疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 感染症 · 疾患

伝染性単核球症

Infectious mononucleosis

別名
単核球症Monoキス病
臓器系
感染症
科目
Medical MicrobiologyInternal MedicinePediatricsENT
トピック
微生物学 3/14:ヘルペスウイルス:EBウイルス内科学 I-06:伝染性単核球症候群内科学 S-53:EBV・CMV感染症小児科 3-51:EBV感染症と合併症耳鼻咽喉科 40:扁桃炎、アンギーナ、伝染性単核球症
鑑別疾患
HIV感染症・AIDS急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍不明熱
合併症
免疫性血小板減少症
関連疾患
上咽頭癌
原因微生物
Epstein-Barr virus
症状
リンパ節腫脹圧痛咽頭痛眼瞼浮腫倦怠感点状出血頭痛発熱
検査値
血算
禁忌薬
アモキシシリンアンピシリン

🧠 全体像は「唾液感染」→「B細胞への潜伏感染」→「感染B細胞を叩くの増殖」という一本の流れで理解する。発熱・咽頭炎・リンパ節腫脹という三徴も、末梢血の)も、すべてこの反応性T細胞増殖の帰結であり、B細胞そのものが病変を作っているわけではない。多くはEpstein-Barrウイルス(EBV)初感染によるが、CMV・急性HIV感染・など単核球症“様”症候群を来す原因は複数あり、鑑別を怠ると初期治療の方向性を誤る。

病原体と発症機序

Epstein-Barr virus(EBV、HHV-4)はの一員で、唾液を介して伝播する(俗称「」)。世界の成人の約90%が抗体陽性であり、感染は極めてありふれている。潜伏期は通常4〜6週間。

EBVは口腔咽頭上皮細胞で複製した後、CD21を受容体としてB細胞に結合・感染し、B細胞内に生涯にわたる潜伏感染を確立する。感染B細胞の表面に提示されたウイルス抗原に対してが反応性に増殖し、この活性化T細胞が標本上のとして観察される——はEBVに感染した細胞そのものではなく、それを攻撃するである点に注意する。

flowchart TD
  A["唾液を介したEBV初感染"] --> B["口腔咽頭上皮で複製"]
  B --> C["CD21を介しB細胞へ感染・潜伏確立"]
  C --> D["感染B細胞の増殖"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CD8-positive T cell'>CD8陽性T細胞</span>が反応性に増殖"]
  E --> F["末梢血の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atypical lymphocyte'>異型リンパ球</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Downey cell'>Downey細胞</span>)"]
  E --> G["全身リンパ節腫脹・脾腫"]
  B --> H["咽頭炎・肝炎"]

思春期・若年成人での初感染は症候性のとして顕在化しやすいが、幼児期の初感染は無症候〜軽微な咽頭炎にとどまることが多い。

臨床像

典型的な三徴は発熱・炎・リンパ節腫脹(特に後頸部優位)である。加えて強い感、頭痛、、肝脾腫、軽度〜中等度の上昇を伴う。

⚠️ アモキシシリン・アンピシリンを投与すると高率に全身性のが出現する。 これは細菌性咽頭炎としてを処方した際の典型的な落とし穴であり、必ずしも持続的なペニシリンアレルギーを意味しない。EBV感染を疑う場合はの投与を避ける。

の多くはウイルス性であり、(GAS)咽頭炎との鑑別(急な・扁桃滲出物・前頸部圧痛性リンパ節・はGASを、咳・・嗄声・炎はウイルス性を示唆)が診療の入り口になる。

💡 脾腫は主にT細胞の著しい増殖によるもので、と並ぶの合併症の一つとして理解できる。脾腫のためのリスクがあり、急性期のコンタクトスポーツは避ける。

診断

血算でリンパ球増加と、肝でAST/ALT軽度上昇を認めるが、はEBVに特異的ではない。

flowchart TD
  A["発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exudate'>滲出性</span>咽頭炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior cervical lymphadenopathy'>後頸部リンパ節腫脹</span>"] --> B["血算:リンパ球増加+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atypical lymphocyte'>異型リンパ球</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heterophile antibody test'>異好性抗体検査</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Monospot'>モノスポット</span>)"]
  C -->|"陽性"| D["急性EBV感染と診断"]
  C -->|"陰性(発症早期・幼児で多い)"| E["EBV特異抗体(VCA-IgM/IgG、EBNA)で評価"]
  E -->|"VCA-IgM+/EBNA−"| D
  E -->|"すべて陰性・非典型"| F["CMV・急性HIV・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Toxoplasmosis'>トキソプラズマ症</span>などを鑑別"]
検査 解釈
迅速だが発症早期・幼児で偽陰性が多い。陰性のみでEBV感染を否定しない
VCA-IgM 早期に出現し通常4〜6週で消失。陽性は急性初感染を支持
VCA-IgG 急性期に出現し生涯持続。単独では急性感染と既感染を区別できない
EBNA抗体 発症2〜4か月後に出現し生涯持続。急性初感染では通常陰性

VCA-IgM陽性かつEBNA陰性が急性初感染を支持する組み合わせである。陰性が続く単核球症様症候群では、CMV、急性HIV感染、咽頭炎などを鑑別に加える。

治療

状況 対応
非合併例 、休養が中心。抗菌薬・抗ウイルス薬はルーチンで不要
気道閉塞、重症溶血性貧血、重症血小板減少 副腎皮質ステロイドを検討(ルーチン使用はしない)
脾腫 腹部への・強い腹圧を避ける。左上腹部痛・左肩への・失神はとして緊急評価
肝炎 飲酒・肝毒性薬を避け重症度を追跡(黄疸・・意識変容はを評価)

スポーツ復帰は発症から少なくとも3週間は避け、以後も・全身状態の回復・競技の接触性を踏まえて段階的に判断する——脾臓超音波のみで安全性を保証できない点に注意する。

合併症

  • :発症早期に多く、最重要の急性合併症
  • 血小板減少、好中球減少
  • 心筋炎、肝不全(いずれもまれ)

EBVはのほか、(c-myc転座)、)、とも関連するが、通常のからただちにこれらへ進行するわけではない。

まとめ

  • は主にEBV初感染により、唾液感染→B細胞潜伏感染→反応性増殖という機序で発熱・咽頭炎・)を来す。
  • アモキシシリン/アンピシリン投与は診断的手がかりとなる発疹を誘発しうるため、EBV感染を疑う際は避ける。
  • 診断はVCA-IgM陽性・EBNA陰性を軸に、の偽陰性(発症早期・幼児)を補ってEBV特異抗体で確認する。
  • 治療は支持療法が基本で、・気道閉塞・血液/の監視と、発症後3週間の運動制限が安全管理の中心となる。
  • CMV、急性HIV感染、によるとの鑑別が診療の起点になる。