微生物学

微生物学 · 3/28

パラミクソウイルス:RSウイルス・パラインフルエンザウイルス

Paramyxoviruses: RSV, Parainfluenzavirus

応用トピック
喉頭の急性・慢性炎症性疾患
微生物
Human metapneumovirusHuman parainfluenza virus 1, 2, 3, 4Respiratory syncytial virus
疾患
細気管支炎(RSウイルス)

🧠 RSウイルスとは同じ「F蛋白による」という武器を共有する姉妹ウイルスであり、違いは「どの質で細胞に取り付くか」と「どの気道レベルを狙うか」だけである。 RSウイルスはGタンパクでに付着しを破壊する(→乳児の)。はHA(素)とNA()という追加の武装を持ち喉頭・気管を腫らす(→)。「上の方=、下の方=」という高さの違いで2つを区別すると覚えやすい。

パラミクソウイルス科の基本的性状

RSウイルスとは共にに属し、以下の性状を共有する。

項目 内容
核酸 (negative-sense ssRNA)
構造 エンベロープあり、
共通の武器 F蛋白——感染細胞膜同士を融合させ、合胞体=を形成する。細胞外に出ずに隣接細胞へ直接広がれるため、()からの回避に役立つ
ヒトの呼吸器
伝播経路 飛沫感染

💡 の意味。 F蛋白が感染細胞の細胞膜を隣接細胞と融合させると、ウイルスは細胞外へ粒子を放出せずに隣の細胞へ直接移動できる。この結果、血中を移動する必要がないための攻撃を受けにくく、に有利にはたらく。

⚠️ 「共に」という整理は現行の分類では厳密には成り立たない。 RSウイルスが属していたPneumovirinae亜科は2016年に独立のPneumoviridae科として再分類され、RSウイルスは現在この科の属Orthopneumovirus(種名Human orthopneumovirus)に分類される1。は引き続きに属するが、1型・3型は属Respirovirus、2型・4型はと同じ属Orthorubulavirusに分類される2。両者がF蛋白によるという性状を共有するのは、同じ目(Mononegavirales)に属する近縁の科・亜科だった歴史的経緯による。

RSウイルス

項目 内容
表面構造 ——への接着に使う/F蛋白——
好発 生後6か月未満の乳児——乳児の非定型肺炎の第1位の原因

病態と臨床像

  • を介してに感染する
  • 症状:軽度発熱、、頻呼吸、頻脈、
  • 乳児(生後6か月未満):との壊死を起こしうる
  • 成人:多くはただの風邪として経過する

診断

  • ()、()、(逆転写)
  • 胸部X線:浸潤影

治療

  • :類似体
  • /:F蛋白を阻害するモノクローナル抗体

⭐ /は治療薬というより予防薬。 初回シーズンを迎えるすべての乳児(に限定しない)に単回筋注する受動免疫であり、F蛋白を標的とすることでそのものをブロックする——「ワクチンではなくモノクローナル抗体による受動免疫」という位置づけを押さえておく。かつてにシーズン中する形で使われていた(短半減期)はこの2剤に置き換わり、2025年12月31日で米国内販売終了となった3。

💡 乳児への受動免疫とは別に、成人・妊婦向けの能動的なワクチンも導入されている。 60歳以上の高齢者にはArexvy・Abrysvo・mResviaといった組換え/mRNA ワクチンが本人に直接免疫を誘導する目的で用いられる。妊婦にはAbrysvoを妊娠32週0日〜36週6日の間に単回接種し、抗体によって生後6か月未満の乳児を受動的に守る——/が乳児本人へ直接投与する受動免疫であるのに対し、母体ワクチンは母親を接種対象として乳児を間接的に守る点が異なる4。

パラインフルエンザウイルス

項目 内容
表面構造 HA——赤血球を凝集させる/NA——を切断し新生を遊離させる/F蛋白——
好発疾患 (別名:、laryngotracheobronchitis)

