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Microbe Atlas · 細菌

Yersinia pestis

ペスト菌

分類
腸内細菌科 / EnterobacteriaceaeYersinia
性状
Gram陰性 (G−)桿菌 Bacilli通性嫌気性 Facultative
科目
Medical Microbiology
トピック
2/14: Yersinia genus (Y. pestis and yersiniosis)5/9: Causative agents of arthropod-borne bacterial infections (list)5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
原因となる疾患
ペスト
作用する薬剤
シプロフロキサシンストレプトマイシンドキシサイクリンレボフロキサシン

🧠 全体像:はYersinia enterocoliticaと同じ属・同じ武器()を持ちながら、伝播経路の違いだけで運命がまったく変わる好例として読む。糞口感染で腸に入る近縁種が「局所の腸炎」に留まるのに対し、やで侵入する本菌はでを無力化し全身に広がる「()」という致死的なを起こす。人類史上最大級の感染症災害を起こした菌でありながら、診断・検体の取り扱い自体が危険という点も臨床上重要である。

微生物学的な特徴

項目 内容
形態 で「」の外観を呈する——両端が濃く染まり中央が淡い特徴的な染色パターン
細胞内寄生性
莢膜 あり()
生息地 人獣共通感染症(主にげっ歯類・プレーリードッグ)
その他の因子 プロテアーゼ遺伝子——C3bを分解しを妨げる

⭐ 「の」はYersinia属全体に共通する身分証。 Yersinia enterocolitica・Y. pseudotuberculosisも同じ染色パターンを示す——属を同定する第一の手がかりになる。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Yersinia pestis<br>(げっ歯類が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reservoir host'>貯蔵宿主</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flea bite'>ノミ刺咬</span>"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory droplets'>飛沫</span>(ヒト-ヒト、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pneumonic plague'>肺ペスト</span>由来)"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type III secretion system (T3SS)'>III型分泌装置</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Yersinia outer proteins'>YOPS</span>を注入<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='phagocytic capacity'>貪食能</span>・サイトカイン産生を阻害"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bubonic plague'>腺ペスト</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='buboes'>バブー</span>形成)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septicemic form'>敗血症型</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue necrosis'>組織壊死</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation'>DIC</span>)"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pneumonic plague'>肺ペスト</span><br>(未治療ではほぼ確実に致死的)"]

💡 は「を先回りで無力化する」武器。 によりをマクロファージ・好中球に直接注入し、・サイトカイン産生を阻害する機能不全を誘導する——に取り込まれる前に取り込む側を無力化するため、菌は急速に増殖・拡散できる。

感染経路と疫学

  • 主要なはげっ歯類・プレーリードッグ
  • 伝播経路は(げっ歯類を吸血したノミ)または飛沫感染(=ヒト-ヒト感染)
  • 現在も北米・アフリカ・アジアの一部地域でが報告される人獣共通感染症

起こす疾患

()は病型によって重症度・が大きく異なる。

病型 特徴
皮膚に——腫脹し圧痛を伴うリンパ節。未治療の致死率は66%だが、抗菌薬治療により13%へ下がる1
→リンパ節→血流に達し、罹患組織が黒色化・壊死する。出血性炎症・膿瘍・を起こしうる
未治療ではほぼ確実に致死的(の2021年勧告の表現は “almost always fatal” であり、古い教科書の「致死率100%」という断定とは一致しない)1。呼吸困難・の・胸痛を呈する。によるヒト-ヒト感染力が非常に強く、最も危険な病型。・にはに加えてを用いる1

診断

  • 培養は診断の柱である。 通常の血液培養が本菌を検出する感度の高い方法で、の穿刺液には多数の菌が含まれるためと培養の両方に使える。で重症の患者ではも可能だが、その時期には血液培養も陽性になることが多い2
  • 培養が陰性でなお疑いが残る場合は、血清学的検査で診断を確認しうる。ただし発症後できるだけ早い時期の1検体と、発症後4〜6週以降の血清を対にして採る必要があり、急性期の意思決定には間に合わない2
  • ⚠️ のリスクがあるため、疑った時点で検査室へ事前に伝え、適切な対策の下で扱う。 「危険だから培養しない」のではなく、「危険だと知らせてから培養する」のが正しい順序である
  • ⚠️ を疑ったら、検査結果を待たずに治療を開始する。 は検査結果の受領を待って治療を遅らせたり控えたりしてはならないとしており、確定診断は後から専門の検査で確立できる3。疑った時点で地域・州のへ直ちに通報する2

