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Microbe Atlas · 細菌

Haemophilus influenzae

インフルエンザ菌

分類
G− 球桿菌 / Gram− coccobacilliHaemophilus
性状
Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/18: Haemophilus genus5/4: Bacteria causing air-borne upper respiratory tract infections (list) and their diagnostics5/12: The most important bacteria causing meningitis and encephalitis (list), their diagnosis, and principles of treatment
原因となる疾患
Waterhouse-Friderichsen症候群クループ・急性喉頭蓋炎・細菌性気管炎遺伝性・後天性溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症・G6PD欠乏症・自己免疫性溶血性貧血・発作性夜間ヘモグロビン尿症)化膿性関節炎(敗血症性関節炎)鎌状赤血球症気管支拡張症急性中耳炎・慢性中耳炎(滲出性中耳炎を含む)急性乳様突起炎急性副鼻腔炎高IgE症候群細菌性髄膜炎市中肺炎内耳炎(迷路炎)慢性副鼻腔炎涙嚢炎脾摘後重症感染症
作用する薬剤
クロラムフェニコールシタフロキサシンセフィキシムセフォタキシムセフトリアキソンセフロキシム(-アキセチル)トスフロキサシンファロペネムメロペネムレファムリンロメフロキサシン

🧠 全体像:の臨床像はすべて「莢膜を持つか持たないか」という1つの分岐から説明できる。b型莢膜株は貪食を回避して血流に乗り、髄膜炎・という致死的な侵襲性疾患を起こす——が撲滅を狙うのはまさにこの株である。一方(非、nontypeable)は莢膜という武器を持たない代わりに粘膜局所への定着に特化しており、中耳炎・副鼻腔炎・増悪という粘膜感染を起こす。の普及でb型による侵襲性疾患が激減した結果、現在の臨床的負担の大半はが占める——この菌を扱うときは常に「どちらの株の話をしているか」を意識する。なお菌名は歴史的な誤認に由来し、実際にインフルエンザを起こすのはである。

微生物学的な特徴

小型の〜桿菌で、上気道()に定着する。が極めて高い(fastidious)菌で、X因子()とV因子(NAD)の両方を必要とする点が属内の鑑別軸になる。

項目 内容
発育因子要求性 X因子()+V因子(NAD)の両方が必要——X因子のみのH. ducreyiと対照的
培養 (加熱溶血により両因子が遊離)で発育。血液寒天培地では単独発育できない
莢膜 (血清型a〜f)を持つ株と、莢膜を持たないが存在する。b型が侵襲性疾患の主体
酸素要求性 ——高CO₂環境でよく発育する

⭐ 「」。 血液寒天培地上では単独で発育できず、Staphylococcus aureusのコロニー周囲でのみ小さなコロニーを作る。S. aureusの産生するが赤血球を溶かしてX因子・V因子の両方を培地中に遊離させ、その周囲だけが発育可能な環境になるためで、これが「衛星」のように見える所以である。

病原性の仕組み

flowchart TD
  A["Haemophilus influenzae"] --> B["莢膜あり(主にb型)"]
  A --> C["莢膜なし(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nontypeable strain'>無莢膜株</span>、nontypeable)"]
  B --> D["補体・貪食を回避し<br>血流へ移行"]
  D --> E["侵襲性疾患<br>髄膜炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiglottitis'>喉頭蓋炎</span>・菌血症"]
  C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IgA protease'>IgAプロテアーゼ</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adhesin'>接着因子</span>で<br>粘膜表面に定着・持続"]
  F --> G["粘膜感染<br>中耳炎・副鼻腔炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic obstructive pulmonary disease'>COPD</span>増悪"]
  • b型の莢膜(、PRP)が中心的な——補体依存性の貪食・殺菌から菌を守るため、莢膜非形成のよりはるかに血流に乗りやすい
  • は莢膜を持たない代わりに、・(のを分解)・位相変異する表面蛋白によって粘膜表面に持続的に定着する——が中耳炎の再発・遷延化に関与する
  • 全般に共通する脆弱性として、脾臓によるのクリアランスが重要——鎌状赤血球症などの機能的や後の患者では(OPSI)など侵襲性感染のリスクが上昇する

