微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 細菌

Erysipelothrix rhusiopathiae

豚丹毒菌

分類
G+ 桿菌・非芽胞 / Gram+ rods (non-spore)Erysipelothrix
性状
Gram陽性 (G+)桿菌 Bacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/28: Listeria monocytogenes. Erysipelothrix rhusiopathiae, Lactobacillus and Bifidobacterium genus. Pre- and probiotics5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis
自然耐性薬
バンコマイシン
原因となる疾患
類丹毒

🧠 全体像:は名前の通りブタの病気()の起因菌で、ヒトへは魚・食肉・を扱う人のとして伝播する人獣共通感染症である。ヒトでの病像はほとんどが自然軽快する軽症の皮膚感染()にとどまり、Streptococcus pyogenes / GASが起こす・蜂窩織炎の「」とは名前が似ているだけの別の疾患である点をまず押さえる。もう一つの核心は、グラム陽性菌でありながらバンコマイシンが本質的に効かないという意外性——経験的にバンコマイシンを選んでしまうと治療が失敗する典型例になる。

微生物学的な特徴

細く、わずかにしたで、鞭毛を欠き、莢膜も持たない。

項目 内容
形態 細長くわずかにした
運動性・莢膜 (鞭毛なし)、莢膜なし
生化学的性状 ——多くの(Corynebacterium diphtheriae・Listeria monocytogenesはいずれも)と異なる鑑別点になる
培養所見 血液寒天培地で小型・半透明のコロニーを形成する
生息域 土壌・腐敗有機物中に広く分布し、ブタを中心に魚・甲殻類・など多くの動物に常在する

病原性の仕組み

強力な外毒素は同定されておらず、やListeria monocytogenesのような明確なを持たない菌である。動物の皮膚・粘膜の小さな傷から侵入し、局所の炎症反応を起こすという単純な機序で発症する。ブタでは莢膜を持つ株がのを起こすことがあるが、ヒトでは通常このような重症化はまれである。

感染経路と疫学

  • が感染経路の中心:魚・甲殻類・食肉・の取扱者(漁業従事者、精肉業者、獣、農家)が、動物や動物製品との接触、あるいは魚の骨・貝殻によるを通じて感染する1
  • ヒトの感染は・汚染動物またはその製品への曝露で成立するとされ、ヒト-ヒト感染は確立された伝播経路として知られていない1。⚠️ ただし「絶対に起こらない」と証明されているわけではなく、本症がまれで培養もでないため、監視データ自体が乏しい
  • ブタでは経済的に重要な疾患(豚)で、ワクチン接種の対象になっている

⭐ を聞くことが診断の近道。 魚市場・精肉店・食肉加での勤務歴や、魚の骨・貝殻による刺し傷の既往があれば、本菌によるを強く疑う根拠になる。

起こす疾患

病型 特徴
曝露部位(多くは手指)に生じる、境界明瞭なの皮膚病変。疼痛を伴うが膿は形成しない。ヒトの感染で最も多い病型で、限局性かつ自然軽快性である1。未治療でも数週間で自然に消退するとされる
びまん性皮膚病変 まれに病変が拡大する型1
菌血症・心内膜炎 まれだが起こる。⭐ 報告された心内膜炎約50例のうち最近の1例を除くすべてが自然弁に生じていた——に偏る多くの起因菌とは逆の分布である1。の報告93例では9例(9.7%)が死亡しており、軽視できない2

⚠️ 「」と「」は別の病気。 ヒトの(・蜂窩織炎)はStreptococcus pyogenes / GASが原因で、化膿性・急性の感染である。一方、によるヒトのはによる限局した皮膚感染で、病原体・・重症度のいずれも異なる。名前の類似だけで混同しないこと。

診断

  • 血液寒天培地培養——小型・半透明のコロニー
  • ⚠️ 表在の検体では検出できないことが多い。 菌は病変辺縁の真皮深部にとどまっているため、皮膚生検(病変の進行辺縁からの)がとして推奨される
  • 菌血症・心内膜炎が疑われる場合は血液培養を追加する

治療と予防

項目 内容
治療 未治療でも数週間で自然軽快することが多いが、菌血症への進展を防ぐため抗菌薬治療が推奨される。・アモキシシリンが第一選択。本菌は・・・クリンダマイシンに感性である1。の報告例で最も多く用いられたのはペニシリン(45例、48.4%)とセフトリアキソン(20例、21.5%)だった2
予防 動物・魚を扱う際の手袋着用、ブタへのワクチン接種(獣医領域)

