薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B30 Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤 · 必修

ラナデルマブ

lanadelumab

分類
Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤
商品名(日本)
タクザイロ
商品名(EU)
Takhzyro
科目
Pharmacology
トピック
B30: Immunopharmacology III (Antibodies and fusion proteins)
承認適応
遺伝性血管性浮腫
副作用
注射部位反応頭痛めまい筋痛

🧠 全体像:は「というカスケードの中流を、抗体で長く塞ぐ」長期予防薬である。が最上流のFXIIaを狙うのに対し、は1段下流のそのものをで中和する。半減期は約2週間で、2週ごと(は4週ごとも可)の皮下注という投与頻度の少なさが特徴である。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 標的・機序 投与頻度・場面
へのモノクローナル抗体(皮下注) 2週ごと(安定時は4週ごとも可)、長期予防専用
FXIIaへのモノクローナル抗体(カスケード最上流) 月1回皮下注、長期予防専用
の阻害(経口) 1日1回経口、長期予防専用
欠乏したの補充 皮下注は週2回、長期予防

⭐ 同じを標的にしても、剤形で運用がまったく変わる。 抗体であるは2〜4週ごとの皮下注、のは毎日の内服——発作頻度・注射への抵抗感・など患者の背景に応じて選択する。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activated factor XII (FXIIa)'>活性化第XII因子</span>(FXIIa)が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma kallikrein'>血漿カリクレイン</span>を活性化"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma kallikrein'>血漿カリクレイン</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high molecular weight kininogen'>高分子キニノーゲン</span>を切断"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bradykinin'>ブラジキニン</span>が遊離し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular permeability'>血管透過性</span>が亢進"]
    D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lanadelumab'>ラナデルマブ</span>(抗<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma kallikrein'>血漿カリクレイン</span>モノクローナル抗体)が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma kallikrein'>血漿カリクレイン</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proteolytic activity'>蛋白分解活性</span>部位に結合"] --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high molecular weight kininogen'>高分子キニノーゲン</span>の切断を阻害"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bradykinin'>ブラジキニン</span>産生が持続的に抑制される"]

💡 であるがゆえ、低分子ののような日々の血中濃度変動が小さい。 半減期約2週間という長さが「打ち忘れへの耐性」を生む——投与のタイミングが多少ずれても血中濃度が急落しないため、長期予防としての安定性につながる。

薬物動態

項目 値・特徴
約5日1
半減期 終末相は約14日1(日本人16例への単回では幾何平均15.51日2)
定常状態到達 約70日12
平均14.5 L(との結合は想定されない)1
クリアランス 400mgまでの用量で曝露は直線的。体重がクリアランス・のばらつきを説明する重要な共変量で、年齢・性別・人種の影響は乏しい1

適応

(HAE)発作の長期予防。日本の効能・効果は「の急性発作の」2、は「2歳以上の患者におけるHAE反復発作の予防」1である。

⚠️ 対象年齢が国で異なる——・米国は2歳以上13、日本は成人および12歳以上の小児で、12歳未満を対象とした国内は実施されていない2。

急性発作そのものの治療()には用いず、発作が起きたときは・・などのを併せて処方しておく1。

⚠️ 「長期予防に使える」=「処置前のに使える」ではない。 日本の電子添文は効能に関連する注意として、侵襲を伴う処置による急性発作のについての有効性・安全性は検討されていないと明記している2。定常状態に達するまで約70日かかることも、・手術の直前に間に合わない理由になる。

⚠️ 正常型(nC1-INH)のHAEでは効くとは限らない。 SmPCは、・キニン系に関与しない変異をもつnC1-INH-HAE患者では反応が期待できないとして、可能ならを行い、臨床的な反応が得られなければ中止するよう求めている(3か月治療しても発作の減少が不十分なら中止を検討する)1。

