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Microbe Atlas · 細菌

Yersinia enterocolitica

分類
腸内細菌科 / EnterobacteriaceaeYersinia
性状
Gram陰性 (G−)桿菌 Bacilli通性嫌気性 Facultative
科目
Medical Microbiology
トピック
2/14: Yersinia genus (Y. pestis and yersiniosis)5/7: Pathogens of enterally (faecal-oral route) spreading bacterial infections (list) and their diagnosis5/35: Causative agents of diarrhoea and their diagnosis
原因となる疾患
結節性紅斑細菌性急性胃腸炎反応性関節炎

🧠 全体像:Yersinia enterocoliticaはと同じ属・同じ「の」・同じを持ちながら、伝播経路が糞口感染であるために腸炎という局所の病気にとどまる——のページで述べた「入り口が違うだけで運命が変わる」好例の片割れである。臨床上最も重要なのは、がに酷似するという一点で、この鑑別を誤ると不要な開腹手術に至る。

微生物学的な特徴

項目 内容
形態 で「」の外観——Yersinia pestisと共通するYersinia属の身分証
莢膜 あり()
増殖特性 低温でも増殖・運動可能——多くの腸内細菌科と異なり寒冷環境を好む

💡 低温増殖性は診断にそのまま応用される。 「低温増菌」と呼ばれる前処理で、便検体を低温に置いておくと他の常在腸内細菌の増殖が抑えられる一方でYersiniaだけが増殖できるため、その後にへ塗布すると回収率が上がる1。増菌が低温なのであって、分離培養そのものを低温で行うわけではない(下記「診断」を参照)。

病原性の仕組み

Y. pseudotuberculosisと同じく、糞口感染で腸管に達したのちのエフェクター分子でへの侵入とを行う——分子的な武器はと共通するが、血流へのまでは至らず、腸炎・という局所の病気にとどまる。

感染経路と疫学

⚠️ 最大の感染源は加熱不十分な豚肉である。 米国は「Yersinia感染は生または加熱不十分な豚肉の摂取と結びつくことが多い」と冒頭に置き、よくある原因として①汚染された食品(とくに生または加熱不十分な豚肉)、②豚の腸などの豚肉製品を扱った人との接触の2つを挙げる2。動物・その環境・その糞便との接触は「頻度の低い原因」の側に分類される2——保有動物(イヌ・げっ歯類など)との接触だけを覚えると感染源を取り違える。

区分 経路
よくある原因 生・加熱不十分な豚肉の摂取/豚肉製品を扱った人の手を介した接触(乳幼児への伝播が典型)2
頻度の低い原因 汚染された・未処理の水の摂取/動物・その環境・その糞便との接触/ヒト-ヒト接触(感染児のおむつ交換後の不十分な手洗いなど)2
  • 小児のほうが成人より感染しやすい2
  • 人獣共通感染症で、ブタが主要な保有動物であり、げっ歯類・イヌなども保有する

起こす疾患

=胃腸炎+腸炎、または胃腸炎+(Y. pseudotuberculosisで特に顕著)。

疾患・合併症 押さえどころ
幼児では発熱・腹痛・血性下痢が主体。多くは支持療法で軽快2
年長児・成人では発熱と右側腹部痛が前面に出て、に酷似しうる()2
咽頭炎 とくに小児でを伴うことがある——腸炎の病原体としては意外な所見で、見落としやすい2
の後に生じる。成人でみられる
その他 、肝炎、骨髄炎、敗血症

⚠️ はの重要な。 年長児の痛でYersiniaによるをとし、不要な手術に至る例が国家試験でも頻出のひっかけポイントである——画像所見(虫垂そのものは正常)と血清学的検査が鑑別の助けになる。も年長児・成人の右側腹部痛が虫垂炎と混同されうると注意を促している2。

💡 感染後のは「陽性者だけの現象」ではない。 米国ミネソタ州・オレゴン州で2002〜2004年に届け出られた腸管病原体(Campylobacter・Escherichia coli O157・Salmonella・Shigella・Yersinia)の培養のうち、聞き取り調査を完了した者の13%が培養から8週以内にの疑い(3日以上続く関節痛・・・・)を示した。リスクは女性・成人・急性期が重症だった者で高く、抗菌薬の使用とはリスクと関連しなかった3。診察できた82例では最も多い所見が腱・で、関節炎はむしろ少なかった3。⚠️ この13%は5病原体をまとめた分母に対する値で、Y. enterocolitica 単独の頻度ではない。

