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Microbe Atlas · 細菌

Escherichia coli

大腸菌

分類
腸内細菌科 / EnterobacteriaceaeEscherichia
性状
Gram陰性 (G−)桿菌 Bacilli通性嫌気性 Facultative
科目
Medical Microbiology
トピック
2/11: Escherichia coli5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis5/2: Bacteria causing abdominal infections (peritonitis, cholecystitis, cholangitis) (list) and their diagnosis
原因となる疾患
Caroli病Fournier壊疽グラデニーゴ症候群グラム陰性毛包炎マラコプラキア院内肺炎横隔膜下膿瘍化膿性関節炎(敗血症性関節炎)化膿性血栓性静脈炎化膿性仙腸関節炎壊死性腸炎肝硬変気腫性胆嚢炎急性腎盂腎炎・腎膿瘍急性胆管炎急性虫垂炎菌血症憩室症・憩室炎骨髄炎細菌性肝膿瘍細菌性急性胃腸炎細菌性髄膜炎産褥敗血症・産褥感染自然流産常染色体優性多発性嚢胞腎常染色体劣性多発性嚢胞腎新生児敗血症人工呼吸器関連肺炎精巣上体炎・精巣炎前立腺炎胆石症腸腰筋膿瘍特発性細菌性腹膜炎尿路感染症膿腎症敗血症表皮嚢腫腹膜炎・消化管穿孔溶血性尿毒症症候群卵管卵巣膿瘍旅行者下痢症良性肛門疾患(痔核・裂肛・痔瘻・肛門周囲膿瘍)
作用する薬剤
アズトレオナムイミペネム+シラスタチンエラバサイクリンエルタペネムオフロキサシンゲンタマイシンシプロフロキサシンスルファメトキサゾール+トリメトプリムセファゾリンセファレキシンセフィキシムセフィデロコルセフェピムセフォキシチンセフォタキシムセフォペラゾンセフタジジムセフタジジム+アビバクタムセフトリアキソンセフトロザン+タゾバクタムセフメタゾールチゲサイクリントブラマイシンドリペネムナリジクス酸ニトロフラントインネオマイシンネチルマイシンノルフロキサシンピブメシリナムピペラシリンファロペネムホスホマイシンメロペネムリファキシミンロメフロキサシン

🧠 全体像:大腸菌は「腸管の外に出たか、腸管の中で特殊な武器を獲得したか」という2つの異なる論理で臨床像が決まる。腸管の外(尿路・血液・髄膜)に迷い込むと、特別なを持たない「ふつうの」株でも尿路感染症・敗血症・を起こす——これは場所の問題である。一方、腸管の中で下痢を起こすのは、プラスミドやファージ由来の毒素・を獲得した5つの病原型だけであり、これは遺伝子の問題である。この2軸を分けて読めば、大腸菌の臨床像はすべて整理できる。

微生物学的な特徴

の一員で、腸内細菌科の中で最も基本的な同定対象になる。

項目 内容
運動性 で運動性あり——(約55種類、に使用)
莢膜 ——の起因株はK1抗原を持つ
線毛() ・への接着を担う。病原型ごとに異なる線毛を持つ
生化学的性状 陽性・・グルコース陽性・陽性。ウレアーゼ・オキシダーゼ・H₂S産生はいずれも陰性
培養所見 で緑色〜濃青色の、培地でコロニー(いずれも急速なを反映)

⭐ 陽性は腸内細菌科内での位置づけを決める。 によりをへ変換する反応で、陽性かつ陽性という組み合わせは・陰性のとの鑑別点になる。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Escherichia coli"] --> B["腸管の外に出た場合<br>(病原性遺伝子を持たない株でも発症)"]
    A --> C["腸管の中で下痢を起こす場合<br>(病原性遺伝子を獲得した5型のみ)"]
    B --> D["UPEC<br>(P線毛・1型線毛で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urinary tract infection'>UTI</span>を起こす)"]
    B --> E["K1莢膜株<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neonatal meningitis'>新生児髄膜炎</span>)"]
    B --> F["LPS<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endotoxin'>エンドトキシン</span><br>(敗血症)"]
    C --> G["ETEC・EHEC/STEC・EIEC・EPEC・EAEC<br>(プラスミド・ファージ由来の毒素/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adhesin'>接着因子</span>)"]

