微生物学

微生物学 · 4/22

トキソプラズマ・ゴンディ

Toxoplasma gondii

応用トピック
原虫感染症―ジアルジア症・トキソプラズマ症・アメーバ症・マラリア妊娠中の感染症・細菌感染・寄生虫感染
微生物
Toxoplasma gondii
疾患
トキソプラズマ症
症状
脈絡網膜炎

🧠 を理解する軸は「終宿主はネコだけ」と「胎盤を越えた時期で予後が真逆になる」の2点である。 はネコの腸管内でしか起こらない——ヒトを含む他のはすべてだけを行う中間宿主にすぎない。そしては、妊娠初期に胎盤を越えると重症の(水頭症/・による失明・)を残し、に越えると出生時は正常でも思春期に再活性化して進行性の失明を起こす——「いつ越えたか」がすべてを決める。

形態・生活環

項目 内容
分類 ——原虫の分類ではを持たない
終宿主 ネコ(が起こる)
中間宿主 ヒトおよびその他の動物(のみ)
形態① 内の
形態② ——急速増殖型、組織障害の原因
形態③ ——内での緩徐増殖型、の本体
flowchart TD
  A["ネコが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue cyst'>組織シスト</span>含有の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rodent'>齧歯類</span>を捕食"] --> B["ネコ腸管内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sexual'>有性生殖</span>"]
  B --> C["未成熟<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oocyst'>オーシスト</span>が糞便中に排出"]
  C --> D["環境中で3〜4日かけて成熟<br>感染性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sporozoites'>スポロゾイト</span>を持つ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oocyst'>オーシスト</span>に"]
  D --> E["ヒト/動物が経口摂取<br>(または加熱不十分な肉の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue cyst'>組織シスト</span>摂取)"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sporozoites'>スポロゾイト</span>が細胞に感染"]
  F --> G["急速増殖するtachyzoiteへ<br>(組織障害)"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue cyst'>組織シスト</span>内でbradyzoiteとして緩徐増殖<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic infection'>慢性感染</span>として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encystment (to encyst)'>被嚢</span>)"]
  H -.->|"免疫抑制で再活性化"| G

感染経路

  • ネコの糞便に汚染された土壌・水・食物の経口摂取。
  • 加熱不十分な、を含むの肉の摂取。
  • 、輸血感染も起こりうる。

臨床像:トキソプラズマ症

免疫正常者:

  • 無症状のことが多いが、を呈することもある。
  • 急性感染:発熱、筋肉痛、リンパ節炎。
  • :発疹、肝炎、心筋炎、。

妊婦:

⚠️ の「時期」が予後を決める。 汚染された肉やネコの糞との接触による感染で、が血流を介して胎盤を越え胎児に達する。

  • 早期に胎盤を越えた場合:(による失明・水頭症・)を残す1。・・難聴を伴うこともあり、早産・流産に至ることもある。
  • 後期に胎盤を越えた場合:出生時は正常に育つが、思春期に再活性化し進行性の失明を起こしうる。

免疫不全患者(等):

診断

  • 検査。
  • 血清学:⚠️ IgM陽性は急性感染を意味しない——IgMは感染後数か月〜数年にわたり陽性が持続しうるため2、単独では急性感染を診断できない。で免疫グロブリンG(immunoglobulin G, IgG)が最近の感染かかを鑑別し、組み合わせて感染時期を推定する。
  • :検体(主に/患者)。
  • 生検:リンパ節、脳、心筋、体液からの検体。

治療

  • :+。
  • 妊婦:。
  • 患者:+、予防投与にはST合剤。

まとめ

  • はので、終宿主はネコのみ()、ヒトを含む他の動物はのみを行う中間宿主。
  • 感染はネコ糞便中の、または加熱不十分な肉中のの経口摂取で成立し、・輸血感染も起こりうる。
  • 免疫正常者では無症状〜が主だが、はの時期により重症度が全く異なる(早期=、後期=思春期の再活性化による進行性失明)。
  • 患者ではを伴う脳症・の最多原因となる。
  • 診断はIgM検出とによる感染時期の鑑別が中心。
  • 治療はに+、妊婦に、患者に+(予防にはST合剤)を用いる。
  • ⭐ 妊婦スクリーニングは国によって方針が大きく異なる——フランスは1978年から普遍的スクリーニングを制度化しているが、米国など多くの国では系統的な妊娠前後スクリーニングが実施されていない3。
  • 💡 株の・には地域差があり、眼はの再活性化だけでなく後天感染でも起こる——南米系統のの強い株が多い地域(南ブラジルなど)では後天感染由来のが米国(約2%)よりはるかに高い(最大18%)34。

出典

  1. 1.Congenital Toxoplasmosis(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)先天性トキソプラズマ症の古典的三徴は脈絡網膜炎・水頭症・脳内石灰化の3つで、小頭症や精神発達遅滞は三徴そのものには含まれないことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Significance of a Positive Toxoplasma Immunoglobulin M Test Result in the United States(Journal of Clinical Microbiology・2015)Toxoplasma特異的IgMは急性感染後、数か月〜数年にわたり陽性が持続しうるためIgM単独の陽性は最近感染したことを意味せず、IgGアビディティ試験と組み合わせて解釈する必要があることを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Global initiative for congenital toxoplasmosis: an observational and international comparative clinical analysis(Emerging Microbes & Infections・2018)フランスでは1978年から妊婦への系統的な普遍的スクリーニングが実施されている一方、米国・コロンビア・モロッコでは多くの国で妊娠前後のスクリーニングプログラムが未実施であり報告義務もないこと、南米系統の毒力を示す株が米国内でも観察されていることを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Age and ocular toxoplasmosis: a narrative review(FEMS Microbes・2025)眼トキソプラズマ症は先天性感染の再活性化だけでなく後天感染(postnatally acquired infection)でも起こり、米国での後天感染例における眼病変発生率は約2%にとどまる一方、南ブラジルなど毒力の強い株が多い地域では後天感染由来でも眼病変発生率が最大18%に達することを確認した。閲覧 2026-08-26