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Symptoms · Published

脈絡網膜炎

Chorioretinitis

別名
網脈絡膜炎脈絡膜網膜炎
臓器系
眼科感染症
科目
Medical MicrobiologyInternal Medicine
トピック
微生物学 4/22:トキソプラズマ・ゴンディ微生物学 5/24:胎児・新生児の出生前・周産期感染を起こす微生物(一覧)微生物学 5/3:眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断微生物学 5/37:眼感染を起こす原虫と蠕虫(一覧)とその診断微生物学 3/15:ヘルペスウイルス:サイトメガロウイルス微生物学 3/4:先天性ウイルス感染(例)内科学 S-58:局所・全身性真菌感染症
関連疾患
トキソプラズマ症先天性水痘症候群

🧠 全体像は「見た目は静かな目なのに、視力が音もなく失われていく」病態として読む。・眼痛・という派手な訴えで受診を促すのに対し、にあたるは痛みに乏しく、患者はしばしばだけを訴えて受診が遅れる。この非対称性が本ノートの理由である——は眼球でも屈指の血流量を持ちの着床点になりやすく、そこから波及する網膜は再生しない神経組織なので、瘢痕は永久的なとして残る。の先天性三徴の一角、AIDS患者の、免疫正常者も襲う——原因は多彩だが、免疫状態と先天性/後天性という2つの軸で絞り込む思考は共通する。

定義と用語の整理

と網膜は解剖学的に隣接し、一方の炎症がもう一方へ波及しやすい。どちらが原発かで用語が使い分けられることがあり、由来の炎症が網膜へ波及したものを、網膜原発の炎症がへ波及したものをと呼ぶ。ただし実臨床では両方向への波及が同時に進むことが多く、両者はほぼ同義に使われる(本ノートのaliasesに両表記を収録する理由でもある)。

ぶどう膜炎(の炎症の総称)はで炎症の主座がどこにあるかにより前部・・後部・に分けられ、は網膜・を主座とするに相当する1。前部ぶどう膜炎と対比すると、以降の診療の方向性が見える。

項目 前部ぶどう膜炎(など)
主座 網膜・
症状 眼痛・充血が前面 痛みに乏しく、が前面
外眼所見 で赤い眼 多くは充血を伴わない「静かな眼」
主な評価法 内の細胞・フレア
代表的な背景 HLA-B27関連など 血行性に播種する感染症、全身性

「痛くない・赤くない目の」はを疑う典型パターンである。 前部ぶどう膜炎の派手な症状に慣れていると、静かな眼のまま進行するを見逃しやすい。

病態生理

  • の着床点になりやすい。 眼球の中でも屈指の血流量を持つは、菌血症・・ウイルス血症で循環する病原体が最初に到達しやすい部位である。
  • 網膜は再生しない神経組織。 の炎症はを越えて・網膜へ波及しやすく、いったんすると皮膚や粘膜のように機能が戻ることはない。炎症が消退したあとに残るは、瘢痕そのものが恒久的なだからである。
  • 黄斑にかかるかどうかが予後を決める。 周辺部の瘢痕は症状に乏しいことがある一方、黄斑病変は中心視力の低下に直結する。同じ大きさのでも部位で臨床的な重みが全く違う。
  • 免疫状態が病態を修飾する。免疫正常者ではが限局しやすいが、免疫不全者では病原体の増殖を抑えきれず、壊死性・の病変になりやすい。

原因の群分け

代表疾患・病原体 特記事項
先天性・周産期 の一つ2)、風疹梅毒 の時期が重症度を決める。TORCH群と重なる
感染 AIDS患者の網膜炎、の再活性化 いずれもAIDSでCD4数が低下したときに顕在化する
その他の感染 結核、真菌(カンジダ)、による 熱帯地域では蠕虫()によるも鑑別に挙がる
全身性の腫性・血管炎性疾患のとして生じる