感染経路と疫学

  • 飛沫感染で上気道へ伝播。は多くの人が生涯のいずれかの時期に保菌する
  • 侵襲性疾患(b型)のリスク因子:ワクチン未接種・未完了の乳幼児(特に生後6か月〜2歳)、鎌状赤血球症などの溶血性貧血、、、感染症
  • 粘膜感染()のリスク因子:乳幼児(未熟)、喫煙・、先行するウイルス性(の破綻を介した)
  • ワクチン普及国ではb型による侵襲性疾患は乳幼児でまれになった一方、による粘膜感染の相対的な重要性が増している

起こす疾患

型 疾患 特徴
b型(莢膜) 普及以前は小児の主要な原因菌だった。を参照
b型(莢膜) に腫脹した・・を呈する気道緊急症。・・を参照
b型(莢膜) 菌血症・・蜂窩織炎 血流播種による続発病変。の暗紫色を帯びた蜂窩織炎が特徴的とされる
・ 肺炎球菌と並ぶ二大起因菌。・を参照
副鼻腔炎 ・を参照
COPD増悪・増悪 慢性患者でのの主要な原因菌
高齢者・患者に多い
いずれも 結膜炎 コンタクトレンズ使用に伴う感染としても起こりうる

診断

  • での発育+X・V因子要求性の確認、または血液寒天培地上のS. aureus周囲でのみ発育するで同定する
  • 髄膜炎などの侵襲性疾患では血液・脳脊髄液の培養が診断の柱。莢膜抗原のは迅速だが偽陽性があり、確定診断としては培養・を優先する
  • はによる

治療と予防

  • 侵襲性疾患(髄膜炎・菌血症など):セフトリアキソンまたはで開始する——の一定割合がβラクタマーゼを産生してアンピシリン耐性を示すため、感受性確認前はで覆う
  • 感受性判明後(髄膜炎の):βラクタマーゼ陰性株ならアモキシシリン・アンピシリン、βラクタマーゼ産生株ならセフトリアキソン・、βラクタマーゼを産生しないのにアンピシリン耐性を示す株、いわゆるBLNARならセフトリアキソン・にを加える。治療期間は7〜10日間1
  • 💡 βラクタマーゼ陰性でもアンピシリンが効かない株がある理由:BLNARの耐性は薬を分解する酵素ではなく、標的のの変化による。βラクタマーゼの検査だけでは見抜けないので、の結果まで確かめる
  • 軽症・感染(中耳炎・副鼻腔炎など):アモキシシリン(高用量)、・ アキセチルなどの
  • 髄膜炎の代替薬には、βラクタム系以外のやも挙がる(BLNARではが代替)1
  • 侵襲性b型感染のへの:リファンピシンは、4歳未満で接種が完了していない者、または18歳未満の免疫不全者(接種歴を問わない)がいる世帯で、年齢や接種歴にかかわらず家庭内全員に投与する。その場合、・セフトリアキソン以外で治療した本人にも投与する。が2歳未満で・セフトリアキソン以外で治療された場合も、退院前に本人へ投与する。保育施設では60日以内に2例以上発生し、未接種・接種不完全の児が通っている場合に行う。b型以外の侵襲性感染ではの記録が無いため行わない2
  • 💡 なぜ「世帯に弱い子がいるか」で決めるのか。 目的は、に保菌した家族から、防御の弱い乳幼児へ菌が渡る経路を断つことにある。そのため守るべき子がいる世帯では、保菌しうる大人も含めて全員を除菌する
  • 予防:——(PRP)を(など)に結合させた
    • 日本:2024年4月からのは主に5種混合ワクチン(ジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオ・Hib)で行い、生後2〜7か月に至るまでを標準的な接種期間として20日以上(標準的には20〜56日)の間隔で3回、初回終了後6か月以上(標準的には6〜18か月)あけて追加1回3
    • 米国:製剤により生後2・4か月または2・4・6か月に初回接種し、生後12〜15か月に追加接種する。・早期欠損・免疫グロブリン欠乏・感染・後などの高リスク者にも接種を勧める2

