病態生理学

病態生理学 · 2-8

急性腎不全の原因と全身的影響

Causes and systemic consequences of acute renal failure

応用トピック
ICUにおける急性腎障害の病態・診断・治療急性腎障害妊娠と腎疾患・尿路感染症腎疾患 症例2腎疾患 症例3尿検査の異常所見と基準値尿色調異常の原因泌尿器科救急疾患急性腎障害と慢性腎不全
疾患
コレステロール塞栓症横紋筋融解症急性腎障害急性尿細管壊死巣状分節性糸球体硬化症

🧠 AKI(。かつては「」とも呼ばれた)は腎の「どこで詰まったか」で3分類: 上流=(血が来ない、約60%)、腎自体=腎性(、約35%)、下流=(、約5%)。⚠️ ただしこの3分類は出発点にすぎない。尿量と経過、尿沈渣、によるの除外まで進めないと診断は終わらない。(大量蛋白尿・浮腫)と(血尿・) はの2大表現型で、対比で覚える。

AKIの定義(KDIGO)

現行の正式なは2012年のガイドラインで、次のいずれかを満たせばAKIと定義する1。

  • 48時間以内に血清クレアチニンが0.3 mg/dL以上上昇
  • 7日以内にがの1.5倍以上に上昇
  • 尿量が0.5 mL/kg/時未満で6時間以上持続

重症度は1〜3で評価し、クレアチニン基準・尿量基準のいずれか重い方を採用する。詳しい表・診断フローはを参照。

💡 改訂が進行中である。 は2026年3月に、AKIと急性腎臓病(AKD)を一続きに扱い、クレアチニン・尿量(草案ではも)の機能的基準に加えて腎障害による構造的基準も定義に取り入れた全面改訂の公開査読草案を出した2。ただしの指針ページは2026年9月24日時点でも「公開査読を踏まえて発刊準備中」としており、正式なは上記の2012年版のままである。

AKI の型(腎前性・腎性・腎後性)

flowchart TD
  AKI["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute kidney injury, AKI'>急性腎障害</span>(AKI)"] --> PRE["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prerenal'>腎前性</span>(約60%):血が来ない<br>総血液量↓(ショック/脱水)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal artery'>腎動脈</span>硬化(renal arteriosclerosis)/静脈血栓"]
  AKI --> REN["腎性(約35%):<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parenchymal injury'>実質障害</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pre-glomerular'>糸球体前性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular'>糸球体性</span>・糸球体後性(post-glomerular)"]
  AKI --> POST["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postrenal'>腎後性</span>(約5%):<span class='jp-term jp-term-diagram' title='outlet obstruction'>出口閉塞</span><br>前立腺/結石/腫瘍・膀胱神経障害(neurogenic bladder)"]

糸球体前性小血管疾患

ネフローゼ症候群と腎炎症候群(対比)

主徴 浮腫++重度蛋白尿(>3.5 g/日) 浮腫+血尿(コーラ色・)+
障害 (バリア破綻) 糸球体の免疫攻撃・増殖

ネフローゼ症候群

  • MCD(): 小児最多、骨格障害 → 、光顕正常、。
  • FSGS(): 成人、障害→。講義はMCDとの対比で(反応不良)と教える。⚠️ ただし「ステロイドは効かない」とは読まない—— 2021は一次性FSGSの初期免疫抑制療法として高用量経口グルココルチコイドを推奨し(1D)、の一次性FSGSにはまたはを6か月以上投与することを推奨する(1C)。一方、原因不明または二次性のFSGSには免疫抑制療法を用いない3。
  • CNF(フィンランド型先天性): nephrin/podocin/WT1変異、移植が必要。
  • 続発性: 糖尿病、肥満、HIVAN(関連腎症)→FSGSの組織像を呈する。

腎炎症候群

糸球体後性:急性尿細管壊死(ATN)

💡 腎性AKIの最多原因。 (最低pO₂)が虚血/毒素に弱い → 喪失=→ =→ 細胞死/閉塞→ 再生(基底膜〈BM〉が保持されていれば可能)。

  • 型:
  • 形態:
    • 虚血性→・BM(基底膜)(再生のを失い腎の回復が不良)
    • 腎毒性→PCT()・BM保持(再生できる)

⚠️ この対比が言っているのは「腎機能が戻るか」であって、患者の死亡率ではない。 虚血性ATNに「致死率約50%」という数字が添えられることがあるが、およそこの水準の死亡率が実際に測定されているのは、で重症AKIに至りの開始が問題になる患者集団の率である——3のAKIで人工呼吸またはを要する620例をしたAKIKI試験(解析619例)では60日死亡率が早期開始群48.5%・群49.7%(P=0.79)4、重症AKIの重症患者を組み入れたSTARRT-AKI試験(修正ITT解析2,927例)では90日死亡率が加速的開始群43.9%・標準戦略群43.7%であった5。どちらの試験も組入れの基準はAKIの重症度との必要性であって、虚血性か腎毒性かという組織像ではない。