用法・用量

成人および12歳以上では日米欧とも300mgを2週間隔で皮下注射して開始する。⭐ 違いは「4週間隔へ移してよい条件」と「12歳未満の決め方」にある。

地域 成人・12歳以上 12歳未満
日本2 300mgを2週間隔。継続的に発作が観察されず症状が安定していれば300mgを4週間隔にできる 承認なし
EU1 300mgを2週ごとで開始。安定して無発作なら4週ごとへの減量を検討(とくに例)。体重40kg未満では150mgを2週ごとの開始も考慮しうる 体重で決める——10kg以上20kg未満は150mgを4週ごと(発作の制御が不十分なら150mgを3週ごとへ増量を検討)、20kg以上40kg未満は150mgを2週ごと、40kg以上は300mgを2週ごと
米国3 300mgを2週ごとで開始。6か月を超えて良好にコントロール(無発作など)されていれば300mgを4週ごとも有効で考慮できる 年齢で決める——6歳以上12歳未満は150mgを2週ごと(同じく6か月超良好なら4週ごとも可)、2歳以上6歳未満は150mgを4週ごと
  • 投与部位は腹部・大腿部・上腕(外側)で、1回で全量をし、部位を変えながら打つ21。
  • 投与開始にあたっては医療施設においてによるか、の直接の監督のもとで行う。 はを慎重に検討し、十分な教育訓練を行ったうえでの管理指導のもとに導入する2。では12歳未満は患者本人でなくが、米国でも12歳未満は医療者またはが投与する13。
  • 日本ではプレフィルドシリンジに加えてプレフィルドペンが2025年12月に発売された2。⚠️ EU SmPCはペンは12歳未満では検討されていないため使用しないとしている1。

禁忌・注意

  • 禁忌:日本は本剤の成分に対する過敏症の既往歴のみ、はまたは添加剤への過敏症のみ21。米国添付文書の CONTRAINDICATIONS は “None.” で、過敏反応は・使用上の注意の側に置かれている3
  • ⚠️ アナフィラキシー——日本の電子添文は重大な副作用として頻度不明のアナフィラキシーを挙げる2。・米国とも唯一の項目が過敏反応で、重度の過敏反応が生じたら直ちに投与を中止して適切な治療を行う13
  • ⚠️ が延びるが、これは抗凝固作用ではなく検査系への干渉である。 試薬は接触相のを活性化してを開始させるため、本剤がそのを阻害すると測定値としてのが延長する。 SmPC・米国添付文書は Trial 1(本剤84例)について「延長は異常出血の有害事象を伴わず、にも群間差はなかった」と述べる13。⚠️ ただし分母の大きい集団では出血が皆無ではない。 日本の電子添文が引く海外(220例)では、基準値上限の1.5倍を超える延長が10例(4.5%)に生じ、そのうち2例に出血に関連する有害事象が認められた。が基準値上限の2倍を超えた4例(1.8%)でも1例に出血に関連する有害事象があった。国内(12例)ではいずれの延長も認められていない2
  • 長期予防薬であり急性発作のではないことを、患者・家族に十分説明する2
  • 妊娠・授乳: SmPCは妊婦のデータが無いか限られるとして、予防的措置として妊娠中の使用を避けることが望ましいとする。日本の電子添文は治療上の有益性が危険性を上回る場合にのみ投与するとし、本剤が抗体であるため妊娠中に胎盤を通過すると考えられると述べている12
  • 半減期が長いため、投与中止後も効果(と、生じれば有害事象)が数週間持続しうる

副作用

米国の(Trial 1、本剤投与84例・41例)で、いずれかの本剤投与群で10%以上に発現し、かつプラセボ群より高率だった副作用は次のとおりである3。

副作用 (41例) 本剤全体(84例)
注射部位反応 14(34%) 44(52%)
13(32%) 24(29%)
頭痛 9(22%) 18(21%)
皮疹 2(5%) 6(7%)
めまい 0 5(6%)
下痢 2(5%) 4(5%)
筋痛 0 4(5%)

