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Microbe Atlas · 細菌

Leptospira interrogans

分類
スピロヘータ / SpirochetesLeptospira
性状
Gram陰性 (G−)らせん菌 Spirochete
科目
Medical Microbiology
トピック
2/31: Leptospira genus5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
原因となる疾患
レプトスピラ症急性・慢性尿細管間質性腎炎

🧠 全体像:Leptospiraは、ヒトに病気を起こすスピロヘータのなかで「水を介して感染する」ものとして読む。Treponema属(など)が性行為、Borrelia属(B. burgdorferiなど)が・マダニで伝播するのに対し、Leptospiraは動物の尿で汚染された水(水田・池・洪水後の氾濫水)から皮膚の傷や粘膜を介して感染する人獣共通感染症である。ほとんどは自然軽快するの軽症感染だが、まれにという肝腎同時障害+の重症型に進む——この「軽症が大半、まれに」という非対称性がこの菌の核心。

微生物学的な特徴

スピロヘータの中で最も細い菌体で、両端が鉤状に曲がった「」の形態を持つ。グラム陰性だが細すぎて可視化できないため、で菌体を厚く見せて下に観察する。

⚠️ 血清型と血清群を混同しない。 Leptospira interrogans という1種のなかに200を超える血清型が認められており、の近い血清型をまとめた単位が血清群である(血清学的分類上の L. interrogans sensu lato には Icterohaemorrhagiae・Canicola・Pomona など24の血清群が置かれている)。血清群は疫学的に有用だが分類学上の地位を持たない1。「血清型は20数種」という言い方は血清群の数を血清型の数と取り違えたものである。

・イヌ・など動物の腎尿細管に定着してを作る点がとして重要で、菌は上皮のに定着して長期にわたり尿中へ排出され続ける。保有動物のなかでヒト感染の最も重要な供給源はである2。イヌは血清群 Canicola、類は Icterohaemorrhagiae・Ballum のになる1。

病原性の仕組み

  • 動物はとなり、菌は腎尿細管に定着して尿中に排出され続ける
  • ヒトへは動物の尿で汚染された水(水田・池・洪水後の氾濫水)を介して感染し、皮膚の外傷・粘膜・がとなる
  • 侵入後は血行性に播種し、内皮細胞傷害を介して複数臓器(腎・肝・肺・中枢神経系・眼)に影響を及ぼす
flowchart TD
  A["Leptospira感染<br>(動物尿で汚染された水・土壌、洪水後に増加)"] --> B["潜伏期1-2週間"]
  B --> C["第1相:急性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteremic phase'>菌血症期</span><br>発熱・筋肉痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctival injection (hyperemia)'>結膜充血</span>(3〜9日)"]
  C --> D["自然軽快<br>(大半はここで終わる)"]
  C --> E["第2相:髄膜炎・CNS症状"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Weil disease'>Weil病</span>(重症型)<br>腎不全+肝炎/黄疸+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary hemorrhage'>肺出血</span>"]

⚠️ は重症型。 が保有する血清型(icterohaemorrhagiaeなど)が原因となることが多い。血流に乗った菌が諸臓器で増殖し、多臓器障害を起こす。

障害臓器 病態
腎 +による。糸球体はほぼ正常にとどまる2
肝 肝炎・黄疸(皮膚・の)
中枢神経系 (漿液性・)
眼 ぶどう膜炎
皮膚 発疹
肺 ——最も生命を脅かす症状。広範な肺胞出血を伴う重症症候群の致死率は50%を超える2

💡 腎障害の主座は尿細管であって糸球体ではない。 LipL32などの菌体外膜リポ蛋白がのTLR2に認識されてとMCP-1が誘導され、尿細管の炎症が間質へ広がって間質性腎炎になる。同時にのナトリウム・水素の発現が低下してナトリウムと水の再吸収が減るため、乏尿に至らないままを伴うという・の腎不全とは異なる像をとりうる2。組織学的にもの菲薄化・壊死とによる尿細管内腔の拡張が主体で、糸球体の変化は乏しい2。

