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Drug Atlas · C14 Antibiotics / 抗菌薬 · 必修

ノルフロキサシン

norfloxacin

分類
Antibiotics / 抗菌薬
商品名(日本)
バクシダール
商品名(EU)
Noroxin
科目
Pharmacology
トピック
C14: Quinolones and fluoroquinolones
承認適応
尿路感染症前立腺炎腸チフスコレラ急性胆管炎急性中耳炎・慢性中耳炎(滲出性中耳炎を含む)副鼻腔炎炭疽野兎病
禁忌疾患
重症筋無力症大動脈瘤大動脈解離
標的微生物
Escherichia coliKlebsiella pneumoniae
副作用
下痢悪心
相互作用
フルルビプロフェン
対象疾患
食道静脈瘤特発性細菌性腹膜炎
原因となる疾患
大動脈解離大動脈瘤

🧠 全体像:はもっとも古い世代のフルオロキノロンで、と同じくGram陰性菌に強いスペクトラムを持つが、血中・組織中の濃度が低く、尿中・内に高濃度で留まるというが特徴である。⚠️ この薬は国によって「存在しない薬」になっている。 米国ではMerckが2015年に販売を中止し、が2016年11月3日付でNDA 019384の承認を取り下げた(安全性・有効性を理由とする取り下げではない)1。では2008年に腎盂腎炎の適応だけが取り下げられ2、2018〜2019年のキノロン系一斉レビューでも使用制限つきで残された(承認停止となったのはシノキサシン・フルメキン・・ピペミド酸)3。日本では現在もバクシダール錠として販売され、成人用・小児用の両製剤がある45。「教科書に載っているが自国の薬局には無いかもしれない薬」として、状況とセットで覚える。

シプロフロキサシンとの違い

項目
組織移行 骨・前立腺・肺・胆汁へ良好 血中濃度が低く、尿中・内の濃度が相対的に高い
位置づけ Gram陰性・緑膿菌型の代表。全身感染にも使える 最初期のフルオロキノロン。全身感染の第一選択にはならない
米国での流通 流通あり(DailyMedに多数の製品が収載) 承認取り下げ済み。2026年9月時点でDailyMedに製品の収載が無い1
の 使用制限つきで存続 使用制限つきで存続(2008年に腎盂腎炎の適応のみ取り下げ)32
耐性 地域差はあるが比較的維持 長年の使用で大腸菌の耐性化が進んだ地域が多い

⭐ 「尿中・内に高濃度で留まる」というPK上の性質が、この薬の使いどころをそのまま決めている。 尿路感染とがその代表であり、肝硬変患者の(SBP)予防も「内のGram陰性菌を選択的に減らす(選択的)」という同じ性質の応用である。

💡 ただし「尿路以外に使えない」は言い過ぎである。 日本の電子添文の適応症には・中耳炎・副鼻腔炎・皮膚感染症まで並んでいる4。実務でこの薬が尿路・腸管に偏るのは「使えない」からではなく、①血中濃度が低く重症の全身感染には力不足であること、②大腸菌の耐性化、③全体に対する上の使用制限(後述)の3つによる。

適応・用法

日本の承認適応と用量

⚠️ 用量は国によって違う。 日本の電子添文は成人1回100〜200 mgを1日3〜4回(症状により適宜増減)であり、1回400 mgを1日3回・14日間となるのは・のときだけである4。⚠️ 「1回400 mgを1日2回」は日本の標準用量ではない(米国 Noroxin の用法で、その承認は取り下げ済み)。ただしこの用法が過去のものになったわけではない—— 2018 は肝硬変の急性消化管出血時の感染予防として、いまも norfloxacin 400 mg b.i.d. を推奨している(I;1、後述)6。

区分 用法・用量(日本の電子添文)
成人(一般) 1回100〜200 mgを1日3〜4回、経口4
成人(・) 1回400 mgを1日3回、14日間4
小児(小児用バクシダール錠50 mg) 他の抗菌剤が無効と判断される症例にのみ投与。1日6〜12 mg/kgを3回分割、原則7日以内5