💡 UPEC()は「特別な病原性大腸菌」ではなく「腸管フローラの延長」である。 P線毛(Pに結合し腎盂まで上行できる)・1型線毛(膀胱上皮に接着)・・などの因子を持つ株が尿道口から膀胱へ上行するだけで、原因菌の第1位になる。腸管病原型のような特殊な毒素獲得は不要——「その場にいる」こと自体が病原性になる好例である。

大腸菌の腸管病原型は5つあり、いずれもプラスミドやファージにコードされた毒素・を獲得している。

病原型 略称 伝播経路 機序 臨床像
ETEC ・水 (LT)が上昇、(ST)がcGMP上昇——いずれも水・イオン分泌を促す 発展途上国でのの主因、重度の水様性下痢
EHEC/STEC 加熱不十分な牛肉・ ()が28S rRNAの1個をして60Sサブユニットを不活化し蛋白合成を止める1。(SMAC培地で鑑別)。O157:H7が代表 無発熱の血性下痢。10歳未満でを起こしうる
EIEC 由来のプラスミドを完全に獲得し大腸上皮へ侵入・破壊する ——粘液・発熱を伴う重度の水様性下痢
EPEC 集団感染(保育施設・高齢者施設) Intimin/Tir複合体で小腸上皮に接着 乳児(1歳未満)の水様性下痢、施設内
EAEC — 線毛で小腸上皮に凝集接着し細胞傷害性毒素を放出 水様性下痢が慢性化(14日超)しやすい。小児・発展途上国に多い

⚠️ EHEC/STEC感染に抗菌薬は原則使わない。 抗菌薬が菌を破壊する過程での放出をむしろ増やし、のリスクを高めると考えられている。17報1,896人のでは、全研究を含めたは1.33(95%CI 0.89〜1.99)で有意でなかったが、が低くの定義が適切な研究に限ると2.24(95%CI 1.45〜3.46)と有意に上昇し、STEC感染者への抗菌薬使用は推奨されないとされている2。も推奨35でSTEC O157およびShiga toxin 2産生STECへの抗菌薬回避を求めている3。血性下痢でEHEC/STECが疑われる場合、原因菌が確定するまで抗菌薬・のいずれも安易に開始しない。

💡 この「抗菌薬を避ける」ルールはSTEC限定であり、・EIECには広げない。 EIECをと同一視して覚えると、そのまま「赤痢でも抗菌薬は危ない」と転用してしまいやすいが、が回避を求めているのは推奨35のSTECだけで、によると推定されるはむしろ推奨30の「経験的抗菌薬を投与する明示的な例外」側に挙がっている3。詳細は赤痢を参照。

感染経路と疫学

起こす疾患

型 疾患 押さえどころ
腸管外 尿路感染症 UPECによる原因菌の第1位。上行して・に至る
腸管外 K1莢膜株のみが起こすの代表菌
腸管外 ・・ LPSによる
腸管外 ・ 腸管からの。嫌気性菌とのになりやすい
腸管外 腹膜炎・消化管穿孔・ 穿孔(虫垂炎・)または肝硬変を背景に発症
腸管外 前立腺炎・・ 尿路感染の波及
腸管(ETEC) 発展途上国への渡航歴
出血性大腸炎→ ⚠️抗菌薬を避ける
腸管(EIEC・EPEC・EAEC) 病型ごとに対象年齢・地域が異なる