感染経路と疫学

大半は無症候性または軽症で自然軽快するが、の経過をとることがある(潜伏期1〜2週間)。

病期 期間 臨床像
第1相(急性期・) 3〜9日 急激な発熱、筋肉痛、頭痛、悪心など。——発赤するがはない
第2相 — 再度の急激な発熱。髄膜炎・中枢神経系症状がこの相の特徴
  • 高リスク集団:洪水・水害後の被災地での作業・避難、稲作・水田作業、下水・溝掃除、汚染水でのレクリエーション活動、ネズミなどとの接触が多い環境(都市部のスラム含む)
  • 熱帯・亜熱帯地域や雨季に多く、気候変動に伴う洪水頻度の増加とともに世界的な上の重要性が増している

診断

方法 検体・時期 詳細
培養 血液・髄液(発症後10日以内)、尿(2〜3週:ヒトでは菌濃度が低いため) :好気性、28〜30℃で約2週間培養(が長い)
血清学 感染後2週以降の血清 (患者血清と生菌抗原を反応させで凝集を読む参照法)。検査パネルは全血清群を代表する抗原と地域で多い血清型で構成する。⚠️ 血清群特異的な検査であり、感染した血清型の同定には使えない2。専門施設でのみ実施可能で、と併用する
発症早期の血液 前の急性期でも検出可能

治療と予防

臨床像・重症度別の治療の使い分け・はのノートに詳しい。

  • 治療:早期の軽症外来例はドキシサイクリン100 mgを1日2回、またはアジスロマイシン500 mgを1日1回。妊婦・小児には体重に合わせたアジスロマイシンかアモキシシリンを用いる2
  • 入院を要する例は静注の150万単位を6時間毎、アンピシリン0.5〜1 gを6時間毎、セフトリアキソン1 gを24時間毎、または1 gを6時間毎。セフトリアキソンは重症例でペニシリンにと示されており、1日1回投与かつ筋注が可能なため入院ができない環境でも使える2
  • ⚠️ セフトリアキソンの用量は文献で幅がある。 のノートは1 gを1日2回とする総説を引いており、上記の1日1回とは食い違う。実際の投与設計は施設の指針と重症度に従う
  • ⚠️ これらのレジメンはin vitro感受性・・臨床経験に基づくものであり、な比較試験に支えられた推奨ではない2。重症例では入院管理下での支持療法(透析、)が生命予後を左右する
  • 予防:
    • :としてドキシサイクリン200 mgを週1回投与する方法が、高リスクのジャングル訓練を行う軍人で有効だった。曝露後予防は流行地の豪雨後の住民で2件研究され、そのうち1件で有症状発症の減少が示された2。アジスロマイシン・アモキシシリンによる予防は検討されていないが、妊婦・小児・のリスクがある人では考慮しうる2
    • ワクチンは国によって事情が大きく違う。 ヒトへの不活化全菌体ワクチンの接種は、高リスク職業者と洪水・流行への対応に限られてきた2。欧米では広く用いられておらず、フランスでは血清型 Icterohaemorrhagiae のみを含む単価ワクチンがヒト用に承認されている一方、水田労働者の症例が多い中国や日本では多価ワクチンの接種が行われてきた1。⚠️ のはLPSで、免疫は血清型特異的である。同一またはが近い血清型には防御が及ぶが、の異なる血清型には及ばない2——「ワクチンがあるから安心」とは読めない
    • 汚染水・土壌を避け、動物の尿との接触後は速やかに手洗い・創部洗浄を行う

まとめ

  • Leptospira interrogansはスピロヘータの中で最も細く、両端が鉤状の菌体を持つ。動物(・イヌなど)の腎尿細管に定着し、尿で汚染された水を介して皮膚・粘膜から感染する人獣共通感染症である。
  • 病像は:第1相(発熱・筋肉痛・)→自然軽快、または第2相(髄膜炎・CNS症状)に進行しうる。
  • 重症型は:(+で、糸球体はほぼ正常)+肝炎/黄疸+(重症症候群の致死率は50%超)を同時に起こす2。
  • 洪水・水害後に感染リスクが上昇する点が他のスピロヘータ感染症と異なる特徴的な疫学。
  • 診断は培養(、発育が遅い)と血清学(+)を組み合わせる。
  • 治療は軽症外来例にドキシサイクリンまたはアジスロマイシン、入院例に静注・アンピシリン・セフトリアキソン・2。
  • ドキシサイクリン200 mg週1回のは高リスク集団で有効性が示されている一方、ヒト用ワクチンは血清型特異的で、承認状況も国によって大きく異なる21。

