微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · ウイルス

Puumala virus

プーマラウイルス

分類
ブニヤウイルス / Bunyavirales
性状
エンベロープあり Enveloped(−)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/21: Bunyaviruses (Hanta-, Crimean-Congo haemorrhagic fever virus)
原因となる疾患
腎症候性出血熱

🧠 全体像:Puumala virusはハンタウイルスのうち臨床上重要な種の中で最も軽症の病型()を起こす種で、同じヨーロッパに分布するDobrava-Belgrade virusの最重症型と対を成す形で覚えるとよい。・(節足動物を介さずげっ歯類のを直接吸入して感染し、内皮ので腎障害に至る)はHantaan virusと共通のため、そちらのノートに譲る。

微生物学的な特徴

Bunyavirales目(Orthohantavirus属)に属する。ゲノム構造(環状、3分節、宿主由来のエンベロープ)はHantaan virusと同一——詳細はそちらを参照。

は(Clethrionomys glareolus、Myodes glareolusとも)——北欧・中央ヨーロッパの森林・草地に広く生息するで、この宿主の分布がそのままPuumala virusの流行地と重なる。宿主内の感染はで、感染したは急性感染の徴候を示さないまま生涯ウイルスを排出し続ける。大発生時にはの保有率が70%を超えることがある1。

⭐ 取り扱いの水準が他のハンタウイルスより1段低い。 ウイルスの取り扱い・分離はPuumala virusではBSL-2で足りるが、HFRS・を起こす他のはBSL-3を要する1。本種の軽症性が上の分類にも反映されている例である。

病原性の仕組み・感染経路

(げっ歯類の吸入→血管内皮の透過性亢進→)はHantaan virusと共通。詳細な機序図はそちらのノートを参照。

⚠️ 腎障害の実体は「」ではない。 HFRS の腎障害で最も目立つ病理像はに続くであり、体液不足によるではなく腎そのものの障害である2。血管内皮の透過性亢進とはその上流にある変化で、は腎障害を修飾するが説明の主体ではない。

  • ヒト-ヒト感染は示されていない——患者の唾液からPuumala virus が検出されることはあるが、ヒト-ヒト伝播が示されているのは南米のAndesウイルスのみで、Puumala virus・DOBVでは妊娠中のも確認されていない(母体免疫グロブリンの受動的な移行は観察されている)1
  • 潜伏期は約3週間(範囲10日〜6週間)1
  • 分布はスカンジナビア・フィンランド・中央〜西ヨーロッパが中心。薪割り・別荘の清掃・農作業などの巣に近い環境での曝露が典型的な感染契機で、秋〜初冬に季節性の増加がみられる
  • 💡 なぜ「別荘の掃除」が典型的な曝露になるのか。 Puumala virusは室温で約2週間、低温では最長6週間感染性を保つ1。がすでに去った物置・地下室・屋根裏でも、乾いたを舞い上げれば感染が成立する
  • 伝播が主に気道を介するため喫煙は危険因子で、Puumala virus感染の危険は非喫煙者の約3倍になる1
  • /EEA諸国でされるによるは年間おおむね1,500〜5,000例で、その最多原因がPuumala virusである。軽症で診断されずに終わる例が多く、数は実際の感染数より少ないと考えられている1

起こす疾患

——(HFRS)のとして位置づけられる病型を起こす。

  • 高熱・頭痛・筋痛・・腹痛・といったで始まり、一過性の(軽度の蛋白尿・血尿、上昇)が続く。や重症のショックは稀1
  • ⭐ が多い。 急性Puumala virus感染では視覚・がよく起こり、入院患者を対象とした前向き研究では70%超がを報告し、側への屈折の移動が頻繁に観察された1。この数字は入院例という重い側に寄った母集団のものなので、感染者全体の割合ではない
  • 血小板減少は大半のHFRS症例で起こる。には約30%が乏尿・を示し、重症例は透析を要する。ヨーロッパでは確定HFRS症例の30〜50%が入院する1(いずれもHFRS全体の数値で、Puumala virus単独の値ではない)
  • 多くは対症療法のみで数週間以内に腎機能が正常化する。ただし回復後の後遺が無いとは言えず、Puumala virus感染後(中央値5年)の17%にホルモン欠乏が検出されている1