⚠️ この表の「本剤全体」の数字を「10%以上の副作用の頻度」と読まない。 採用基準は用量群ごとの10%であり、全体の欄が10%を下回る行(皮疹・めまい・下痢・筋痛)も含まれる。と頭痛は全体ではむしろプラセボ群のほうが高く、表に載るのは300mgを2週ごと投与した群で高率(44%、頭痛33%)だったためである3。

⚠️ 同じ添付文書の中で、この表と Highlights の書き方が食い違う。 Highlights は「最も多い副作用(≥10%)」としてこの7つをそのまま列挙しており、全体の欄が10%未満の行も含めて「10%以上」と読める形になっている。数値を引くときは Table 1 の採用基準まで含めて読む3。

⭐ 対照群と最も差がつくのは注射部位反応(52% 対 34%)である。 ただし「残りは差が無い」わけではなく、めまい 6% 対 0%・筋痛 5% 対 0%、さらに Less Common Adverse Reactions として過敏症 1% 対 0%・増加 2% 対 0%・増加 2% 対 0% が本剤側で高い3。

日本の電子添文でも10%以上の副作用は注射部位反応(52.4%)のみで、5〜10%未満が、1〜5%未満が過敏症(そう痒症・不快感・舌のピリピリ感)・増加・増加・筋肉痛・である2。 SmPCによれば注射部位反応の97%は軽度で、90%は発現から1日以内に消失する(の中央値6分)1。

ではないため、のようなリスクはない。

まとめ

  • を中和するで、長期予防専用の薬剤。
  • 半減期約2週間により2週ごと(は4週ごと)というの少なさが特徴——(月1回)ほどではないが低頻度である。
  • ⚠️ 対象年齢が国で異なる。 ・米国は2歳以上、日本は成人と12歳以上のみ。12歳未満の用量はが体重、米国が年齢で決める。
  • 日本では2022年3月に承認されて同年5月に発売され2、投与開始は医療施設でによるかの直接監督下で行う。
  • 最も多い副作用は注射部位反応(半数超)だが、対照群と差がつくのは実質この項目だけでは概ね良好。重大な副作用はアナフィラキシーである。
  • ⚠️ の延長は主として検査系への干渉である——本剤が試薬中のを阻害するために測定値が延びる。ただし「出血が起こらない」という意味ではなく、海外では延長10例中2例に出血関連の有害事象があった。周術期の判断は延長値だけでなく臨床像で行う。

