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Microbe Atlas · ウイルス

Rabies virus

狂犬病ウイルス

分類
ラブドウイルス / Rhabdoviruses
性状
エンベロープあり Enveloped(−)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/31: Rhabdoviruses5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention5/12: The most important bacteria causing meningitis and encephalitis (list), their diagnosis, and principles of treatment
原因となる疾患
狂犬病
作用する薬剤
狂犬病ワクチン抗狂犬病免疫グロブリン

🧠 全体像:の臨床経過は「咬傷部位から脳までの距離」という一つの物差しで説明できる。ウイルスは血流ではなく末梢神経を逆行性に伝って脳へ向かうため、咬傷部位が脳に近いほど潜伏期は短い。そして症状が出現した時点ではウイルスはすでに脳内に達しており、発症後はほぼ100%致死的である。だからこその対応の本質は「発症後の治療」ではなく、発症前——曝露後できるだけ早期——の予防にある。その第一歩は創部を直ちに大量の石けん・流水で洗浄することであり、これに続けてワクチンと免疫グロブリンを投与する。

構造とゲノム

項目 内容
科・属 Rhabdoviridae科
核酸・構造 (−)、エンベロープあり、
形態 でを呈する——全体に共通する特徴的な形態
世界的にはイヌ(最大の感染源)、米国ではコウモリ・キツネ・アライグマ

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zoonophilic'>感染動物</span>による咬傷・分泌物曝露"] --> B["糖蛋白がnAChRに結合<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor end plate'>運動終板</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='postsynaptic membrane'>シナプス後膜</span>)"]
    B --> C["咬傷部位の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intramuscular'>筋肉内</span>で増殖<br>(数日〜数か月)"]
    C --> D["末梢神経を逆行性に伝播"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal root ganglion (DRG)'>後根神経節</span>(DRG)→脊髄"]
    E --> F["脳へ急速に感染"]
    F --> G["唾液腺・網膜など<br>頭部支配領域へ拡散"]
  1. エンベロープ表面の糖蛋白が宿主細胞への付着と(宿主の)誘導の両方に関わる
  2. 糖蛋白がのに存在するに結合する
  3. 咬傷部位のでウイルスが増殖する(間は数日〜数か月)——この間は無症状で、曝露後予防が間に合う唯一の窓である
  4. 末梢神経をで伝って→脊髄へ達し、急速に脳を感染させる
  5. さらにを介して唾液腺・網膜など頭部の神経支配領域へ播種する(唾液腺への到達がヒトから他の宿主への伝播経路そのものでもある)

⭐ 潜伏期の長さ=咬傷部位から中枢神経までの距離で決まる。 顔面や頭部の咬傷は潜伏期が短く進行が速い一方、四肢末端の咬傷は潜伏期が長くなりうる——この差が曝露後予防を開始できる猶予期間の長さを左右する。

感染経路と疫学

  • 人獣共通感染症:の咬傷、または粘膜・創傷への分泌物接触により伝播する
  • 世界的にはイヌが最大の感染源(特にアジア・アフリカ)。米国など一部地域ではコウモリ・キツネ・アライグマが主要な
  • コウモリの咬傷は小さく気づかれないことがある——コウモリとの接触歴(同室での睡眠など、明確な咬傷をしていない場合を含む)を積極的に聴取することが曝露評価で重要

起こす疾患

病期 症状
発熱・頭痛・倦怠感に加え、咬傷部位周囲の・(末梢神経伝播中の所見)
急性神経症状期 脳炎、咽頭・喉頭のによる嚥下障害と、水を見る・飲もうとするだけでが誘発される、興奮・・(脳炎型)または進行性の(麻痺型)
終末期 痙攣、を経て昏睡、最終的に(死因)

すべてを参照。

診断

  • 確定には複数の検査を要するが、最も重要なのはRT-PCR(唾液・血清・髄液検体)
  • 流行地での動物咬傷歴を含む曝露歴が診断の出発点——が出現した時点ではすでに治療のタイミングを逃している可能性が高い
  • 病理学的には・プルキンエ細胞に見られる好酸性の()が特徴的だが、通常は診断で用いられる

治療と予防

⚠️ が出現すると、支持療法のみでは通常10日以内に死亡する——ほぼ確実に致死的。 治療のウィンドウは発症前の曝露後対応にしかない。

曝露後予防(PEP)は、が定める(健常皮膚への接触は不要、出血を伴わない軽度の咬傷・はワクチンのみ、経皮的な咬傷や粘膜・損傷皮膚への曝露はワクチン+RIG)に応じて内容が変わる1。