適応症は膀胱炎・腎盂腎炎、前立腺炎(急性症・慢性症)、尿道炎、、・、、胆嚢炎・胆管炎、中耳炎、副鼻腔炎、咽頭・、扁桃炎、、皮膚感染症、、である4。

⚠️ 適応症に載っていることと「使ってよい」ことは別である。 電子添文自身が、咽頭・、扁桃炎、、、中耳炎、副鼻腔炎については「抗微生物薬適正使用の手引き」を参照して抗菌薬投与の必要性を判断するよう求めている4。のも同じ方向で、キノロン系は①無治療でも軽快しうる/重症でない感染症(咽頭炎など)、②非細菌性感染症(非細菌性のなど)、③・再発性下部尿路感染症の予防、④他の推奨抗菌薬が使えない場合を除く軽症・中等症の細菌感染症、には使うべきでないとされている3。

肝硬変患者のSBP予防(日本では適応外)

肝硬変患者の(SBP)予防は、が今もガイドライン上の第一選択として名指しされている数少ない場面である。のガイドラインは、いずれも1日あたり400 mgとして次を推奨する6。

場面 対象 推奨( 2018)
スコア9点以上かつ血清ビリルビン3 mg/dL以上で、またはのいずれかを伴い、腹水蛋白15 g/L未満 400 mg/日(I;1)
SBPを1回起こして回復した患者 400 mg/日 経口(I;1)
(HRS-AKI)の予防 上記に準じる 400 mg/日(I;1)
中止 臨床状態が長期に改善し腹水が消失した患者 予防投与を中止する(III;1)
急性消化管出血時の予防 静脈瘤性・非静脈瘤性を問わず肝硬変の急性消化管出血例のうち、セフトリアキソンを選ばない患者 経口400 mg 1日2回を出血時から開始し最長7日間(I;1)。・すでにキノロン予防中・キノロン耐性の多い施設ではセフトリアキソン1 g/24時間が第一選択

💡 なぜより少ない1日400 mgで足りるのか。 狙いは血中濃度ではなく内のGram陰性菌を減らすこと(選択的)であり、嫌気性菌叢はできるだけ温存したい。日本の感染症(1日100〜200 mg×3〜4回=1日300〜800 mg)とは目的そのものが違う。なおの記載は「400 mg/日」であって、1日の分割回数までは指定していない6。⚠️ 同じでも、急性消化管出血時の予防だけは「400 mg 1日2回」と倍量である(狙いがの維持ではなく、出血に伴う菌血症の急性期予防だから)。「SBP予防=400 mg/日」と一括りに覚えない。

⚠️ 日本ではこの用途はに含まれない(電子添文の適応症にSBP予防は無い)4。米国ではそもそも製剤が流通していない。「が推奨する薬が、その国では手に入らない/適応外である」という食い違いが、この薬をめぐる混乱の主因である。

禁忌・注意・副作用

日本の電子添文で「禁忌」に置かれている項目

  • 本剤の成分に対する過敏症の既往歴4
  • フェンブフェン等の併用(フェンブフェン、フルルビプロフェンアキセチル、フルルビプロフェン、エスフルルビプロフェン・ハッカ油)——痙攣誘発のリスク4
  • 妊婦または妊娠している可能性のある女性(・を除く)4
  • 小児用製剤ではこれに加えて乳児等5

⚠️ 妊婦は「原則避ける」ではなく禁忌である(・という生命に関わる適応だけが例外で、この2疾患では有益性投与)4。小児も「避ける」ではなく、他の抗菌剤が無効と判断される症例に限って小児用製剤を7日以内で使う、という限定つきの位置づけである5。

禁忌ではないが投与前に確認する背景

⚠️ 重症筋無力症・・は、このノートでは「禁忌疾患」として登録してある。 日本の電子添文がこれらを禁忌欄ではなく9.1.2・9.1.3に置いているのは事実だが、全体では重症筋無力症の悪化と大動脈系の事象がクラス共通の重大なとして扱われており3、安全側に倒す情報を、日本の電子添文の欄の置き方だけを理由に落とさないという判断による。本剤は英国emcに現行のSmPCが見当たらず、の承認テキストでどの欄に置かれているかは未確認である。

