微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · ウイルス

Respiratory syncytial virus

RSウイルス

分類
パラミクソウイルス / Paramyxoviruses
性状
エンベロープあり Enveloped(−)ssRNA
科目
Medical Microbiology
トピック
3/28: Paramyxoviruses: RSV, Parainfluenzavirus5/19: Pathogens of air-borne viral infections (list)5/34: Causative agents causing atypical pneumonia and their diagnosis3/10: Non-obligatory vaccines against viruses
原因となる疾患
急性喉頭炎・慢性喉頭炎細気管支炎(RSウイルス)市中肺炎普通感冒
作用する薬剤
クレソロビマブニルセビマブパリビズマブリバビリン

🧠 全体像:RSウイルスは「小さな気道ほど、同じ炎症でも詰まりやすい」というの原則そのものを体現するウイルスである。でに付着し、F蛋白によるで増殖しながら上皮を破壊するが、この炎症の量自体は特別重篤というわけではない——生後6か月未満の乳児で重症化するのは、もともと気道径が小さく、わずかなが大きなに直結するためである。近縁のが主に喉頭・気管という「上の方」を狙うのに対し、RSウイルスはという「下の方」を狙う——この高さの違いがとという別の臨床像を生む。乳児の予防は2023年以降、月1回のから、単回投与の長時間作用型抗体と妊婦に接種する母子免疫ワクチンへと大きく変わった。

構造とゲノム

項目 内容
科・ゲノム ニューモウイルス科オルソニューモウイルス属。かつてはの中の亜科だったが、2016年に独立した科へ再分類された1。(−)、エンベロープあり、
表面蛋白 ——への接着を担う糖蛋白。と異なり、素との活性を持つ蛋白(HN蛋白)を持たない
F蛋白——感染細胞膜同士を融合させ合胞体()を形成
亜型 A群・B群の2つの抗原群があり、同一シーズン内でも両方が流行しうる

⭐ 素・活性を持たないことがRSウイルスを見分ける鍵。 かつて同じ科にまとめられていたは、両方の活性を1つの蛋白に備えたHN蛋白で付着と遊離を行うが、RSウイルスは付着専用のと融合専用のF蛋白という役割分担が単純な2種の表面蛋白だけで完結する。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory droplets'>飛沫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contact transmission'>接触感染</span>でRSウイルスが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airway epithelium'>気道上皮</span>へ"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='G protein'>G蛋白</span>で上皮細胞に接着"]
    B --> C["F蛋白による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='syncytium formation'>合胞体形成</span>で増殖"]
    C --> D["感染細胞の壊死・脱落"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchiole'>細気管支</span>の浮腫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucus plugging'>粘液栓</span>・上皮脱落"]
    E --> F["乳児:気道径が小さく<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='luminal narrowing'>内腔狭窄</span>が顕著"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='expiratory wheeze'>呼気性喘鳴</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperinflation'>過膨張</span>・低酸素"]

💡 は「免疫から逃げながら広がる」ための仕組み。 F蛋白が感染細胞の膜を隣接細胞と融合させると、ウイルスは細胞外に粒子を放出せずに隣の細胞へ直接移動できる。血中を移動する必要がないための攻撃を受けにくい——F蛋白によるという仕組み自体は、・・など、かつて同じ科にまとめられていたのウイルスにも共通する。

⭐ 同じ炎症量でも年齢で結果が変わる。 気道の流量抵抗は半径の4乗に反比例するため、乳児のもともと細い気道では、成人なら症状に出ない程度の浮腫でもが急激に進む。これが「RSウイルス感染=成人は風邪、乳児は」という落差を生む物理的な理由である。

感染経路と疫学

  • ・——手指や物品表面を介した伝播も重要
  • 好発時期:温帯地域ではに冬季に流行のピークを迎えるとされてきたが、日本では近年、流行期が冬期から夏期へ移った可能性が指摘されている2
  • 生後6か月未満の乳児が最重症化しやすい。早産児、、、免疫不全、神経筋疾患は重症化の危険因子
  • は成立しない——を繰り返しながら年齢とともに症状は軽くなる。高齢者・免疫不全者では成人でも重症化しうる
  • 院内感染(NICU・小児病棟での)の主要な原因ウイルスの一つ

起こす疾患

年齢層 病型
乳児(特に生後6か月未満) (RSウイルス)・肺炎——乳児のの代表的な原因で、乳児の非定型肺炎の原因としても扱われる。米国では予防の普及前、乳児入院の第1位の原因だった3
年長児・成人 多くはとして経過
高齢者・免疫不全者 肺炎など重症化しうる
全年齢 中耳炎の合併(乳児で頻度が高い)

診断

  • 臨床診断が基本。典型的なでは画像・ウイルス検査をルーチンに追加しない
  • 胸部X線は非特異的(・浸潤影)で、撮影は抗菌薬の不要な処方につながりやすい
  • ウイルス抗原検査()・・・は個々のを変えるものではなく、主に院内感染対策()目的で用いる

