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Microbe Atlas · 細菌

Listeria monocytogenes

分類
G+ 桿菌・非芽胞 / Gram+ rods (non-spore)Listeria
性状
Gram陽性 (G+)桿菌 Bacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/28: Listeria monocytogenes. Erysipelothrix rhusiopathiae, Lactobacillus and Bifidobacterium genus. Pre- and probiotics5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis
自然耐性薬
セフトリアキソンセフォタキシムセフタジジムセフェピム
原因となる疾患
細菌性髄膜炎新生児敗血症
作用する薬剤
アモキシシリンアンピシリンゲンタマイシンスルファメトキサゾール+トリメトプリム

🧠 全体像:Listeria monocytogenesの危険性は「誰にでも軽症、特定の集団には重症」という選択性と、「冷蔵庫という安全地帯を持たない」という2点に集約される。健常成人が感染しても軽い胃腸炎で終わることが多いが、妊婦・新生児・65歳以上・細胞性免疫が落ちた人では髄膜炎・敗血症・流に直結する。しかも多くの菌と違い4℃の冷蔵庫内でも増殖できるため、「冷蔵保存だから安全」という常識が通用しない代表的な菌である。病原性の核は、抗体や補体の攻撃を受けない細胞から細胞への直接移動にあり、これが胎盤関門の突破や血液脳関門の突破を可能にしている。

微生物学的な特徴

小型ので、、弱いβ溶血を示す。性の鞭毛を持つが、発現がという特徴がある。

項目 内容
運動性 22〜25℃では鞭毛による「転がる(tumbling)」運動性を示すが、37℃(体温)ではほぼ動かない——鞭毛遺伝子の発現が低温側でのみオンになる
低温耐性 4℃の冷蔵環境でも増殖できる(psychrotolerant)。多くの菌が増殖を止める温度域でも増える(同じ性質を持つ菌にYersinia enterocoliticaがある)
高塩濃度耐性 塩蔵・燻製食品中でも生残・増殖しうる
生化学的性状 カタラーゼ(+)、陽性

⭐ 低温耐性と運動性は同じ土俵で覚える。 「4℃でも増える」という耐冷性そのものに加え、「4℃でよく動くが37℃では動かない」という運動性の逆転現象があり、これを利用した(検体を4℃で培養して雑菌より優先的にListeriaを増やす)が診断技術として実用化されている。

💡 は「cyclic AMP」ではない。 考案者Christie・Atkins・Munch-Petersenの頭文字に由来する検査名で、Staphylococcus aureusの溶血帯との協同を利用する。両菌の溶血帯が交わる形はS. aureusでは「垂直(矢羽根状)」、Listeriaでは「水平(ブロック状)」になる点で鑑別できる。

病原性の仕組み

Listeriaはで、マクロファージだけでなく本来を持たない・肝細胞にも自ら侵入できる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internalin A'>インターナリンA</span>/Bが<br>宿主受容体(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='E-cadherin'>E-カドヘリン</span>など)に結合"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='target cell'>標的細胞</span>へ接着・侵入"]
    B --> C["ファゴソームに取り込まれる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='listeriolysin O'>リステリオリジンO</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemolysin'>溶血毒</span>)が<br>酸性化したファゴソーム膜を溶解"]
    D --> E["細菌が細胞質内へ脱出・増殖"]
    E --> F["ActAが宿主アクチン線維の重合を誘導"]
    F --> G["「<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comet tail'>彗星尾</span>」を作り隣接細胞へ<br>直接移動(細胞外に出ない)"]
    G --> H["抗体・補体を回避したまま<br>組織内を拡大"]

💡 細胞外に一度も出ない移動様式が、胎盤と血液脳関門の突破を可能にする。 はのに、は肝細胞などのMet受容体に結合して侵入の足がかりを作る。は胎盤の絨毛間質にも発現しており、細胞から細胞への直接移動という性質がそのままの成立につながっている。血液中のが効きにくいこの移動様式のため、感染の制御には抗体ではなく細胞性免疫(マクロファージ活性化・)が主役になる——妊娠・高齢・ステロイド長期使用・臓器移植後・進行した感染など細胞性免疫が低下する状態が軒並みハイリスク群になる理由はここにある。

⚠️ はpH依存的に働く「用心深い」。 酸性のファゴソーム内でのみ効率よく孔を形成し、中性の細胞質に出た後は活性が落ちる。これにより細胞質内のへの無差別な傷害を最小限にとどめつつ、菌自身は生き延びる。