診断

検査 所見
緑色〜濃青色の
培地 コロニー(陽性)
MacConkey(SMAC)培地 EHEC/STEC(O157:H7)は——無色コロニーで他の大腸菌(ピンク)と鑑別
陽性
検体 腸管外感染は尿・膿・血液・髄液、は便
O157:H7などの・による型別、の免疫学的検査・

治療と予防

⚠️ 産生株が急速に増えている。 プラスミド性の()はペニシリン・セファロスポリンを広く分解し、菌株間を伝達されやすい。産生が判明した場合は・などのが第一選択に格上げされる。()に基づく選択が必須で、さらに耐性が進んだ株では・など新規薬剤が必要になる。

  • EHEC/STECが疑われる血性下痢では抗菌薬を投与しない(前述)
  • 予防はでは十分な水分摂取・排尿習慣、EHEC/STECでは食肉の十分な加熱・生乳回避

まとめ

  • 大腸菌は腸管外(UPECによる・K1莢膜株による・敗血症)と腸管内(5つの病原型による下痢)で全く異なる病態を起こす。
  • UPECは特殊な毒素を持たなくても内因性フローラとして尿路に達するだけで原因菌第1位になる——「場所」の病原性。
  • EHEC/STEC(O157:H7、、)は血性下痢からに進展しうる。は28S rRNAの1個をして60Sサブユニットを不活化する(のと同じ酵素活性)。⚠️抗菌薬は放出を増やしリスクを高めるため原則使わない——ただしこれはSTEC限定のルールで、には当てはまらない。
  • ETEC()・EPEC(乳児施設内感染)・EIEC(様、由来プラスミド)・EAEC(慢性化しやすい)が残る4病原型。
  • 診断はEMB/でのコロニー性状・陽性、EHEC/STECはSMAC培地での非発酵が鍵。
  • 治療はに・、複雑例・腎盂腎炎にフルオロキノロン・。産生株の増加によりへの格上げが必要になる場面が増えている。

出典

  1. 1.Site of action of a Vero toxin (VT2) from Escherichia coli O157:H7 and of Shiga toxin on eukaryotic ribosomes. RNA N-glycosidase activity of the toxins(European Journal of Biochemistry・1988)腸管出血性大腸菌由来のVero毒素(VT2=Shiga-like toxin II)とShigella dysenteriae 1型由来の志賀毒素が、いずれもラット肝60Sリボソームサブユニットの28S rRNA上のアデニン1個(A-4324)のN-グリコシド結合を切ってアデニンを遊離させる(RNA N-グリコシダーゼ活性)ことで60Sサブユニットを不活化し、伸長因子1依存性のアミノアシルtRNAのリボソーム結合とタンパク質合成を阻害することを確認した。リボソーム本体もrRNA鎖も切断していない。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Shiga Toxin-Producing Escherichia coli Infection, Antibiotics, and Risk of Developing Hemolytic Uremic Syndrome: A Meta-analysis(Clinical Infectious Diseases・2016)17報1,896人を含むメタ解析で、全研究を含めた抗菌薬投与とHUS発症のオッズ比は1.33(95%CI 0.89〜1.99、I²=42%)と有意ではなかったが、バイアスリスクが低くHUSの定義が適切な研究に限ると2.24(95%CI 1.45〜3.46、I²=0%)と有意に上昇し、結論としてSTEC感染者への抗菌薬使用は推奨されないとされたことを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.2017 Infectious Diseases Society of America Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Infectious Diarrhea(Infectious Diseases Society of America・2017)推奨35で抗菌薬の回避が求められているのはSTEC O157およびShiga toxin 2産生STEC(strong, moderate)に限られること、推奨30では赤痢菌によると推定される細菌性赤痢の免疫正常な有症状者が逆に経験的抗菌薬投与の明示的な例外として挙げられていることを確認した。「抗菌薬でHUSが増える」という記述はSTECについてのみで、赤痢菌には及んでいない。閲覧 2026-09-05