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Microbe Atlas · ウイルス

Hantaan virus

ハンタンウイルス

分類
ブニヤウイルス / Bunyavirales
性状
エンベロープあり Enveloped(−)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/21: Bunyaviruses (Hanta-, Crimean-Congo haemorrhagic fever virus)
原因となる疾患
腎症候性出血熱

🧠 全体像:旧 Bunyaviridae 科という枠の中では、ハンタウイルス属だけが節足動物を介さず、げっ歯類のを直接吸入して感染する例外だった——この対比が臨床像を理解する入口になる(⚠️ 現行の綱 Bunyaviricetes ではこの「例外は1つ」が成り立たない。後述)。Hantaan virusはこの属の(1976年、韓国の漢灘江〈Hantan River〉流域でHo Wang Leeらが分離し、属全体の名前の由来になった)で、ハンタウイルスの中で最も重症の(HFRS)を起こす。同じ属でもPuumala virus(軽症の)とは対極に位置づけて覚えるとよい。

微生物学的な特徴

Bunyavirales目(Orthohantavirus属)に属する。

項目 内容
ゲノム 環状、3分節(L・M・S)構成
エンベロープあり(宿主の由来)、
病型による分類 (Hantaan・Dobrava-Belgrade・Puumalaなど、アジア・欧州)→(HFRS)、(Sin Nombre・Andesウイルスなど、南北アメリカ)→(HPS)

⭐ 「Bunyavirus=すべてarbovirus」という早合点は誤り。 旧 Bunyaviridae 科の大半(CCHFなど)はだが、ハンタウイルス属はげっ歯類の尿・便・唾液に含まれるウイルスの直接吸入で感染する。

💡 ただし「節足動物を介さないのはハンタウイルスだけ」は、綱のレベルでは成り立たない。 は2017年に Bunyaviridae 科を Bunyavirales 目へ拡大し、2024年4月にはその目自体を綱 Bunyaviricetes へ格上げした。綱の下は2目に分かれ、は Elliovirales 目、は Hareavirales 目に入るが、げっ歯類媒介の(Lassaウイルスなど)もと同じ Hareavirales 目に含まれる1。「例外は1つ」という覚え方は旧 Bunyaviridae 科という狭い枠を前提にしていると理解しておく——覚え方として有用であることは変わらないが、現行の分類を問われたときに言い換えられるようにする。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["げっ歯類の尿・便・唾液の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='aerosol inhalation'>エアロゾル吸入</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar macrophages'>肺胞マクロファージ</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airway epithelium'>気道上皮</span>で初期複製"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial cell'>血管内皮細胞</span>・単球への播種"]
    C --> D["内皮細胞は破壊されずに<br>透過性のみが亢進する<br>(細胞変性を伴わない特徴的な機序)"]
    D --> E["血漿・赤血球の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravasation'>血管外漏出</span>"]
    E --> F["腎:炎症細胞の浸潤と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubulointerstitial edema'>尿細管間質の浮腫</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate, GFR'>糸球体濾過量</span>低下"]
    E --> G["肺(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='New World type'>新世界型</span>):<span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncardiogenic pulmonary edema'>非心原性肺水腫</span>"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic fever with renal syndrome (HFRS)'>腎症候性出血熱</span>(HFRS)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute tubulointerstitial nephritis, ATIN'>急性尿細管間質性腎炎</span>・乏尿"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hantavirus pulmonary syndrome, HPS'>ハンタウイルス肺症候群</span>(HPS)<br>急速な低酸素血症"]

💡 「内皮細胞を殺さずに漏らす」のがハンタウイルスの核心病態。 直接のではなく、の(サイトカイン放出、血小板・内皮の機能異常)が主因とされ、これが腎(HFRS)・肺(HPS)というなパターンを生む。

⚠️ 腎障害の実体は「」ではない。 によるが起こるためとして説明されることがあるが、HFRSの腎障害で最も目立つ病理像はに続くであり、腎そのものの障害である2。血管内皮の透過性亢進とはその上流にある変化で、は腎障害を修飾するが説明の主体ではない。重症例は透析または持続的を要する。

感染経路と疫学

  • げっ歯類のの吸入が主経路——ヒト-ヒト感染は基本的に成立しない(ハンタウイルスのうちヒト-ヒト伝播が示されているのは南米のAndesウイルスだけである)
  • Hantaan virusのは(Apodemus agrarius)——農作業・野営・げっ歯類の巣に近い倉庫での曝露が典型的な感染契機
  • 分布:東アジア(中国・韓国・ロシア極東)が中心。秋〜初冬の農繁期に集積する季節性がある