診断

診断は検査室での分離・同定による2。

工程 具体的な方法 押さえどころ
での分離 セフスロジン・イルガサン・寒天培地を32℃で24時間、または22℃で48時間培養 Pseudomonas aeruginosa・大腸菌・Klebsiella pneumoniae・Proteus mirabilis に対する選択性が高く、便からの回収率がSalmonella-Shigella寒天やより高い1
コロニーの見分け +発酵による反応の差 この培地上で生えてくる他のグラム陰性菌との区別がつく1
低温増菌 検体を低温に置いて本菌だけを増やしてから上記培地へ塗布する別工程 直接塗布より回収率が上がる1
血清学的検査 の測定 培養で捉えられなかった・のな裏づけに使う

⚠️ 「低温増菌」は培地の温度設定ではなく、前処理の工程である。 そのものは22〜32℃で培養する1。低温に置くのは増菌の段階であって、分離培養を4℃で行うわけではない。

治療と予防

  • 多くの胃腸炎は自然軽快し、支持療法(経口補水・輸液・)が基本。も、幼児を含む大半の患者は抗菌薬なしで回復し、抗菌薬は重症例に限って用いられるとしている2
  • ⚠️ 血性下痢のある例にを使わない。 12歳未満にはを含む製剤も用いない2
  • 重症例・全身感染では+アミノグリコシドの併用(例:セフトリアキソン+)
  • 予防は豚肉の十分な加熱と、豚肉を扱ったあとに乳幼児・哺乳瓶・・玩具に触れる前の手洗い——がをとくに注意しているのはこの経路である2。動物やその環境との接触後のも有用だが、頻度の低い経路への対策である

なぜアンピシリン系を選べないのか

の Expected Resistant Phenotypes(v1.2、2023年1月)は、Y. enterocolitica について次の薬剤を感受性が期待できない()ものとして挙げている4。

感受性が期待できない() 同じ表で耐性の予測が付いていない
アンピシリン/アモキシシリン、アモキシシリン・、、チカルシリン、/セファロチン、 /セファドロキシル、、テトラサイクリン系、、/、、

💡 世代でまとめず、薬剤名で覚える。 第1世代でも/セファロチンはの側だが、経口の/セファドロキシルには耐性の予測が付いていない——世代の括りでは答えが出ない4。右の列は「ではない」という意味であって「効く」という意味ではなく、実際の可否は株ごとので決まる。

💡 を足しても回復しない点も読みどころ。 アモキシシリン・ともの側に並んでいる——「阻害薬を足せばが使える」という一般則が通らない4。腸炎で経験的にアンピシリン系を選ぶ発想がそのまま当てはまらないため、重症例では以降の薬剤に移る必要がある。なお近縁のY. pseudotuberculosisは同じ表で/のみがとされており、同じ属でもの型が違う4。

まとめ

  • Yersinia enterocoliticaはと同じ・を持つが、糞口感染のため局所の腸炎にとどまる。
  • 低温増殖性を利用した低温増菌と、セフスロジン・イルガサン・を選択剤とする寒天培地(22〜32℃で培養)が分離の鍵になる1。
  • 感染源は生・加熱不十分な豚肉が中心で、動物・その環境・その糞便との接触や汚染された・未処理の水は「頻度の低い原因」の側である2。
  • ⚠️はに酷似する——年長児・成人の右側腹部痛での重要な2。
  • としてが起こりうる。米国の研究では腸管病原体5種をまとめた分母で13%にが生じ、との関連は認められなかった3。
  • 多くは自然軽快し支持療法が基本だが、重症例では+アミノグリコシドを用いる。アンピシリン系(阻害薬配合を含む)と/セファロチン・はなので選べない4。