急性間質性腎炎

評価の基本:3分類だけで診断を終えない

⚠️ ・腎性・の分類は原因を絞り込む出発点であり、これだけで診断を完結させない。

  • 尿量と経過: 乏尿(0.5 mL/kg/時未満)・の有無とを追う。は両側性の、重度血管障害、など緊急性の高い病態を疑わせる所見。
  • 尿沈渣: →、・→糸球体腎炎、→間質性腎炎、を鑑別の手掛かりにする。ただし利尿薬使用やの併存があると典型像から外れるため、単独では確定しない。
  • によるの除外: 水腎症の有無を確認する。は閉塞さえ解除すれば可逆性が高い一方、見逃して経過を追うと不可逆なへ進む。

全身的帰結

AKIではの急激な低下により、体液・電解質・酸塩基・の排泄が一斉に障害される。

領域 主な問題 機序
体液 浮腫、肺水腫、低酸素血症、心不全増悪 塩分・水分の排泄低下
電解質 、、 排泄低下、などのによるK・リンの追加放出
酸塩基 代謝性アシドーシス ・再吸収の低下
悪心・食欲低下、意識障害、、 の蓄積、低下
薬・代謝物の蓄積と毒性 ・の低下

⚠️ 高カリウム血症は心電図変化を伴えばに直結するため、原因検索と並行して緊急に評価・治療する。

治療の原則と落とし穴

  • 原因治療と支持療法が基本。 (、、など)は中止・最小化し、すべての薬剤の投与量を変化する腎機能に合わせて調整する。
  • ⚠️ 利尿薬でAKIは予防も治療もできない。 2012は、AKIの予防に利尿薬を用いないことを推奨し(1B)、の管理を除いてAKIの治療に用いないこと(2C)、腎機能回復の促進やの期間・回数の短縮を目的に用いないこと(2B)を提案している。根拠の系統的レビューでは、は・の必要性のいずれも減らさなかった1。による症状(肺水腫など)の管理目的でのみ用い、「尿量を出すこと」自体をにしない。
  • ⚠️ 低用量ドパミンによる腎保護効果は否定されている。 2012はAKIの予防・治療に低用量ドパミンを用いないことを推奨しており(1A)1、かつて言われた「腎用量ドパミン」という概念はもはや推奨されない。
  • の位置づけは変化している。 かつて過大評価されていた造影剤単独によるAKIリスクは、対照群不足により造影剤が原因の「(CI-AKI=contrast-induced AKI)」と、原因を問わず造影剤投与と時期が一致して起きた「(=contrast-associated AKI)」を区別できていなかったことが一因とされる。現在は適応のある検査を腎機能低下のみを理由に過度に避けない方向にある。静注についての米国放射線学会・米国腎臓財団の合同声明(2020年)は、AKIがある患者、または維持透析を受けていない30 mL/min/1.73 m²未満の患者にはの静注による予防を適応とし、30〜44では個々の高リスク状況で依頼医の判断により考慮してよいとしている6。

腎代替療法の適応

は単一のクレアチニン・()閾値ではなく、以下のような生命を脅かす合併症で緊急に開始する。

適応 代表例
難治性電解質異常 内科治療で制御できない
難治性酸塩基異常 重症代謝性アシドーシス
利尿薬などで制御できない肺水腫
合併症 、脳症、
除去可能な中毒 透析が有効な一部の薬物・毒物

⚠️ 明確な緊急適応の無い患者では、の加速的な早期開始が標準的な戦略より生命予後を改善するという説は、(STARRT-AKI・AKIKI)で否定されている。 数値のみで開始を急ぐ根拠にはならない5。

まとめ

論点 要点
定義 2012:48時間以内にクレアチニン0.3 mg/dL以上上昇、7日以内にの1.5倍以上、尿量0.5 mL/kg/時未満が6時間以上のいずれか。2026年改訂は草案段階
3分類 (約60%)・腎性(約35%)・(約5%)は出発点。尿量と経過・尿沈渣・超音波での除外まで進める
腎性の内訳 の(塞栓・・血管炎・)、糸球体疾患(と)、糸球体後性のATN・
ATN 腎性AKIの最多原因。虚血性は基底膜がして腎の回復が不良、腎毒性は基底膜が保たれ再生しやすい。これは腎機能の回復の話で、患者の死亡率の対比ではない
全身的帰結 ・・代謝性アシドーシス・・薬物蓄積。は緊急に評価・治療する
治療 原因治療と支持療法。利尿薬はの管理に限り、低用量ドパミンは用いない。造影剤予防の補液はAKIまたは30未満が適応(30〜44は個々の高リスク状況で考慮)
生命を脅かす合併症で開始する。緊急適応が無い重症AKIで早期開始を急いでも生命予後は改善しない