  • 重症筋無力症——症状を悪化させることがある。日本の電子添文では禁忌欄ではなく「特定の背景を有する患者に関する注意」(9.1.2)に置かれ、重大な副作用の欄にも「重症筋無力症の増悪」が挙がる4
  • てんかん等の痙攣性疾患またはその既往——痙攣を起こすことがある4
  • ・の合併・既往・家族歴・リスク因子(、など)——海外の疫学研究で投与後の発生リスク増加が報告されており、必要に応じて画像検査を考慮する4
  • 高度の腎障害——主にのため、減量またはの延長が必要4
  • 高齢者——が現れやすいとの報告がある4

副作用

  • ⚠️ :・等。腱周辺の痛み・浮腫・発赤が出たら投与を中止する4
  • ⚠️ 中枢神経系:痙攣、、4
  • ⚠️ ・(頻度不明)。腹部・胸部・背部の痛みを患者に説明しておく4
  • 末梢神経障害:に共通して知られる副作用。日本の電子添文では「その他の副作用」に感が挙げられている4
  • :Ca²⁺・Fe²⁺・Mg²⁺・Al³⁺を含む製剤(等)・乳製品で吸収低下。服用時間をずらす
  • 悪心・下痢などの消化器症状

⚠️ 「が乏しいから全身性副作用も軽い」とは言えない。 ・痙攣・/解離といったフルオロキノロン共通の重大な副作用は、日本の電子添文でもの重大な副作用として個別に記載されている4。

まとめ

  • 最も古い世代のフルオロキノロン。血中濃度が低く尿中・内に高濃度で留まるPKが、使いどころをそのまま決めている。
  • 状況が国で割れている——米国は2016年に承認取り下げ、は使用制限つきで存続(2008年に腎盂腎炎の適応のみ取り下げ)、日本は成人用・小児用ともに販売中。
  • 日本の用量は1回100〜200 mgを1日3〜4回(・のみ1回400 mgを1日3回)。1回400 mg×1日2回は日本の標準ではないが、 2018は肝硬変の急性消化管出血時の感染予防としてこの用法を現に推奨している(I;1)。
  • 肝硬変のSBP一次・はが1日400 mgを推奨する数少ない現役の使い道だが、日本では適応外。
  • 妊婦は禁忌、小児は「他剤無効時のみ」。重症筋無力症・/解離は日本では禁忌ではなく「投与前に確認する背景」として扱われる。

