薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B30 Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤 · 必修

抗狂犬病免疫グロブリン

rabies immunoglobulin

分類
Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤
商品名(EU)
KEDRABImogam Rabies
科目
Medical MicrobiologyMedical Genetics and Immunology (Immunology)Pharmacology
トピック
1/33: Passive immunization, and its risks and side-effects. Chemoprophylaxis11.3: Immunization and vaccination IB30: Immunopharmacology III (Antibodies and fusion proteins)
承認適応
狂犬病
標的微生物
Rabies virus
副作用
注射部位反応
相互作用
狂犬病ワクチン

🧠 全体像:(RIG)は、曝露後予防(PEP)の「受動免疫」の柱であり、という「」の柱と対で運用される。臨床上もっとも誤りやすい点はである——RIGは全身投与(筋注)を主とする薬ではなく、計算した用量の上限まで創部・創周囲へ「浸潤」しきることが原則であり、が咬傷部位ので増殖してから末梢神経へ侵入するまでの局所的な猶予期間を突くことで初めて意味をなす。(HRIG)とウマ由来(ERIG)の2種があり、由来の違いがそのまま用量・入手性・副作用プロファイルの違いに直結する。

薬効群の中での位置づけ

由来 由来物質 用量 特徴
(HRIG) 免疫したヒトドナー血漿からした 20 IU/kg1 ではないため過敏反応が少ないが、供給量・コストのがある
ウマ由来(ERIG) 免疫したからしたF(ab’)2 40 IU/kg(HRIGの2倍)2 HRIGより安価で供給しやすく、予防の臨床成績はHRIGと同等とされる。現在は高度にされておりF(ab’)2化により過敏反応リスクは低下し、投与前のは不要かつ推奨されない2
(参考)モノクローナル抗体 ライセンス製剤 製剤ごとに規定 のファクトシートは、カテゴリIIIの曝露で創部に投与するものとしてRIGと並べて挙げており、創部に投与するRIGの代替として位置づけられている3(2018年の見解表明要約には記載がない)

⭐ HRIGとERIGを分けるのは有効性の差ではなく「由来動物のタンパクを異物として認識するかどうか」と入手性である。 は両者が予防において同等の臨床成績を示してきたとしており、ERIGが安価で供給しやすい点はむしろ利点になる2。用量が2倍(40 IU/kg)なのは有効性が劣るからではなく、製剤ごとの力価と体内動態の違いに基づいて規定された値だからである。 ERIGに残る違いは、由来であるぶん理論上の過敏反応リスクを持つという一点にある。

機序

flowchart TD
    A["RIGを創部・創周囲へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='infiltration injection'>浸潤注射</span>"] --> B["咬傷部位の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intramuscular'>筋肉内</span>にとどまる<br>未結合の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rabies virus'>狂犬病ウイルス</span>と結合"]
    B --> C["ウイルスは感染性を失い<br>神経終末への侵入を阻止される"]
    D["すでに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral nerve terminal'>末梢神経終末</span>に侵入したウイルス"] --> E["RIGは神経内を輸送されるウイルスに届かず中和できない"]
    A --> F["ワクチンによる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active immunization'>能動免疫</span>が立ち上がるまでの<br>数日〜1週間の空白を埋める"]

💡 RIGが「創部への浸潤」でなければならない理由は、の感染様式そのものにある。 は咬傷部位ので数日〜数か月かけて増殖したのち、末梢神経を逆行性に伝って中枢神経へ達する——RIGが中和できるのはこの局所にとどまっている未結合ウイルスだけであり、全身投与(筋注)で血中を巡らせても咬傷部位の局所濃度は上がらず標的に届かない。だからこそ「浸潤しきる」ことが原則になる。

適応

状況 使いどころ
曝露後予防(PEP) III(経皮的な咬傷・粘膜/損傷皮膚への曝露、コウモリとの直接接触)に限り追加する2
供給が限られる場合の優先順位 多発咬傷・深い創、頭頸部・手など神経支配が濃厚な部位の咬傷、、動物が確定/、・コウモリ曝露を優先する2

既往にワクチン接種を完了している者(完了者・過去にPEPを完了した者)にはカテゴリIIIでもRIGは不要——ワクチンの追加接種(日0・3の1部位ID/IM、または日0の4部位ID)のみで足りる2。さらに完全なPEPを完了してから3か月以内の再曝露では、創部処置のみでワクチンもRIGも不要である2。

用法・用量

⚠️ RIGの前に創部洗浄がある。 PEPの第一段階は石けん・と大量の流水による15分以上(の見解表明要約の表現は「約15分間」)の創部洗浄であり、RIGはその後に来る32。縫合を要する創は、RIGを創部へ浸潤させた後に緩く縫合する2。