治療と予防

  • 単剤で治療してよいのは、全身状態が安定し二次性の・の徴候が無い、の原発性・咽頭に限られる( 2021年改訂)——・などのアミノグリコシド系、・・などの、ドキシサイクリンのいずれかを用いる1
  • 2021年改訂の要点はの格上げである——が代替薬から第一選択(推奨薬)へ移り、旧版に無かった・が第一選択として加わった1
  • ⚠️ 重症の・では、系統の異なる2剤の併用で開始し、臨床的に改善してから単剤へ絞る。 診断が不確かな場合やを想定する場面でも、少なくとも一方をとする2系統の併用を用いる1。⚠️ 「は単剤」から「も単剤」へ広げない——重症のは併用側である
  • 髄膜炎を伴う場合はを軸に組む。初期治療はとまたはの併用で、治療中に二次性の髄膜炎を起こした例では既存のレジメンにを追加する1
  • 治療期間は10〜14日1
  • 予防:⚠️ 現在、承認されたワクチンは無い。 以前利用できたワクチンはに対する十分な有効性を示せず、新しい製剤は開発中または研究用にとどまる1。かつて教科書にあった「で予防する」という覚え方は、現行の勧告には対応しない
  • 曝露後予防:適切ななしに患者と6フィート(約2m)以内で持続的に接触した人に、単剤(ドキシサイクリンまたは)を7日間投与することを考慮する1
  • 感染対策:げっ歯類・ノミの駆除、患者への(N95呼吸器は通常の診療には不要だが、を発生させる処置では考慮しうる)1

まとめ

  • は()を示すYersinia属の代表で、げっ歯類をとし、または飛沫感染で伝播する。
  • 由来のでマクロファージ・好中球の機能を先回りで阻害し、急速に増殖・拡散する。
  • は(、未治療の致死率66%・治療で13%)→(・)→(未治療ではほぼ確実に致死的、ヒト-ヒト感染)という進展を示す1。
  • 診断の柱は培養(血液培養・穿刺液)で、陰性なら血清学で補う。検査室へ事前に伝え、結果を待たずに治療を開始する23。
  • 単剤治療は全身状態が安定した原発性・咽頭に限られ、アミノグリコシド系・・ドキシサイクリンのいずれかを用いる(2021年改訂でが第一選択に格上げ)。重症の・は2系統併用で開始し、改善後に単剤へ絞る。髄膜炎はを軸に組む。治療期間はいずれも10〜14日1。
  • 現在、承認されたワクチンは無い1。

出典

  1. 1.Antimicrobial Treatment and Prophylaxis of Plague: Recommendations for Naturally Acquired Infections and Bioterrorism Response(Centers for Disease Control and Prevention (MMWR Recommendations and Reports)・2021)本文で次を確認した。「Patients presenting with naturally acquired primary bubonic or pharyngeal plague who are stable and do not show signs of secondary septicemic or pneumonic plague can be treated with a single antimicrobial agent」——単剤でよいのは安定した原発性腺ペスト・咽頭ペストに限られる。「For patients with severe septicemic or pneumonic disease, clinicians should institute dual therapy with two distinct antimicrobial classes, with narrowing of therapy to a single antimicrobial after clinical improvement」——重症の敗血症型・肺ペストは2系統併用で開始し改善後に単剤へ絞る。診断が不確かな場合やバイオテロ対応では、少なくとも一方を第一選択とする2系統併用を用いる。腺ペスト・咽頭ペストではドキシサイクリンも第一選択だが、重症の敗血症型・肺ペストではテトラサイクリン系は代替薬の位置づけである。髄膜炎の初期治療はクロラムフェニコールとモキシフロキサシンまたはレボフロキサシンの併用で、治療中に生じた二次性ペスト髄膜炎では既存レジメンにクロラムフェニコールを追加する。改訂の要点としてシプロフロキサシンを代替から第一選択(preferred)へ移し、旧版に無かったレボフロキサシン・モキシフロキサシンを第一選択に加えたと明記している。治療期間は全病型で10〜14日。「Left untreated, the fatality rate of bubonic plague is 66%; however, with antimicrobial treatment, the fatality rate decreases substantially to 13%」。「Untreated pneumonic plague is almost always fatal」。肺ペストは6フィート未満の近接した持続的接触で飛沫伝播するため標準予防策に加えて飛沫予防策を用い、空気感染の証拠が無いためN95呼吸器は通常の診療には不要だがエアロゾル発生手技では追加の予防策として考慮しうる。適切な個人防護具なしに肺ペスト患者と6フィート未満で持続的に接触した人には曝露後予防を考慮し、投与期間は7日間で併用ではなく単剤を用いる。以前利用できたワクチンは肺ペストに対する十分な有効性を示せず、新しい製剤は開発中または研究用にとどまる。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Clinical Testing and Diagnosis for Plague(Centers for Disease Control and Prevention・2026)病変となったバブーには多数の菌が含まれ顕微鏡検査と培養で評価できること、通常の血液培養がYersinia pestisを検出する感度の高い方法であること、肺ペストで重症の患者では喀痰からの培養も可能だがその時期には血液培養も陽性になることが多いこと、培養が陰性でなおペストが疑われる場合は血清学的検査で診断を確認しうるが発症後できるだけ早い時期の1検体と発症後4〜6週以降の回復期血清を対にして採る必要があること、ペストが疑われる場合は直ちに地域・州の保健当局へ通報すべきことを確認した(ページの最終確認日は2026年4月6日と表示)。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Clinical Care of Plague(Centers for Disease Control and Prevention・2024)ペストを疑った場合は診断検査の結果を待たずに治療を開始すべきこと("DO NOT WAIT FOR DIAGNOSTIC TEST RESULTS IF YOU SUSPECT PLAGUE")、検査結果の受領を待って治療を遅らせたり控えたりしてはならないこと、確定診断は後から専門の検査で確立できることを確認した(ページの最終確認日は2024年5月15日と表示)。閲覧 2026-09-27