微生物学

微生物学 · 3/15

ヘルペスウイルス:サイトメガロウイルス

Herpesviruses: CMV

応用トピック
伝染性単核球症候群EBV・CMV感染症ヘルペスウイルスによる神経疾患妊娠中の感染症・ウイルス感染食道の検査・疾患、嚥下障害、食道異物
疾患
Posner-Schlossman症候群サイトメガロウイルス網膜炎
症状
脈絡網膜炎
検査値
pp65抗原血症法

🧠 は「生まれた時は何もなくても、後から静かに障害が現れる」先天感染ウイルスとして読む。 先天性感染児の80〜90%は出生時に無症状だが、ウイルスは内耳・脳・網膜など分化の進む組織にのダメージを与え続け、数年後に感音難聴として顕在化することがある。「今、症状がないこと」は「将来も安全」を意味しない、というのがの最大の教訓である。

構造・分類

はを持ち(HHV-5とも呼ばれる)、骨髄のCD34陽性と、その子孫であるの細胞に潜伏感染を確立する。B細胞・T細胞などのリンパ球にはウイルスゲノムは保持されない1。

病原性・伝播

  • 伝播経路:直接接触・性的接触(唾液・尿・涙・精液・母乳などの体液を介する)、臓器移植、(子宮内・周産期・産後)——先天性ウイルス感染症のTORCH症候群の一つ

  • を介して唾液腺上皮細胞に感染する

  • 線維芽細胞・上皮細胞・マクロファージなどでを確立する

  • 骨髄の(CD34陽性)と単球に潜伏し、単球がマクロファージ・へ分化すると再活性化する1。移植後などの免疫抑制下では、再活性化したウイルスを抑えきれずに発症する

臨床像

⚠️ 先天性感染症は米国で最多の先天性ウイルス感染症である。 80〜90%は出生時無症状だが、重症例では以下の多臓器障害を来す。

病変 内容
CNS障害 感音難聴(感音難聴の最多原因)2。出生時無症状の児でも10〜15%が難聴を発症する3
けいれんの原因となる
血小板減少 「」を伴う
肝障害 黄疸・肝脾腫
肺 肺炎
心不全 ——に心不全から高度浮腫をきたし流産に至ることがある
  • :移植臓器やでの再活性化により重篤な全身感染に至ることがある

  • 網膜炎:患者(<50)に多い。・・網膜壊死、で「」を呈する

  • 食道炎:を伴う

  • 大腸炎:・線状の潰瘍を伴う

  • :陰性(EBVによると症状は同じだが、が陰性である点で鑑別する)

診断

  • 組織診断:核内好塩基性「」(の病理所見)

  • PCR:ウイルスの検出・増幅

⚠️ 先天性感染症は「生後3週以内」の尿・唾液でしか確定できない。 生後3週を過ぎた検体で陽性になっても、それがなのか、産道・母乳による出生後の感染なのかを区別できないためである。採取が容易で感度が高い唾液が第一選択の方法で、尿も用いる。を過ぎてから遡って診断したい場合は、保存されている(の)の検査が役に立つ23。

⚠️ IgMは特異度が低く、それだけでは初感染の証拠にならない。 母体の初感染を判定するには、 IgM・IgGに加えてIgG avidity(抗体親和性)を測る——avidityが低ければ初感染が最近であることを、高ければ感染が過去であることを示す。胎児感染そのものの評価は羊水ので行う2。移植領域でも同じ理由から、ドナー/の血清状態の判定にIgMを使わない(IgGで判定する)4。

治療・予防

⚠️ 耐性は「UL97だけ」ではない。 は固有のでリン酸化されてはじめて活性化するため、UL97変異が耐性の入り口になる。しかしをコードするUL54の変異も耐性を起こし、こちらは・とのを伴いうる。したがっての遺伝子型耐性検査はUL97とUL54の両方を対象とする5。に依存しないは、不耐・耐性例の二次選択として位置づけられる4。

⭐ 移植領域では「予防投与」と「」を使い分ける。 どちらも病の発症を防ぐ戦略だが考え方が違う。

戦略 中身 使いどころ
リスクのある全員に、移植直後から一定期間抗ウイルス薬を飲ませ続ける 最高リスクのD+/R−(ドナー陽性・陰性)で優先されることが多い
定期的にウイルス量を測り、閾値を超えた人だけ治療を始める それ以外の多くの患者では妥当な選択肢。薬剤曝露とを減らせるが、確実な監視が要る

どちらを選ぶかは移植臓器とドナー/のIgG血清状態の組合せ(D+/R−=高リスク、D+/R+またはD−/R+=中間、D−/R−=低リスク)で決まり、一律の正解はない64。

💡 では、の少ないが予防の主役になった。 (UL56)を阻害する薬で、系とが違うため骨髄抑制がない。のを対象とした無作為化試験では、移植後14週までの予防投与により24週時点の臨床的に問題となる感染が37.5%対60.6%(P<0.001)へ減り、・腎毒性の頻度はと同等だった7。

💡 症候性の先天性感染児にはを6か月投与する。 無作為化試験で6か月投与を6週投与と比べたところ、6か月後の聴力に差はなかったものの、12か月時に聴力が改善または正常のまま保たれた割合は73%対57%(P=0.01)、24か月時も77%対64%(P=0.04)と6か月群が優り、24か月時のBayley発達検査の言語スコアも良好だった8。⚠️ ただし最初の6週間でGrade 3/4の好中球減少が19%に生じるため、血球監視が要る。適応は中等症〜重症の症候性先天性感染で、無症候児への投与は確立していない3。