出典

  1. 1.Synthesis of a selective agar medium for Yersinia enterocolitica(Canadian Journal of Microbiology(Schiemann DA)・1979)抄録(Europe PMC の resultType=core)で、セフスロジン・イルガサン・ノボビオシンを選択剤とする寒天培地が *Yersinia enterocolitica* の分離用に設計されたこと、32℃で24時間または22℃で48時間の培養で40株の定量的回収が得られたこと、*Pseudomonas aeruginosa*・*Escherichia coli*・*Klebsiella pneumoniae*・*Proteus mirabilis* に対してとくに選択性が高いこと、コロニー形態とマンニトール発酵による反応の差で本菌を他のグラム陰性菌と区別できること、便からの回収率が直接塗布でも低温増菌(cold enrichment)後でもこの培地のほうが Salmonella-Shigella 寒天(直接0.0%/増菌後0.7%)や MacConkey 寒天(0.0%/0.9%)より高かったこと(この培地では0.4%/1.5%)を確認した。全文は未取得で、抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27
  2. 2.About Yersinia Infection(Centers for Disease Control and Prevention・2024)本文は cdc.gov が bot 判定で 403 を返したため、Wayback Machine の保存版(2026-09-01 の id_ 取得、ページ末尾の更新表示は April 25, 2024)を curl で取得して確認した。要点として「Infection with Yersinia is often linked to eating raw or undercooked pork.」と冒頭に置かれ、感染のよくある原因(Common causes of infection)が①汚染された食品、とくに生または加熱不十分な豚肉、②チトリンズなど豚肉製品を扱った人との接触の2つ、頻度の低い原因(Less common causes)が①汚染された牛乳や未処理の水を飲むこと、②動物・その環境・その糞便との接触、③ヒト-ヒト接触(感染児のおむつ交換後の不十分な手洗いなど)であること、小児のほうが成人より感染しやすいこと、症状が年齢で異なり幼児では発熱・腹痛・血性下痢、年長児と成人では発熱・右側腹部痛で、とくに小児では咽頭痛も起こりうること、その痛みが虫垂炎と混同されうること、診断が検査室検査によること、治療は水分補給が中心で血性下痢には止痢薬を使わないこと、大半の患者は幼児を含め抗菌薬なしで回復し抗菌薬は重症例に限って用いられることを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Reactive arthritis following culture-confirmed infections with bacterial enteric pathogens in Minnesota and Oregon: a population-based study(Annals of the Rheumatic Diseases(Townes JM, et al.)・2008)抄録(Europe PMC の resultType=core)で、米国ミネソタ州とオレゴン州の FoodNet に2002〜2004年に届け出られた *Campylobacter*・*Escherichia coli* O157・*Salmonella*・*Shigella*・*Yersinia* の培養確定例6,379件のうち70%が聞き取り調査を完了し、そのうち575例(13%)が培養から8週以内に反応性関節炎の疑い(3日以上続く関節痛・関節腫脹・背部痛・踵部痛・朝のこわばりの新規発症)を示したこと、発生率が *Campylobacter*(10万人あたり2.1)と *Salmonella*(1.4)で最も高かったこと、リスクが女性(相対危険1.5、95%信頼区間1.3〜1.7)・成人(2.5、2.0〜3.1)・急性期が重症だった者で高かったこと、**抗菌薬の使用と HLA-B27 はリスクと関連しなかった**こと、診察した82例中54例(66%)が反応性関節炎と確定したこと、最も多い所見が腱・靱帯付着部炎で関節炎はより少なかったこと、オレゴン州でのこれら5病原体後の反応性関節炎の推定発生率が10万人あたり0.6〜3.1件だったことを確認した。⚠️ 13%と発生率は5病原体をまとめた分母に対する数値で、*Yersinia* 単独の値ではない。全文は未取得で、抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Expected Resistant Phenotypes, Version 1.2(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2023)PDF(v1.2、2023年1月)を取得し、Table 1(腸内細菌目と *Aeromonas*)の rule 1.19 *Yersinia enterocolitica* の行を座標つきで読んだ。感受性が期待できない(expected resistant)と示されているのはアンピシリン/アモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、アンピシリン・スルバクタム、チカルシリン、セファゾリン/セファロチン、セフォキシチンの6欄で、セファレキシン/セファドロキシル、セフロキシム、テトラサイクリン系、チゲサイクリン、ポリミキシンB/コリスチン、ホスホマイシン、ニトロフラントインには R が付いていない。同じ表の rule 1.20 *Yersinia pseudotuberculosis* はポリミキシンB/コリスチンのみに R が付く。表の前文は腸内細菌目と *Aeromonas* がベンジルペニシリン、グリコペプチド、リポグリコペプチド、フシジン酸、マクロライド(一部例外あり)、リンコサミド、ストレプトグラミン、リファンピシン、オキサゾリジノンにも耐性と予測されると述べる。閲覧 2026-09-27