  1. 創部の十分な石けん・流水洗浄——数を減少させる最も基本的かつ即時に行うべき対応であり、PEPの第一段階はここである。WHOは約15分間(ファクトシートの表現は「少なくとも15分」)、石けんまたはと大量の流水で洗浄・洗い流すことを求め、入手できればヨード製剤などのウイルス殺滅作用のある外用薬を続けて塗布するとしている12。他のどの処置よりも先に行う
  2. 受動免疫:RIGを要する曝露では、計算した用量の上限まで(RIG)を創部・創周囲へしきる。最大用量は(hRIG)で20 IU/kg、ウマ由来(eRIG)で40 IU/kgであり、最小用量の規定はない1。は2018年の改訂で、かつて行われていた残量の遠隔部位への筋注を推奨から外しており、浸潤しきれずに残った分は無菌的に小分けして他の患者へ用いてよい1。ライセンスを受けたモノクローナル抗体製剤も、創部に投与するRIGの代替として位置づけられている2。投与は1回のみで、PEP開始後できるだけ早く、遅くともワクチン初回接種から7日を超えて投与しない1——「day 0 でなければ投与できない」ではない点に注意する(7日を過ぎると自身のが立ち上がっており、外から入れた抗体はそれを妨げる側に回る)
  3. :米国など(IM)接種を主とする国では、をday 0・3・7・14の4回筋注で接種する(者では day 28 にも追加し5回法とする)。一方は2018年の見解表明で、より少量のワクチンを複数部位へ皮内(ID)接種する短縮レジメンを、費用と受診回数を抑えられる選択肢として推奨に加えている1
  4. 曝露前に既にワクチン接種済みの者ではRIGは不要で、ワクチンをday 0・3の2回のみ追加接種する

まとめ

  • はの(−)鎖ssRNAで、イヌ(世界)・コウモリ/キツネ/アライグマ(米国)をとする人獣共通感染症である。
  • 咬傷部位の筋肉で増殖後、nAChRを介して末梢神経に侵入し、で→脊髄→脳へ達する——潜伏期は咬傷部位と中枢神経の距離で決まる。
  • 臨床像はの局所から始まり、脳炎・嚥下障害・・・痙攣を経て昏睡・に至る。
  • 診断はが中心、病理学的には・プルキンエ細胞のが特徴的。
  • 発症後はほぼ100%致死的なため、対応の核心はに応じた曝露後予防にある:① 石けん・流水による約15分間の創部洗浄を直ちに行い(PEPの第一段階)、② 該当例ではRIG(またはモノクローナル抗体)を創部へ浸潤(hRIG 20 IU/kg・eRIG 40 IU/kgを上限に1回のみ。できるだけ早く、ワクチン初回接種から7日を超えない)、③ ワクチンをIM4回法(day 0・3・7・14)または推奨のID短縮法で接種する。済みならRIG不要・ワクチン2回のみで足りる。

出典

  1. 1.Rabies vaccines and immunoglobulins: WHO position, April 2018(World Health Organization・2018)曝露後予防の第一段階が石けん・洗剤と大量の流水による約15分間の創部洗浄とヨード等のウイルス殺滅外用薬であること、曝露カテゴリI/II/IIIでPEPの要否(洗浄のみ/ワクチンのみ/ワクチン+RIG)を規定すること、ID短縮レジメンとIM法(Essen 4回法・Zagreb法)が選択肢として並ぶこと、RIGの最大用量がhRIG 20 IU/kg・eRIG 40 IU/kgで最小用量の規定はなく、可能な限り創部へ浸潤し残量は遠隔部位への筋注を要さず無菌的に小分けして他患者へ用いてよいこと、RIGは1回のみでPEP開始後できるだけ早く、ワクチン初回接種から7日を超えて投与しないことを確認した。なお本PDF全文に「monoclonal」の語は1回も現れない。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Rabies (fact sheet)(World Health Organization・2024)潜伏期が通常2〜3か月で、ウイルスの侵入部位やウイルス量により1週間から1年まで幅がありうること、臨床症状が出現すると狂犬病はほぼ100%致死的であること、曝露後の第一段階が石けんと流水による15分以上の十分な創部洗浄であること、カテゴリIIIの曝露では創部への狂犬病免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体の投与が適応となることを確認した。閲覧 2026-09-05