疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

バーキットリンパ腫

Burkitt lymphoma

別名
バーキット白血病
臓器系
腫瘍血液
科目
PathologyInternal MedicinePediatricsMedical Microbiology
トピック
病理学 C/14:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)/バーキットリンパ腫病理学 B/14:ウイルス・微生物による発がん(腫瘍形成)内科学 S-39:非ホジキンリンパ腫内科学 S-53:EBV・CMV感染症内科学 L-64:血液・腫瘍救急:発熱性好中球減少症、腫瘍崩壊症候群、上大静脈症候群小児科 3-02:小児リンパ腫微生物学 3/14:ヘルペスウイルス:EBウイルス
上位概念
非ホジキンリンパ腫
鑑別疾患
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫移植後リンパ増殖性疾患急性リンパ性白血病
合併症
血液・腫瘍救急(発熱性好中球減少症・腫瘍崩壊症候群・上大静脈症候群)
関連疾患
マラリア
治療薬
リツキシマブシクロホスファミドドキソルビシンビンクリスチンプレドニゾロンメトトレキサートシタラビンラスブリカーゼアロプリノール
原因微生物
EBウイルス
症状
リンパ節腫脹腫脹腹痛発熱
検査値
乳酸脱水素酵素尿酸血算
スコア
Ann Arbor分類

🧠 全体像は、成熟B細胞の中で最も増殖速度の速い腫瘍であり、「進行が速い=予後不良」という直感が通じない代表例である。学習の幹は「MYC遺伝子が免疫グロブリン遺伝子座へ転座し恒常的にする→ほぼ100%の細胞が同時に分裂・アポトーシスする超高増殖状態になる→診断確定を待たずに対策を始め、短期集中的なで治療する」という一本の流れである。増殖が速いからこそ化学療法にもよく反応し、小児では高い治癒率が得られる。

概要

に由来するの成熟B細胞腫瘍で、(DLBCL)と並ぶを要するリンパ腫の代表格である。小児・若年成人に多く、無治療では数週単位で致死的だが、増殖が速いことは化学療法への感受性の高さも意味し、小児例では強力な多剤療法で高い治癒率が得られる。

発生機序

中核となる異常はt(8;14)(q24;q32)によるMYC遺伝子の遺伝子座への転座で、症例の大半を占める。頻度は低いが軽鎖遺伝子座を巻き込むとしてt(2;8)(p11;q24)(IGK::MYC)、t(8;22)(q24;q11)(MYC::IGL)もある。いずれも本来厳密に制御されているMYCを免疫グロブリン遺伝子座の強力な配下に置き、細胞周期を恒常的に駆動する。

flowchart TD
    A["MYC遺伝子の転座<br>t(8;14)が大半、まれにt(2;8)・t(8;22)"] --> B["免疫グロブリン遺伝子座の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='enhancer'>エンハンサー</span>配下にMYCが移動"]
    B --> C["MYCの恒常的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='overexpression'>過剰発現</span>"]
    C --> D["ほぼ100%の細胞が<br>同時に増殖・アポトーシス"]
    E["EBV感染によるB細胞プール拡大"] --> F["MYC転座を獲得する<br>母地となるクローンが増加"]
    G["マラリア流行地での<br>慢性B細胞刺激・免疫調節異常"] --> F
    F --> D
    D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Burkitt lymphoma'>バーキットリンパ腫</span>"]

💡 EBV感染はそれ自体が発癌ドライバーではなく、感染B細胞を増殖させてMYC転座を獲得しうる母地を広げる補助因子として働く。マラリア流行地ではPlasmodium falciparumがB細胞を持続的に刺激し、EBV特異的T細胞免疫を減弱させることでこの過程を後押しすると考えられており、地方流行型がアフリカの特定地域に集中する疫学の説明仮説になっている。

病理形態・免疫表現型

腫瘍細胞は比較的均一な中型細胞で、複数の核小体を持つ円形〜卵円形の核と、脂質を含む質を特徴とする。互いに押し合うように密に増殖し、高い増殖率を反映してが多数みられる。アポトーシスした細胞debrisを貪食したマクロファージが明るい空隙として散在し、低倍率で夜空に星が散らばったように見える」像を呈する。

免疫マーカー・指標 典型的所見 意味
CD10・BCL6 陽性 由来であることを示す
BCL2 陰性〜弱陽性 やdouble-hitリンパ腫との鑑別点
Ki-67 ほぼ100% 腫瘍学領域で最も高い増殖指数の一つ

⭐ CD10陽性・BCL6陽性・BCL2陰性〜弱陽性・Ki-67ほぼ100%という組み合わせが診断の骨格になる。BCL2が明瞭に陽性ならバーキットではなく、MYCとBCL2の両方の再構成を持つB細胞リンパ腫を疑う。

臨床型

WHO分類第5版では、従来の3に加えてEBV陽性・陰性による分子生物学的な区分も併記されるようになったが、臨床像を理解するうえでは3型による整理が実用的である。

好発地域・年齢 主な病変部位 EBV陽性率
地方流行型 アフリカのマラリア流行地、小児 顎・顔面骨 ほぼ全例
欧米・日本など、小児〜若年成人 を中心とした腹腔内腫瘤 小児で低く、成人ほど上昇する傾向
免疫不全関連型 HIV感染など 多彩 症例により差が大きい