出典

  1. 1.KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury(KDIGO・2012)AKIの定義(48時間以内0.3 mg/dL以上上昇、7日以内1.5倍以上上昇、尿量0.5 mL/kg/時未満が6時間以上)とステージ1〜3の重症度分類。2026年9月24日にkdigo.orgの全文PDFで、推奨3.4.1(AKIの予防に利尿薬を用いない、1B)、3.4.2(体液過剰の管理を除きAKIの治療に利尿薬を用いない、2C)、5.2.2(腎機能回復の促進や腎代替療法の期間・頻度の短縮を目的に利尿薬を用いない、2B)、3.5.1(AKIの予防・治療に低用量ドパミンを用いない、1A)と、根拠の系統的レビューでフロセミドが院内死亡・腎代替療法の必要性・透析回数を減らさなかったとする記述を確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.KDIGO 2026 AKI and AKD Guideline: Public Review Draft(KDIGO・2026)2026年9月24日にPDF(499頁)を取得した。2012年版以来の全面改訂として2026年3月付でAKIとAKDを扱う公開査読草案が公開されており、Practice Point 1.1.1のAKIの定義(Table 1)が、クレアチニン・シスタチンC・尿量の機能的基準に加えて腎障害バイオマーカーの上昇を含む構造的基準を置いていること、表紙が公開査読とフィードバックのための草案であり内容は変更されうると明記していることを確認した閲覧 2026-09-24
  3. 3.KDIGO 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Glomerular Diseases(KDIGO・2021)2026年9月24日にkdigo.orgの全文PDF(2024年の章更新版、Kidney International 2021;100:S1–S276)のChapter 6(成人のFSGS)で確認した。Practice Point 6.2.1.1は原因不明のFSGS(FSGS-UC)と二次性FSGSの成人には免疫抑制療法を用いないとし、推奨6.2.2.1は一次性FSGSの第一選択の免疫抑制療法として高用量経口グルココルチコイドを推奨し(1D)、推奨6.3.1.1はステロイド抵抗性の一次性FSGSの成人にシクロスポリンまたはタクロリムスを6か月以上投与することをグルココルチコイド単独の継続や無治療より推奨する(1C)閲覧 2026-09-24
  4. 4.Initiation Strategies for Renal-Replacement Therapy in the Intensive Care Unit(New England Journal of Medicine・2016)AKIKI試験。組入れ基準は「KDIGOステージ3のAKIで、人工呼吸・カテコラミン投与のいずれかまたは両方を要し、腎不全に直結する生命を脅かす合併症が無い患者」であり、組織像(虚血性か腎毒性か)は基準に含まれない。60日死亡率は早期開始群48.5%(311例中150例、95%CI 42.6〜53.8)・待機群49.7%(308例中153例、95%CI 43.8〜55.0)でP=0.79と差が無かった閲覧 2026-09-05
  5. 5.Timing of Initiation of Renal-Replacement Therapy in Acute Kidney Injury (STARRT-AKI)(STARRT-AKI Investigators・2020)明確な緊急適応の無い重症AKIでは、腎代替療法の加速的な早期開始は標準的な待機戦略と比べ90日死亡率を改善しない(RR 1.00)。修正ITT解析の2,927例における90日全死因死亡は加速的開始群43.9%(1,465例中643例)・標準戦略群43.7%(1,462例中639例)で、相対リスク1.00(95%CI 0.93〜1.09、P=0.92)であった。組入れは重症AKIであることによっており、組織像による層別ではない閲覧 2026-09-05
  6. 6.Use of Intravenous Iodinated Contrast Media in Patients With Kidney Disease: Consensus Statements from the American College of Radiology and the National Kidney Foundation(American College of Radiology / National Kidney Foundation・2020)抄録(PubMed)で確認した。静注ヨード造影剤による腎機能低下患者のAKIリスクは、造影剤が原因のAKI(CI-AKI)と造影剤投与と時期が一致したAKI(CA-AKI)を分けられる対照群が歴史的に不足していたため過大評価されてきたこと、重度腎疾患でのCI-AKIの真のリスクは不確かなままだが、AKIがある患者または維持透析を受けていないeGFR 30 mL/min/1.73 m²未満の患者には生理食塩水の静注による予防を適応とし、eGFR 30〜44では個々の高リスク状況で依頼医の判断により考慮してよいとすること閲覧 2026-09-24