感染経路と疫学

  • 食品媒介感染が主体:されていない乳製品・ソフトチーズ、デリミート(ハム・ソーセージなど)、スモークサーモン、生野菜サラダなどが典型的な感染源
  • 冷蔵温度でも生き残って増殖できることが、調理済みのまま食べる食品・乳製品・サラダなどを介した食品媒介感染を助けている1。「冷蔵保存されているから安全」という前提が通用しない
  • 母体から胎児への()
  • ヒト-ヒトの(母子間を除く)は基本的にない
  • ⭐ 潜伏期が長く、病型で大きく違う。 への単回曝露が確認できた症例の解析では、侵襲性の潜伏期は中央値8日(1〜67日)で、菌血症は中央値2日、中枢神経系感染は9日、妊娠関連は27.5日(17〜67日)と長く、胃腸炎だけは中央値24時間と短かった2。発症前の数日間の食事だけを聞いても原因食品にたどり着けないため、食歴は中枢神経系感染・菌血症では診断前14日、妊娠関連では6週間さかのぼって聴取することが提案されている2
  • ハイリスク群:妊婦、新生児、65歳以上の高齢者、(臓器移植後・悪性腫瘍・慢性ステロイド使用・進行した感染など)

起こす疾患

対象 病型・時期 特徴
妊婦 母体は発熱・悪寒などインフルエンザ様の軽症で経過することが多いが、菌血症の状態で胎盤を通過する 流産・・早産の原因になりうる
早期発症() 出生前 (壊死中心を伴う播種性肉芽腫)と敗血症——致死率が高い
出生後2〜3週間 ・、敗血症。詳細は参照
免疫不全患者・65歳以上 ‐ ・脳炎。50歳以上の市中で肺炎球菌・髄膜炎菌に次ぐ主要なの一つ
健常成人 ‐ 大量菌摂取によるの熱性胃腸炎、まれに菌血症・心内膜炎

診断

検査 内容
血液寒天培地 β溶血を示す。(4℃での培養)により雑菌より優先的に分離できる
グラム染色 髄液検体では菌量が少なく、他の細胞と紛れて通常は陰性に出やすい——グラム染色陰性がListeriaを除外する根拠にはならない
運動性検査 室温での「転がる」運動性、37℃ではというの逆転を利用する
Staphylococcus aureusとの協同溶血帯が「水平」に交わる
血清学・ (ヒトの大半は 1/2a・1/2b・4b の3つで、4b はの原因になりやすい)、・による解析

治療と予防

⚠️ はに本質的なを持つ。 Enterococcus faecalisと同じ理由——セファロスポリンへの親和性が低いを持つため、を足しても無効である。 の想定耐性表現型でも、本菌はセフタジジムを含む全般に「感性を期待しない」菌とされている3。

⭐ だから髄膜炎のにアンピシリンを足す。 のの軸である(セフトリアキソン・)はに効かないため、を想定すべき患者ではアンピシリン(またはアモキシシリン)を初期治療に加える——これがを臨床的に覚える最大の理由である。どこで線を引くかは資料で異なる。

資料 アンピシリンを加える対象
2025年ガイドライン 60歳超・妊娠・免疫不全(長期のステロイド・、臓器移植後、血液・固形腫瘍、進行、糖尿病、、進行した、を含む)のいずれか1つ以上(強い推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)1
2016年ガイドライン 50歳超、または危険因子(糖尿病・・がんなど)のある18〜50歳の成人。1か月未満の新生児ではそのものがアンピシリンを含む(またはアミノグリコシド系との併用)4

年齢の数字を覚えるより、「セファロスポリンが効かない菌を経験的にカバーすべき患者か」を問うほうが安全である。なお はバンコマイシンの追加を、ペニシリン・セファロスポリン耐性の肺炎球菌が多い地域に限った条件付き推奨としている1。

場面 治療
第一選択 アンピシリン(またはアモキシシリン、)。髄膜炎の治療期間はが21日間1、が21日間以上4としている。の併用はを狙って考慮されうるが、で腎不全との関連が示され評価が分かれている4
アンピシリン+が標準的なの一つ——GBS・Listeria・腸球菌をアンピシリンが、大腸菌などのグラム陰性桿菌をがカバーする
ペニシリンアレルギー が代替薬になる
予防 妊婦・免疫不全者への食事指導が中心(下記)

⭐ 妊婦・免疫不全者への食事指導は試験・実臨床の両方で頻出。 されていない乳製品、ソフトチーズ(カマンベール・ブルーチーズなど)、生ハム・デリミート、スモークサーモンといった「冷たいまま食べる加工食品」を避ける、または食べる前に十分加熱する(湯気が立つまで温める)ことが予防の中心である。ワクチンは存在しない。

