微生物学

微生物学 · 3/10

ウイルスに対する任意(非定期)ワクチン

Non-obligatory vaccines against viruses

微生物
Japanese encephalitis virusRespiratory syncytial virus

🧠 「定期(義務)ワクチン」は年齢で決まる全員共通の予定表だが、「任意(非定期)ワクチン」は個人のリスク——渡航先・職業・年齢層・曝露の有無——によって初めて必要性が決まる。 以下の各ワクチンを見るときは、暗記より先に「誰が」「なぜ」必要とするのかを確認するとよい(定期ワクチンについては定期(義務)ワクチンを参照)。

剤形による分類

剤形 ワクチン 主な対象
生ワクチン 乳児
生ワクチン (Yellow fever、商品名YF-VAX) への渡航者
リスクのある者
A型肝炎ワクチン 糞口感染リスクの高い地域に居住・渡航・就労する者
ワクチン 曝露後予防、高蔓延国での

渡航・曝露リスクに応じたワクチン

  • TBE()ワクチン:。リスクのある者に推奨される。

  • A型肝炎ワクチン:。糞口感染リスクの高い地域に居住・渡航・就労する者に推奨される。

  • :。乳児に推奨される。

  • :。への渡航者に推奨される。

    • ⭐ 「10年ごとの追加接種」はもう要らない。 36研究・22報告の系統的レビューで、単回接種が高いを示し生涯にわたるを与えるとされ、10年ごとの規定は撤回された1。ただし感染者・乳児・小児・妊婦・重度栄養不良者では個別の考慮を要する1——弱毒生ワクチンなので、妊娠・免疫抑制という生ワクチン共通のがここにも効く。

インフルエンザワクチン

  • サブユニット・スプリット・全粒子不活化・弱毒生のいずれの剤形も存在する。

  • 3価(2A型+1B型)または4価(2A型+2B型)の型がある。

    • ⚠️ 4価から3価へ「戻った」のがここ数年の動き。 とその対策でインフルエンザの流行が抑えられた結果、B型のB/Yamagata系統が消失し、WHOは2023年9月に今後のワクチンからB/Yamagata抗原を除外するよう勧告した2。現在は3価ワクチンまたは改変4価ワクチンへの移行が進んでいる2。「新しいほど価数が多い」とは限らない。
  • 全ての人、特に医療従事者・高齢者に強く推奨される。

💡 なぜ毎年接種が必要なのか。 はにより流行株のが毎年変化するため、新しい血清型に合わせた毎年の再接種が必要になる。

特殊な渡航者向けワクチン

  • :への長期渡航者向け(本ノートの原資料の制度上はハンガリー国内では入手不可とされる)。

HPV9ワクチン

  • HPV9(ヒトパピローマウイルス9価ワクチン):したタンパク質による9血清型に対するワクチン。

  • の年齢層以外の人が対象——の血清型・関連疾患の詳細はパピローマウイルスを参照。

    • 💡 接種回数の勧告は2022年12月に更新された。 は9〜20歳では単回接種でも2回接種と同等の有効性・防御持続が得られるとして、代替の(適応外の)単回接種スケジュールを選択肢として認めている(SAGE勧告は2022年4月)3。

    • ハンガリーではは7年生時に男女とも9価ワクチンが任意・無料で提供される4。「任意だが無料でスケジュールに載る」という位置づけは3/9(定期ワクチン)と同じ。

曝露後・特定リスク時に接種するワクチン

  • :動物咬傷後の曝露後予防として使用される。高蔓延国では小児期のとして用いられることもある。

⚠️ 上の一覧に載っていない任意ワクチンが、2023年前後にまとめて増えた。 リスクに応じて選ぶという原則は同じだが、対象者の顔ぶれが「渡航者」から「高齢者・妊婦・乳児」へ広がったのがこの数年の変化である。

追加された選択肢 対象 押さえどころ
ワクチン(高齢者) 60歳以上 融合前F蛋白を用いた2価ワクチンの第3相試験(34,284人)で、関連に対する有効率は2徴候以上で66.7%、3徴候以上で85.7%5
ワクチン(妊婦) 妊娠32週0日〜36週6日 季節性に単回接種し、で新生児を守る6
初回シーズンを迎える新生児・乳児 ワクチンではなくモノクローナル抗体による受動免疫。ので半減期を約71日に延ばし、単回筋注で1シーズンをカバーする7
(RZV) 50歳以上、および19歳以上の免疫不全者 2〜6か月間隔で2回(急ぐ場合は1〜2か月間隔まで短縮可)。組換えサブユニットなので、生ワクチンが打てない免疫不全者にも使える8