出典

  1. 1.Determination That NOROXIN (Norfloxacin) Tablets, 400 Milligrams, Was Not Withdrawn From Sale for Reasons of Safety or Effectiveness(U.S. Food and Drug Administration(Federal Register 82 FR 58420)・2017)Merckが2015年10月13日付の書簡でNOROXIN(ノルフロキサシン)400mg錠の販売中止をFDAへ通知し、FDAが2016年10月4日付連邦官報でNDA 019384の承認を2016年11月3日付で取り下げたこと、取り下げの理由は安全性・有効性の問題ではないと判断されたこと、取り下げ時点での米国の適応が「単純性尿路感染症(膀胱炎を含む)、単純性の尿道・子宮頸管淋菌感染症、前立腺炎」に限られていたことを確認した。閲覧 2026-09-05
  2. 2.EMEA recommends restricted use of oral norfloxacin-containing medicines in urinary infections(European Medicines Agency・2008)2008年7月24日のCHMP意見で、経口ノルフロキサシン製剤の「急性又は慢性の複雑性腎盂腎炎」に対する承認は、この適応での有効性が十分に示されておらずベネフィットがリスクを上回らないとして取り下げるべきとされたこと、この勧告は他の感染症に対する経口ノルフロキサシンの使用には影響しないとされたことを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Quinolone and fluoroquinolone containing medicinal products(European Medicines Agency・2019)本Article-31 referralで承認の停止が勧告されたのはシノキサシン・フルメキン・ナリジクス酸・ピペミド酸であり、ノルフロキサシンはシプロフロキサシン・レボフロキサシン・ロメフロキサシン・モキシフロキサシン・オフロキサシン・ペフロキサシン・プルリフロキサシン・ルフロキサシンとともに「使用制限つきで残される」側に列挙されていること、その制限が①無治療でも軽快しうる/重症でない感染症(咽頭炎など)、②非細菌性感染症(非細菌性の慢性前立腺炎など)、③旅行者下痢症および再発性下部尿路感染症の予防、④通常推奨される他の抗菌薬が使用できない場合を除く軽症・中等症の細菌感染症、には使用すべきでないという4項目であることを確認した。閲覧 2026-09-05
  4. 4.バクシダール錠100mg/バクシダール錠200mg 電子添文(2024年5月改訂・第3版)(杏林製薬/医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2024)日本の承認用法・用量が「ノルフロキサシンとして、通常成人1回100〜200mgを1日3〜4回経口投与」(腸チフス・パラチフスのみ1回400mgを1日3回・14日間)であること、適応症が表在性皮膚感染症・深在性皮膚感染症・慢性膿皮症・咽頭喉頭炎・扁桃炎・急性気管支炎・膀胱炎・腎盂腎炎・前立腺炎(急性症、慢性症)・尿道炎・胆嚢炎・胆管炎・感染性腸炎・腸チフス・パラチフス・コレラ・中耳炎・副鼻腔炎・炭疽・野兎病であり、肝硬変の特発性細菌性腹膜炎予防は含まれないこと、禁忌が「本剤の成分に対し過敏症の既往歴」「フェンブフェン・フルルビプロフェンアキセチル・フルルビプロフェン・エスフルルビプロフェン ハッカ油の投与中」「(炭疽・野兎病以外では)妊婦又は妊娠している可能性のある女性」の3項目であり、重症筋無力症(9.1.2)と大動脈瘤・大動脈解離(9.1.3)は禁忌ではなく「特定の背景を有する患者に関する注意」に置かれていること、8.2に大動脈瘤・大動脈解離の注意、11.1.5にアキレス腱炎・腱断裂等の腱障害、11.1.4に痙攣・ギラン・バレー症候群・重症筋無力症の増悪が挙がっていること、11.2その他の副作用の精神神経系に「頭痛、不眠、眠気、しびれ感」が含まれることを確認した。閲覧 2026-09-05
  5. 5.小児用バクシダール錠50mg 電子添文(2024年5月改訂・第3版)(杏林製薬/医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2024)日本には小児用製剤が存在し、用法・用量欄の冒頭に「本剤は他の抗菌剤が無効と判断される症例に対してのみ投与する」と限定が置かれ、通常1日体重1kg当たり6〜12mgを3回に分け、投与期間は原則として7日以内にとどめるとされていること、禁忌に「乳児等」が加わること、適応症が成人用製剤より狭く(表在性皮膚感染症・慢性膿皮症・咽頭喉頭炎・扁桃炎・急性気管支炎・膀胱炎・腎盂腎炎・感染性腸炎・腸チフス・パラチフス・炭疽・野兎病)尿路感染と腸管感染が中心であることを確認した。閲覧 2026-09-05
  6. 6.EASL Clinical Practice Guidelines for the management of patients with decompensated cirrhosis(European Association for the Study of the Liver・2018)特発性細菌性腹膜炎(SBP)の一次予防としてノルフロキサシン400mg/日が、Child-Pughスコア9点以上かつ血清ビリルビン3mg/dL以上で、腎機能障害または低ナトリウム血症のいずれかを伴い、腹水蛋白15g/L未満の患者に推奨(I;1)されること、SBPから回復した患者への二次予防にも同じ400mg/日の経口投与が推奨(I;1)されること、HRS-AKIの予防としても同用量が推奨(I;1)されること、臨床状態が長期に改善し腹水が消失した患者では予防投与を中止すべき(III;1)とされることを、本文PDFの"Prophylaxis of SBP"節および各Recommendationsボックスで確認した。閲覧 2026-09-05