治療と予防

治療は支持療法が中心で、・全身ステロイドはに対してルーチンには使用しない(詳細は(RSウイルス)を参照)。

対応 内容
類似体。重症・免疫不全患者に限定的に検討される程度で、日常臨床のルーチン適応ではない
F蛋白を標的とする予防抗体(治療薬ではない)。高リスク乳児にシーズン中月1回筋注する第一世代のモノクローナル抗体。米国では小児科学会がもはやルーチンには推奨しておらず、2025年12月31日をもって米国では入手できなくなるとされた3
/ Fc改変により半減期を延ばした長時間作用型抗体。単回筋注で1シーズンをカバーする。米国では、母体ワクチンで守られていない生後8か月未満の乳児(初回シーズン)に、どちらか一方を投与する選択肢として推奨されている。2回目のシーズンを迎える(生後8〜19か月)に推奨されるのはだけである3
母体ワクチン(リスボ) 妊婦に接種して母体に抗体を作らせ、胎盤を通じて胎児へ移行させる母子免疫ワクチン。米国では妊娠32〜36週に接種する3。日本では2026年度からとなり、妊娠28週0日〜36週6日に1回接種する2
高齢者向けワクチン 融合前F蛋白を抗原とするワクチン。60歳以上を対象とした2価ワクチンの第3相試験ので、関連(2徴候以上)に対する有効率は66.7%だった4

⭐ 乳児を守る手段は「抗体を直接入れる」か「母体に作らせて渡す」かの2系統である。 ・はそのものを乳児へ投与する受動免疫で、母体ワクチンは妊婦をし、できた抗体を胎盤経由で胎児へ渡す。米国は、母体ワクチン・・のいずれか1つで全乳児を守るよう推奨し、どれかを優先することはしていない。母体接種から14日以上経って生まれた乳児の多くには、抗体の追加投与は必要とされない3。

💡 日本と米国では、予防の制度上の位置づけが違う。 日本で2026年度からになったのは妊婦への母子免疫ワクチン(リスボ)で、同じ組換えRSウイルスワクチンでもアレックスビーは母子免疫には使えない。乳児に投与するモノクローナル抗体はの対象ではなく、重篤なRSウイルス感染症のリスクを有する新生児・乳児・幼児に医療保険が適用されている2。

まとめ

  • RSウイルスはニューモウイルス科(2016年にから独立)のウイルスで、表面蛋白は(接着)とF蛋白()。と異なり、素・活性を持つHN蛋白を持たない。
  • 気道径の小さい生後6か月未満の乳児で・肺炎を起こす一方、年長児・成人ではとして経過する。高齢者・免疫不全者では再び重症化しうる。
  • 診断はが基本で、画像・ウイルス検査はを変えない。
  • 治療は支持療法が中心。は限定的な適応にとどまる。
  • 乳児の予防は、月1回投与のから、単回投与の長時間作用型抗体(/)と妊婦に接種する母子免疫ワクチンへ移った。米国は3製品のいずれか1つで全乳児を守る方針、日本は2026年度から母子免疫ワクチンをとし、抗体製剤は重症化リスクの高い児に保険適用としている。高齢者向けのワクチンもある。

出典

  1. 1.ICTV Virus Taxonomy Profile: Pneumoviridae(International Committee on Taxonomy of Viruses (ICTV) / Journal of General Virology・2017)抄録(Europe PMC、PMID 29087278)で確認した。Pneumoviridaeはかつてパラミクソウイルス科の中の亜科だったが、2016年に2属(Orthopneumovirus・Metapneumovirus)からなる独立の科に再分類されたこと、ヒトに特異的な病原体としてヒトRSウイルスとヒトメタニューモウイルスが含まれること、伝播は主に飛沫と接触と考えられていること。閲覧 2026-09-27
  2. 2.RSウイルスワクチン(厚生労働省・2026)2026年度から妊婦へのRSウイルスワクチン(母子免疫ワクチンとしてのアブリスボ)が予防接種法の定期接種になり、対象は妊娠28週0日〜36週6日で1回接種であること、アレックスビーは母子免疫ワクチンとして使えないこと。乳児に投与するモノクローナル抗体は定期接種の対象ではなく、重篤なRSウイルス感染症のリスクを有する新生児・乳児・幼児に医療保険が適用されていること。国内の流行期は近年、以前の冬期から夏期に変化した可能性が指摘されていること。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Use of Clesrovimab for Prevention of Severe Respiratory Syncytial Virus–Associated Lower Respiratory Tract Infections in Infants: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2025(CDC Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)・2025)PMC全文で確認した。米国では乳児への予防の導入前、RSウイルスが乳児(12か月未満)の入院の第1位の原因だったこと。ACIPは2023年以降、すべての乳児を①妊娠32〜36週の母体RSVワクチン(Abrysvo)、②長時間作用型モノクローナル抗体ニルセビマブ、③2025年6月に追加されたクレソロビマブ、のいずれか1つで守るよう推奨し、優先する製品は無いこと。抗体は母体接種を受けていない(不明を含む)、または母体接種後14日以内に生まれた生後8か月未満の乳児が対象で、母体接種から14日以上経って生まれた乳児の多くには適応とならないこと。パリビズマブは米国小児科学会がもはやルーチンには推奨しておらず、米国では2025年12月31日で入手できなくなること。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Efficacy and Safety of a Bivalent RSV Prefusion F Vaccine in Older Adults(The New England Journal of Medicine・2023)抄録(Europe PMC、PMID 37018468)で確認した。60歳以上の成人34,284人の第3相試験で、融合前F蛋白を用いた2価RSVワクチン(120 µg単回筋注)のRSV関連下気道疾患(2徴候以上)に対する有効率が66.7%(96.66%CI 28.8〜85.8)、3徴候以上で85.7%(96.66%CI 32.0〜98.7)であったこと。閲覧 2026-09-27