起こす疾患

(HFRS)を起こす。ハンタウイルスの中でもHantaan virus は Dobrava-Belgrade virus と並ぶ最重症群に位置づけられる2。詳細はの項に譲る。

病期 特徴
突然の発熱、頭痛、、、点状出血
低血圧期 による→ショックに至ることがある
(による・クレアチニンの上昇)、電解質異常。重症例は透析を要し、この時期のが死因になりやすい2
腎機能の回復に伴う多尿
数週間かけて腎機能が正常化

致死率の比較——数値は母集団で変わる

ウイルス 致死率 数値の母集団
Hantaan virus 流行によっては15%に達し、血清学的に確定した患者の集計では5〜10%3 。流行と時代による幅が大きい
Dobrava-Belgrade virus 9〜12%3、ECDCは10〜12%4 9〜12%はバルカン半島の入院例の値
Seoul virus 1%未満3〜約1%2
Puumala virus() 0.1%未満(ヨーロッパで約0.1%)3、ECDCは1%未満4 。北欧のでは0.1〜1%2

⚠️ 数値が動くのは出典が争っているからではなく、分母にする集団が違うからである。 Dobrava-Belgrade virusの9〜12%はバルカン半島の入院例という重い側に寄った母集団の値で3、ECDCの10〜12%と桁も範囲もほぼ重なる4。Hantaan virusでも、血清学的に確定した患者の集計が5〜10%、流行での上限が15%と、同じウイルスで数値が動く3。致死率を読むときは必ず「誰を分母にした数字か」を確かめる——軽症で受診しない例が診断されないほど、見かけの致死率は高くなる。

⚠️ HFRSの総説が挙げる「5〜10%」を致死率として並べない。 この数字は原文がと書いたもので、しかもHantaan virusとDobrava-Belgrade virusを一括りにしている2。その引用元の総説で5〜10%が出てくるのはHantaan virusの列だけであり3、Dobrava-Belgrade virusの致死率としてECDCの10〜12%と並べて「出典が割れている」と読むことはできない。

💡 種ごとの致死率は集団の平均であって、個々の患者の重症度を決めるものではない。 同じ総説は、Puumala virusの症例が重症になることもHantaan virusの感染が軽症で済むこともあり、無症候性のに終わることもあると明記している3。それでも、Hantaan virusとDobrava-Belgrade virusがHFRSの最重症群、Puumala virusが最も軽症という位置づけは変わらない。

診断

  • が中心、急性期はも有用
  • :血小板減少、(・クレアチニン上昇)、蛋白尿
  • 渡航歴・農作業歴・げっ歯類曝露歴の聴取が診断の手がかりになる

治療と予防

  • 治療は基本的に支持療法(電解質・体液管理、重症例では)。Hantaan virus感染では約40%が透析を要する(Seoul virusでは約20%)ほど腎障害が重く、死因は腎不全・ショック・出血の合併症である3
  • ⚠️ 承認された抗ウイルス薬は無い4。は病初期に開始すれば有効という報告がある一方、投与後にHFRS患者の死亡率が有意に上昇したという報告もあり、は一定していない2——「早期投与なら効く」と単純化しない
  • が中国・韓国で流通しているが、アジア以外では入手できない。/EEAに承認されたワクチンは無く、アジアのワクチンも有効性が低いと報告されている4
  • 予防の中心はげっ歯類との接触回避(倉庫・農地でのネズミ駆除、の化を避ける換気・清掃)

まとめ

  • ハンタウイルス属は節足動物を介さずげっ歯類のを直接吸入して感染する。⚠️ これを「唯一の例外」と言えるのは旧 Bunyaviridae 科という枠の中での話で、現行の綱 Bunyaviricetes にはげっ歯類媒介のも含まれる1。
  • Hantaan virusは属ので、Dobrava-Belgrade virus と並んでハンタウイルスの最重症群のHFRSを起こす。致死率はの集計で5〜10%、流行では15%に達する3。⚠️ Dobrava-Belgrade virusの9〜12%はバルカン半島の入院例の値でECDCの10〜12%とほぼ重なり、出典が割れているわけではない34。HFRS総説の「5〜10%」は原文がと書いた数字なので、致死率として並べない2。
  • 病態の核心は内皮細胞を破壊せずにだけを亢進させる機序——腎(HFRS)・肺(HPS、)というなを生む。
  • 腎障害の主体はであり、として説明するのは不正確2。
  • ヒト-ヒト感染は基本的に成立しない(Andesウイルスは例外)。
  • 治療は支持療法が中心。はアジア限定で流通し、他地域では使えない。

