微生物学

微生物学 · 2/28

リステリア・モノサイトゲネス。豚丹毒菌、ラクトバチルス・ビフィドバクテリウム属。プレ/プロバイオティクス

Listeria monocytogenes. Erysipelothrix rhusiopathiae, Lactobacillus and Bifidobacterium genus. Pre- and probiotics

応用トピック
細菌性腟症妊娠中の感染症・細菌感染・寄生虫感染敗血症・敗血症性ショックの認識と救急治療新生児感染症
微生物
Bacillus cereusBifidobacteriumErysipelothrix rhusiopathiaeLactobacillusLactobacillus reuteriListeria monocytogenes
疾患
類丹毒

🧠 このノートは「同じでも真逆の顔を持つ」対比として読む。 Listeria monocytogenesは冷蔵庫の中でも増殖し細胞から細胞へ飛び移る、妊婦・免疫不全者にとって危険な病原体である。一方、Lactobacillus・Bifidobacteriumは同じでありながらヒトの腸内で「」に働く常在菌であり、プロ/の主役でもある。Erysipelothrix rhusiopathiaeはその中間——ブタから伝播する人獣共通感染症だが、多くは自然軽快する軽症の皮膚感染にとどまる。「病原性の強さ」という1本の軸の上にこの3者を並べて覚えるとよい。

Listeria monocytogenes(リステリア・モノサイトゲネス)

形態・生化学的性状

項目 内容
形態
運動性 鞭毛による「転がる(tumbling)」運動性のみを示す
生息地 動物の腸管
生化学的性状 カタラーゼ(+)、陽性(CAMPは考案者Christie・Atkins・Munch-Petersenの頭文字に由来する検査名で、cyclic AMPとは)——黄色ブドウ球菌の溶血帯との協同を利用した検査で、両菌の溶血帯が交わる形がS. aureusでは「垂直」、Listeriaでは「水平」になる点で鑑別できる
莢膜 あり

病原性因子

  • 伝播経路:の摂取、または母体から胎児への
  • されていない・チーズやデリミート(高塩濃度にも耐性)を汚染する
  • 低温耐性——冷蔵庫内の冷凍・冷蔵食品中でも増殖できる
  • ——マクロファージ・の両方に侵入できる

細胞内増殖・細胞間移動の機序

  1. /B(Internalin A/B)によりへ接着する
  2. ファゴソームとして細胞内に取り込まれた後、(listeriolysin O、)によりファゴソーム膜を溶解し、細菌が細胞質内へ脱出する
  3. 細胞質内で増殖する
  4. 宿主細胞のアクチン線維の重合を利用して自らをし、隣接する細胞へと「ジェット」運動で移動する——菌表面タンパク質ActAが宿主細胞内のアクチン線維と相互作用することで実現される

💡 が「細胞から細胞へ」直接移動する意義。 細胞外へ一度も出ることなく隣の細胞へ侵入できるため、血液中の抗体や補体による攻撃を回避できる——この性質が、免疫が関与しにくい胎盤関門を突破して胎児に感染する能力にもつながっている。

臨床像:リステリア症

妊婦は特にハイリスク:菌血症の状態で胎盤を通過し、発熱・悪寒を伴う。流産・の原因になりうる。

💡 妊娠中のは「後期に多く、母体症状は軽い」。 系統的レビュー9件(330研究)を統合したアンブレラレビューでは、妊娠中の発症はに66%、第1三半期は3%と後期に偏り、母体の症状は発熱などのにとどまることが多い——母体が軽症でも胎児は流産・・に至りうるという非対称性がこの菌の危険さの正体である。診断は主に菌の培養(血液・髄液・胎盤など)による1。

病型 時期 特徴
早期発症() 出生前 (壊死中心を伴う播種性肉芽腫)と敗血症——致死率が高い
出生後2〜3週間 または、敗血症

その他の高リスク群・症状

  • 免疫不全患者(60歳以上を含む):髄膜炎・脳炎
  • 健常成人:消化器症状、髄膜炎、敗血症、心内膜炎

診断

検査 内容
血液寒天培地 β溶血を示す。「」(4℃での培養)により分離を促進できる
グラム染色 脳脊髄液検体から——通常は陰性に出やすい
血清学 による(Ia、Ib、IVb)。💡 現行の血清型表記は 1/2a・1/2b・1/2c・4b で、臨床・食品の約95%がこの4つに収まる2。ノートの「Ia、Ib、IVb」は多重による血清群表記(IIa=1/2a系、IIb=1/2b系、IVb=4b系)に対応するもので、古い表記も残るが、現行の型名と対照して覚える
、

