微生物学

微生物学 · 3/14

ヘルペスウイルス:EBウイルス

Herpesviruses: EBV

応用トピック
伝染性単核球症候群EBV・CMV感染症頭頸部癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断上咽頭疾患とアデノイド増殖症の症状扁桃炎、アンギーナ、伝染性単核球症EBV感染症と合併症
微生物
Epstein-Barr virus
疾患
ジアノッティ・クロスティ症候群バーキットリンパ腫伝染性単核球症

🧠 は「B細胞に住み着く」という一点から、良性のにも複数の悪性腫瘍にも姿を変えるウイルスとして読む。 唾液を介して広がり(=「」)、B細胞にCD21を介して感染して潜伏する——このB細胞そのものが、・・という一見バラな腫瘍の共通項になっている。宿主の免疫状態(マラリア流行地、、健常)によってどのタイプの腫瘍が前景に出るかが変わる点が最大の学習ポイント。

構造・分類

はを持ち(HHV-4とも呼ばれる)、B細胞に潜伏感染を確立する。10代〜若年成人に多い。

病原性・伝播

  • 伝播経路:唾液・呼吸器分泌物(世界の成人の約90%が抗体陽性)

  • 上咽頭上皮細胞・唾液腺・リンパ組織に感染する

  • CD21を介してB細胞に結合し感染、B細胞内で潜伏感染を確立する

  • 感染B細胞に対する反応性の異型()が増加する

臨床像

伝染性単核球症(通称「キス病」)

  • 倦怠感、発熱、咽頭炎を伴う

  • リンパ節腫脹

  • 脾腫(T細胞増殖による)

⚠️ 脾腫のためのリスクがあり、コンタクトスポーツは避ける。 現行ガイドラインは発症から3週間は運動競技に参加しないよう推奨する1。ただし⚠️ 「3週間経てば安全」という意味ではない——は発症21日を過ぎてからも起こることが報告されており、復帰時期は症状・発症からの期間・競技特性を踏まえたで個別に判断する2。

口腔毛状白板症

舌の上皮細胞の非の過形成。

関連悪性腫瘍

腫瘍 特徴
顎(上顎・下顎)などのリンパ節に腫瘤形成。c-mycの転座が強力なプロモーターとして働く。型:マラリア流行地(アフリカなど)に関連/型:などの腹部に多い/免疫不全関連型:患者に関連
アジア系成人に多い。上皮由来の腫瘍
(B細胞性) リンパ節内に「」様のを認める。約半数が関連
移植後の免疫抑制下で感染B細胞の増殖を抑えるT細胞監視が外れて生じる。後の重篤な合併症で、後述の 監視+の対象になる

⭐ c-myc転座の型による疫学の違いは頻出ポイント。 型=マラリア流行地・顎、型=腹部()、免疫不全関連型=、という対応を押さえる——ウイルス発がんのは悪性形質転換・ウイルス発がんを参照。

診断

検査 所見
異型T細胞()——感染最早期の所見だが非特異的
試験 。検査の一種。IgMがヒツジ/ウマ赤血球上のPaul-Bunnell抗原に凝集する。は(外来抗原)によるB細胞刺激の結果産生される。感度87%・特異度91%で、5歳未満の小児と成人の発症第1週では偽陰性になりうる
特異抗体(VCA-IgM/VCA-IgG/EBNA) 病期を判定する。VCA-IgM陽性+EBNA陰性=急性初感染、VCA-IgG陽性+EBNA陽性=既感染。EBNAは発症2〜4か月後に出現して生涯持続するため、「急性期にEBNAが陽性」なら初感染ではない
移植後患者の再活性化・PTLDの監視に用いる(急性期のの診断には使わない)

⚠️ ()検査は陰性でもを否定できない。 感度87%・特異度91%であり、5歳未満の小児と成人の発症第1週では偽陰性が多い1。は「抗原に対する抗体」ではなく、B細胞が非特異的に刺激されて作る別物の抗体なので、免疫応答が未熟な幼児では十分に産生されない。陰性でも臨床的に疑わしい場合(特に上昇があるとき)は、特異抗体(VCA-IgM/VCA-IgG/EBNA)で病期を判定する3。

💡 移植後は 定量が「病気を待たずに動く」ためのになる。 後は-PTLDを防ぐために定期的な で再活性化を監視し、ウイルス量が上がった時点で免疫抑制を減らしリツキシマブをする(pre-emptive strategy)——2016年のECIL-6ガイドラインが推奨した戦略で、現在も有効とされる。⚠️ ただし監視間隔・対象患者・治療開始の閾値は施設間で大きくばらついており、統一された数値基準は確立していない4。