出典

  1. 1.Promotion of order Bunyavirales to class Bunyaviricetes to accommodate a rapidly increasing number of related polyploviricotine viruses(Journal of Virology(International Committee on Taxonomy of Viruses)・2024)2017年にICTVが Bunyaviridae 科を Bunyavirales 目へ拡大し、2024年4月にその目をさらに綱 Bunyaviricetes へ格上げしたこと、この綱が2つの主要な目からなり、Elliovirales に Cruliviridae・Fimoviridae・Hantaviridae・Peribunyaviridae・Phasmaviridae・Tospoviridae・Tulasviridae が、Hareavirales に Arenaviridae・Discoviridae・Konkoviridae・Leishbuviridae・Mypoviridae・Nairoviridae・Phenuiviridae・Wupedeviridae が含まれることを確認した——げっ歯類媒介のアレナウイルス科がナイロウイルス科と同じ Hareavirales 目に置かれているため、「節足動物を介さないのはハンタウイルスだけ」は綱のレベルでは成り立たない。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome: Pathogenesis and Clinical Picture(Frontiers in Cellular and Infection Microbiology・2016)PMC版(PMC4737898)の本文で確認した。⚠️ HTNVとDOBVについての逐語は「HTNV or DOBV may cause the most severe form of HFRS and have the highest morbidity rates ranging from 5 to 10% (Jonsson et al., 2010)」で、原文の語は罹患率であって致死率とは書かれておらず、しかも2種を一括りにしている。引用元のJonssonら2010は本文でHTNVの致死率を最大15%、DOBVをバルカン半島の入院例で9〜12%としており、5〜10%が出てくるのは同総説の表の死亡の行でHTNVの列のみ(DOBVの列は無い)である。したがってこの5〜10%をDOBVの致死率として引用できない。本総説が致死率と明記しているのはSEOVの1%(mortality rate)と北欧(主にスウェーデンとフィンランド)の流行性腎症の0.1〜1%(case-fatality rate)である。ほかに、5病期(発熱期・低血圧期・乏尿期・利尿期・回復期)に分けられること。⚠️ 腎障害について逐語「Kidney injury frequently occurs in HFRS and the most prominent pathological presentation is acute tubulointerstitial nephritis following the infiltration of inflammatory cells」——最も目立つ病理像は炎症細胞浸潤に続く急性尿細管間質性腎炎であり、腎前性窒素血症ではない。重症の急性腎障害は透析または持続的血液浄化を要し、乏尿期の急性腎障害が死因になりやすい。閲覧 2026-09-27
  3. 3.A global perspective on hantavirus ecology, epidemiology, and disease(Clinical Microbiology Reviews・2010)PMC版(PMC2863364)の本文をブラウザUA付きのcurlで取得して確認した(Europe PMCのfullTextXMLは500を返した)。逐語は「Death occurs in less than 0.1% in patients infected with PUUV, whereas fatality rates as high as 15% have been observed for HFRS patients infected with HTNV. SEOV is associated with a mortality rate of less than 1%. In contrast to PUUV in Europe, with approximately 0.1% mortality, the mortality rate for hospitalized DOBV (A. flavicollis-borne) cases has been reported to be 9 to 12% in the Balkans.」——Hantaan virusは最大15%、Seoul virusは1%未満、Puumala virusは0.1%未満、Dobrava-Belgrade virusは**バルカン半島の入院例**で9〜12%である。同総説の表2(血清学的に確定したHFRS患者での出現率)は死亡の行をHTNV 5〜10%・SEOV 1%未満・PUUV 0%として挙げており、DOBVの列は無い——Hantaan virusの致死率は報告集団によって5〜10%から最大15%まで幅がある。透析を要するのは逐語「Dialysis is required for approximately 40% of HTNV and 20% of SEOV patients」で、死因は腎不全・ショック・出血の合併症である。同総説はPUUVの個々の症例が重症になることもHTNVの感染が軽症で済むこともあると明記しており、種ごとの致死率は集団の平均であって個々の重症度を決めるものではない。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Factsheet on orthohantavirus infections(European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC)・2026)ページ本文で、Dobrava-Belgrade virus感染が一般に重症で致死率10〜12%、Puumala virus(流行性腎症)は通常軽症で致死率1%未満であること、疾患が血管透過性の亢進・低血圧・血小板減少・急性腎障害を特徴とし乏尿期には血清クレアチニンと尿素の上昇が重要な検査指標になること、ウイルスの取り扱い・分離はPuumala virusではBSL-2、HFRS・HPSを起こす他のオルソハンタウイルスではBSL-3を要することを確認した。閲覧 2026-09-27