治療・予防

  • 治療:アンピシリン+(免疫不全患者にはを追加)——正確にはアンピシリン(またはアモキシシリン)単剤が第一選択で、重症例・免疫不全例でを併用してを得るという構成である3。妊婦では静注アモキシシリンまたはアンピシリンが第一選択となる1
    • ⚠️ はに(も無効)。 in vitroではセファロスポリンとを除くほとんどの汎用抗菌薬に一様に感性だが、この2系統だけは効かない3。の(バンコマイシン+)はを外すため、新生児・高齢者・妊婦・という4群ではアンピシリンを必ず足す——これがを臨床で覚える最大の理由である
    • 💡 なぜ感受性がよいのに治りにくいのか。 はマクロファージ・肝細胞・神経細胞の細胞内で増殖するため、細胞質へ移行・蓄積できる薬剤しか届かない。が低くても臨床転帰が悪くなりうるのはこのためである3
  • 予防:妊婦・免疫不全患者は生の・冷たいデリ食品を避けるべきである

Erysipelothrix rhusiopathiae(豚丹毒菌)

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 (弯曲した形態)
運動性 鞭毛を欠く
生息地 人獣共通感染症——ブタ
生化学的性状 莢膜なし、カタラーゼ(−)

病原性因子・臨床像

  • 動物との接触(触れることなど)や動物製品を介して伝播——ヒト-ヒト感染はない
  • ヒトでは:(皮膚病変から侵入する軽症の皮膚感染)、まれに心内膜炎
  • 動物では:ブタの

の臨床像

  • 疼痛
  • 膿を伴わない皮膚病変
  • の皮膚斑

診断・治療・予防

項目 内容
診断 血液寒天培地培養——小型・半透明のコロニー
治療 自然軽快(3〜4週間)、またはペニシリン
予防 ブタへのワクチン接種、手袋の着用

Lactobacillus(ラクトバチルス属)

項目 内容
形態 (長い桿菌)
生息地 ヒトの正常フローラ——口腔・腸管(腸)・腟

⚠️ Lactobacillus 属は2020年に25属へ分割された。 261種を抱えて系統的にばらばらだった Lactobacillus 属は、全ゲノム配列に基づき Lactobacillus を含む25属へ再編された4。として名前が挙がる菌の多くは、この改称で属名が変わっている——Limosilactobacillus reuteri(旧 L. reuteri)、Lacticaseibacillus rhamnosus(旧 L. rhamnosus)、Lactiplantibacillus plantarum(旧 L. plantarum)など。同時に Lactobacillaceae 科と Leuconostocaceae 科が統合された。旧属名 Lactobacillus は製品表示・教科書・試験問題に広く残るので、「新属名=旧 Lactobacillus の一部」という対応で覚え、旧名を捨てない。

臨床像・意義

  • として利用される:宿主の健康に利益をもたらす/発酵食品の製造にも用いられる菌
  • の病態形成に関与する
  • まれに心内膜炎、髄膜炎、敗血症、蜂窩織炎の原因となる

診断・治療

項目 内容
検体 脳脊髄液、羊水、滲出液からの培養
下、低pH(5.6〜6.5)、高濃度グルコース。酵母エキス・・を含む
血液寒天培地 5%CO₂・25時間培養——白〜黄色、円形・隆起したコロニーで「ヨーグルト様の匂い」(溶血なし、一部の株はβ溶血を示すこともある)
治療 に基づく——であることに注意

Bifidobacterium(ビフィドバクテリウム属)

  • グラム陽性嫌気性桿菌で、乳酸産生菌
  • ヒト腸内の「」細菌として位置づけられる

Bifidobacterium bifidum:の腸内に優占する菌種であり、病原菌の定着を防いでいると考えられている。ヨーグルト製造にも利用され、製品にしばしば配合される。