治療・予防

  • は対症療法のみ

  • ⚠️ 誤ってアモキシシリンやアンピシリンを投与すると、の発疹を生じることがある——感染を疑わずに細菌性咽頭炎として抗菌薬を処方した際の典型的な落とし穴

    ⚠️ ただし「ほぼ全例に出る」という古い数字は現代のデータで支持されていない。 1960年代の報告に基づく「80〜100%(アンピシリンで90%)」という値が長く教科書に載ってきたが、イスラエルの2施設で入院した小児の急性238例(うち173例が抗菌薬投与)を後ろ向きに調べた研究では、アモキシシリン投与群の発疹は29.5%(95%信頼区間18.52〜42.57%)にとどまり、抗菌薬非投与群の23.1%と有意差がなかった5。発疹が出ないからではない、とは言えないし、発疹が出たからといって持続的なペニシリンアレルギーを意味するわけでもない。

  • 予防:のリスクからコンタクトスポーツを避ける

まとめ

  • (HHV-4)はの一員で、CD21を介してB細胞に感染し生涯潜伏する。唾液感染で成人の約90%が抗体陽性となる。

  • (発熱・・リンパ節腫脹・脾腫)が代表的な急性像で、リスクからコンタクトスポーツを避ける。

  • のほか、(c-myc転座、型/型/免疫不全関連型)、、()という複数の悪性腫瘍と関連する。

  • 診断は(非特異的・早期)と試験(、感度87%・特異度91%)による。5歳未満の小児と成人の発症第1週ではが偽陰性になるため、VCA-IgM/VCA-IgG/EBNAの組合せ(VCA-IgM陽性+EBNA陰性=急性初感染)で病期を判定する。移植後は 定量でPTLDを監視し、先制的にリツキシマブを投与する。

  • 治療は対症療法のみ。誤投与のアモキシシリン/アンピシリンによる発疹は診断的ヒントにもなるが、頻度は現代のデータでは約29.5%で抗菌薬非投与群(23.1%)と有意差がなく、古い「80〜100%」という値は支持されない。

  • リスクから発症3週間は運動競技を避けるが、3週間は安全宣言ではない(21日を過ぎたの報告があり、復帰は個別判断)。

出典

  1. 1.Infectious Mononucleosis: Rapid Evidence Review(American Family Physician・2023)迅速異好抗体検査(モノスポット試験)の感度は87%・特異度は91%で、5歳未満の小児と成人の発症第1週には偽陰性となりうること、VCA抗体検査のほうが感度・特異度とも高いが高価で時間がかかること、治療は支持療法が基本で抗ウイルス薬・副腎皮質ステロイドのルーチン使用は推奨されないこと、現行ガイドラインは発症から3週間は運動競技に参加しないよう推奨し復帰時期は共同意思決定で決めるとしていること、EBVがHodgkinリンパ腫・非Hodgkinリンパ腫・上咽頭癌を含む9種類の癌と関連づけられていることを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Association of Splenic Rupture and Infectious Mononucleosis: A Retrospective Analysis and Review of Return-to-Play Recommendations(Sports Health・2019)伝染性単核球症に伴う脾損傷は発症21日を過ぎてからも起こりうるため、「3週間」を安全宣言と受け取らず接触・高負荷運動の再開をより慎重に判断すべきことを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Serological diagnosis of Epstein-Barr virus infection: Problems and solutions(World Journal of Virology・2012)VCA-IgM・VCA-IgG・EBNA-IgGの出現時期とその組合せで初感染・既感染を判定する解釈法(VCA-IgM陽性かつEBNA陰性が急性初感染を支持し、EBNAは発症2〜4か月後に出現して生涯持続する)と、判定困難例には追加検査を要することを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Epstein-Barr Virus Monitoring after an Allogeneic Hematopoietic Stem Cell Transplant: Review of the Recent Data and Current Practices in Canada(Current Oncology・2024)EBV関連の移植後リンパ増殖性疾患(EBV-PTLD)が造血幹細胞移植後の重篤な合併症であり、2016年のECIL-6ガイドラインがEBV再活性化の時点でリツキシマブを投与する先制(pre-emptive)戦略を推奨していること、先制リツキシマブは有効な戦略であり続けているが、ウイルス量の監視プロトコル・対象患者・治療の閾値が施設間で大きくばらついており、用量・時期・開始基準を定める前向き無作為化多施設試験が必要であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Incidence of rash after amoxicillin treatment in children with infectious mononucleosis(Pediatrics・2013)小児の急性伝染性単核球症238例のうち抗菌薬を投与された173例で発疹は57例(32.9%)、アモキシシリンでは29.5%(95%信頼区間18.52〜42.57%)にとどまり、1960年代の報告に基づく80〜100%(アンピシリンで90%)という従来値より有意に低いこと、抗菌薬非投与群の発疹率は23.1%で有意差がなかったことを確認した。閲覧 2026-08-26