微生物学

微生物学 · 5/24

胎児・新生児の出生前・周産期感染を起こす微生物(一覧)

Microbes causing pre- and perinatal infections (list) in the fetus / new-born baby

微生物
CytomegalovirusHepatitis B virusHepatitis E virusVaricella zoster virus
疾患
新生児水痘先天性水痘症候群
症状
脈絡網膜炎

🧠 胎児・は「いつ」母から子へ伝播したかで3つに分けて読む。 ①出生前=子宮内でに胎児へ(例:、パルボウイルスB19、〔, cytomegalovirus〕、〔, human immunodeficiency virus〕)、②周産期=分娩時に産道を通過する際、母体血液・分泌物との接触で(例:〔, herpes simplex virus〕、〔B型肝炎ウイルス, hepatitis B virus〕、、〔ヒトパピローマウイルス, human papillomavirus〕)、③出生後=出生直後、主に母乳・接触を介して(例:、、、)。この時期区分の代表格が、を起こす5大病原体をまとめたTORCH(Toxoplasma/Other=梅毒・パルボウイルスB19など/Rubella/CMV/HSV)という語呂合わせである。

感染時期による分類

時期 経路 代表病原体
出生前 子宮内・ 、パルボウイルスB19、、
周産期 産道通過時の血液・分泌物接触 、、、
出生後 母乳・接触 、、、

⭐ 同じ病原体(、、、)が複数の時期にまたがって伝播しうる——「この病原体は出生前だけ」と一対一で覚えるのではなく、・産道・母乳という複数の経路を持ちうる点に注意する。

TORCH(経胎盤性の代表的先天感染)

頭文字 病原体 特記事項
T Toxoplasma gondii 妊娠初期の感染ほど重症。は・水頭症・の3つ(・は三徴そのものには含まれない)1
O(Other) Treponema pallidum()、パルボウイルスB19(3/17、・)、(, varicella-zoster virus):、HIV “Other”には複数の病原体が含まれる包括的なカテゴリー
R Rubella virus() の感染で(・難聴・)のリスクが最大
C () 先天感染の原因として最も頻度が高く、感音難聴の最多原因でもある2
H (多くは) 主に周産期(産道通過時)の感染

⚠️ 「TORCH」という括りは網羅的ではない。 TORCHはバリアを越えて先天感染を起こすことが分かっていた病原体を指すな括りであり、のように重大な胎児障害を起こすはこの5文字には含まれない。総説でも「なTORCH病原体に加えて」を扱う、という形で外側に置かれている3——TORCHを鑑別の全体像と誤解せず、この語呂合わせに含まれない病原体(Zika、パルボウイルスB19以外の腸内ウイルスなど)も鑑別に残す。

⚠️ の先天感染は感染時期で臨床像が全く異なる。 妊娠8〜20週での母体感染は(・)のリスクとなるが、分娩前後5日以内(分娩5日前〜分娩後2日)の母体発疹は、児が抗体を獲得できないまま出生するため重症の(致死率の高い)のリスクとなる——同じウイルスでも感染時期によって対策(の適応など)が変わる。

細菌性病原体

病原体 臨床像
Streptococcus agalactiae(B群レンサ球菌, GBS) ・髄膜炎・肺炎——米国(ACOG)では妊娠36週0日〜37週6日の腟・直腸培養スクリーニングで保菌の有無を確認し、陽性妊婦には投与を行う(⭐ 破膜がなく陣痛開始前の帝王切開なら不要)。GBS保菌妊婦の約50%が新生児へ伝播し、予防投与がなければその1〜2%がGBS感染症を発症する4
Treponema pallidum ——。妊娠中の血液スクリーニングで確認。⚠️ 世界的に再増加しており、2020年の(出生10万対425例)はの排除目標(出生10万対50例)を大きく上回る5
Listeria monocytogenes ・髄膜炎——
E. coli K1(莢膜抗原K1陽性株)
Neisseria gonorrhoeae ——出生後の点眼(など)で予防
Chlamydia trachomatis 新生児()

💡 の予防は出生後の点眼で行うが、淋菌性とクラミジア性では発症時期が異なる。 淋菌性結膜炎は出生後2〜5日と早期に発症するのに対し、クラミジア性結膜炎は出生後5〜14日とやや遅れて発症する——同じ「による新生児」でも起因菌により潜伏期が異なる。

