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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

特発性細菌性腹膜炎

Spontaneous bacterial peritonitis

別名
SBP
臓器系
感染症消化器
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 I-12:腹腔内感染症(胆管炎・胆嚢炎・腹腔内膿瘍・憩室炎・腹膜炎)
上位概念
腹膜炎・消化管穿孔
合併症
急性腎障害
関連疾患
敗血症
治療薬
セフォタキシムセフトリアキソンノルフロキサシン
原因微生物
大腸菌Klebsiella pneumoniaeEnterococcus faecalis
元疾患
肝硬変
原因となる疾患
消化管出血(上部・下部)

🧠 全体像:は、肝硬変の腹水にほぼ限定して起こる「腹腔内に外科的に処置すべき原因がない」腹膜炎である。腸内細菌がを越えて・血流・腹水へ移行するが本態で、(穿孔・膿瘍など外科的な原因がある腹膜炎)とはが正反対になる——SBPはを待たずに経験的抗菌薬で治療し、外科的は不要かつ不適切である。診療の幹は、①腹水好中球数で迅速に診断する、②を見逃さない、③抗菌薬にアルブミンを併用してを防ぐ、④再発予防()と評価につなげる、の4段階である。

定義と病態

SBPは、腹腔内に明らかな消化管穿孔や外科的がない状態で腹水に細菌感染が生じたものであり、肝硬変による腹水を有する患者にほぼ限定して発生する。門脈圧亢進による腸管浮腫・運動低下は腸内細菌の異常増殖と亢進を招き、を介して細菌が血流・腹水へ移行する()。同時に肝硬変では機能低下・補体産生低下により腹水中の補体・が乏しく、いったん腹水に達した細菌を排除しにくい。

flowchart TD
    A["肝硬変・門脈圧亢進"] --> B["腸管浮腫・運動低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial overgrowth'>細菌異常増殖</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal mucosa'>腸管粘膜</span>透過性亢進"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesenteric lymph node'>腸間膜リンパ節</span>・血流を介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial translocation'>細菌転座</span>"]
    D --> E["腹水中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial growth'>細菌増殖</span>"]
    F["肝硬変による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticuloendothelial system, RES'>網内系</span>機能低下・腹水<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opsonic activity'>オプソニン活性</span>低下"] --> E
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spontaneous bacterial peritonitis (SBP)'>特発性細菌性腹膜炎</span>"]

腸内細菌がそのまま種で腹水に達するため、起因菌は大腸菌やKlebsiella pneumoniaeなどのグラム陰性桿菌が多く、Enterococcus faecalisなどのグラム陽性菌も認められる。複数菌が同時に検出される場合は、SBPではなく消化管穿孔などによるを強く疑う。

診断

()はベッドサイドでへすることでが上がる。診断は腹水の好気性・嫌気性を待たず、好中球数で行う。

病態 腹水好中球数 培養 対応
SBP 250/µL以上 陽性(多くは種) を待たず経験的抗菌薬を開始
250/µL以上 陰性 感染を否定できないため、SBPと同様に治療する
単菌性非好中球性細菌性腹水(細菌性腹水) 250/µL未満 陽性(種) 全身炎症・感染の徴候があれば抗菌薬で治療する。徴候が無ければ再穿刺し、再び培養陽性なら好中球数によらず治療する1

⚠️ 境界値の書き方が資料によって割れる。 は診断を「腹水好中球数 >250/mm³」、細菌性腹水を「250/mm³未満」と記載しており、250 ちょうどがどちらの定義にも入らない1。上の表は 250/µL を含めてSBPとして扱う一般的な書き方に揃えてある。培養陽性は診断の必須条件ではないが、抗菌薬を選ぶために培養は必ず提出し、SBPを疑う患者では抗菌薬開始前に血液培養も採取する1。

腹水と肝硬変がある患者は、入院時に全例で遅滞なくを行う。加えて、消化管出血、ショック、発熱その他のの徴候、消化器症状、肝機能・腎機能の悪化、肝性脳症のいずれかがあるときも穿刺する1。高齢者や免疫が保たれない患者ではが乏しいことがある。