💡 なぜ多糖体をそのまま使わず「結合型」にするのか。 のような多糖体抗原はで、2歳未満の乳幼児ではを形成しにくく単独では十分なを作れない。多糖体をに共有結合させることでの免疫応答に変換され、乳児期からの接種でも・効果が得られるようになる——これがが結合型として設計されている理由である。

⚠️ はb型にしか効かない。 は莢膜そのものを持たないため、による中耳炎・副鼻腔炎・増悪などの粘膜感染はでは防げない。

まとめ

  • の臨床像はb型莢膜株(侵襲性疾患:髄膜炎・・菌血症)と(粘膜感染:中耳炎・副鼻腔炎・増悪)という1つの分岐で理解する。菌名はとの歴史的な誤認に由来し、原因はウイルスではない。
  • 発育にX因子()とV因子(NAD)の両方を要し、または血液寒天培地上のS. aureus周囲()でのみ発育する。
  • 鎌状赤血球症・・は侵襲性b型感染のリスクを高める。
  • はをキャリア蛋白に結合させたで、を依存性抗原に変換することで乳児期から有効なを作る——ただしには無効。
  • 侵襲性感染はセフトリアキソンで開始し(βラクタマーゼ産生株が一定割合存在するため)、感受性に応じて調整する。髄膜炎の起因菌がBLNARならセフトリアキソンにを加える。侵襲性b型感染では、4歳未満の接種未完了児や18歳未満の免疫不全者がいる世帯の家庭内全員にリファンピシン予防投与を行う。

出典

  1. 1.ESCMID guideline: diagnosis and treatment of acute bacterial meningitis(European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases (ESCMID)・2016)Wayback Machine に保存された誌面HTML全文(2025年6月29日取得)の起因菌別の標的治療の表で、インフルエンザ菌による髄膜炎はβラクタマーゼ陰性株でアモキシシリンまたはアンピシリン(代替にセフトリアキソン・セフォタキシム・クロラムフェニコール)、βラクタマーゼ陽性株でセフトリアキソンまたはセフォタキシム(代替にセフェピム・シプロフロキサシン・クロラムフェニコール)、βラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性株でセフトリアキソンまたはセフォタキシムにメロペネムを加える(代替にシプロフロキサシン)とされ、治療期間はいずれも7〜10日間であることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Prevention and Control of Haemophilus influenzae Type b Disease: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)(MMWR Recommendations and Reports / Centers for Disease Control and Prevention・2014)Europe PMC の抄録で、ACIPが乳児に生後2〜6か月の結合型Hibワクチン(製剤により2回または3回)と生後12〜15か月の追加接種を勧め、早期補体成分欠損・免疫グロブリン欠乏・解剖学的/機能的無脾症・HIV感染・造血幹細胞移植後・悪性腫瘍への化学療法や放射線療法中の者にも接種を勧めていることを確認した。WebFetch 経由で本文(CDC の MMWR ページ)を取得し、PRP-OMP製剤は生後2・4か月、PRP-T製剤は生後2・4・6か月の初回接種で、いずれも生後12〜15か月に追加接種すること、リファンピシンによる化学予防は「4歳未満で接種が完了していない者、または18歳未満の免疫不全者(接種歴を問わない)がいる世帯」の家庭内接触者全員と、セフォタキシム・セフトリアキソンで治療されなかった発端者に勧められること、2歳未満の発端者がセフォタキシム・セフトリアキソン以外で治療された場合は退院前に投与すること(2026-09-27に横断監査でMMWRページから確認)、保育施設では60日以内に2例以上が発生し未接種・接種不完全の児が通っている場合に勧められること、b型以外のインフルエンザ菌による侵襲性感染症の接触者には二次感染が記録されていないため勧められないことを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.5種混合ワクチン(厚生労働省・2026)ページ本文(Hib感染症のQ&Aは2026年3月10日版)を取得し、2024年4月以降の定期接種1期では5種混合ワクチン(ジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオ・Hib)を主に用いること、初回接種は生後2〜7か月に至るまでを標準的な接種期間として20日以上(標準的には20〜56日)の間隔で3回、追加接種は初回接種終了後6か月以上(標準的には6〜18か月)の間隔で1回であること、単味のHibワクチンを用いる場合は初回接種開始時の月齢でスケジュールが変わることを確認した。閲覧 2026-09-27