まとめ

  • Listeria monocytogenesは低温耐性(4℃でも増殖)・高塩濃度耐性ので、運動性は室温でのみ発現し37℃では止まる。
  • 病原性の核はインターナリンによる接着→によるファゴソーム脱出→ActAによるアクチン重合を利用した細胞間の直接移動で、抗体・補体を回避しながら胎盤・血液脳関門を突破する。制御には細胞性免疫が主役を担う。
  • ハイリスク群は妊婦・新生児・高齢者・。健常成人ではの胃腸炎で終わることが多い。潜伏期は長く、妊娠関連では中央値4週間ほどに及ぶ。
  • 診断は(Staphylococcus aureusとの溶血帯の交わりがListeriaでは水平)、、の運動性が鍵。
  • に本質的なを持つ()。髄膜炎のでは、の危険因子(高齢・妊娠・免疫不全。年齢の線引きは が60歳超、 が50歳超)があればアンピシリンを追加し、新生児では最初からアンピシリンを含む組み合わせを使う。
  • 妊婦・免疫不全者への予防は、・ソフトチーズ・生ハム・デリミート・スモークサーモンを避けるという食事指導が中心。

出典

  1. 1.WHO guidelines on meningitis diagnosis, treatment and care(World Health Organization・2025)WHO IRIS が公開する全文のテキスト版(ISBN 978-92-4-010804-2)で、1.6.5節がリステリアを免疫不全者・妊婦・60歳超・新生児の髄膜炎・髄膜脳炎の比較的よくある原因とし、冷蔵温度で生残・増殖できることが食品媒介感染を助けると述べていること、推奨B.2.2が細菌性髄膜炎の疑い例に静注セフトリアキソンまたはセフォタキシムを経験的治療とし(強い推奨)、リステリア感染の危険因子(60歳超・妊娠・免疫不全)が1つ以上あれば静注アンピシリンまたはアモキシシリンを追加する(強い推奨・エビデンスの確実性は非常に低い)としていること、その理由として本菌が第3世代セファロスポリンに本質的に耐性であると述べていること、バンコマイシンの追加は肺炎球菌の耐性が多い地域に限った条件付き推奨であること、起因菌別の治療表でリステリアはペニシリンG・アンピシリン・アモキシシリンのいずれかを21日間としていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.What is the incubation period for listeriosis?(BMC Infectious Diseases・2013)抄録で、汚染食品への単回曝露が確認できた侵襲性リステリア症37例と胃腸炎の集団発生9件を解析し、侵襲性リステリア症の潜伏期の中央値が8日(範囲1〜67日)で病型により有意に異なり、妊娠関連が中央値27.5日(17〜67日)、中枢神経系感染が9日(1〜14日)、菌血症が2日(1〜12日)、胃腸炎が24時間(6〜240時間)であったこと、食歴を聴取する期間として中枢神経系感染・菌血症では診断前14日、妊娠関連では6週間を提案していることを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Expected Resistant Phenotypes, Version 1.2(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2023)現行版(v1.2、2023年1月)のPDFの7頁の Table 4(グラム陽性菌の想定耐性表現型)を描画して確認し、Listeria monocytogenes(規則4.11)がセフタジジムとセフタジジム以外のセファロスポリン系の両方で想定耐性とされていること、表題でグラム陽性菌全般がアズトレオナム・テモシリン・ポリミキシンB/コリスチン・ナリジクス酸に想定耐性とされていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.ESCMID guideline: diagnosis and treatment of acute bacterial meningitis(European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases (ESCMID)・2016)Wayback Machine に保存された誌面HTML全文(2025年6月29日取得)の表4.1で、経験的治療を1か月未満の新生児はアモキシシリン/アンピシリン/ペニシリン+セフォタキシム、またはアモキシシリン/アンピシリン+アミノグリコシド系とし、50歳超、または18〜50歳でリステリアの危険因子(糖尿病・免疫抑制薬・がんなど免疫不全をきたす状態)がある成人ではセフォタキシムまたはセフトリアキソンにアモキシシリン/アンピシリン/ペニシリンGを加えるとしていること、リステリア髄膜炎の標準治療はアモキシシリン・アンピシリン・ペニシリンGで、アミノグリコシド系の追加は後ろ向き研究2件で腎不全との関連が示され評価が分かれ(考慮はしうるが腎不全に注意)、治療期間は21日以上を勧めていることを確認した。閲覧 2026-09-27