プレバイオティクスとプロバイオティクス

用語 定義
消化されずに消化管を通過し、の増殖を助ける食品成分。主にやレジスタントスターチなどの炭水化物繊維由来——果物・豆類・に含まれる
適切な量を摂取することで宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物。「な菌」とも呼ばれ、発酵食品(ザワークラウト、ヨーグルト、ケフィアなど)の製造にも利用される。代表的な菌株はLactobacillus・Bifidobacterium属だが、一部のE. coliやBacillus属もとして用いられる

はいずれも消化管内の細菌バランスを是正する働きを持ち、睡眠や気分など全身の健康にも広く関与すると考えられている。

まとめ

  • Listeria monocytogenesは低温耐性ので、インターナリン→によるファゴソーム脱出→ActAによるアクチン重合という機序で細胞間を直接移動し、抗体を回避しながら胎盤を通過できる。妊婦・新生児・免疫不全者がハイリスク群で、妊娠中の発症はに偏る(66% vs 第1三半期3%)1。
  • 診断では(S. aureusとの溶血帯の交わりがListeriaでは水平)とが鑑別の鍵。
  • 治療の第一選択はアンピシリン(またはアモキシシリン)で、重症例・免疫不全例にを併用する。にはなので、髄膜炎のにアンピシリンを追加しないとが漏れる3。
  • Erysipelothrix rhusiopathiaeはブタ由来の人獣共通感染症で、ヒトでは通常軽症の(自然軽快または短期ペニシリン)にとどまる。
  • Lactobacillus・Bifidobacteriumはヒトの一員かつの代表株で、病原性は低いがまれに日和見感染を起こす。Lactobacillusはである点に注意。なおLactobacillus属は2020年に25属へ分割され、Limosilactobacillus reuteri・Lacticaseibacillus rhamnosus・Lactiplantibacillus plantarumなどへ改称された(旧属名も広く残る)4。
  • (を育てる)と(生きたそのもの)は相補的にのバランスを整える。

出典

  1. 1.Listeriosis in pregnancy: An umbrella review of maternal exposure, treatment and neonatal complications(BJOG: An International Journal of Obstetrics and Gynaecology・2022)系統的レビュー9件(330研究)を統合したアンブレラレビューで、妊娠中のリステリア症は第1三半期(3%)より第3三半期(66%)に生じやすいこと、症状の多くは発熱などのインフルエンザ様症状にとどまること、診断は主に菌の培養によること、第一選択治療は静注アモキシシリンまたはアンピシリンであること、妊婦の予防は残り物を蒸気が立つまで再加熱する・低温殺菌されていない乳製品を避けるといった厳格な食事指導に基づくことを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Listeria monocytogenes serotypes in human infections (Italy, 2000-2010)(Annali dell'Istituto Superiore di Sanita・2012)欧州でも世界でも、臨床検体・食品検体から分離される L. monocytogenes の約95%は血清型 1/2a・1/2b・1/2c・4b に属する。イタリアの2000-2010年のヒト分離株251件では 1/2a・4b・1/2b の3つで92%を占めた閲覧 2026-08-26
  3. 3.Management of listeriosis(Clinical Microbiology Reviews・1997)リステリアはセファロスポリン系とホスホマイシンを除くほとんどの汎用抗菌薬にin vitroで一様に感性を示すが、殺菌作用が効きにくく臨床転帰は不良になりうる。アンピシリン・アモキシシリンが現在も第一選択薬(drug of choice)であり、ゲンタマイシンの併用で真の相乗効果が得られる。菌がマクロファージ・肝細胞・神経細胞などの宿主細胞内で増殖するため、細胞質へ移行・蓄積できる薬剤しか到達できない閲覧 2026-08-26
  4. 4.A taxonomic note on the genus Lactobacillus: Description of 23 novel genera, emended description of the genus Lactobacillus Beijerinck 1901, and union of Lactobacillaceae and Leuconostocaceae(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology・2020)261種を含んでいた Lactobacillus 属は全ゲノム配列に基づき25属へ分割された(Lacticaseibacillus rhamnosus、Lactiplantibacillus plantarum、Limosilactobacillus reuteri など)閲覧 2026-08-26