二次性腹膜炎との鑑別

SBPと消化管穿孔などによるはが正反対(前者は抗菌薬のみ、後者は緊急の外科的を要する)であるため、鑑別を誤らないことが重要である。

  • 複数菌が検出される、蛋白・・糖の異常(蛋白高値、が血清を超える、糖低値)を認める、適切な抗菌薬治療への反応が乏しい、限局した腹部圧痛や遊離ガスを伴う場合はを疑う。
  • 疑わしければ造影CTと外科的評価を急ぐ。に抗菌薬のみで経過をみると、感染源が制御されないまま重症化する。
  • そのものの分類・治療(穿孔・虚血・術後合併症への)は腹膜炎・消化管穿孔を参照。

治療

経験的抗菌薬

診断がついたらを待たず、ただちに経験的なを開始する(II-2;1)。何を選ぶかは、①発症の場(市中/医療関連/院内)、②その地域の耐性菌の分布、③感染の重症度の3つで決める(I;1)1。

発症の場 2018 の推奨
・耐性率の低い国 やセフトリアキソンなどのが第一選択(I;1)
・耐性率の高い国 ・またはを考慮する(II-2;1)
医療関連・院内発症 の少ない地域では・、産生腸内細菌科細菌の多い地域ではなどの。グラム陽性のが多い地域では、にバンコマイシンなどのグリコペプチド・・リネゾリドのいずれかを併用する(I;1)
  • ⚠️ アミノグリコシドをに使わない。 腎毒性があり、SBPはと隣り合わせの病態である1。
  • 48時間後に再度腹腔穿刺して効果を確認する(II-2;1)。の悪化、または好中球数が48時間で少なくとも25%減っていない場合は一次治療の失敗を疑い、耐性菌かかを考える1。
  • 投与期間は最低5〜7日(III;1)。培養で起因菌が分かれば、耐性を下げるためde-escalationする(II-2;1)1。
  • 💡 は「多ければよい」薬ではない。 1日4 gは1日8 gと同等の有効性で、5日間投与は10日間投与と同等であることが示されている1。
  • を伴うとは異なり、SBPにやは不要かつ不適切である。

アルブミン併用

2018 は、SBPと診断した患者に診断時アルブミン1.5 g/kg、3日目に1 g/kgを投与することを推奨している(I;1)1。狙いはを保ち、SBPに続発しやすい(1型への進展を含む)を防ぐことである。同じレジメンは(HRS-AKI)の予防としても推奨されている(I;1)1。

💡 推奨の根拠になったは、単独と「+アルブミン」を比べたものである。 アルブミン併用で1型が30%から10%へ、死亡率が29%から10%へ減った1。⚠️ 同じ試験の数字が資料によって違って見えるのは、拾っている評価項目が違うから——原著(Sort ら 1999)のは「」で、その発生は33%(21/63)から10%(6/63)へ減っている(は29%→10%、3か月死亡は41%→22%)2。が引く「1型30%→10%」はより狭い評価項目の値である。効果がとくに大きかったのは登録時の血清ビリルビンが68 µmol/L(4 mg/dL)以上、またはが88 µmol/L(1 mg/dL)以上の患者で、いずれも下回る患者での有用性は不明のままである——この群では1型の発生自体が両群とも少なく(非投与7%・投与0%)、差を検出できなかったためである1。⚠️ 「低リスクなら投与しなくてよい」ことが示されたわけではない。 は本文で、中等度の肝不全にとどまり診断時にの無い患者では腎不全・死亡の発生が非常に低く、アルブミンはおそらく不要とする非研究にも触れているが、推奨文そのものはSBP患者を層別していない1。

予防

予防的抗菌薬は耐性菌を確実に生むので、高リスクと定義された集団に限って使う。 2018 が高リスクとして挙げるのは、①急性消化管出血、②腹水蛋白が低く SBP の既往が無い患者()、③SBP の既往がある患者()の3つである1。

状況 対象( 2018 の推奨文) レジメンと推奨レベル
急性消化管出血 肝硬変で急性消化管出血を起こした患者(静脈瘤性・非静脈瘤性を問わない)。出血が判明した時点で開始し、最長7日間続ける 抗菌薬予防を行う(I;1)。の患者、すでにキノロン予防を受けている患者、キノロン耐性菌の多い施設ではセフトリアキソン1 g/24時間が第一選択。それ以外の患者には経口キノロン(400 mgを1日2回)を用いる(I;1)
スコア9点以上かつ血清ビリルビン3 mg/dL以上で、またはのいずれかを伴い、腹水蛋白15 g/L未満 400 mg/日(I;1)
SBPを1回起こして回復した患者 400 mg/日 経口(I;1)。あわせての適応を検討する(II-2,1)
中止 臨床状態が長期に改善し、腹水が消失した患者 予防を中止する(III;1)