致死率の比較——数値は母集団で変わる

ウイルス 致死率 数値の母集団
Puumala virus() 1%未満1 総説は0.1%未満〜約0.1%3、北欧のでは0.1〜1%2
Dobrava-Belgrade virus 10〜12%1 バルカン半島の入院例では9〜12%3
Hantaan virus 高いときは15%に達する3 流行と時代による幅が大きい
Seoul virus 1%未満〜約1%32 —

⚠️ 「出典で食い違っている」と見えたら、まず語の定義と母集団を確かめる。 HFRSの総説はHantaan virusとDobrava-Belgrade virusについて5〜10%という数字を挙げるが、原文の語はであって致死率とは書かれておらず、しかも2種を一括りにしている。その引用元の総説で5〜10%が置かれているのはHantaan virusの欄だけで、Dobrava-Belgrade virusの列は無く、本文はHantaan virusで最大15%・Dobrava-Belgrade virusの入院例で9〜12%としている3。この5〜10%をECDCの10〜12%と並べて「致死率が割れている」と読むことはできない2。残る差は母集団の違い(されたか入院例か)で、桁は一致している。

💡 種ごとの致死率は集団の平均であって、個々の患者の重症度を決めるものではない。 同じ総説は、Puumala virusの症例が重症になることもHantaan virusの感染が軽症で済むこともあり、無症候性のに終わることもあると明記している3。

いずれの数値でも、Puumala virusがハンタウイルスのうち臨床上重要な種の中で最も軽症という位置づけは変わらない。なお、軽症の感染を起こしうるTulaウイルスも同じく類が運ぶ種としてユーラシアに分布しており、「で最も軽い」という言い方は臨床上重要な種に限った話である1。

診断

  • 血清学的検査が中心で、急性感染はIgM、既感染はIgGのみで捉える。急性感染のの正確度は約95%とされる1
  • ⚠️ 同じ血清群のはする。 ヨーロッパの土着例ではヨーロッパ型Puumala virus様かDOBV/SEOV様かの判別で足りることが多く、種の厳密な区別には中和試験を要するが日常診療ではまず用いない1
  • 分子検出()はウイルス血症が短いため難しい一方、早期検体と重症例では血清学より感度が高い。属共通のよりウイルス特異的が望ましい1
  • 軽症で自然軽快することが多く、・発熱をに受診した際に流行地での野外活動歴・別荘や物置の清掃歴を聴取することが診断の糸口になる

治療と予防

  • 治療は支持療法が中心(多くは自然軽快、重症例では体液・、に対する透析)。承認された抗ウイルス薬は無い1
  • ⚠️ を軽症例に使わない。 静注は重症例に用いられてきたが、軽症のPuumala virus感染を対象としたでは有効性も安全性も不十分であった1
  • ⚠️ ワクチンは「ヨーロッパに無い」だけでなく「あっても本種には合わない」。 /EEAで承認されたワクチンは無く、韓国と中国で用いられているはHTNVまたはSEOVに対するもので、しかも有効性が低いと報告されている1——仮に入手できてもPuumala virusの予防手段にはならない
  • 予防はげっ歯類との接触回避(別荘・倉庫の換気、の化を避けた清掃、マスクと手袋、の使用)と禁煙1

まとめ

  • Puumala virusはハンタウイルスの1種で、・(げっ歯類の吸入、ヒト-ヒト伝播は示されていない)はHantaan virusと共通。ヨーロッパでの感染の最多原因である。
  • はで、スカンジナビア〜中央ヨーロッパに分布。宿主は生涯ウイルスを排出し、ウイルスは室温で約2週間感染性を保つため、がすでに去った物置・別荘の清掃も曝露になる。喫煙が危険を約3倍にする。
  • というHFRSを起こし、致死率1%未満——のうち臨床上重要な種の中で最も軽症。⭐ (化)が多いのが本種らしい所見で、入院例の70%超が報告している。
  • 腎障害の主体はであり、として説明するのは不正確。
  • 同じヨーロッパのDobrava-Belgrade virusとの対比が問われやすい。致死率はECDCが10〜12%、総説がバルカン半島の入院例で9〜12%で、桁の違いはない13。HFRS総説の「5〜10%」は原文がと書いている数字なので、致死率として並べない2。
  • 治療は支持療法で承認された抗ウイルス薬は無く、軽症例へのは有効性・安全性が不十分。アジアのはHTNV/SEOV向けで、/EEAに承認ワクチンは無い。

