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Microbe Atlas · ウイルス

Hepatitis B virus

B型肝炎ウイルス

分類
ヘパドナウイルス / Hepadnaviruses
性状
エンベロープあり EnvelopeddsDNA-RT (逆転写)
科目
Medical Microbiology
トピック
3/35: Hepatitis viruses: B, C, D, G5/24: Microbes causing pre- and perinatal infections (list) in the fetus / new-born baby5/26: Normal flora of the genital tract. Pathogens of sexually transmitted diseases (list)
原因となる疾患
ウイルス性肝炎ウイルス性関節炎肝硬変急性肝不全膜性腎症膜性増殖性糸球体腎炎
作用する薬剤
(PEG)-インターフェロンアルファエムトリシタビンエンテカビルテノホビルブレビルティッドラミブジン

🧠 全体像:B型肝炎ウイルスを理解する鍵は「血液・体液感染で、の主体になる」という1点にある。ウイルス自体の肝細胞傷害性は乏しく、感染肝細胞のを排除しようとする宿主の免疫応答が肝炎そのものを引き起こす——だから免疫が未熟な新生児ほど排除できずに慢性化しやすい(成人5〜10%に対し新生児は約90%)というが成り立つ。もう一つの核心はHBs抗原・HBs抗体・HBc抗体・HBe抗原という4つのをどう読むか——この組み合わせだけで急性感染・回復・ワクチン免疫・慢性キャリアを区別できる。C型D型と同じ「血液感染・慢性化しうる」グループに属し、A型E型の「感染・急性のみ」とは対極にある。

微生物学的な特徴

項目 内容
分類 (circular dsDNA、部分的に一本鎖)、エンベロープあり、(Hepadnavirus, “hepatic DNA”=肝DNAウイルス)
複製の特徴 核内・核外(細胞質)の両方で複製する。逆転写酵素を使うが、宿主染色体へは組み込まれないウイルスであるHIVとの対比で覚える)
複製鋳型 感染肝細胞の核内にcccDNA(covalently closed circular DNA)として長期間残存する——これが後述する「で抑えても治せない」理由の根本にある

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["血液・体液を介して肝細胞へ侵入"] --> B["核内でcccDNAを形成"]
    B --> C["HBs抗原・HBc抗原・HBe抗原を<br>肝細胞表面・血中に産生"]
    C --> D["宿主の細胞性免疫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='humoral immunity'>液性免疫</span>が<br>感染肝細胞を攻撃"]
    D --> E["肝細胞傷害・炎症<br>(ウイルス自体の直接傷害性は乏しい)"]
    C --> F["HBsAg+抗HBs抗体の免疫複合体形成"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type III hypersensitivity reaction'>III型過敏反応</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyarteritis nodosa, PAN'>結節性多発動脈炎</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='membranous nephropathy'>膜性腎症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membranoproliferative glomerulonephritis, MPGN'>膜性増殖性糸球体腎炎</span>"]
    D --> I{"免疫が排除できるか"}
    I -->|"多くの成人"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Acute Hepatitis'>急性肝炎</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resolution'>終息</span>(5〜10%が慢性化)"]
    I -->|"新生児(免疫未成熟)"| K["約90%が慢性化"]

💡 HBVの症状の多くは「ウイルスの攻撃」ではなく「免疫の攻撃」。 肝細胞そのものへの直接的な細胞傷害性は乏しく、感染細胞表面のウイルス抗原に対する・細胞性免疫)がの主体になる。この構図はや糸球体腎炎という病変が起こる理由でもあり、免疫が未熟な新生児ほど排除できず慢性化しやすいという一見な現象の説明にもなる。

感染経路と疫学

  • 血液(、注射器の共用、輸血・など)
  • 性的接触
  • 母子感染(——出産時の血液・体液曝露が主体。HBe抗原陽性の母親からのリスクは無対策で高率であり、周産期対策の中心的な標的になる

母子感染は年齢と慢性化率の関係を最も強く示す場面。 出生時に感染すると免疫が未成熟なため約90%が慢性化する——だからこそ全妊婦へのHBs抗原スクリーニングと新生児への出生直後の予防が確立している。