⭐ の対象は「低蛋白腹水」だけでは決まらない。 の推奨文は、腹水蛋白15 g/L未満という条件に加えて 9点以上かつビリルビン3 mg/dL以上という肝不全の程度と、またはという追加条件を同時に満たすことを求めている1。この基準の元になったは、腹水蛋白15 g/L未満の肝硬変患者68人を、スコア9点以上かつ血清ビリルビン3 mg/dL以上の高度肝不全、または(1.2 mg/dL以上、 25 mg/dL以上、あるいは血清ナトリウム130 mEq/L以下)という条件で組み入れ、400 mg/日を12か月投与した。1年間のSBP発症は61%から7%へ、は41%から28%へ減り、3か月は62%から94%へ改善したが、1年の差は有意でなかった1。

⚠️ 用量は場面で変わる。 SBPの一次・は400 mg/日、急性消化管出血時の予防は400 mgを1日2回である1。同じ薬の同じでも、狙い(長期の選択的か、出血時のか)が違えば1日量が倍違う。なおは予防の1日量を「400 mg/day」と書くだけで、分割回数を指定していない。

⚠️ 日本ではにSBP予防のが無い。 電子添文(2024年5月改訂・第3版)の適応症は皮膚感染症・咽頭・扁桃炎・・膀胱炎・腎盂腎炎・前立腺炎・尿道炎・・・・・・中耳炎・副鼻腔炎・・で、肝硬変患者のSBP予防は含まれない——この用途はである3(→)。米国ではそもそも製剤が流通していない。ガイドラインが名指しする薬が自国では使えない、という食い違いが起こりうる典型例である。

はSBP予防の代替にならない。 肝性脳症の再発予防に用いるは腸管内細菌叢を修飾するため期待されてきたが、 2018 は「有望な報告はあるものの、現時点でSBPのにおいての代替として推奨することはできない」と明記している(I;2)。さらに、肝性脳症の予防のためにすでにを内服している患者でSBPの一次・をどうするか(をすべきか、逆に中止すべきか)については、推奨を出せるだけのデータが無いとしている1。

⚠️ はSBPのリスクを上げうる。 は、明確な適応のある患者に限って使うよう求めている(II-2,1)1。肝硬変患者では漫然と継続されがちなので、SBPを診たら内服リストを見直す。

まとめ

  • SBPは肝硬変の腹水にほぼ限定して起こる、外科的を伴わない細菌性腹膜炎で、と腹水低下が病態の中心である。
  • 診断は腹水好中球数250/µL(の記載は「>250/mm³」)で行い、を待たずに経験的抗菌薬を開始する。経験的抗菌薬は市中/医療関連/院内という発症の場と地域の耐性状況で選び、48時間後の再穿刺で効果を確認する。投与期間は最低5〜7日。
  • 複数菌検出、蛋白・・糖の異常、治療反応不良はを疑うであり、外科的評価を急ぐ。
  • アルブミン1.5 g/kg(診断時)+1 g/kg(3日目)を併用し、・1型への進展を防ぐ。
  • 予防は3つの場面に限られる。急性消化管出血(最長7日、セフトリアキソンまたは400 mg 1日2回)、( 9点以上かつビリルビン3 mg/dL以上で、またはを伴い、腹水蛋白15 g/L未満の患者に400 mg/日)、(SBP回復後に400 mg/日)である。腹水が消失し臨床状態が長期に改善したら予防投与は中止する。
  • はSBPでの代替として推奨されていない。日本ではのSBP予防は適応外である。