出典

  1. 1.Factsheet on orthohantavirus infections(European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC)・2026)ページ本文を取得して確認した(改訂日の表示は無いが、参照文献に2026年のECDC Surveillance Atlasが含まれる)。ヨーロッパではヤチネズミが運ぶPuumala virusが軽症型のHFRSである流行性腎症を起こし、ヒトのオルソハンタウイルス感染の最多原因であること。潜伏期は約3週間(範囲10日〜6週間)で、高熱・頭痛・筋痛・嘔気・腹痛・背部痛といったインフルエンザ様症状で始まること。急性Puumala virus感染では視覚・眼症状が多く、入院患者を対象とした前向き研究では70%超が眼症状を報告し近視化が頻繁に観察されたこと。血小板減少は大半のHFRS症例で起こり、乏尿期には約30%が乏尿・無尿を示し重症例は透析を要すること。ヨーロッパでは確定HFRS症例の30〜50%が入院すること。DOBV感染は一般に重症で致死率10〜12%、Puumala virus(流行性腎症)は通常軽症で致死率1%未満であること。Puumala virus感染後(中央値5年)の17%にホルモン欠乏が検出されたこと。患者の唾液からPuumala virus RNAが検出されるがヒト-ヒト伝播が示されているのはANDVのみで、DOBV・Puumala virusでは妊娠中の垂直伝播は確認されていないこと。喫煙はPuumala virus感染の危険を約3倍にすること。Puumala virusは室温で約2週間、低温では最長6週間感染性を保つこと。ウイルスの取り扱い・分離はPuumala virusではBSL-2、HFRS・HPSを起こす他のオルソハンタウイルスではBSL-3を要すること。診断はIgM(急性)・IgG(既感染)の血清学が中心で急性感染の血清診断の正確度は約95%、分子検出は早期検体と重症例で血清学より感度が高くウイルス特異的PCRが望ましいこと。承認された抗ウイルス薬は無く治療は主に対症的で、軽症のPuumala virus感染に対する静注リバビリンの無作為化非盲検試験は有効性・安全性が不十分であったこと。EU/EEAで承認されたワクチンは無く、韓国と中国で用いられている不活化全粒子ワクチンはHTNVまたはSEOVに対するもので有効性が低いと報告されていることを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome: Pathogenesis and Clinical Picture(Frontiers in Cellular and Infection Microbiology(Jiang H, Du H, Wang LM, Wang PZ, Bai XF)・2016)PMC版(PMC4737898)の本文で確認した。⚠️ HTNVまたはDOBVについての逐語は「HTNV or DOBV may cause the most severe form of HFRS and have the highest morbidity rates ranging from 5 to 10%」で、原文の語は罹患率であって致死率とは書かれておらず、しかも引用元(Jonssonら2010)の数値はHTNVで最大15%・DOBVの入院例で9〜12%なので、この5〜10%は致死率として引用できない。致死率として明記されているのはSEOVの1%(mortality rate)と、北欧(主にスウェーデンとフィンランド)の流行性腎症の0.1〜1%(case-fatality rate)である。HFRSの腎障害で最も目立つ病理像は炎症細胞浸潤に続く**急性尿細管間質性腎炎**であり、基礎にある変化は血管透過性の著明な亢進を特徴とする血管内皮の機能異常で、血漿の漏出と出血を経て急性腎障害に至ると述べられている閲覧 2026-09-27
  3. 3.A global perspective on hantavirus ecology, epidemiology, and disease(Clinical Microbiology Reviews・2010)PMC版(PMC2863364)の本文をブラウザUA付きのcurlで取得して確認した。逐語は「Death occurs in less than 0.1% in patients infected with PUUV, whereas fatality rates as high as 15% have been observed for HFRS patients infected with HTNV. SEOV is associated with a mortality rate of less than 1%. In contrast to PUUV in Europe, with approximately 0.1% mortality, the mortality rate for hospitalized DOBV (A. flavicollis-borne) cases has been reported to be 9 to 12% in the Balkans.」——Puumala virusは0.1%未満(ヨーロッパで約0.1%)、Hantaan virusは最大15%、Seoul virusは1%未満、Dobrava-Belgrade virusは**バルカン半島の入院例**で9〜12%である。ECDCのファクトシートが挙げる10〜12%と数値の桁は一致し、違いは母集団(届出された確定例か入院例か)にある。同じ文献はPUUVの個々の症例が重症になることもHTNVの感染が軽症で済むこともあると明記しており、種ごとの致死率は集団の平均であって個々の重症度を決めるものではない。閲覧 2026-09-27