⚠️ バンコマイシンは選ばない。 グラム陽性菌でありながらバンコマイシンが効かない数少ない菌の一つで、経験的にバンコマイシンを選択すると治療がしない。報告されたのは64 µg/mLで、であるためそのものが設定されていない2。古い総説も「グラム陽性菌のに多用されるバンコマイシンにしばしば耐性」と述べている1。

💡 「」の根拠は臨床微生物学の文献にあり、の表ではない。 の Expected Resistant Phenotypes v1.2 での「期待される耐性表現型」として行が立っているのは Leuconostoc・Pediococcus・Lactobacillus(L. casei 群)・Enterococcus gallinarum・E. casseliflavus で、Erysipelothrix rhusiopathiae の行は同表に無い3。同じ「グラム陽性なのにバンコマイシンが効かない」例外として並べるLactobacillusのほうは、この表に行が立っている側である。⚠️ ただしその行は属全体ではなくL. casei・L. casei var. rhamnosusに限定されており、L. acidophilusのように感受性を示す種もある3。「グラム陽性=バンコマイシンが効く」という思い込みへの例外として両者をまとめて覚えつつ、Lactobacillusでは種を確かめる必要がある点まで押さえる。

まとめ

  • はブタのの起因菌で、ヒトへは魚・食肉・の取扱者へのとして人獣共通感染する1。ヒト-ヒト感染は確立された伝播経路として知られていない。
  • ・・莢膜なしので、強力な外毒素は持たない菌。
  • ヒトでの病像はほとんどが自然軽快する(の皮膚病変、膿なし)にとどまるが、まれに菌血症・心内膜炎を起こす。心内膜炎の報告例はほぼすべてが自然弁に生じている1。
  • ヒトの(Streptococcus pyogenes / GAS)とは別の疾患——名前が似ているだけで病原体も臨床像も異なる。
  • は病変辺縁のが望ましく、表在の検体は偽陰性になりやすい。
  • 治療はが第一選択で、・・クリンダマイシンにも感性1。バンコマイシンにはを持つため選択しない2。

出典

  1. 1.Erysipelothrix rhusiopathiae: an occupational pathogen(Clinical Microbiology Reviews・1989)PMC(PMC358129)の抄録を確認した。ヒトの感染は感染動物・汚染動物またはその製品への曝露で成立し、最も多い病型は限局性で自然に軽快する皮膚病変である類丹毒であること、びまん性皮膚型と全身型はまれであること、報告された心内膜炎は約50例で、最近の1例を除くすべてが自然弁に生じていたこと、本菌はペニシリン系・セファロスポリン系・エリスロマイシン・クリンダマイシンに感性である一方、グラム陽性菌の経験的治療に多用されるバンコマイシンを含む他の多くの抗菌薬にはしばしば耐性であることを確認した。掲載誌の本文はスキャンPDFのみで、抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Erysipelothrix rhusiopathiae-associated bloodstream infection in a patient with systemic lupus erythematosus: a case report and literature review(Access Microbiology・2024)分離株がバンコマイシンに耐性で(MIC 64 µg/mL、Erysipelothrix は自然耐性であるためブレイクポイントが設定されていない)、本菌がバンコマイシンに自然耐性を持つこと、文献レビューで集めた血流感染症例において治療レジメンに最も多く用いられた抗菌薬がペニシリン(45例、48.4%)とセフトリアキソン(20例、21.5%)であったこと、報告された93例のうち9例(9.7%)が死亡に至ったことを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Expected Resistant Phenotypes, Version 1.2(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2023)PDF(v1.2、2023年1月)を取得し、Table 4(グラム陽性菌)を確認した。グリコペプチド系について「期待される耐性表現型」として行が立っているのは Leuconostoc spp.・Pediococcus spp.(バンコマイシン・テイコプラニン)、Lactobacillus spp.(L. casei、L. casei var. rhamnosus。バンコマイシン・テイコプラニン)、Enterococcus gallinarum・E. casseliflavus(バンコマイシン)であり、*Erysipelothrix rhusiopathiae* の行は同表に無く、pymupdf で全8ページの本文を検索しても Erysipelothrix という語は文書全体で0件である。⚠️ 本文書は表1〜5に挙げた菌種・菌群だけを収載する検査室向けの照合表であり、目的は原文によれば菌種同定の検証・感受性検査結果の検証・不要な感受性検査の回避である。したがって収載が無いことは感受性を意味しない。EUCAST は v1.2 で「intrinsic resistance」という用語を「expected resistant phenotype」へ置き換えており、同表の定義は「その種の分離株の90%超が耐性機構または PK/PD ブレイクポイント超のMICを示す」ことである。閲覧 2026-09-27