出典

  1. 1.EASL Clinical Practice Guidelines for the management of patients with decompensated cirrhosis(European Association for the Study of the Liver・2018)SBPの診断が腹水好中球数「>250/mm³」で行われ培養陽性は診断の必須条件でないこと、細菌性腹水(好中球250/mm³未満かつ培養陽性)は全身炎症・感染徴候があれば抗菌薬治療、無ければ再穿刺し再度培養陽性なら好中球数によらず治療すること、経験的抗菌薬は市中発症SBPでは耐性率の低い国では第三世代セファロスポリンが第一選択(I;1)で耐性率の高い国ではピペラシリン/タゾバクタムまたはカルバペネムを考慮(II-2;1)、医療関連・院内発症SBPでは多剤耐性菌の少ない地域でピペラシリン/タゾバクタム、ESBL産生腸内細菌科細菌の多い地域でカルバペネム、グラム陽性多剤耐性菌の多い地域ではカルバペネムにグリコペプチド・ダプトマイシン・リネゾリドを併用する(I;1)こと、アミノグリコシドを経験的治療に用いないこと、48時間後に再穿刺して効果を確認すること(II-2;1)、投与期間は最低5〜7日(III;1)、培養結果に基づくde-escalationを行うこと(II-2;1)、アルブミン1.5 g/kg(診断時)+1 g/kg(3日目)をSBP患者に投与すること(I;1)と、その根拠試験で1型肝腎症候群が30%→10%・死亡率が29%→10%へ減り血清ビリルビン≥68 µmol/L(4 mg/dL)または血清クレアチニン≥88 µmol/L(1 mg/dL)の患者でとくに有効であった一方それ未満の患者での有用性は不明であること、一次予防としてノルフロキサシン400 mg/日をChild-Pughスコア9点以上かつ血清ビリルビン3 mg/dL以上で腎機能障害または低ナトリウム血症のいずれかを伴い腹水蛋白15 g/L未満の患者に推奨(I;1)すること、SBPから回復した患者への二次予防にノルフロキサシン400 mg/日 経口を推奨(I;1)すること、リファキシミンを二次予防の代替として推奨できない(I;2)こと、臨床状態が長期に改善し腹水が消失した患者では予防投与を中止すべき(III;1)こと、SBPから回復した患者は予後不良で肝移植を検討すべき(II-2,1)こと、PPIはSBPリスクを上げうるため明確な適応のある患者に限る(II-2,1)こと、急性消化管出血では抗菌薬予防を発症時から最長7日間行い(I;1)非代償性肝硬変・キノロン予防中・キノロン耐性の多い施設ではセフトリアキソン1 g/24時間が第一選択でそれ以外の患者には経口キノロン(ノルフロキサシン400 mg 1日2回)を用いること、HRS-AKI予防としてアルブミン(1.5 g/kg診断時・1 g/kg 3日目)とノルフロキサシン400 mg/日によるSBP予防が推奨(I;1)されることを、本文PDFの"Management of spontaneous bacterial peritonitis"・"Prophylaxis of SBP"・"Prevention of hepatorenal syndrome"節および各Recommendationsボックスで確認した。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Effect of intravenous albumin on renal impairment and mortality in patients with cirrhosis and spontaneous bacterial peritonitis(New England Journal of Medicine・1999)Europe PMCで抄録を再取得。肝硬変+SBPの126例を対象にセフォタキシム単独63例とセフォタキシム+アルブミン(診断時1.5 g/kg、3日目1 g/kg)63例を比べたRCTで、主要評価項目である腎機能障害(入院中の非可逆的な腎機能悪化と定義)が21例(33%)から6例(10%)へ(P=0.002)、院内死亡が18例(29%)から6例(10%)へ(P=0.01)、3か月死亡が41%から22%へ(P=0.03)低下したことを確認した。感染の消退率は94%対98%で差が無かった。EASL 2018が引く「1型肝腎症候群30%→10%」は本抄録の主要評価項目ではない。閲覧 2026-09-05
  3. 3.バクシダール錠100mg/バクシダール錠200mg 電子添文(2024年5月改訂・第3版)(杏林製薬/医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2024)日本の適応症が表在性皮膚感染症・深在性皮膚感染症・慢性膿皮症・咽頭喉頭炎・扁桃炎・急性気管支炎・膀胱炎・腎盂腎炎・前立腺炎(急性症、慢性症)・尿道炎・胆嚢炎・胆管炎・感染性腸炎・腸チフス・パラチフス・コレラ・中耳炎・副鼻腔炎・炭疽・野兎病であり、肝硬変患者の特発性細菌性腹膜炎の予防は含まれないこと(本剤のSBP予防は日本では適応外使用にあたること)を、4.「効能又は効果」欄で確認した。閲覧 2026-09-05