(HRIG)は20 IU/kg、ウマ由来(ERIG)は40 IU/kgを、いずれも上限として計算する(最小用量の規定はない)2。

  1. 可能な限り創部・創周囲へする。 解剖学的に浸潤が難しい部位(指先・口唇など)や創が同定できない場合は、ワクチン接種部位とは異なる部位へ筋注する1
  2. 浸潤しきれずに残った分の扱いはと米国の添付文書で異なる。 は2018年の改訂で「計算した用量の残りを創部から離れた部位へ筋注する必要はなく、のうえ小分けして他の患者に用いてよい」とし、遠隔部位への筋注を要件から外した2。一方、米国のHRIG製剤(KEDRAB)の添付文書は、なお残量をワクチン接種部位から離れた部位へ筋注するよう指示している1。どちらも「まず創部へ浸潤しきる」点では一致しており、食い違うのは余った分の扱いだけ——の改訂は限られたRIGを複数の患者へ行き渡らせるという上の判断に基づく
  3. ワクチンとは別の注射器・別の部位に投与し、同一部位・同一注射器では投与しない1
  4. 投与は1回のみ。PEP開始後できるだけ早く、遅くともワクチン初回接種から7日を超えて投与しない2。添付文書も「曝露後できるだけ早く、ワクチン初回接種と同時が望ましいが、遅れた場合は初回接種から7日目までであれば投与してよい」としている1。7日を超えるとワクチンによるがすでに成立し始めているため投与しない。⚠️ 「day 0 を過ぎたら投与できない」と読み違えない——同日が最善というだけで、7日目までは投与の適応が残っている

日本国内では2019年時点でRIG製剤は未承認であり、による曝露後予防を直ちに開始したうえで、RIGの投与については個別に検討される4。

禁忌・注意

  • ⚠️ 既往にワクチン接種を完了し、が確認されている者には投与しない。 RIGが受動的に補う抗体は、ワクチンによる新たな応答をかえって妨げうるため、必要のない場面では投与しないのが原則1
  • 過量または不適切な部位への投与はワクチンの免疫応答を弱めうる。 と同一部位・同一注射器を避けるのはこのため1
  • であるため、ウイルスなど感染性因子の理論的伝播リスク(を含む)が添付文書上の注意事項として記載されている1
  • など重篤な過敏反応の既往がある患者では投与に注意する
  • ERIG(ウマ由来)はによるアナフィラキシー・のリスクを理論上HRIGより高く持つが、現行の高度F(ab’)2製剤ではは不要とされる2

副作用

頻度 内容
高頻度 注射部位反応(に伴う疼痛・腫脹)
まれ アナフィラキシー、(特にERIGで歴史的に報告)
理論的リスク に共通する感染性因子伝播(現行ので低減)1

まとめ

  • RIGは曝露後予防(PEP)の受動免疫の柱で、というの柱と対で運用される。
  • 最重要の用法は「創部への浸潤」であり、全身投与(筋注)を主とする薬ではない——咬傷部位に局在する未結合ウイルスを中和するという機序上の必然。
  • (HRIG、20 IU/kg)とウマ由来(ERIG、40 IU/kg)の2種があり、臨床成績は同等でERIGはむしろ安価・供給しやすい。用量差は有効性の差ではない。現行の高度ERIGは不要。
  • IIIにのみ追加し、既往ワクチン接種者にはRIGは不要(ワクチン追加接種のみ)。PEP完了後3か月以内の再曝露では創部処置のみでワクチンも不要。
  • 投与は1回のみ。PEP開始後できるだけ早く(ワクチン初回接種と同日が最善)、遅くともワクチン初回接種から7日を超えない。日本国内では2019年時点で未承認。

出典

  1. 1.KEDRAB (Rabies Immune Globulin, Human) — Full Prescribing Information(米国FDA(DailyMed収載の添付文書、Kedrion Biopharma)・2021)HRIGの用量が20 IU/kgであること(推奨用量を超えないこと、ワクチン開始後は反復投与しないこと)、創部への浸潤を優先し残量はワクチン接種部位と異なる部位へ筋注すること、投与は曝露後できるだけ早くワクチン初回接種と同時が望ましいが、遅れた場合は初回接種から7日目までであれば投与してよいこと、既往ワクチン接種歴と抗体応答が確認されている者には投与しないこと(既往免疫の追想応答を妨げうるため)、感染性因子(vCJD等)の理論的伝播リスクを添付文書上の注意事項として記載していることを確認した。DailyMedのSPLは2024-02-21版だが、本文の改訂表示は2021年5月である閲覧 2026-09-05
  2. 2.Rabies vaccines and immunoglobulins: WHO position, April 2018(World Health Organization・2018)RIGの最大用量がHRIGで20 IU/kg・ERIGで40 IU/kgであること(最小用量の規定はない)、投与は1回のみでPEP開始後できるだけ早く、ワクチン初回接種から7日を超えて投与しないこと、可能な限り創部へ浸潤し残量については創部から離れた部位への筋注を要さず無菌的に小分けして他患者へ用いてよいと2018年の改訂で変更されたこと、HRIGとERIGが狂犬病予防で同等の臨床成績を示しERIGの方が安価であること、曝露カテゴリIIIにのみRIGを追加し既往ワクチン接種者には適応がないこと、PEP完了後3か月以内の再曝露では創部処置のみでワクチン・RIGとも不要であること、供給が限られる場合の優先順位、高度精製されたERIGでは投与前の皮内テストが不要であることを確認した。なお本PDF全文に「monoclonal」の語は1回も現れない。閲覧 2026-08-10
  3. 3.Rabies (fact sheet)(World Health Organization・2024)曝露後予防の第一段階が石けんと流水による15分以上の十分な創部洗浄であること、カテゴリIIIの曝露では創部への狂犬病免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体の投与が適応となることを確認した。閲覧 2026-09-05
  4. 4.狂犬病の予防について(国立国際医療研究センター(現・国立健康危機管理研究機構)国際感染症センター・2019)2019年時点で狂犬病免疫グロブリンが日本国内未承認であり、曝露後予防では狂犬病ワクチンによる接種を直ちに開始することが記載されていることを確認した閲覧 2026-08-10