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ による、免疫正常者にも起こりうる。周辺部から始まる網膜白色が数日で融合・拡大し、無治療ではを経て失明に至る。「免疫正常だから軽症」という思い込みが最も危険で、疑えば静注アシクロビルによる緊急治療とのPCRでの確定診断を急ぐ。
  • ⚠️ AIDS患者でCD4数がおよそ50/µL未満に低下すると最多の眼内感染となる。眼底に出血を伴う壊死巣が広がる「ピザパイ様」を呈し、(耐性時は)で治療する。無治療のまま放置すれば両眼の失明に至る。
  • ⚠️ の患者は、症状の有無にかかわらず眼底に病変が飛んでいることがある。非好中球減少症患者は診断後1週間以内に、好中球減少症患者は好中球数の回復後1週間以内にを行うべきとされ3と診断したら必ず眼底を見るという姿勢が失明を防ぐ。
  • ⚠️ の遅発性再活性化。 に胎盤を越えた例は出生時に無症状のことが多いが、は再発を繰り返してを来しうるため、成人期早期まで継続的な眼科的経過観察を要する2。「に正常だった」ことは将来の安全を意味しない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chorioretinitis'>脈絡網膜炎</span>を疑う所見<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='floaters'>飛蚊症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>、痛みに乏しい)"] --> B{"免疫状態は正常か低下か"}
    B -->|"免疫低下<br>(AIDS・移植後など)"| C{"CD4数・好中球数、<br>直近の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='candidemia'>カンジダ血症</span>歴は"}
    C -->|"CD4数が低い"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytomegalovirus retinitis'>サイトメガロウイルス網膜炎</span>を<br>最優先で評価"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='candidemia'>カンジダ血症</span>歴・<br>好中球減少からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recovery phase'>回復期</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endogenous fungal endophthalmitis'>内因性真菌性眼内炎</span>を疑い<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilated fundus examination'>散瞳下眼底検査</span>を急ぐ"]
    B -->|"免疫正常"| F{"先天性(周産期歴)か<br>後天性か"}
    F -->|"先天性"| G["TORCH群を評価<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Toxoplasma'>トキソプラズマ</span>・CMV・風疹・梅毒)"]
    F -->|"後天性"| H{"眼底所見の性状は"}
    H -->|"急速進行する<br>壊死性病変・血管炎"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute retinal necrosis, ARN'>急性網膜壊死</span>を疑い<br>緊急の抗ウイルス治療へ"]
    H -->|"限局性の黄白色<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lesion (focal)'>病巣</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulation'>肉芽</span>腫様所見"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcoidosis'>サルコイドーシス</span>・結核・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Behçet disease'>Behçet病</span>などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic disease'>全身疾患</span>を検索"]
    D --> K["血清学・PCRで<br>病原体を確定する"]
    E --> K
    G --> K
    I --> K
    J --> K

対症療法の考え方

そのものを直接鎮める対症療法は乏しく、治療の軸は原疾患の特定とその治療に委ねられる。

  • ⚠️ ステロイドは、感染性のに抗微生物薬の裏付けなしで単独投与しない。 炎症は強力に抑えられるが、病原体の増殖を許してかえって病状を悪化させうる。原因を確定できないまま経験的にステロイド単独治療を始めるべきではない。
  • など)が確定した場合に限り、全身性ステロイド・が治療の主軸になる。
  • 黄斑にかかる病変や急速進行例は視力予後に直結するため、原因検索と治療開始をできる限り同時並行で進め、対応の遅れが不可逆的なにつながらないようにする。

まとめ

  • は網膜・を主座とするで、・眼痛・が前面に出る前部ぶどう膜炎とは対照的に、痛みに乏しく静かな眼のままが前面に出る。
  • は血流が豊富での標的になりやすく、隣接する網膜は再生しないため炎症の瘢痕は永久的なとして残る。黄斑にかかるかどうかが予後を左右する。
  • 原因は先天性・周産期(・風疹・・梅毒)、感染(AIDS患者の)、その他の感染(結核・カンジダ・/による)、)の4群に整理できる。
  • 見逃してはいけないのは(CD4<50/µL)、では必ず眼底を見る)、の遅発性再活性化。
  • 鑑別は免疫状態→先天性/後天性→眼底所見の性状→血清学・PCRの順に絞り込む。
  • 治療は原疾患治療に委ねられ、感染性を除外しないままステロイド単独投与を始めない。

出典

  1. 1.Standardization of uveitis nomenclature for reporting clinical data. Results of the First International Workshop(Standardization of Uveitis Nomenclature (SUN) Working Group・2005)ぶどう膜炎の解剖学的分類(前部・中間部・後部・汎ぶどう膜炎)は炎症の主座がどこにあるかで決まり、脈絡網膜炎が該当する後部ぶどう膜炎は網膜・脈絡膜を主座とする炎症であることを確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Congenital Toxoplasmosis(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)先天性トキソプラズマ症の古典的三徴が脈絡網膜炎・水頭症・脳内石灰化の3つであること、脈絡網膜炎は再発を繰り返して視力低下を来しうるため成人期早期まで継続的な眼科的経過観察を要することを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2016)カンジダ血症では非好中球減少症患者は診断後1週間以内に、好中球減少症患者は好中球数回復後1週間以内に、散瞳下眼科診察を行うべきであることを確認した。閲覧 2026-08-03