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Drug Atlas · C11 Antibiotics / 抗菌薬 · 必修

クロラムフェニコール

chloramphenicol

分類
Antibiotics / 抗菌薬
商品名(日本)
クロロマイセチン
商品名(EU)
Chloromycetin
科目
Pharmacology
トピック
C11: Chloramphenicol. Polymyxins. Antifolate drugs
標的微生物
Salmonella typhiRickettsia rickettsiiRickettsia prowazekiiRickettsia typhiOrientia tsutsugamushiHaemophilus influenzaeNeisseria meningitidisBacteroides fragilis
監視検査値
血算
相互作用
フェニトイン
対象疾患
ペスト細菌性髄膜炎髄膜炎菌感染症腸チフス発疹チフス
原因となる疾患
再生不良性貧血

🧠 全体像:は「効くのに使われない薬」の代表格である。として非常に広域かつ組織移行に優れ、特に血液脳関門を炎症の有無にかかわらずよく通過するという強みを持つが、用量に関係なく起こりうる致死的なという代えの利かない毒性のために、先進国では代替薬がない場面に限って使われる「最後の手段」に位置づけが変わった。新生児でのも、この薬を語るうえで機序と同じくらい重要な安全上の急所になる。

薬効群の中での位置づけ

C11で扱う3剤は、細菌・原虫のどこを止めるかで役割が分かれる。

薬剤 標的 効き方 位置づけ
50S ribosomeのpeptidyl transferase 広域だがのため最後の手段
Gram陰性菌の外膜・細胞膜(LPS) 多剤耐性Gram陰性菌への最終兵器
(DHPS・DHFR) 〜 ・PJP・一部に頻用

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chloramphenicol'>クロラムフェニコール</span>が50S ribosomal subunitに結合"] --> B["peptidyl transferase活性を阻害"]
    B --> C["ペプチド結合形成が止まる"]
    C --> D["蛋白合成↓(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteriostatic'>静菌的</span>)"]
    A --> E["ヒトのミトコンドリアribosome(細菌型に近い)にも作用"]
    E --> F["造血幹細胞のミトコンドリア機能低下"]
    F --> G1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dose-related'>用量依存性</span>・可逆性の骨髄抑制<br>(頻度が高い)"]
    F --> G2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='idiosyncratic'>特異体質性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Irreversibility'>不可逆性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aplastic anemia, AA'>再生不良性貧血</span><br>(まれだが致死的)"]

💡 には性質の異なる2種類がある。 ①・可逆性の骨髄抑制(貧血・)はミトコンドリアribosome阻害ので、頻度が高くで回復する。②・のは用量やモニタリングとに、代謝物が幹細胞のを傷害することで起こると考えられ、頻度は低い(数千〜数万例に1例)が発症すれば致死率が高い。この予測不能な②の存在こそが、有効な薬でありながら最後の手段に格下げされた理由。

⚠️ は新生児で最も起こりやすいが、新生児に限られた病態ではない。 新生児、とくに早産児は肝のが低く最高リスク群だが、報告例の総説は逐語で「similar symptoms can occur even in older children and adults」と述べており、であれば年長児・成人でも同じ病像が起こりうる。実際この総説が報告している症例は1.5 gをした生後14か月児である1。 新生児は肝の酵素()が未成熟なため、を代謝できず未変化体が蓄積する。嘔吐・腹部膨満・チアノーゼ(灰色の皮膚色)・・低体温という経過をたどり致死率が高い。新生児・妊婦・への投与が禁忌である最大の理由になる。

薬物動態

項目 値・特徴
良好
分布 血液脳関門を炎症の有無にかかわらず容易に通過。組織移行全般が良好
代謝 肝での()が主。新生児では未成熟でのリスク
排泄 代謝物として
モニタリング 全身投与では血中濃度・血算のモニタリングを要する

適応

代替薬が使えない、または他剤より優れる限られた場面でのみ使う。

領域 使いどころ
中枢神経系感染 βラクタム・バンコマイシンが使えない重症(血液脳関門通過の良さを活かす)
(R. rickettsii)、(R. prowazekii)、(Orientia tsutsugamushi)などの代替薬。米国はテトラサイクリン系へのアレルギー・や妊婦などで代替になりうるとする一方、の上昇と関連し、とくにで顕著だとしている2。では、で治療した患者はテトラサイクリン系より死亡の危険が高く3、米国は妊婦と8歳未満の小児を含む全年齢で可能な限りドキシサイクリンを使うよう勧めている4。妊娠だけを理由に安易にへ切り替えない(本剤自体も、胎児・新生児のの懸念からには避けられる)
Salmonella typhiによる。歴史的には第一選択だったが、耐性拡大とにより現在はセフトリアキソン・アジスロマイシンがとして優先される。は南アジア由来株を中心に非感受性が拡大しており、感受性が確認された場合に限る5
眼科 点眼薬・としての外用(全身毒性のリスクがほぼない)