病態と臨床像

  • 乳児:、、肺炎に加え、特徴的なオットセイ様のと
  • 年長児・成人:、嗄声、
  • はX線で「」として描出される

診断

  • RT-PCR

治療

  • 支持療法のみ(特異的治療なし)
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Paramyxoviruses'>パラミクソウイルス</span><br>(−鎖ssRNA・エンベロープあり)"] --> B["F蛋白による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell fusion'>細胞融合</span><br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='syncytium formation'>合胞体形成</span>"]
  B --> C["RSウイルス<br>(Gタンパクで付着)"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parainfluenza virus'>パラインフルエンザウイルス</span><br>(HA・NAも保有)"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchiolitis'>細気管支炎</span><br>(乳児<6か月・#1原因)"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='croup'>クループ</span>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laryngotracheobronchitis'>喉頭気管気管支炎</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seal-like barking cough'>犬吠様咳嗽</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steeple sign'>尖塔徴候</span>)"]

RSウイルス vs パラインフルエンザウイルスの比較

項目 RSウイルス
特徴的な表面蛋白 のみ HA・NA・F蛋白
標的部位 下気道() 上〜(喉頭・気管)
代表疾患 (乳児の非定型肺炎#1) ()
特異的治療 、/(受動免疫) 支持療法のみ

まとめ

  • RSウイルスとは共に(−)鎖ssRNA・エンベロープを持つ近縁ウイルスで、F蛋白によるというの仕組みを共有する——ただし現行の分類ではRSウイルスは2016年に独立したPneumoviridae科(属Orthopneumovirus)、は引き続き(1・3型は属Respirovirus、2・4型は属Orthorubulavirus)に分類され、同じ科ではない。
  • RSウイルスはでに付着し、生後6か月未満の乳児で(非定型肺炎の第1原因)を起こす。
  • はHA・NAも持ち、()を起こす——特徴は・・X線での。
  • RSVにはと/(F蛋白阻害モノクローナル抗体による受動免疫)という特異的な対応があるが、パラインフルエンザには支持療法しかない。
  • 診断はいずれもが中心(は・も使用)。

RSウイルス(microbe note)・1〜4型(microbe note)も参照。

出典

  1. 1.ICTV Virus Taxonomy Profile: Pneumoviridae(International Committee on Taxonomy of Viruses (ICTV) / Journal of General Virology・2017)Pneumoviridaeはかつてパラミクソウイルス科内の亜科だったが2016年に独立の科として再分類され、RSウイルスは属Orthopneumovirus・種Human orthopneumovirus(亜群A1・A2・B1・B2が共存流行)に分類される閲覧 2026-08-26
  2. 2.ICTV Virus Taxonomy Profile: Paramyxoviridae(International Committee on Taxonomy of Viruses (ICTV) / Journal of General Virology・2019)ヒトパラインフルエンザウイルス1型・3型は属Respirovirus、2型・4型はムンプスウイルスと同じRubulavirinae亜科の属Orthorubulavirusに分類される閲覧 2026-08-26
  3. 3.Use of Clesrovimab for Prevention of Severe Respiratory Syncytial Virus–Associated Lower Respiratory Tract Infections in Infants: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2025(CDC Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)・2025)ニルセビマブ(体重5kg未満50mg・5kg以上100mgの単回筋注)とクレソロビマブ(体重によらず105mg固定量、初回シーズン限定)の用量・適応の違い、パリビズマブが2025年12月31日で米国内販売終了となることを確認した閲覧 2026-08-26
  4. 4.Use of the Abrysvo Vaccine in Pregnancy to Prevent Respiratory Syncytial Virus in Infants: A Review(Cureus・2024)妊婦への母体RSVワクチン(Abrysvo)は妊娠32〜36週に単回接種し胎盤移行抗体で生後6か月未満の乳児を受動的に守る戦略であり、60歳以上の高齢者向けRSVワクチンは本人に能動免疫を誘導する別の戦略である閲覧 2026-08-26