臨床像

顎・顔面の急速な腫脹(地方流行型)や、腫瘤による腹痛・腸閉塞・腹部腫瘤触知(型)など、原発部位に応じた急速増大する腫瘤で発症することが多い。数日〜数週間で著明に増大するのが特徴で、リンパ節腫脹発熱を伴うこともあるが、DLBCLのような数か月単位のB症状(・体重減少)は前景に立たないことが多い。が進むと白血病様の病態(バーキット白血病)に移行し、中枢神経浸潤も比較的多い。増殖が極めて速いため、診断確定前から自然発症のを来しうる点が臨床上の最重要事項である。

診断と腫瘍崩壊症候群対策

生検による断(形態・免疫染色・MYC転座のFISHなど)を進めると同時に、への対策を並行して開始する。

flowchart TD
    A["急速増大する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extranodal mass'>節外腫瘤</span>を疑う"] --> B["生検で組織・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Immunophenotype'>免疫表現型</span>・MYC転座を確認"]
    A --> C["診断確定前から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor lysis syndrome, TLS'>腫瘍崩壊症候群</span>対策を開始"]
    C --> D["大量輸液・電解質頻回モニタリング"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperuricemia'>高尿酸血症</span>への対応"]
    E -->|"G6PD欠損なし"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rasburicase'>ラスブリカーゼ</span>"]
    E -->|"低リスク・G6PD欠損"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='allopurinol'>アロプリノール</span>"]
    B --> H["病期評価・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>決定"]
    F --> H
    G --> H

⚠️ で溶血のリスクがあるため禁忌であり、流行地出身の患者などではG6PD欠損の可能性を確認してから選択する。で病期を評価するが、小児例では骨髄・中枢神経浸潤の有無を重視した病型別のがより重視される。LDH尿酸血算・腎機能は診断時から頻回に確認する。

治療

短期集中的なが治療の中核で、成人でも小児に準じた高強度・短期間のプロトコルを用いる(緩徐な成人リンパ腫向けのレジメンは流用しない)。に加え、大量メトトレキサートなどの薬剤を組み込み、による中枢神経予防を必ず計画に含める。リツキシマブの併用は、成人対象ので非併用群に比べをともに改善しており、現在は多くのプロトコルで標準的に用いられる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Burkitt lymphoma'>バーキットリンパ腫</span>確定診断"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor lysis syndrome, TLS'>腫瘍崩壊症候群</span>対策を継続しながら治療開始"]
    B --> C["短期集中的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multi-agent chemotherapy'>多剤併用化学療法</span><br>+リツキシマブ併用"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathecal administration'>髄腔内投与</span>による中枢神経予防"]
    D --> E["治療反応を評価"]
    E -->|"寛解"| F["小児では高い治癒率"]
    E -->|"難治・再発"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='salvage therapy'>救援療法</span>・移植など専門施設で個別検討"]

小児例では現代の強化プロトコルにより多くが治癒する。対策と中枢神経予防の徹底が、この高い治癒率を支える前提である。

鑑別

疾患 起源・特徴 免疫形質 治療の要点
、MYC単独転座、極めて高い増殖率 CD10陽性・BCL6陽性・BCL2陰性〜弱陽性、Ki-67ほぼ100% 短期集中化学療法+リツキシマブ、厳格な腫瘍崩壊対策
大型細胞 GCB型/ABC型で表現型が分かれる R-CHOPを基盤に病期にかかわらず治癒を目指す
MYCとBCL2の両方の再構成を持つB細胞リンパ腫 MYC転座に加えBCL2転座(いわゆるdouble-hit)を併せ持つ BCL2陽性という点でバーキットと異なる DLBCLとは独立したカテゴリとして扱われ、治療強度を個別に検討する
前駆リンパ球由来(旧L1・L2に相当) TdT陽性など前駆細胞マーカー 成熟B細胞性のバーキット白血病とは生物学的に異なり治療体系も別

⚠️ の強いは白血病様の病態(バーキット白血病)を呈しうるが、前駆リンパ球由来のとは起源も治療体系も異なる成熟B細胞腫瘍である。かつてのでL3型芽球とされた形態はこの成熟B細胞性バーキット白血病/リンパ腫に相当し、現行分類では前駆細胞性のとは別に扱う。

まとめ

  • はMYC遺伝子の転座(大半がt(8;14)、まれにt(2;8)・t(8;22))による恒常的を中核機序とする、極めて増殖の速い成熟B細胞腫瘍である。
  • CD10陽性・BCL6陽性・BCL2陰性〜弱陽性・Ki-67ほぼ100%という免疫形質と、による「」像が診断の骨格になる。
  • 地方流行型(アフリカ・小児・顎腫瘍・EBVほぼ全例)、型(欧米日本・腫瘤・EBV陽性率は相対的に低い)、免疫不全関連型(HIV感染など)の3があり、EBVとマラリアの共作用が地方流行型の疫学を説明する仮説とされる。
  • 増殖が極めて速いため診断確定前からが生じうる。(G6PD欠損は禁忌)や大量輸液を含む対策を診断と並行して開始する。
  • 治療は短期集中的なに中枢神経予防を組み込んだプロトコルが基本で、リツキシマブ併用がを改善する。小児では高い治癒率が得られる。