起こす疾患

疾患 押さえどころ
(急性) プロドロームとして(発熱・感・発疹・関節痛)を伴う
成人の5〜10%、新生児の約90%が慢性化——年齢が若いほど慢性化率が高い
肝硬変 が進行すると発症しうる
稀だが起こりうる
による中〜小動脈の全身性血管炎
糸球体腎炎 (より多い)、

診断:血清マーカーのパターンを読む

HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体・HBe抗原という4つのマーカーの組み合わせが最重要。

抗原・抗体 意味
HBsAg の指標——最初に検出可能になるマーカー。6か月以上持続すれば
HBeAg(e抗原) ウイルスの活発な複製・感染性の高さと相関——2番目に出現するマーカー
IgM型抗HBc抗体 急性感染を示す。(HBsAg消失後・抗HBs抗体出現前の空白期間)にも陽性になる唯一のマーカー
IgG型抗HBc抗体 過去または慢性の感染既往を示す(ワクチンでは陽性にならない)
抗HBe抗体 感染性の低下(HBeAgからの)を示す
抗HBs抗体 回復またはワクチン接種による免疫を示す
病期 HBsAg 抗HBc 抗HBs
急性感染 陽性 IgM陽性 陰性
陰性 IgM陽性 陰性
既感染からの回復 陰性 IgG陽性 陽性
ワクチン接種後 陰性 陰性 陽性
慢性キャリア 陽性(6か月超) IgG陽性 陰性

「抗HBc抗体だけが陽性・抗HBsもHBsAgも陰性」はワクチンでは説明できない。 抗HBc抗体はワクチン(HBsAg単独の遺伝子組換え製剤)では陽性化しない——抗HBc陽性は必ず自然感染の既往を意味する。この一点だけで既感染とワクチン免疫を区別できる。

💡 HBc抗原そのものは血中では測定できない。 にとどまるため血中に遊離せず、臨床で測定できるのは抗HBc抗体のみである点に注意。

治療と予防

  • 第一選択は高いを持つ核酸/製剤——またははHBV DNA量・ALT・線維化/肝硬変の有無・年齢・免疫抑制予定・妊娠などで判断し、全HBsAg陽性者に一律投与するわけではない
  • ⚠️ はウイルスを「治す」薬ではなく「抑える」薬。 複製鋳型であるcccDNAを排除できないため、多くの患者で治療は長期・実質的に無期限に続く。自己判断での中止は(フレア)の引き金になる——と定期的なが治療の要になる
  • の出現率が高く、現在は第一選択から外れたレガシー薬
  • (PEG)αは有限期間で治療を終えられる利点があり、選択肢の一つとして残る
  • :HBs抗原陽性の母から生まれた新生児には、出生直後(12〜24時間以内)にHBワクチンと(受動免疫)を同時投与する。無対策では高率にが成立するが、この対策で大幅にリスクを下げられる
  • :HBsAgを用いた——3回接種(出生時・1か月・6か月)により抗HBs抗体を獲得する

⚠️ HBVは・性的接触・母子感染で伝播する血液・体液感染症であり、医療従事者にとって対策(ワクチン接種歴の確認、曝露後の投与)が重要になる。

まとめ

  • HBVは環状dsDNAので、逆転写酵素を使うが宿主染色体には組み込まれない。cccDNAが核内に残存するためは「治す」薬ではなく「抑える」薬にとどまる。
  • 肝障害の主体はウイルスではなく・細胞性免疫)——・糸球体腎炎という病変もこの機序で説明できる。
  • 慢性化率は成人5〜10%・新生児約90%——年齢が若いほど免疫が未熟で排除できず慢性化しやすい。
  • はHBsAg→HBeAg→抗HBc→抗HBe・抗HBsの順で解釈する。抗HBc抗体はワクチンでは陽性化しないため、既感染とワクチン免疫を区別する決め手になる。
  • は出生直後のワクチン+)は長期治療が前提で、自己判断での中止はを招く