ウイルス性病原体

、、パルボウイルスB19、(3/24、妊娠中感染で)、HBV、HIV、HSV-2、風疹(Rubeola=、3/27)、(3/24)、(E型肝炎ウイルス, hepatitis E virus)が挙げられる。

原虫

原虫 特記事項
Toxoplasma gondii TORCHの“T”。ネコの糞便由来の摂取や生肉摂取が感染源
Plasmodium sp. により先天性マラリアを起こしうる
sp.(T. cruziによる先天性が代表)

まとめ

  • 胎児・は出生前()、周産期(産道通過時)、出生後(母乳・接触)の3つの時期に分けて整理する。・・・は複数の時期にまたがって伝播しうる。
  • TORCH(Toxoplasma/Other=梅毒・パルボウイルスB19・・など/Rubella//)はの代表的先天感染をまとめた語呂合わせである。
  • 風疹はの感染でのリスクが最大、は感染時期により(妊娠8〜20週)と重症(分娩前後5日以内)に分かれる。
  • ではB群レンサ球菌とが妊娠中のスクリーニング対象であり、淋菌・クラミジアは新生児の原因として出生後の点眼で予防する。
  • 原虫ではToxoplasma gondiiに加え、 sp.やTrypanosoma cruzi(先天性)もしうる。

出典

  1. 1.Congenital Toxoplasmosis(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)先天性トキソプラズマ症の古典的三徴は脈絡網膜炎・水頭症・脳内石灰化の3つであり、小頭症や精神発達遅滞は三徴そのものには含まれない閲覧 2026-08-26
  2. 2.Maternal and congenital human cytomegalovirus infection: laboratory testing for detection and diagnosis(Journal of Clinical Microbiology・2024)CMVは世界的に最多の先天感染症の原因であり、非遺伝性感音難聴の最多原因でもある閲覧 2026-08-26
  3. 3.Infections at the maternal-fetal interface: an overview of pathogenesis and defence(Nature Reviews Microbiology・2022)TORCH(Toxoplasma gondii・other・rubella virus・cytomegalovirus・herpes simplex virus)という語は、経胎盤バリアを越えて胎児に先天感染を起こすことが分かっていた伝統的な病原体を指して作られた括りであり、この総説はZikaウイルスなど「伝統的なTORCH病原体に加えて」重要な後遺症を持つ新興病原体の病態も扱うとして、TORCHという伝統的な括りだけでは先天感染の原因体を網羅できないことを確認した閲覧 2026-08-26
  4. 4.Prevention of Group B Streptococcal Early-Onset Disease in Newborns: ACOG Committee Opinion, Number 797(American College of Obstetricians and Gynecologists・2020)acog.org が公開している本文全文(Recommendations and Conclusions・本文・図表脚注)で確認した。文書の現行性——ページに「Reaffirmed 2025」と明記されており、2019年6月の Committee Opinion 782 を置き換えた版に、ペニシリンアレルギー検査・低リスク/高リスクの区分(Table 2)・ペニシリンの用量(Figure 3)に限った interim update と2020年4月の訂正が反映されている。以下は本文で確認した内容。米国産科婦人科学会はGBSの全妊婦スクリーニングを妊娠36週0日〜37週6日に腟・直腸培養で行うとし、この時期の培養が陽性の妊婦には、破膜がなく陣痛開始前の帝王切開を行う場合を除き分娩時抗菌薬予防投与を行う。GBS保菌妊婦のうち約50%が新生児へ伝播し、予防投与がない場合その1〜2%が早発型GBS感染症を発症する。⚠️ 本文書は米国の産科診療についての文書であり、他国の推奨を述べるものではない閲覧 2026-09-08
  5. 5.Resurgence of congenital syphilis: new strategies against an old foe(The Lancet Infectious Diseases・2023)2020年の先天梅毒の世界発生率は出生10万対425例で、WHOの排除目標である出生10万対50例を大きく上回り、多くの高所得国で症例数が上昇している——先天梅毒は現在も胎児死亡・死産・新生児死亡の主要な原因である閲覧 2026-08-26