まとめ

  • (HHV-5)はの一員で、骨髄の(CD34陽性)とに潜伏し、マクロファージ・への分化で再活性化する。体液・臓器移植・で広がる。

  • 先天性感染症は米国最多の先天性ウイルス感染症で、多くは無症状だが感音難聴(難聴の最多原因。出生時無症状児の10〜15%が発症)・・血小板減少()・などを来しうる。

  • 免疫不全者では網膜炎()、、食道炎・大腸炎が問題になる。はと異なり陰性。

  • 診断は核内「」と。の確定は生後3週以内の尿・唾液に限られる(それ以降はと区別できない)。母体初感染の判定はIgM単独では不可で、IgG avidityを併せて見る。

  • 治療は(UL97変異で耐性化。UL54変異も耐性を起こすためは両方を見る)、耐性・不耐時はまたは。症候性先天性感染児には6か月投与が聴力・発達予後を改善する。

  • 移植領域ではとを、臓器とD/Rの血清状態の組合せで使い分ける。の予防ではのないが主役。予防の基本は安全な性行為とドナースクリーニング。

出典

  1. 1.Cytomegalovirus latency and reactivation: recent insights into an age old problem(Reviews in Medical Virology・2016)全文(PMC5458136)で、潜伏感染は骨髄の造血前駆細胞に成立し、ウイルスゲノムは単球・骨髄系の系列(自然潜伏のCD14陽性単球、CD34陽性細胞)に保持され、再活性化は最終分化したマクロファージ・樹状細胞で起こること、リンパ球の集団にはウイルスゲノムが保持されないことを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Maternal and congenital human cytomegalovirus infection: laboratory testing for detection and diagnosis(Journal of Clinical Microbiology・2024)CMVが世界的に最多の先天感染症の原因であり、**非遺伝性**感音難聴の最多原因であること、母体の初感染の診断はCMV IgM・IgGに加えIgG avidity(抗体親和性)検査を含む血清学が最も適していること、胎児感染の評価は羊水の核酸増幅検査(NAAT)で行うこと、先天性CMV感染症の診断は**生後3週以内**の尿・唾液NAATが中心であり、新生児期を過ぎた場合は保存乾燥血液スポットの検査が有用であること、妊娠中・全新生児のいずれについても普遍的スクリーニングは広く合意された実践にはなっていないことを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Clinical outcome and the role of antivirals in congenital cytomegalovirus infection(Antiviral Research・2021)先天性CMV感染児の大半は出生時に無症状だが、そのうち10〜15%が難聴を発症すること、診断は生後3週以内の尿または唾液からのウイルス検出に依存し、採取が容易で感度の高い唾液PCRが推奨される方法であること、症候性先天性CMV感染児に対する6か月間のバルガンシクロビル治療が標準治療であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.The Fourth International Consensus Guidelines on the Management of Cytomegalovirus in Solid Organ Transplantation(The Transplantation Society・2025)移植後CMVのリスク層別はドナー/レシピエントのIgG血清状態で高リスク(D+/R−)・中間(D+/R+またはD−/R+)・低リスク(D−/R−)に分け、これが予防投与・監視・先制治療の選択を決めること、特異度が低いためIgM検査を血清状態の判定に用いないこと、ガンシクロビル/バルガンシクロビルが治療の中心で不耐・耐性例の二次選択がマリバビルとフォスカルネットであることを確認した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Practical updates in clinical antiviral resistance testing(Journal of Clinical Microbiology(Wang H)・2024)CMVの遺伝子型耐性検査は少なくともUL97・UL54領域を対象とすること、表現型検査は培養で得られた分離株に対して行われ、臨床検査室でのウイルス培養技術の教育・訓練が減少しつつあることを確認した。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Prophylactic vs preemptive strategy for the prevention of CMV disease in solid organ transplant recipients: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials(Infection(Reiss-Gindi N, et al.)・2024)先制治療と予防投与のどちらを推奨するかは移植臓器やドナー/レシピエントの血清型の組合せで異なり、高リスク群(ドナー陽性・レシピエント陰性)では予防投与が優先されることがある一方、それ以外の多くの患者では先制治療も妥当な選択肢とされることを確認した。閲覧 2026-08-26
  7. 7.Letermovir Prophylaxis for Cytomegalovirus in Hematopoietic-Cell Transplantation(The New England Journal of Medicine・2017)同種造血幹細胞移植を受けたCMV血清陽性成人で、移植後14週までのレテルモビル予防投与(480 mg/日、シクロスポリン併用時240 mg/日)は24週時点の臨床的に問題となるCMV感染を37.5%(325例中122例)へ減らし、プラセボの60.6%(170例中103例)を下回った(P<0.001)。骨髄毒性・腎毒性の頻度はプラセボと同等だった。閲覧 2026-08-26
  8. 8.Valganciclovir for symptomatic congenital cytomegalovirus disease(The New England Journal of Medicine・2015)症候性先天性CMV感染の新生児96例を6か月間と6週間のバルガンシクロビル投与に無作為化した試験で、6か月後の良聴耳の聴力に差はなかったが、12か月時に聴力が改善または正常のまま保たれた割合は6か月群73%対6週群57%(P=0.01)、24か月時も77%対64%(P=0.04)と6か月群で優れ、24か月時のBayley発達検査の言語複合スコア(P=0.004)・受容コミュニケーション尺度(P=0.003)も6か月群で良好だったこと、最初の6週間でGrade 3/4好中球減少が19%に生じたことを確認した。閲覧 2026-08-26