⭐ 「生か、生でないか」が任意ワクチンの適応を決める最大の分岐。 妊娠中と一定以上の免疫抑制状態では(・ロタ・MMR・水痘)が禁忌になるため、同じ疾患に対して非生の選択肢があるかどうかが実務を分ける。帯状疱疹で生ワクチンから組換えサブユニットへ主役が移ったこと、で乳児には抗体(受動免疫)を、妊婦・高齢者にはワクチン()を使い分けることは、いずれもこのの裏返しである。

flowchart TD
  A["任意(非定期)ワクチンの適応"] --> B["渡航先の感染リスク<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='yellow fever'>黄熱</span>・日本脳炎・TBE・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis A virus'>HAV</span>)"]
  A --> C["曝露後の緊急接種<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rabies vaccine'>狂犬病ワクチン</span>)"]
  A --> D["年齢・季節性の反復接種<br>(インフルエンザ毎年)"]
  A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='routine immunization'>定期接種</span>年齢外の追加接種<br>(HPV9など)"]

まとめ

  • 任意(非定期)ワクチンは年齢一律の定期ワクチンと異なり、渡航先・職業・年齢層・曝露状況などの個別リスクに応じて接種を検討する。

  • 生ワクチンには・、にはTBE・・がある。

  • は毎年のに対応するため年1回の再接種が必要で、全ての人、特に医療従事者・高齢者に推奨される。

  • HPV9ワクチンは年齢層以外の人を対象としたワクチンである。

  • は動物咬傷後の曝露後予防として、・・MMR・IPVも状況に応じてリスクベースで接種されることがある。

出典

  1. 1.Efficacy and duration of immunity after yellow fever vaccination: systematic review on the need for a booster every 10 years(The American Journal of Tropical Medicine and Hygiene・2013)36研究・22報告を対象とした系統的レビューで、黄熱ワクチンの単回接種が高い免疫原性を示し生涯にわたる防御免疫を与えるため、それまで規定されていた10年ごとの追加接種は不要と結論されたこと、ただしHIV感染者・乳児・小児・妊婦・重度栄養不良者では個別の考慮を要することを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Post-disappearance scenarios: policy implications following the potential disappearance of B/Yamagata lineage influenza viruses(Eurosurveillance・2024)COVID-19パンデミックとその対策によってインフルエンザウイルスの流行が抑えられ、B型のB/Yamagata系統が消失したこと、これを受けてWHOが2023年9月に今後のワクチンからB/Yamagata抗原を除外するよう勧告し、4価ワクチンから3価ワクチンまたは改変4価ワクチンへの移行が進んでいることを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Human papillomavirus vaccines: WHO position paper (2022 update)(World Health Organization(Weekly Epidemiological Record 97(50):645-672)・2022)2022年12月にWHOがHPVワクチンの接種回数に関する立場を改め、9〜20歳では単回接種でも2回接種と同等の有効性と防御持続が得られるとして、代替の(適応外の)単回接種スケジュールを選択肢として認めたことを確認した。この勧告はSAGEが2022年4月に行ったものである。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Vaccine Scheduler: Recommended vaccinations in Hungary(European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC)・2026)2026年2月10日更新版のハンガリー定期接種スケジュールを確認した。BCGは出生時(義務)、DTaP-IPV-Hib混合は生後2・3・4か月に基礎接種し18か月・6歳・11歳に追加、B型肝炎は乳児期ではなく学校での7年生時の集団接種(義務)、麻疹・ムンプス・風疹は15か月と6年生時、水痘は15か月と18か月で2018年7月31日より後に生まれた児は義務、肺炎球菌は生後2・3・4・6か月に**PCV15**(かつての13価から更新)で12歳時にPCV15+PPSV23またはPCV20、65歳以上にPCV20、髄膜炎菌はC群のみが12か月・15か月・6年生時に任意、HPVは7年生時に男女とも9価ワクチンを任意・無料で提供する。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Efficacy and Safety of a Bivalent RSV Prefusion F Vaccine in Older Adults(The New England Journal of Medicine・2023)60歳以上の成人34,284人を対象とした第3相試験で、RSV融合前F蛋白を用いた2価ワクチン(RSVpreF、120 µg単回筋注)のRSV関連下気道疾患(2徴候以上)に対する有効率は66.7%(96.66%CI 28.8-85.8)、3徴候以上では85.7%(96.66%CI 32.0-98.7)であったことを確認した。高齢者向けRSVワクチンが実用化されたのは2023年である。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Maternal RSV Vaccination(American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG)・2025)母体RSVワクチン(Abrysvo)は妊娠32週0日〜36週6日の間に季節性接種として単回投与することを確認した。閲覧 2026-08-26
  7. 7.BEYFORTUS (nirsevimab-alip) injection — Prescribing Information(Sanofi / DailyMed (U.S. FDA)・2023)モノクローナル抗体による受動免疫の現代的な形として、RSV融合前F蛋白のエピトープを標的とするニルセビマブがFc領域のYTE変異で新生児Fc受容体への結合を高め血中半減期を約71日に延ばし、単回筋注でRSVシーズン1つ分をカバーできること、2023年に米国で初回承認され初回RSVシーズンを迎える新生児・乳児が対象であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  8. 8.Use of Recombinant Zoster Vaccine in Immunocompromised Adults Aged ≥19 Years: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2022(CDC ACIP・2022)組換え帯状疱疹ワクチンが19歳以上の免疫不全者にも適応拡大され、通常2〜6か月間隔(迅速な免疫が必要な場合は1〜2か月間隔まで短縮可)で2回接種することを確認した。閲覧 2026-08-26