用法・用量

PO/IV(点眼薬・もあり)。全身投与では血中濃度・血算のモニタリングを要する。実際の用量は適応・年齢・体重・肝機能で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌:新生児(のリスク)、・授乳中、の既往
  • ⚠️ は・で予測できない。 定期的な血算モニタリングでは防ぎきれないことを理解した上で、代替薬がない場合に限って使う
  • ⚠️ フェニトインとの併用に注意。 はCYP2C9を阻害しフェニトインの血中濃度を大きく上昇させ中毒(眼振・)を招きうる
  • の骨髄抑制は血算モニタリングで早期発見できる

副作用

頻度 内容
高頻度 消化器症状(悪心・嘔吐)
注意 の骨髄抑制(貧血・、可逆性)
重篤・まれ (・・致死率高い)、新生児の、(長期投与)

まとめ

  • 50S ribosomeのpeptidyl transferaseを阻害するな。血液脳関門を炎症の有無にかかわらずよく通過する。
  • は2種類——で可逆性の骨髄抑制と、用量に関係なく起こる・致死的な。後者の予測不能さが、有効な薬を「最後の手段」に格下げした理由。
  • 新生児は肝のが未成熟なため蓄積し、(・チアノーゼ)を起こす。新生児・は禁忌。
  • 代替薬がない重症感染(髄膜炎、)、、眼科外用に限定して使う。
  • CYP2C9阻害によりフェニトインの血中濃度を大きく上げる。

出典

  1. 1.Chloramphenicol-induced gray baby syndrome: case report and review of current literature(Frontiers in Pediatrics・2025)全文(PMC12833000、CC BY)を取得して確認した。最高リスク群については逐語で「Newborns, particularly preterm infants, have underdeveloped livers and relatively low glucuronidation capacity, making them highly susceptible to chloramphenicol toxicity and the highest-risk group for gray baby syndrome」。⚠️ ただし直後に逐語で「However, with excessive chloramphenicol dosing, similar symptoms can occur even in older children and adults」とあり、新生児に限られる病態ではない。報告症例自体が逐語「a 14-month-old Yi boy accidentally ingested 1.5 g」である。血中濃度については逐語で「with fatal cases consistently showing serum chloramphenicol levels exceeding 50 μg/mL」。機序の逐語は「Chloramphenicol overdose inhibits mitochondrial protein synthesis, which disrupts oxidative phosphorylation and causes cellular necrosis. Necrosis releases vasoactive substances, triggering microcirculatory dysfunction」。文献検討では転帰の判明した17例中11例(64.7%)が生存、6例(35.3%)が死亡した。閲覧 2026-09-22
  2. 2.Rickettsial Diseases(Centers for Disease Control and Prevention(CDC Yellow Book 2026)・2025)2025年4月23日付の2026年版の章で、クロラムフェニコールはテトラサイクリン系へのアレルギー・不耐容や妊婦などリケッチア感染症の一部で代替となりうるが、とくにロッキー山紅斑熱で致命率が高いことと関連すること、全年齢の患者にテトラサイクリン系による即時の経験的治療を勧めていることを確認した閲覧 2026-09-27
  3. 3.Diagnosis and Management of Tickborne Rickettsial Diseases: Rocky Mountain Spotted Fever and Other Spotted Fever Group Rickettsioses, Ehrlichioses, and Anaplasmosis — United States(Centers for Disease Control and Prevention (MMWR Recommendations and Reports)・2016)クロラムフェニコールで治療したロッキー山紅斑熱患者はテトラサイクリン系を受けた患者より死亡の危険が高いこと、治療量のドキシサイクリンが大きな催奇形性をもたらす可能性は低く、妊婦のダニ媒介リケッチア症の治療に有害事象なく使われた報告があることを確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Clinical Care of Rocky Mountain Spotted Fever(Centers for Disease Control and Prevention・2025)2025年3月6日付のページで、ドキシサイクリンは8歳未満の小児と妊婦を含む全年齢で可能な限り使うべきとされ、妊娠中の使用は大きな催奇形性をもたらす可能性は低いが危険が無いとは言い切れないため利益と危険を説明して決めること、クロラムフェニコールで治療したロッキー山紅斑熱患者はテトラサイクリン系で治療した患者より死亡の危険が高く、再生不良性貧血や灰色乳児症候群の危険もあり、米国では経口剤が入手できないことを確認した。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Extensively Drug-Resistant Salmonella Typhi Infections Among U.S. Residents Without International Travel — Health Alert Network Advisory(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2021)南アジア由来株を中心にフルオロキノロン非感受性が拡大しており、渡航歴のない患者やパキスタン・イラクへの渡航歴がある患者への経験的治療はカルバペネムまたはアジスロマイシンが中心でフルオロキノロンは経験的第一選択に含まれないことを確認した閲覧 2026-08-03