出典

  1. 1.TAKHZYRO (lanadelumab) — Annex I Summary of Product Characteristics(European Medicines Agency・2026)EUの適応が2歳以上の遺伝性血管性浮腫における反復発作の日常的予防であること、成人と12歳以上18歳未満は300mgを2週ごとで開始し安定して無発作なら4週ごとへの減量を検討でき体重40kg未満では150mgを2週ごとの開始も考慮しうること、2歳以上12歳未満は体重で用量が決まり10kg以上20kg未満は150mgを4週ごと・20kg以上40kg未満は150mgを2週ごと・40kg以上は300mgを2週ごとであること、プレフィルドペンは12歳未満で検討されておらず使用しないこと、禁忌が有効成分または添加剤への過敏症のみであること、C1インヒビター正常型HAEでカリクレイン・キニン系に関与しない変異をもつ患者は反応が期待できず可能なら遺伝子検査を行い臨床反応が得られなければ中止すること(3か月で発作減少が不十分なら中止を検討)、aPTT延長は本剤がaPTT測定系の血漿カリクレインを阻害することによる測定上の干渉であり出血性有害事象とは関連せずINRに群間差がなかったこと、副作用が注射部位反応(52.4%、very common)と過敏症・浮動性めまい・斑状丘疹状皮疹・筋肉痛・ALT増加・AST増加(いずれもcommon)であること、終末相消失半減期が約14日・Tmaxが約5日・定常状態到達が約70日・分布容積が平均14.5Lであること、妊娠中は予防的措置として使用を避けることが望ましいとされることを確認した。閲覧 2026-09-08
  2. 2.タクザイロ皮下注300mgシリンジ/タクザイロ皮下注300mgペン 電子添文(2026年7月改訂・第6版)(医薬品医療機器総合機構(武田薬品工業)・2026)日本の効能又は効果が「遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」であること、効能に関連する注意として侵襲を伴う処置による急性発作の発症抑制に対する有効性及び安全性は臨床試験で検討されていないと明記されていること、用法及び用量が成人及び12歳以上の小児に1回300mgを2週間隔で皮下注射し継続的に発作が観察されず症状が安定している場合には1回300mgを4週間隔にできることであること、禁忌が本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者のみであること、投与開始にあたっては医療施設において必ず医師によるか医師の直接の監督のもとで投与を行うこととされ自己投与は妥当性を検討し十分な教育訓練の後に導入すること、重大な副作用がアナフィラキシー(頻度不明)であること、その他の副作用として10%以上に注射部位反応(52.4%)、5〜10%未満に浮動性めまい、1〜5%未満に過敏症(そう痒症・不快感・舌のピリピリ感)・ALT増加・AST増加・筋肉痛・斑状丘疹状皮疹が挙がること、海外臨床試験で本剤投与群220例中10例(4.5%)に基準値上限の1.5倍を超えるaPTT延長がみられそのうち2例に出血に関連する有害事象が認められたこと・4例(1.8%)に基準値上限の2倍を超えるPT国際標準比の延長がみられそのうち1例に出血に関連する有害事象が認められたこと・国内試験12例ではいずれの延長も認められなかったこと、日本人健康成人16例での単回皮下投与時の半減期の幾何平均が15.51日であり反復投与では約70日で定常状態に達すると予測されたこと、12歳未満の小児を対象とした国内臨床試験は実施されていないこと、シリンジが2022年3月28日承認・同年5月発売でペンが2025年12月発売であることを確認した。閲覧 2026-09-08
  3. 3.TAKHZYRO (lanadelumab-flyo) injection, for subcutaneous use — prescribing information(U.S. Food and Drug Administration(DailyMed)・2026)米国の適応が2歳以上の成人及び小児のHAE発作予防であること、12歳以上は300mgを2週ごとで開始し6か月を超えて良好にコントロール(無発作など)されていれば300mgを4週ごとも有効で考慮できること、6歳以上12歳未満は150mgを2週ごと(同じく6か月超良好なら4週ごとも可)、2歳以上6歳未満は150mgを4週ごとであること、12歳未満では患者本人でなく医療者または介護者が投与すること、Trial 1(本剤84例・プラセボ41例)でいずれかの本剤群に10%以上生じかつプラセボ群より高率だった副作用の本剤全体の頻度が注射部位反応52%(プラセボ34%)・上気道感染29%(32%)・頭痛21%(22%)・皮疹7%(5%)・浮動性めまい6%(0%)・下痢5%(5%)・筋痛5%(0%)であること、過敏症が1%(プラセボ0%)でありASTとALTの増加がそれぞれ2%(0%)であること、Highlightsが同じ集団の「最も多い副作用(≥10%)」として注射部位反応・上気道感染・頭痛・皮疹・浮動性めまい・下痢・筋痛の7つを列挙しており、Table 1の採用基準(いずれかの本剤群で10%以上かつプラセボ超)と読み方が異なること、CONTRAINDICATIONSが "None." であり警告が過敏反応のみで重度の過敏反応では投与を中止すること、aPTT延長が本剤とaPTT測定系との相互作用によるものでいずれも異常出血の有害事象を伴わずINR値に群間差がなかったこと、2歳以上12歳未満への適応は成人・青年の試験からの外挿と21例の非盲検試験の安全性・薬力学データに基づくことを確認した。閲覧 2026-09-08