出典

  1. 1.Leptospirosis(Clinical Microbiology Reviews(Levett PN)・2001)PMC 全文(PMC88975)を取得して確認した。*Leptospira interrogans* という種のなかで200を超える血清型が認められており(さらに未記載の分離株もある)、抗原性の近い血清型を血清群にまとめる慣行があるが血清群には分類学上の地位が無いこと(Table 1 が *L. interrogans* sensu lato の血清群として Icterohaemorrhagiae・Canicola・Pomona を含む24群を挙げる)、腎では間質性腎炎が主たる所見で好中球と単球の強い細胞浸潤を伴い、尿細管内に菌体が観察され電子顕微鏡では尿細管上皮の刷子縁が消失し尿細管基底膜が肥厚すること、ドブネズミが血清群 Icterohaemorrhagiae・Ballum の維持宿主でイヌが Canicola の維持宿主であること、ドキシサイクリン200 mg週1回の短期予防が有効と示されており、ある対照試験では臨床発症は有意に減ったが血清学的な感染の成立は減らなかったこと、ヒト用ワクチンは欧米では広く用いられてこなかったが水田労働者の症例が多い中国や日本では多価ワクチンの接種が行われ、フランスでは血清型 Icterohaemorrhagiae のみを含む単価ワクチンがヒト用に承認されていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Leptospirosis in Humans(Current Topics in Microbiology and Immunology(Haake DA, Levett PN)・2015)PMC の著者原稿(PMC4442676、Curr Top Microbiol Immunol. 2015;387:65–97)の全文を取得して確認した。腎の組織像は急性尿細管壊死と間質性腎炎が典型で「糸球体は本質的に変化に乏しい(The glomerulus is essentially unremarkable)」と図の説明に明記されること(Fig. 3b)、尿細管上皮の菲薄化・壊死と硝子円柱による尿細管内腔の拡張がみられること、LipL32などのリポ蛋白が尿細管上皮のTLR2に認識されて一酸化窒素合成酵素とMCP-1が誘導され、尿細管の炎症が間質性腎炎に至ること、近位尿細管のナトリウム・水素交換輸送体3の発現低下によりナトリウムと水の再吸収が減ること、重症肺出血症候群の致死率が50%を超えること、保有動物のなかではドブネズミ(Rattus norvegicus)がヒト感染の最も重要な供給源で、菌は近位尿細管上皮の刷子縁に定着して長期に尿中排出されること、入院を要する例の治療が静注ペニシリンG 150万単位6時間毎・アンピシリン0.5〜1 g 6時間毎・セフトリアキソン1 g 24時間毎・セフォタキシム1 g 6時間毎で、セフトリアキソンが重症例でペニシリンに非劣性と示されたこと、早期の成人外来例にはドキシサイクリン100 mg 1日2回またはアジスロマイシン500 mg 1日1回を用い、妊婦・小児には体重調整のうえアジスロマイシンかアモキシシリンを用いること、これらの推奨がin vitro感受性・動物実験・臨床経験に基づくものであること、曝露前の化学予防としてドキシサイクリン200 mg週1回が高リスクのジャングル訓練を行う軍人で有効だったこと、曝露後予防は2つの研究のうち1つで有症状発症の減少が示されたこと、アジスロマイシン・アモキシシリンによる予防は検討されていないが妊婦・小児・光線過敏のリスクがある人では考慮しうること、ヒトへの不活化全菌体ワクチンの接種が高リスク職業者と洪水・流行への対応に限られてきたこと、キューバでの10万人超の試験で流行血清型に対する有効性が97%超と報告されたこと、LPSを有効成分とする不活化ワクチンの免疫が血清型特異的で、同一または抗原性が近い血清型には及ぶが抗原性の異なる血清型には及ばないこと(原文は homologous or closely related, but not heterologous, serovars)、顕微鏡下凝集試験(microscopic agglutination test)が血清群特異的で感染血清型の同定には使えず暗視野顕微鏡で判定すること、検査パネルが全血清群を代表する抗原と地域で多い血清型で構成されることを確認した。閲覧 2026-09-27