にすぎない」という単純化は誤りである。遺伝性・薬剤性・のFSGSはとは全く異なる機序で生じており、両者を隔てるのは傷害の程度と可逆性の違いである。

治療

一次性

  • 高用量経口グルココルチコイド(例:1 mg/kg/日、最大80 mg/日程度)を第一選択とし、寛解が得られるまで、あるいは長期にわたり継続してからする。
  • ではなど)を用いる。
  • ステロイド・いずれにも抵抗性の難治例では、リツキシマブなどの追加治療を専門施設で個別化する。

遺伝性・ウイルス関連・薬剤性・適応性(二次性)

⭐ これらの病型にをルーチンで使用してはならない。反応しないまま感染などの害だけが残る。

  • があれば中止し、HIV感染があればを行うなど、原因への対応を優先する。
  • ACE阻害薬またはARBを最大量まで用いて蛋白尿と血圧を管理する。
  • 肥満があれば減量を支持し、病型・eGFRに応じてSGLT2阻害薬を追加して腎保護を図る。
  • 浮腫には食塩制限とを用いる。

移植後再発

一次性FSGSは腎移植後の再発率が高く、報告により幅はあるがおおむね3〜5割とされる。移植後数時間〜数日という短時間での蛋白尿再発は、の存在を支持する所見であり、や高用量、リツキシマブなどが再発時の肢となる。一方、遺伝性FSGSはの種類によって再発リスクが異なり、一律に低いとは言い切れないため、移植前の遺伝学的評価が再発リスクの見積もりに役立つ。

まとめ

  • FSGSは「一部の糸球体の一部分節の硬化」という光顕形態パターンの名前であり、単一疾患ではない。(一次性・遺伝性・ウイルス関連・薬剤性・/二次性)がを決める。
  • はNOS・・細胞型・の5亜型に分け、は予後良好、は予後不良という対照的な傾向を示す。
  • 一次性はが想定され、びまん性のと移植後の急速な再発がこれを支持する。遺伝性はNPHS1NPHS2INF2などのによる。
  • HIV・APOL1リスク多型はウイルス関連・の代表的背景であり、で理解される。は薬剤性の代表例である。
  • ・二次性は量減少や肥満などによるが機序であり、は無効かつ有害であるため用いない。
  • との鑑別ではサンプリングエラーとステロイド反応性の違いを踏まえる。
  • 一次性には高用量ステロイド、抵抗例にはを用い、二次性・遺伝性には・減量・SGLT2阻害薬などの支持療法を中心とする。
  • 一次性FSGSは腎移植後の再発率が高く、急速な再発は説を支持する。